バス輪行で実現! 越後湯沢で酒蔵を目指す自転車旅へ

目次

越後湯沢の輪行バス

東京から上越新幹線に乗って最短70分という好アクセスの新潟県越後湯沢。2022年のグリーンシーズン(無雪期)のこのエリアにおいて、自転車をそのまま積載することができる定期バスを特別運行する実証実験「バス&ライド」が行われた。そんな2022年の晩秋にこの温泉街に訪れたのは、旧街道じてんしゃ旅でお馴染みのサイクルスポーツ誌シシャチョーさこやんと、風呂サイクリストのエリグチ編集部員の大阪コンビ。酒と旅好きの二人がレンタルeMTBで目指すのは、もちろん酒蔵だ!

 

うまい酒を求めて雪国へ

南魚沼への畦道

 

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった……」

「さこっさん、さこっさん、ほらもう着きましたよ!」

「ほんまか!さすが越後湯沢、あっちゅうまやな!」

川端康成の名文学『雪国』、その冒頭の静けさをかき消すかのように、上越新幹線「とき」のシートで二人の関西弁が騒がしく響く。
サイクルスポーツ編集部のボスであり、当サイト連載&ムック『旧街道じてんしゃ旅』でもお馴染みのシシャチョーさこやん(迫田)。そして雑誌サイクルスポーツ誌と当サイトで風呂サイクリングネタを好き勝手書いているエリグチ(筆者)の二人の東京在住の大阪人が、朝9時の東京駅発の新幹線に手ぶらで乗り込みやって来たのは新潟県の玄関口、越後湯沢温泉郷だ。

冒頭の『雪国』の舞台として、そしてウィンターシーズンのスキー&スノーボードの定番スポットとして人気のこの越後湯沢は、近年雪のないグリーンシーズンにもアウトドア需要を取り込むべくさまざまな施策を行っている。そしてその一環としてサイクルツーリズムにも注力をしており、そこでサイスポの大阪コンビも遊びに……いや、実走取材へと繰り出したのである。

 

越後湯沢駅前の足湯

東海道に中山道に、ニッポンの旧街道を自転車で巡ることがライフワークのシシャチョーさこやん(右)、そして本誌編集にして酒と風呂を巡るサイクリストのエリグチ(左)。越後湯沢駅前の足湯にて

 

とはいえ、実走取材? 輪行でもなく手ぶらでどうやって? その答えはとても簡単。越後湯沢温泉は、駅の目の前の観光協会「雪国観光舎 越後湯沢温泉」にて、スポーツタイプのeバイクのレンタルが行われているのだ。航続距離が長く、急峻な山道にも対応できるeバイクであれば、苗場山、谷川岳、朝日岳といった名峰に囲まれたこの越後の谷間の地形も走りきれるというもの。BESVのeクロスバイク、ジャイアントのeMTB、そして従来のママチャリタイプの電動アシスト自転車までが1日2750円〜6600円の金額でレンタルを行えるのである。

 

雪国観光舎

越後湯沢駅の目の前にある「雪国観光舎」。レンタルeバイクは1100円(BESV・JF1、2時間)、2200円(ジャイアント・ファゾムE+プロ、2時間)〜

 

そのレンタルeバイクでのサイクリングの模様は別記事(後にアップ予定)を参照してもらうとして、サイスポの二人的にも大トピックスに感じているのが、このエリアで「バス&ライド」サービスが行われているということ。
令和4年度の9月〜11月において当観光協会が試験運用を行ったこのサービス。越後湯沢駅から越後中里駅、土樽駅といったエリアの周遊コースにて、1日4便で定期運行されるバス「KOKOROゆうゆう号」には、最後部座席スペースが自転車積載用にカスタムされており、なんと自転車をそのまま積んで運行することができるのである。
冬のスキーやボートのためのラゲッジスペースを改良し、最大4台程度の積載空間を確保。定期運航便のため、バス停で時刻表通りに待っておけば、事前の予約が不要で乗車が可能なのだ。もちろん車種はスポーツバイクからeバイク、シティサイクルまで対応してくれる。

(※ちなみにこの掲載段階の12月時点では一度サービスは終了しているが、令和5年度も継続して同サービスを展開予定。雪解けを待とう!)

 

ココロゆうゆう号の後部に自転車を搭載

「KOKOROゆうゆう号」の後部にそのまま自転車を積載可能。ちなみにこの後部スペースが埋まった場合は、車内に持ち込んで対応してくれることも(要相談)

 

そんなサイクリングにバスを掛け合わせることが可能になる「バス&ライド」。今回はその運用方法の調査という名目もあり、特別に規定路線以外もチャーター便として運行されることに。

そこでサイスポ旅コンビ側が要望したのが「湯沢と酒蔵を巡る路線!」。越後湯沢の駅前から出発して、南魚沼方面へとサイクリング。新潟へ至る旧街道を進み、魚沼の酒所を巡り、最後は酒蔵でお酒を楽しんで、そのままバスで湯沢へ戻って温泉! 夢に描いたような完璧なプランである。

 

越後湯沢駅前を走る

東京から新幹線で70分! もちろん自前の自転車で輪行して出発するのもいいだろう。越後湯沢周辺はアップダウンが連続するので、スポーツタイプの自転車がぴったりだ

 

越後湯沢駅前でジャイアントのeバイク、ファゾムE+プロを受け取って早速走り出すさこやん(部長)とエリグチ(平社員)。

「スタートの標高が既に360m近くありますが、ここから南魚沼の平野部の市街地までバーンと下って行くだけ。めちゃくちゃ楽ですよこれ。はよ酒飲みたいっすね!」

「待てまてエリグチ、スピードが速すぎるって。ちょっと落ち着いてこの道見てみい。まっすぐ通ってるのでなく、ちょっとうねってる感じせえへんか? これが旧街道やねん。いやこういうの見るとめっちゃゾクゾクするわ!」

「(何言うてんねんこのおっさん)そうなんすね、さすがサイスポの旧街道おじさん」

「あの道の脇の神社はわらじを祀ってるな。これもまた商売人や旅人が行き来していたからこそ、その人々の脚の健康や運行の安全を祈願するためのものなんやろなあ」

「へえ、すごいっすね。それにしても一面の田んぼ! もう刈り取りは終わっていますが、初夏の水を張ったタイミングや初秋の稲穂が実った黄金の景色は壮観でしょうね!」

「民家の庭先や公園の木々が、材木で囲い始めてるな。『冬囲い』って雪国ならではの備えやな。もう冬が間近なんやろなあ。大阪では見ることのできない道の景色や」

「ほんまっすね」

 

旧街道

宿場町から宿場町へ、牛馬や人が歩み進めたかつての街道。人の歴史とともに使われ続けた道だからこそ、かつてのままの姿を残す。このうねりもそのひとつ

脚の神さまを祀る祠

脚の神さまを祀る祠、ビッグサイズのお地蔵さん、そして旅館に茶屋。旧街道の脇には見どころがたくさん!

 

と、まあそんな風にしゃべくり合いながら、スローなペースで南魚沼の市街地に到着。

「あそこ!『 鶴齢』ってあります! 酒蔵ですよ!」

「お、ええやん。仕込み水を汲めるみたいやで。ボトルに汲んでこ汲んでこ」

「日本酒を造るときに使われる水ですね。すなわちもうこれはほぼこの日本酒そのものの味。大事に飲ませていただきます」

「この倉庫はえらい大きいなあ。何書いてあるんやこれ?」

「『雪男』ですね! この青木酒造の名物のこのエリア限定酒です!」

この青木酒造では「雪を使った冷蔵」をするための「雪室」を導入しており、その倉庫は造った酒をその種類ごとに最適な温度で冷やしておくためのもの。この雪男が大きく描かれたシャッターの内部では数十トンの雪が貯蔵されており、その気化熱を活かした冷却システムが稼働している。
そんな話を、たまたま倉庫の前にいた酒蔵のお父さんから教わりながら、ふむふむとうなずく二人。

「南魚沼は豪雪地帯と聞いていましたけど、こんな雪国ならではの酒の貯蔵方法があるんですね。このサイズ感は見てみないと分からない!」

 

青木酒造本社前

「鶴齢」の酒蔵である青木酒造本社前にやって来た。社屋の前に設けられた「仕込み水」の水場でドリンクボトルに補給

鶴齢の仕込み水を汲む。透き通るようにやわらかいこの水から造られる日本酒は、飲み口が良く芳醇でうまみがある。エリグチの愛飲する酒銘柄のひとつです

 

塩沢駅周辺

三国街道の雰囲気を再現し保存地区としている塩沢駅周辺の市街地

青木酒造の倉庫を見学

青木酒造の倉庫(本社より2kmほど移動)を眺めていると、たまたま見学をさせてもらえることに。雪室システムについてを詳しく教えてもらえた

シャッターに雪男

シャッターには「雪男」のラベルのイラストが大きく描かれている! この倉庫の中に、毎冬の終わりに数十トンの雪が貯蔵され、冷却に利用される。まさに天然の冷蔵庫だ

 

三国街道をたどり、魚野川沿いを下って行く。晩秋の越後の山々が少しずつ後ずさり遠くなっていき、静かな里山と集落、田園へ。どこかさびしさを感じさせるニッポンの原風景を抜けて、最後のゆるい上りをeバイクのアシストで楽々クリア。いよいよ目的地の「魚沼の里」にたどり着いた。

清酒「八海山」や、クラフトビール「猿倉山ビール」を造る八海山酒造の施設「魚沼の里」は、さながらお酒のテーマパーク。広大な敷地の中に、それぞれのお酒や食材ごとのお店、施設が設けられており、この施設敷地内でさまざまなフードコンテンツを巡ることが可能なのだ。

 

魚沼の里への坂道

八海山酒蔵が展開する総合施設「魚沼の里」へ続くゆるやかな坂道を上る

魚沼の里の八海山雪室

「魚沼の里」の「八海山雪室」。当日に予約すれば、内部の雪室を見学し、そのまま試飲することができる

 

「普通のサイクリングだったら、こんな最高の場所でお酒を飲むことができないわけですけど……今日は違いますね!」

「せや! 見てみいあれ! 『バス&ライド』ってバンっとかかれたバスが来てくれてはるわ!あそこに自転車を預けたら、もうオールオッケーや!」

「すばらしいっす! ほなまずは『猿倉山ビールバー』でクラフトビール飲み比べしてカレー食べて、そのあと『八海山雪室』で酒蔵貯蔵庫を見学して試飲大会して。あ、焼酎もクラフトジンもありますね! 飲みましょう!」

 

魚沼の里の駐車場にやって来たこのバス「KOKOROゆうゆう号」に自転車を預けて飲み歩きに繰り出す二人。ちなみに当バスの通常の利用料金は1日乗り放題・乗り降り自由で500円と、気軽に利用できる金額というのもありがたい。

これまでのダイヤで運行されるコース上には越後湯沢の名勝である「秋葉山」、「大源太キャニオン」や、名物温泉「駒子の湯」、「街道の湯」、「貝掛温泉」と名所がズラリ。「渓谷トレッキング×サイクリング」や、「湯巡り×サイクリング」とこのバスとサイクリングの組み合わせ方はどこまでも広がるのである。

そして今回の酒蔵バス&バイクは特別試験運行であったが、来期においてはサイクリストグループからの要望に応じたチャーター便の運行や、利用者の要望次第での路線の追加も検討されることとなる。

 

八海山雪室の試飲コーナー

八海山雪室で見学し、そのまま試飲コーナーへ。八海山酒造が手がける各種の日本酒(この辺りでしか買えない限定酒も!)や、焼酎にクラフトジンなど豊富な品ぞろえは、そのまま売店で購入することもできる

酒を飲むシシャチョー

サイクリング中に酒蔵に寄り道しても、確かめることのできないお酒の味( ※法律で禁止されています。飲んだら乗るな!)。だけどこの後はバスと電車に乗るだけ。気がねなく飲めるぞ!

 

この雪国ならではの酒造りに触れ、その歴史が息づく町と道を自転車で走り、そしてためらうことなくその味を堪能すれば、最後はバスに心地良く揺られて……。

「さこっさんまだ終わってないですよ! 越後湯沢駅に戻って自転車を返したら、次は駅構内にある新潟日本酒大満喫施設『ぽんしゅ館』で日本酒飲み比べして、そのまま駅構内の『酒風呂』に入って、そんでまだ時間ありそうやったらあっこで日本海の魚介と新潟の米の寿司食べて……東京までは1時間ちょいでパッと帰れますから!」

「いやまだあるんかい! もうええわ!」

越後湯沢の旅はまだまだ終わらないのでした。

 

今回のモデルコースはこちら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問い合わせ先

雪国観光舎 越後湯沢温泉
https://www.snow-country-tourism.jp/