新城幸也インタビュー「全日本は汗を流すべきレースだから、僕は汗を流す方を選ぶ」

新城幸也インタビュー2022

新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が全日本選手権ロードのエリート男子に初出場したのは2007年、22歳の時だ。以来15年、全日本に8回出走して優勝が3回。それ以外の成績は2位が2回、あとは4位と9位だ。

各国のナショナル選手権の日程はUCIカレンダー的には6月末なので、1週間後にはツール・ド・フランスが控えている。時差や準備やドーピング検査、そして昨今ならPCR検査も必要だから、全日本を走ってツールに出るとなると、翌日あたりには日本を出なければならない。これは本当に過酷なスケジュールだ。

だからユキヤは近年、全日本に帰ってこないことが多くなってきた。2014年から18年の5年間で言えば、ツールに3回出て、全日本は0回だ。

全日本で勝つことはもちろん名誉なことだが、ツールに選ばれているのに、なぜこんなに苦労して帰国してくるのかという問いに明確な答えはない。「ナショナルチャンピオンジャージを着てヨーロッパで走りたい」。ユキヤがときどき言うセリフだが、最近それだけではないように感じるようになった。もちろんツールのメンバーに確定しないことが多くなってきた、そういう事情もあるだろう。

ユキヤは37歳、おそらく選手としてのキャリアも後半にさしかかり、日本の選手たちに何かを見せるために帰国してきたのではないか? 全日本を終えて残りたった4日の滞在の中で、時間を割いて話を聞かせてもらった。

新城幸也インタビュー2022

ユキヤが前回この広島のコースを走ったのは2009年の全日本(4位、優勝は西谷泰治=愛三工業レーシング)と2010年の全日本(13位、優勝は宮澤崇史=チームNIPPO)で、2009年はBboxブイグテレコムでヨーロッパプロとしてデビューした年だ。

 

●新城:(広島中央森林公園の)コースは走り始めてもまったく思い出さなかった。13年前のことなので(笑)。この13年でいろんなところを走っていますからね。ただ走っていくと、自分がこのくらいなら踏めるというのはわかる。下りがテクニカルで僕に味方するので、正回りの方が僕には合っている。僕はコーナーでロスしないので。

●新城:TTの方は去年走ってデータを持っている2人(1位の金子宗平=群馬グリフィンと2位の小石祐馬=チームUKYO)は強いですよ。ここを何ワットで踏めばいいと知っているのは強い。時差ボケもあり、やっと朝までぐっすり眠れたのがTTの日です。

新城幸也インタビュー2022

新城幸也インタビュー2022

タイムトライアルは3位となったユキヤは、中1日挟んでロードレースに臨んだ。もちろん、TTのタイトルよりもずっとずっと欲しい、全日本チャンピオンを決めるレースだ。

●新城:僕のレースの始まりは補給所のあるスタートフィニッシュラインです。あそこから踏ませています。
補給所で上げるんですよ。そしてそのまま上げ続けます。で一回緩めて、フェンストンネルの上りでもう一回上げる。そうすると下って三段坂に突っ込むので、後ろは減る。そして三段坂でも上げるから、みんなが「あぁぁ」ってなるんです。

下り基調だから、フェンストンネルのところまではちょっと休みますが、あそこでまた上げて、速い下りでも脚を使わせる。三段坂の手前の正広橋のところも上っているので、そこからペースを上げると「はぁぁ」となって、三段坂のトンネルを抜けてからもっと上げると「うぅぅ」ってなります。だから僕は三段坂の麓で必ずペースを上げています。

 

●新城:三段坂というイメージがたぶん日本人選手のなかにはあって、あれだけ(このコースで)レースをやっているから、下から行くとキツいと思っている。だけど、それを待って二段目から行くと短すぎる。あの二段目の湖のところなんて45kmくらい出るんですよ。その勢いで三段目にかかると、もがいているのは1分くらいです。あそこで3秒開いたって、下りで追いつく。だから僕はその前から動いているんです。

 

●新城:身を削ってまで他人と差を付けるのは三段坂です。しかも、下だけ。あそこは、上で他人をちぎるのは大変です。三段目だと頂上が見えていて、残り20秒なんですよ。そして二段目はほぼカウントされないです、二段目で他人をちぎるのは無理です。

ちぎるのは絶望的な、下だけ(一段目)です。「あと二段ある」という日本人の勝手な思い込みで、それを僕は利用しました。

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単騎参戦にもかかわらず再三のアタックを見せたユキヤ、そのユキヤが逃げる小石を捕まえたのは14周目、そして山本大喜(キナンサイクリングチーム)を捕まえたのは15周目だ。その捕まえるタイミングも、すべて計算ずくだったという。

●新城:それは全部あそこまで待っているんです。あそこまで(相手に)踏ませているんです。
アップダウンで捕まえると、上りまで休ませてしまう。だからギリギリまで踏ませてあげるんです。そして上りは一段目で捕まえる。あと二段ある、と絶望させるんです。二段目、三段目で捕まえると、もうちょっと頑張れば行けると思って付いてくる。
これは、僕がヨーロッパでやられていることです。

ヨーロッパでは僕はアシストだから、上りの麓まで牽くだけ牽いて、そこから全力で上っているのに置いていかれます。

全日本では、僕が踏んだらみんなが千切れたから、「なんで?」と思ってそのまま行きました。僕はキツい状態で、伸ばしに伸ばしただけで、座ってするすると抜け出した。あれはアタックじゃないです。
「ああ、こういうことか」と思って、そこからは僕は自信が持てました。

 

●新城:日本のレースをユーチューブなどでいくつか見ていました。日本の選手は(ペースを)上げて、休める。そしてまた上げることもできる。でも、休む時間が必要なんです。でも、上げたままさらに上げられるのにはまったく反応できない。でもそれがヨーロッパなんです。ヨーロッパは、上げたまま、まだ行くの!という感じで上がります。

ヨーロッパの選手が来て広島でレースをやっても、たぶん僕と同じことをして、三段坂をもっと速いスピードで駆け上ります。それが日本の選手はできない。そういうレースをしていないんです。唯一それをやったのは小石で、今回のレースのスイッチが入ったのは小石のあの周です。

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小石がアタックしたのは12周目、残り3周以上を残していた。暑さと残りの距離を考えると、集団を抜け出すのはもう少し後、そういう心理の裏をかいたアタックだった。

●新城:暑いときってどれくらいレッドゾーンで追い込んでよいかとか、そういうことを考えて練習しているんですかね? 暑いから脚を攣った? 自分がどれくらい水を被ったか、自分の体温は何度だったか、どれくらいのワットを出していたのか? ちゃんと答えられる日本の選手はいないと思う。

そういう選手は、踏まなくていいところでレッドゾーンに入れているんです。暑いと、レッドゾーンに入れると回復に時間がかかる。そこはインナーでいい、それはもう経験です。
暑いときには体温がこれくらいになってこれくらいのワットしか踏めないし、それ以上踏むとパフォーマンスに影響するというのが、だいたいだけれど判る。

ヨーロッパで残り10kmが上りのゴールだったら、その麓までは僕の仕事なので、残り20kmから残り10kmの間は、僕が一番力を出すところじゃないですか。
エースとの違いは頑張るところが違うだけで、僕が高いワットを最後まで出し続けたのは、その経験の差です。

 

●新城:ずっと300wで上っていて、400wで三段坂を上れるやつは今の日本にはいないです。できるのは小石くらいかもしれません。

ヨーロッパに行くと、380wで走ってきて、上りを500wで上ります。ケタが違うんです。無理です。勝負にならない。
ジャパンカップだって、上りを上ったら下りも全開で行くから、追いつかない。日本のレースは上りを上ったら下りで踏まないから追いついちゃう。踏んでいる時間が違いすぎます。

ヨーロッパでは、僕はあそこからバックファイアーする人間です。それが先頭に出られるから、逆に「どうした?」「なんで?」という感じです。
僕は37歳です、もう強くなっていないですよ。2013年に大分で勝ったときのほうが僕はきっと強いです。あのときの僕が日曜日に走ったら、たぶん全員をちぎって勝っています。

 

●新城:今回の全日本でキーポイントになったのは小石のアタックでした。小石は前から(逃げを)追走していってそのまま上りで飛んでいった。
そこにジョインするような選手が現れないといけない。どんどんジョインしてそこからアタックするという、前に前にというレースをしないと、日本のレベルアップはない。終盤といっても残り50km。動きたい人は絶対いるはず。日本の選手は残り50kmは長すぎると思っているのでは? それは自分が日本の選手だと思っているからです。

ヨーロッパの選手だったら、最後にアラフィリップに敵わないと思っている選手は残り50kmから動かざるを得ない。絶対行く。4人でアラフィリップから逃げる。それを考えない日本の選手はおかしい。50分の1を4分の1にしないのはおかしい。あの集団で50人の中で、自分が勝てると思っている選手が何人いる? 日本の選手はキツいことを選ばない。誰だってそう、誰もが楽な方を選びたくなる。

でも全日本は汗を流すべきレースだから、僕は汗を流す方を選ぶ。
マークされているレースは、僕はキツい方を選ぶ。アジア選、日本選手権は、絶対にマークされているから。

世界選手権もそう。昨年は逃げなかったけれど、その前の年にイタリアで逃げたときになぜ逃げたかというと、僕がメイン集団に残ったとして完走できる確率と、逃げに乗ったときに完走できる確率を比べると、脚を使った、逃げに乗ったほうが僕がトップ20に入る可能性があると思ったから。

レースは集団に残っていた方が楽に決まっている。トップ20に入るのはどちらもキツいけど、集団にいてトップ20に入るのと逃げてトップ20に入るのでは、逃げた方が脚は絶対に使う。脚は使うけれどそちらの方が可能性があるなと思って逃げたんです。

新城幸也インタビュー2022

●新城:(新城)雄大(キナンレーシングチーム)の2位は嬉しかったです。大喜が表彰台で、僕と一緒にやれて嬉しかったと言ったのも嬉しいです。

増田(成幸)さん(宇都宮ブリッツェン)はたぶんTTの熱中症が直っていないです。宮崎(泰史、宇都宮ブリッツェン)は僕と一緒に脚を使って、僕と一緒に行きたがっていた。アベタカ(阿部嵩之、宇都宮ブリッツェン)が前にいるのに、行こうとしていた。彼はああいう気持ちのあるレースを今後もずっとやるべきです。ああいう走りを続けていってほしい。
ブリッツェンはおそらく前にメンバーを増やしたかった、それは僕に勝つための条件です。それは絶対でしょう。僕と1対1でやったら、勝てるわけがない。

キナンは一緒に抜け出そうという気がない。EF(エデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム))もそうだし、一緒に抜け出そうという気がない。僕と勝負しようという気がなかった。
日本選手権ですよ! 10数年前の、ブリヂストンとシマノの最強時代の方がもっとバチバチだったし、そこで勝った別府さんはやっぱり本当に強かった。あの時代の方がもっとバチバチだったなという思いはあります。

 

●新城:僕がヨーロッパでこれだけ練習して、この結果です。
この差を見て、それでもこれまでと同じようなレースをしていたら、ヨーロッパに辿り着くわけがない。せめて最低限、僕と同じことをしないと追いつかない。ワールドツアーには僕より強いやつばかりです。

レース距離の180kmは僕の許容範囲内です。日本の選手は120kmのレースしか走っていない。180kmの練習をしているのか? 180kmは、1か月では無理なんです。
そして全日本が200kmのレースだったら、僕は一人になっています。

ヨーロッパで僕らは100kmのレースを、3時間全開で走っています。あれは200kmより100kmのほうがキツいです。
日本の選手は120kmを全開で行こうと思わない。いや、0から120まで全力出し切れよ! そういうレースをしないとレベルアップしないです。
それでこんなレースをされたら……そろそろわかれ! と思います。

アシストの自信として、逃げ切る力はないけれど、ゼロにする(追いつく)意地はありました。
時差ボケが抜けていない分、勝ったのは気持ちの部分が大きかったですね。

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