草場啓吾が初優勝! 2021全日本選手権ロード

2021全日本選手権 男子エリート

草場啓吾が2021年の全日本チャンピオンとなった

全日本選手権ロード最終日、午前中に初開催となったマスターズを終えて、11時からは男子エリートが12.3kmの周回コースを15周する184.5kmで争われた。

出走は108人、最大勢力は愛三工業レーシングとシマノレーシングがそれぞれ9人、続いて宇都宮ブリッツェンが8人をスタートさせた。海外勢は別府史之(EFエデュケーション・NIPPO)と新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が不在ながら、別府のチームメイト中根英登、そして育成チームであるNIPPOプロヴァンス・PTSコンチから織田聖と岡篤志がスタートラインに並んだ。

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11時ちょうど、108人がスタート

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集団は大きな動きのないまま2周目の上りにかかる

序盤、まったりと進んだレースは群馬グリフィンの伊藤大地が逃げを試みる。3周目には伊藤舜紀(シエルブルー鹿屋)が動いたがこれも捕まり、4周目、風間翔眞(シマノレーシング)が30秒差を奪い取ると集団はようやくこれを容認し、風間は最大3分近い差を持って9周目まで逃げ続けた。

このコースは前半の下りは狭いコーナリングが続き、スキルが高ければ飛び出せる可能性があるが、後半の上りは見通しがよく、集団を引き離すにはかなりのパワーが要求される。
ロードレースのセオリー通りなら、逃げるシマノレーシング以外の主要チームが一人ずつメンバーを出して集団をコントロールするはずだった。しかし、「全日本だけは独特なレースになってしまいますよね」と増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が語る通り、セオリー通りにはならなかった。

集団の先頭は愛三工業レーシングが単独で占め、一定ペースで先頭が力尽きるのを待った。愛三の別府匠監督は「後半の力勝負に賭ける」と断言し、果たしてレースはその通りに運ばれることになった。

風間の逃げは、これによってシマノレーシングは「風間の逃げ切り」「チームメイトの温存」の2つのチョイスを確保した。愛三は他のチームのアタックを許さないコントロールを見せ、途中からはチームUKYO相模原から小山智也がコントロールに1枚加わった。愛三は風間の逃げ以降、すべてを賭けてレースを掌握しようとしていた。

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4周目に入ってエスケープを決めた風間翔眞(シマノレーシング)

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メイン集団は愛三工業レーシングがコントロール

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広島空港の外周を回るサイクリングロードでレースが行われた

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愛三工業レーシングのコントロールにチームUKYO相模原が協力

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一定のペースで愛三工業レーシングを先頭に周回を重ねた

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ニュートラルサービスは(表向き)シマノ11速をメインに用意したため、風間翔眞(シマノレーシング)もR9100シリーズのデュラエースを使う

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9周目、逃げる風間を徐々に捕まえにかかる愛三工業レーシング

10周目、いよいよ風間とのタイム差が1分以下に縮まり始めると、集団の先頭にはキナンサイクリングチームが上がってきた。牽引役は元愛三でもある中島康晴だ。コース6km地点あたりから始まる上り坂の麓で風間が集団に捕まると、やはりと言おうか、脚を溜めていた各チームがいっせいにマシンガンを撃ちまくり始めた。

キナンは中島、新城雄大、山本元喜らが動き、2kmほど断続的に続くいわゆる「三段坂」で集団を強烈に絞り込む。しかし他のチームもまだ脚を残しており、絞りきれない。スタートフィニッシュ地点を通過する時点ではシマノレーシング、レバンテフジ静岡、那須ブラーゼンらも積極的に攻撃を仕掛けた。

11周目、コース前半の下り基調を攻めたシェルブルー鹿屋の冨尾大地が飛び出し、15秒から20秒の差を保って逃げる。キナン中島が牽く集団はこれを落ち着いて追いかけた。メイン集団はまだまだ40人ほどのメンバーを残している。

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10周目、集団の先頭はキナンサイクリングチームに代わった

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11周目から集団を飛び出したシェルブルー鹿屋の冨尾大地

12周目、残り3周。集団が冨尾を捕まえる動きあたりからさらにレースは動いた。イニシアティブをとったのはまたもキナンだが、佐野淳哉(レバンテフジ静岡)、徳田優(チームブリヂストンサイクリング)や吉岡直哉(チームUKYO相模原)、小森亮平(マトリックスパワータグ)らも前で展開する。

しかし、上り坂でのアタックにトップシーズンに見られるようなキレがない。持続力もない。誰もが疲れているのか、それともいつ行われるかわからなかった(本当に開催されるかどうかも疑わしかった)レースにコンディションを合わせることができなかったか? シーズン最終盤に行われることになってしまった今年の全日本選手権という、特異なスケジュールのせいなのか? 集団は絞りきられることがなく、チームプレイか単騎参戦か、そのどちらに分があるかわからない展開になってきた。

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12周目、活性化した集団の先頭は2014年の全日本覇者、佐野淳哉(レバンテフジ静岡)

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12周目、展望所への最後の上りで動きを見せる徳田優(チームブリヂストンサイクリング)

ついに中根が動き始めた。少し前からちらちらと先頭付近にピンクのヘルメットが見えていたのだが、ヨーロッパプロの意地を見せるかのような鋭い加速を見せる。キナンと愛三は中根のそばをキープしようとしていた。「僕と(山本)大喜のダブルエースの予定でした」と話すのはキナンの山本元喜だ。

ちなみにこのコースで開催される全日本は2010年以来で、そのときの勝者は宮澤崇史だ。その前年も同コースで、西谷泰治が勝っている。つまりこのコースの特性は、上れるスプリンターが勝つ可能性が高いのだ。増田や中根は、スプリンターを連れたままフィニッシュに来るわけにはいかなかった。

そして13周目、今度はシエルブルー鹿屋の石橋学が少し抜け出した。追走は中根、岡に加えて愛三の草場啓吾、伊藤雅和、スパークル大分は孫崎大樹、宇都宮ブリッツェンは阿部嵩之らが10人ほどのグループとなり、数秒後ろからは増田らが合流を図る。中根が集団をペースアップし、山本大喜、岡とともに少し抜け出す。追いついてきた小石祐馬が前に出て、先頭は18人ほどとなる。役者は揃ったかに見えたそのとき、ゼッケン1番、前回の全日本選手権の覇者、入部正太朗(弱虫ペダル)が鋭く飛び出していった。

まだ2周あるのだ。「誰か一緒に行きたかったですけどね」とレース後に語った入部だが、2年4カ月着た全日本チャンピオンジャージの意地にかけて、単独での逃げを選んだのだ。タイム差は10秒から20秒。Jスポーツのテレビモト、NHKチャリダーのテレビモト、さらにシクロワイアードとサイクルスポーツWEBのスチールカメラモトが入り交じり、ハイスピードのバトルを展開して入部とチェイスグループを追いかけた。

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13周目に入る中根を阿部、大町健斗(エンシェアレーシング)らが追走する

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シエルブルー鹿屋が積極的に攻める。13周目に逃げたのは石橋学

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中根、山本大喜、岡の先頭集団に伊藤雅和(愛三工業レーシング)、畑中が食い下がる

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攻め続ける中根

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小石祐馬(チームUKYO相模原)もアクティブに動いた

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14周目、前全日本チャンプの意地を見せる入部正太朗(弱虫ペダル)

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14周目中盤、入部を追走するメイングループ

入部が逃げたまま、追走を25秒離して最終周回に突入した。入部がキャッチされて上りに差し掛かると、これまで姿を潜めていたホビーレーサーの金子宗平が動きを見せた。ツイッター(@sohei_k_bike)によれば「プロの中で走るのは3年ぶり」というが、上りは精鋭集団の中でも十分に強い。金子の動きに増田が合わせ、さらに草場、中根らが動いて人数を絞っていった。先頭集団は9人、ここに愛三だけが2人を残した。

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14周目三段坂、先頭の畑中は2017年の全日本チャンピオンだ

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逃げが捕まった石橋学だが上りで積極的に動く

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歯を食いしばり最終周回に入る入部

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最終周回、なんとか上りに入る前に人数を減らそうとする小石と山本元喜

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最後の上り、前に出た増田、右手の黄色いジャージが金子宗平

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草場啓吾が先頭に立つ。後ろは金子、そして小石

ラスト3.5km、展望所への最後のキツい上りで小石が仕掛ける。しかし中根を筆頭に誰も離れていかない。これはゴールスプリントになる! 無観客となった広島県中央森林公園のホームストレートでは、チームスタッフやメディア、なんとかして潜り込んだファンが手に汗を握っていた。

ラスト300mの上り右ヘアピンを曲がって最終ストレート、9人が横一線に並ぶ。距離をしっかり見てスプリントを開始した草場が圧倒的な加速を見せ、ライン遙か手前で両手を天に突き上げた。諦めずに踏んだ増田が差すかに見えたが、0.13秒差で草場が全日本のチャンピオンとなった。2位は増田、3位は中根となった。

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9人に絞られた先頭集団が最後の上りを行く。先頭は小石

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展望所への上り、小石、中根を先頭にハイペースだ

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ゴールスプリント、写真左から小石、伊藤、草場、山本大喜、増田、中根、金子

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ゴールライン遙か手前から手を大きく広げた草場

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1位・草場、2位・増田、3位・中根

 

草場啓吾(愛三工業レーシング)のコメント:
「まだ全然、勝った実感がないんです。なんか…恐縮です(笑)。チーム一丸となってこのレースを作ってきて、たまたま僕が勝ったので、実感がないというのはそういうことです。
(ずっとレースをコントロールしてきて)これで勝たなかったら、チームの仕事を無駄にすることになる。終盤は僕と伊藤選手と岡本先輩の3枚が揃っていたので、完璧に有利な展開でした。岡本選手はドロップしてしまったのですが、その代わりは果たせたと思います。スプリントだったらこのメンバーなら僕が一番スプリント能力があるなと思っていたので、残り150で冷静にもがき始められたのがよかったです。
じつはおじいちゃんが亡くなりました。だからこの試合にかける思いは僕の中で強かった。天国に行ってしまったおじいちゃんにがんばったよ、と伝えたいです。」

 

増田成幸(宇都宮ブリッツェン)のコメント:
「2位って一番悔しいですね。スプリントがある選手は、途中の展開でちぎっていかないといけなかった。これぐらいの人数のスプリントだったらとは思いましたが、自分の勝ちパターンに持っていけなかった。上りの一番下からのアタックは、みんなが警戒しているので決まらない。それ以外のところで行こうとしたけれど、リスクを負う覚悟が足りなかった。
オリンピックに向けて走ってきた、その貯金で走ったようなものです(笑)。持てる力は出し切ったと思います。あと何年選手を続けるかわかりませんが、また来年再チャレンジしたいと思います。」

 

中根英登(EFエデュケーションNIPPO)のコメント:
「勝ってジャージをチームに持ち帰り、ヨーロッパツアーで日本のチャンピオンジャージを着て走りたかった、それが叶わなかったのは残念だった。
ラスト4周から集団を壊そうとしてずっと動いていた。出し惜しみなく攻めたので、全然悔いはない。アタックしても、その後の展開に乗ってくれる人がいなかったので、集団を削り切れなかった。ただ、(草場啓吾という)弟みたいなやつが勝ったから、悔しいというよりも心からおめでとうと言いたいです。20代の若い選手がナショナルチャンピオンジャージを着るというのはこれからの日本の自転車文化にとってとてもいいこと。草場が来年も活躍してステップアップして、どんどん上の世界に行ってほしいと思います。」

 

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感染対策を講じた表彰式だったが記念撮影のときだけマスクなしで

2021全日本選手権ロードレース 男子エリート結果
1. 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)4:47:16
2. 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)4:47:16
3. 中根英登(EF Education-NIPPO)4:47:17

 

第89回全日本自転車競技選手権大会 ロード・レース/第24回全日本選手権個人タイム・トライアル・ロード・レース大会
開催期間:2021年10月21日(木) 〜 2021年10月24日(日)
開催地:広島県中央森林公園 サイクリングロード
日本自転車競技連盟 https://jcf.or.jp/road/