マウンテンバイクの上りテクニック【MTBはじめよう! Vol.12】

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マウンテンバイクの上りテクニック
MTB

特別協力:スペシャライズド・ジャパン 撮影場所協力:フォレストバイク

マウンテンバイク(MTB)トレイルライド&グラビティライドの基本が学べるシリーズの第12回。下りを楽しむためには上らなければならない。ということで、上りで重要になる必須スキルについて紹介しよう。

 

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身につければ上りがより楽になる

今回も教えてもらうのは、プロMTBライダーでインストラクターの板垣奏男さんだ。

板垣奏男(いたがき かなお)さん

板垣奏男(いたがき かなお)さん。東京サイクルデザイン専門学校を卒業後に本場カナダへ渡り、高度なライディングスキルからトレイルビルディングに至るまでを習得。現在はプロライダー/インストラクターとして活躍している。Instagram:kanao_i_into_the_ride  YouTube:kanao itagaki

 

「MTBの醍醐味の一つは下りです。この連載もグラビティライド(下り系)の遊び方を大きなテーマとしています。しかし、MTBパークでゴンドラやリフトに乗って楽しむスタイルは別として、下るためには上らないといけませんし、上りも大事なスキルです。実は、上りも意外と難しいんですよ。また、苦しいながらも結構楽しいものなのです。

上りで重要となるポイントは3つあります。1つ目は前輪が浮き上がるような急勾配を上れること、2つ目は木の根や岩などの障害物を越えて上れること、そして最後にライン取りです。

難しい上りセクションは自転車を押したり担いだりしても良いのですが、乗ったままペダリングして上った方が楽なことが多く、体力の温存にもつながります。これから紹介するポイントを、ぜひ習得しましょう」と板垣さん。

 

POINT① 前輪が浮くほどの急勾配を上る

急勾配を上るときのポイント

急勾配を上るときのポイント

 

「急勾配を上れるようになるということは、効率的に上り坂を上れるということです。よって緩やかな勾配や舗装路の上り坂でも効率良く上れるようになりますから、ぜひとも身につけたいテクニックです。

ここで大切となるのは、ニュートラルポジションとレディポジションをしっかりととれることです。忘れた人はこちらの回で復習してください。上り坂でも自転車の中心に乗ることが重要となります。つまり、ニュートラル&レディポジションを崩さないようにするということです。

下り坂は自転車が前下がりになるので、勾配に合わせて腰を後ろに引くかたちとなりますが、上り坂の場合は逆に自転車が前上がりになり、かつサドルに座ってペダリングします。よって、勾配に応じて腰をサドルの前側に移動させ、かつ上半身の前傾を深くするかたちとなります。この姿勢で、後輪がトラクションを失ってスリップすることなく、前輪が浮き上がることのない、ちょうど自転車の中心に重心がくる位置を感じ取って保ってください」。

前輪が浮き上がってしまう例

上半身の前傾が足りずに前輪が浮き上がってしまう例

 

「よくありがちな失敗例は2つあります。1つ目は、上半身の前傾を深くせず後ろ荷重になってしまい、前輪が浮き上がってしまうパターンです」。

前荷重になりすぎて後輪がスリップしてしまう例

前荷重になりすぎて後輪がスリップしてしまう例

 

「2つ目は、勾配がきついからといって重心位置を前にしすぎてしまい、後輪のトラクションが抜けてスリップしてしまうパターンです。

以上の失敗例にならないよう、“自転車の中心に乗る”前後の荷重バランスを探してください」。

ギヤの選択は?

「軽すぎず重すぎない、ちょうど良いギヤを選んでください。軽くしすぎると後輪のトラクションが抜けてタイヤがスリップしやすくなるので、とにかく軽くすればいいというものでもありません」。

 

POINT② 木の根や岩などの障害物を越えて上る

上りで障害物を越えるときの流れ1

上りで障害物を越えるときの流れ1

上りで障害物を越えるときの流れ2

上りで障害物を越えるときの流れ2

 

「これができるようになると、こうした難しいセクションでいちいち自転車を降りなくて良いということだけでなく、自転車のコントロール技術の向上にもつながりますので、こちらもぜひ身に付けたいテクニックです。

コツは、前傾を深くしてレディポジションを維持しつつ、一瞬前輪の荷重を腕の力で抜いてあげ、前輪が障害物を越えたらペダリングでトルクをかけて後輪を通過させる、ということです」。

上りの障害物を越えるときの悪い例

上りの障害物を越えるときの悪い例

 

「よくある悪い例は、前輪を障害物の上に通過させようとするあまり、上半身まで大きく後ろに動かしてしまい、レディポジションが崩れてしまうことです。

こうなると前輪が障害物を通過してからリズムが悪くなり、ペダリングして後輪にトルクをかけようとした時点で体が適切な位置から外れているので、体制を崩してしまいやすくなります」。

ちなみに、もし途中で失敗して足を着いてしまったとき、再スタートするコツはあるのか?

「そこがきつい斜度や難しい地形の場合は、無理せず自転車を押して勾配の緩い場所まで移動しましょう。

何とか再スタートしたい場合は、まずドロッパーでサドルを一番下げた状態にし、自転車にまたがりやすい状態を作りましょう。すると走り出しやすくなります。

ただ、せっかくMTBに乗るなら、楽しみたいところです。体力とも相談ですが、途中で足を着いたら上り切れるまで何度もチャレンジしてみることをおすすめします。一度自転車を降りてクリアできなかった坂の麓まで降り、そこから再スタートしてまた挑戦するのが楽しいんですよ。……体力とも相談ですが」。

 

POINT③ ラインを読む

あなたはどちらのラインを選ぶ?

あなたはどちらのラインを選ぶ?

 

「これは下りにも通じるテクニックです。上り坂では、できるだけ木の根や岩などの障害物を避け、楽なラインを選んで走ることも重要です。

例えば上の写真の上り坂。写真では分かりづらいですが、何も考えずに上ると道がまっすぐで楽そうに思えて、Aのラインを選びがちです。しかし、ここには斜めになった木の根があり、ここに後輪が乗ってペダリングした瞬間、“ズルッ”と滑ってしまうリスクが高いです。特に路面が濡れている日はそうなりがちです」。

木の根を避けて通過するライン

木の根を避けて通過するライン

 

「逆にBのライン。こちらはやや迂回しており避けがちです。しかし、やや前輪を振るようにしてこちらを進めば、タイヤが木の根に乗ってしまうリスクが避けられますので、案外楽に上れるわけです。

できれば一度自転車をコース外の安全なところに置いて、歩いて“ここはどう走ったら安全で楽なんだろう”と仲間と話し合ってみたり、自分で考えてみるとよりMTBの楽しみが深まります」。

上りも実に奥が深い……。あなたもこれを参考に練習して、楽に上ってライドをより楽しんでみよう。