三船雅彦の「ロンドン~エディンバラ~ロンドン」機材事情レポート

目次

LELの横断幕と三船さん

今年のLELは1540km。冷静に考えると果てしなく感じる距離だ

多くのランドヌールが憧れる英国のブルべ、ロンドン~エディンバラ~ロンドン(以下LEL)に参加した三船雅彦さん。元々はプロロード選手だったが、引退してからはウルトラエンデュランスサイクリングの世界で活躍している。国内のブルベは言うに及ばず、パリ〜ブレスト〜パリも日本人最速タイムで完走している。

今年のLELの距離は1540kmと前回よりも100kmほど長くなり、制限時間128時間30分という長距離のブルべだった。三船さんは2017年に次いで2回目の参加。本場のランドヌールたちが、どのような装備、バッグで走っているのかをつぶさにチェックしてレポートしてもらった。

最新のウルトラエンデュランス装備とは

LELを走る三船さん

今年のLELは快晴続きだった

こんにちは、三船です。今回も私は自分の目標を設定し、その目標に向かってチャレンジしました。ターゲットタイムは72時間を目指して走りましたが、コースは前回以上のアップダウンが組み込まれていて、かなりスピードダウン。その勾配は時に30%!近いもので、上っていて気が狂いそうでした。こんなところにまっすぐ道を敷く英国人はおかしいだろ! と。そして天候はスコットランド”らしくなく、毎日が好天”だったものの、連日最高気温30℃ほど。そして最低気温は6℃ほどと寒暖差に叩きのめされました。結果、完走タイムは92時間02分。

ちなみに5年前のLELは、連日嵐で完走率52%と過酷なものでしたが、今回は好天であったにもかかわらず、コースの過酷さや寒暖差からか完走率60%と、前回と大差ないサバイバルぶり。やはりLELは甘くない、過酷なブルべだと再認識したのでした。

LELは、速い人は先頭でのスタートポジションを希望することができます。その代わり、128時間30分の制限時間に対して100時間以内のフィニッシュが求められます。日本ではレース的な、というか先頭交代をしていくブルべに否定的な人も多いですが、そもそも主催者が速く走る人のための対策を施しているあたりで否定どころか肯定していることが理解できます。

先頭でスタートすることで、早朝の交通量が少ない時間帯に走り出せる。折り返すまでは常にチェックポイントがクリアーであることが約束されます。しかし交通規制は一切なし、なのでもちろんだが交通ルールを守るという大前提。ここはロードレースとは違うので当然です。

私は今回スタートが先頭の方を希望したものの抽選? で後ろに回され、前に約1000人以上がいる状態でスタート。チェックポイントでも前半は参加者がカオスで座ることもままならず、360kmほど走ってようやく座る場所が確保できた感じでした。
とにかく走るときは誰かと協力して走る。これは自転車の鉄則とも言えます。誰かと走れば空気抵抗も減らせますし、つらいときにはお互いに会話などすれば気を紛らわらせる、そして睡魔に襲われそうなときも会話することで回避できます。

 

長距離で必要な装備の決め方

装備に関していえば、速く走るということと長距離を走るということと、同じ時間軸に置いて考えようとすると、しっくりとこないことに気づきます。
タイムを稼ぐために軽量化、しかし本当の長距離、ここではウルトラディスタンスと表現しますが、ウルトラディスタンスを速く走るためには実は持ち物がどんどん増えていきます。

今回はたまたま? 天候に恵まれたが、3日も走れば嵐などはスコットランドではないほうが珍しい。そうなると消耗を抑えるためにはマッドガードや着替えは必須。途中ドロップバッグを使うとしても3日間という時間軸は手ぶらからはどんどんかけ離れた重量になってきます。
ライトに頼る時間も増えるので、電池式(充電池含む)は電池の重量増がハンディ。そうなると必然的にダイナモ式の方がメリットが大きくなってきます。
そう、ここまで書くとわかるのですが、ウルトラディスタンスで速く走るバイクとはランドナーに行きつくのです。

では最新の長距離のスタイルは? ロードバイクで大型のサドルバッグなどを装備。そしてDHバー装着バイクがかなり目に付くようになってきました。

 

LELのDHバー装着車

DHバー装着車がかなり目立った

 

速く走るということは遠くまでいける。それはまた違うメリットが存在し、積載量を増やしてもDHバーがあれば積載量が少ないときと同じスピードが維持できる。そのあたりがロングライドでDHバー+積載量アップの図式になっているのではないでしょうか。
そしてバッグ類の軽量化と防水性の向上も旅のスタイルを変えている要因でしょう。

しかし時代に逆行するようなレトロな作りのサドルバッグやフロントバッグを使用する者もいるのは確かで、それはまた魅力的なものが多かったです。
現在でもキャラダイスのサドルバッグは人気のようで、かなり年期の入ったものを使う若者がいました。話を聞いてみると「これは中古で手に入れたんだ。すごく気に入っているよ」と。

 

キャラダイスのバッグ

キャラダイスのサドルバッグ。かなりよれよれで使用するのが恰好いい

大型サドルバッグとフロントバッグを付けたバイク

大型サドルバッグとフロントバッグの組み合わせ

トップチューブバッグを装着したバイク

トップチューブ上側のバッグ装着

サイドバッグを付けたバイク

サイドバッグ装着。ここまで来るとドロップバッグ無し? もしかすると寝袋も入っていたのだろうか

 

スタート前でバイクをチェックしていても、15Lクラスのサドルバッグ、フレームバッグ、ベントーボックスタイプが主流のようです。これはキャラダイスのクラシックタイプのサドルバッグが容量を増やすために横にワイド化していったのに対し、最近のサドルバッグは細く上に伸ばして空気抵抗やペダリング、そしてお尻や腰が濡れないというマッドガード的な役目も持ち始めたのが大きいかもしれないです。
走行中に取り出しやすいということでトップチューブ下のバッグが進化しているのかもしれない。意外とスマホや財布そして補給食など、フレームバッグから取り出している人が目につきました。

 

LEL参加者のバイク LEL参加者のバイク

LEL参加者のバイク

最近のトレンドかサドルバッグとトップチューブバッグ装着が多かった

 

DHバーのセッティングは、ロードレースのような低いものではなく、アップライトにして多少空気抵抗が増えても、ウルトラディスタンスでのストレス軽減そしてスピードアップ。あまり深いポジションだとシャーマーズネックになるということかもしれません。

 

三船雅彦さんのLEL装備は?

中にはDHバーを使用せず、トラディッショナルなスタイルにこだわる頑固ランドヌールも多く見かけました。そういう私もDHバー無し。これは上りのフィーリングが嫌なのと、子供の頃から憧れてきたヨーロッパのロードレーサーたちのスタイルがDHバーではないから(笑)。

ベルナール・イノーやローラン・フィニヨンなど、DHバーが着いてないバイクで恰好よかったやん! と、それだけなのですが。今回はドロップバッグ1回(チェックポイントに最大2か所、荷物を送っておくことが可能)で、そこまで着替えなし。サドルバッグには防寒具一式。

このあたりは2か月ぐらいかけて何が必要で何を削れるかを吟味しながら何度かLELのシミュレーションを行ってきました。なので無駄なものは何一つない状態。逆に言えば想定外の出来事があれば今回は根性で対応する以外はなかった、というかこれだけ過酷だと根性では対応できないと……。

あえて今回の荷物で一般的でないものと言えば、枕(最近SR600でも必ず携行)、おしりふき(海外のトイレにはおしり洗浄はない)、そして耳かき、かな。

 

三船さんのLEL用バイク

三船さんのバイク。今回の装備はバーバッグと4.1Lのサドルバッグ。コンパクトだがモバイルバッテリーやライトの予備バッテリーなど、意外と容積の割に重量は重かった

 

装備は十人十色。その足し算と引き算がおもしろい

LELの参加者

序盤の選手はタイム狙いではないので、比較的装備は多めのランドヌールが多かった

LEL参加者

中盤以降はタイムを狙う前半スタートが多いので、やや荷物が少ない傾向にあったように思う

LEL参加者

荷物の装着も人次第。「正解」は存在しない

 

何を持って走るのかはその人の経験によります。人の装備も参考にはなりますが、最後はすべて自分の経験や判断。削ることで完走できないのであれば持ち運ぶ。距離が伸びると運ぶものが増える、バッグの容量が必要。それによって起こるスピード低下やストレスをDHバーとのコンビネーションで解消しているのでは、と今回強く感じました。

次回過酷なウルトラディスタンスに出るときは、また今までとは違う装備を選択しているかもしれません。