猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第11回

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第11回

オープニングの撮影に挑む坂バカ部。笑いが絶えない明るい現場だ。

階段王の早過ぎるアップにより深夜に起こされた坂バカ部は阿蘇パノラマヒルクライム2日目に挑む。
出発は3時30分。

この時間は階段王のアップのせいではない。
2日目のスタートは朝6時半と早い!
そしてバケツをひっくり返したような雨が降っているではないか!?

普通なら中止かコース短縮になるレベルの雨だ。
「やるのかこれ?」誰もがそう思っていた。

真っ暗なスタート地点に到着しても雨は強くなる一方でまだ誰も来て居ない。
半信半疑のままローラーでアップを開始する。
スタート30分前になっても中止のアナウンスはない。

するとスタート15分前になった頃であろうか?ゾロゾロとゾンビの様に選手達が現れ始めたではないか!?
土砂降りであろうがコロナ禍であろうがそんか事は関係ない。
目の前に坂があったら上る!
これぞまさに本物の坂バカ達ではないか!

祭りだ!これは祭りだ!祭りとは宗教儀式だ!
坂バカの神様に感謝の祈りを捧げる2日目がスタートした!

階段王と戸丸は相変わらず先頭でスタートし表彰台を狙う!
私は1日目集団に付いて行きオールアウトしてしまったので、2日目はペースで走るようにNコーチから助言を頂いた。
20分までは230wぐらいで。
残りの15分は全力で!という指示を頂く。

しかし少しでも集団で走った方がラクだ。
後ろの方の自分に合った小さな集団で走る。
水溜りが現れる度に全身に泥水を浴びる。
笑いが止まらない。

勾配がキツくなり小集団は縦一列になる。よく見たら昨日も一緒に戦ったライバル達ではないか。
私はコーチの指示通り230wをキープする。
しかしなぜか苦しい。
私のFTPは239wなので普段はラクに出せる数値だ。
苦しいだけで自転車が前に進まない。

すると前から降って来た選手も加わり6人のトレインができた。しめた!
私は最後尾に陣取り休む。
空気抵抗といのは恐ろしいもので勾配6%ぐらいの坂だと最後尾の付き位置は本当にラクだ。

温存し回復した私は調子に乗って「前に見える2人にブリッジしましょう!」と言って先頭に出る。
しかし一向に前の2人には追い付かず「失礼しやした!」とまた最後尾に戻る。

すると最後の激坂区間が現れる。
ここから地元、九州の選手達が踏み始めた!
どうやら脚を温存しここから踏むのが通例のようだ。

そんな事は知らない私は何度も千切れそうになり脚も呼吸もキツい!
しかし意地で喰らいつく。
ラスト300mの看板が見えた。
私は残るの脚を全部使いきるためにそっと踏み始める。よし!かかる!かかるぞ!
ライバル達を抜きにかかる。
そしてギヤを一気に上げて本日もゴールスプリントだ!

小集団の1番前に出る!すると1人が横に並ぶ。
30秒が経過した辺りで相手が千切れた。
私はトレーニングの終わりに90秒フルモガキ3本でオールアウトしている。
だから90秒はもつのだ!!ウルトラマンより30秒も長いのだ!
日々のトレーニングが報われ、
2日目はスプリントを制し小集団のトップでゴール出来た。

順位は10位。パワーのアベレージは230wほど。
なぜか練習のローラーの方がパワーが出るという怪奇現象が起こっている。

私は冬場コツコツと長い時間ローラーばかりやってきた。
どうやら「ローラーで」パワーを出す技を無意識に習得してしまったのだろうか?
この日以来、私は愛してやまなかったローラーを卒業したのである。
今では雨でも外で走っている。

坂バカ部は階段王は2位ワンダーボーイも4位と上位に絡めたらしく上機嫌だ。
驚いたのは戸丸が5分あった階段王との差を1分まで詰めている事だ。
次はいよいよ優勝もあるかも知れない。
まさにワンダーな男だ。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第11回

レース後に訪れた熊本・地獄温泉。

 

朝7時過ぎにはレースが終わってしまった。
温泉の入浴シーンを撮影したらロケは終わりなので、スタッフが気を利かせて帰りの飛行機の時間を繰り上げてくれた。

しかし熊本空港に到着したのは搭乗時間の30分前。
パニックに陥ったワンダーボーイはなぜか空港ロビーで荷物をぶち撒け出した。
私はこりゃダメだと、名古屋に飛ぶ五郎監督にお礼を言い先に搭乗した。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第11回

飛行機の出発間際に空港に到着しパニックに陥る坂バカ部

 

羽田空港に着くと「いゃ危なかったですよ」とドヤ顔の戸丸が居た。
いろいろと成長しているようだ。若者の成長を見るのは良いものだ。

到着ロビーで珍しく階段王が「3人で写真を撮りましょうよ!」と言ってきた。
坂バカ部はレースでしか会う事は無い。
レース以外では其々が孤独に自分と向き合う。
2カ月に一度集まっては下ネタ…もとい…レースの話をするうちに絆のようなものが芽生えてきたのかもしれない。

到着口をバックに3人でセルフィー。
パシャリというシャッターの音と共に、坂バカ部の初戦が幕を閉じたような気がした。
戸丸は群馬行きの高速バスへ、階段王は御褒美の味噌カツ屋へ、其々の世界へ戻って行った。

そして….あの3人で撮ったセルフィーの写真は未だに送信されてこないのであった。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第11回

この2人は本当に仲が良い。お互いを尊重し合っている。共通点は、突き抜けていて、純粋で、とにかくよく喋る。

 

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