キャノンデール・スーパーシックス エボ カーボンアルテグラ-進化した軽量レーシングロード-アサノ試乗します!その37
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軽量レーシングロードの代名詞として長年世界最高峰のレースで活躍し続けるスーパーシックスエボ。2020年に登場した3代目は、軽さに加え空力性能を強化し、上位モデルのハイモッドはディスクブレーキ専用となるなど劇的な進化を遂げた。今回は最新スーパーシックスエボのアルテグラ搭載モデルに試乗。初代スーパーシックスエボをプライベートで愛用するライターアサノが、走りだけでなくパッケージングまで徹底にチェックする。
スーパーシックス エボ カーボンディスク アルテグラ-見た目も性能も劇的な進化を遂げた3代目-
スーパーシックスエボは、2007年にキャノンデール初のフルカーボンロードフレームとして登場したスーパーシックスをルーツとする軽量レーシングモデルだ。スーパーシックスの「6」はフレーム素材であるカーボンの原料・炭素の原子番号にちなむ。
キャノンデールは90年代後半からアルミフレーム製造に長けたブランドとしてロードレースシーンでも一時代を築いてきたが、スーパーシックスシリーズの登場以降はリクイガスをはじめとする契約チームは同シリーズをメインバイクとしてきた。
スーパーシックスの進化版として2012年モデルとして登場した初代スーパーシックスエボは、特殊な樹脂とカーボン繊維を組み合わせて軽く強靱なフレームを作ることを可能にしたバリステックカーボンテクノロジーを採用。フレーム単体重量695gという圧倒的な軽さと高剛性を両立して世間の度肝を抜き、軽量レーシングフレームのベンチマークとなった。
2015年に登場した2代目は、軽さだけでなく、剛性や快適性といったバランスを追求。BB規格をBB30からBB30Aに変更して反ドライブ側にBB幅を5mm拡大することでBBまわりの剛性をさらに高めた。
そして2020年に3代目のスーパーシックスエボが登場。フレームに空力を意識した造形を取り入れ、軽量レーシングロードにエアロの要素を加えて上りに加えて平坦の高速ステージでも戦えるオールラウンドレーサーへと進化を遂げた。
ダウンチューブやシートチューブに翼断面形状の後端を切り取ったD字型の断面形状を採用したり、ヘッドチューブ前方にケーブル内装用のルートを設けたり、リアトライアングルをコンパクトにしたり、ダウンチューブとフロントフォークのクラウンを一体感のあるインテグレーテッドデザインとすることで重量増を抑えながら空力性能向上を果たした。
第3世代のスーパーシックスエボは、上位モデルのスーパーシックスエボハイモッドとスタンダードモデルのスーパーシックスエボカーボンに大きく分けられ、両者の違いはフレームやフォークの素材のグレードで、ハイモッドの方がより軽量で高剛性なフレームに仕上がっている。上位モデルのハイモッドはディスクブレーキ専用となったのもトピックのひとつ。スタンダードモデルはディスクブレーキ仕様とリムブレーキ仕様の両モデルを展開する。今回紹介するのは、スタンダードモデルのアルテグラ搭載モデルのディスクブレーキ仕様だ。
スーパーシックスエボ カーボンディスクアルテグラの細部-空力性能アップのため、フレーム形状を見直しケーブル内装化を進める-
第3世代スーパーシックスエボのこれまでとの最大の違いは、フレームの随所にエアロ形状を取り入れたことだ。ダウンチューブやシートチューブの断面形状は、翼断面形状の後端を切り落としたような形になっており、重量増を抑えながら空力性能を高めることに成功している。
また、電動変速DI2コンポーネントとの組み合わせではケーブルの完全内装化を果たしたのもトピック。それを可能にするのが、専用ハンドルとステム(またはヘッドキャップ)、ヘッドチューブ前方に設けられたケーブルルートだ。ケーブルの露出をなくすことで、空気抵抗の削減を可能にする。なお、従来のメカニカル変速の場合は、ダウンチューブのヘッドチューブ側に設けられたケーブル取り込み口から内装する方式をとる。
さらにリア三角がコンパクトになったのも、先代までとの大きな違いだ。シートチューブとシートステーの接合部がトップチューブより低い位置に来ており、シートクランプも内蔵することでよりシートポストからシートチューブにかけてのゾーンをしなりやすくし、快適性アップを狙っている。
スーパーシックスエボ カーボンディスクアルテグラをインプレッション-軽量レーシングモデルから真のオールラウンダーへ進化-
スーパーシックスエボといえば、圧倒的な軽さを武器に卓越した登坂力を発揮するバイクというイメージを持つ人が多いのではないだろうか。実はリクイガス時代のペーター・サガンがツール・ド・フランスの平坦ステージで勝利を量産した実績もあり、軽さとともにスプリンターの爆発的な脚力を受け止める剛性も備え、優れた加速力も誇るオールラウンダーだった。初代は軽さを前面に押し出し、2代目で剛性や快適性も含めたバランス重視に振ったものの、基本的にはキープコンセプトだった。
3代目は軽さという武器はそのままに空力性能という新たな武器を手に入れて全方位的なオールラウンダーに進化させようという開発者の明確な意図を感じる。例えばフレームデザイン。ダウンチューブやシートチューブなど、フレームの随所に翼断面形状の後端を切り落としたD字型シェイプを採用し、軽さや剛性を犠牲にすることなく空力性能を高めている。また、ハンドル周りのケーブルは、DI2などの電動変速であれば専用ステムを使うことでフレームに完全に内装できるようにしている。ケーブルの空気抵抗は意外に馬鹿にならず、速さを追求するなら必須となりつつある。
僕は初代スーパーシックスエボを今も愛車の1台として乗り続けている。当時の量産フレームとしては最軽量クラスでありながら、必要十分な剛性も確保し、上りだけでなくあらゆるシチュエーションでよく走る戦闘力の高さが気に入っている。長年レースバイクとして活躍し、ヒルクライムからロードレース、エンデューロまで幅広いタイプのレースで何度も表彰台に立たせてくれた。だから、3代目スーパーシックスエボのハイモッド仕様がディスクブレーキ専用になったり、エアロな造形を取り入れたと聞いたりした時には勝手に不安に思ったのだった。「自分の知っている軽さと切れ味を武器にしたスーパーシックスエボハイモッドの良さをスポイルしてしまっているのではないか」と。
しかし、乗ってみるとそれは杞憂に終わった。ハイモッドのフラグシップモデルにも試乗したことがあるが、そのときにはディスクブレーキ対応による重量増というネガティブな要素はほとんど感じず、空力性能を強化することで平地の高速巡航性能がさらに強化されていたことに感心した。
今回試乗した非ハイモッドのアルテグラ機械式変速タイプのディスクブレーキモデルでもその印象は変わらなかった。フレームは同じものなので、D字型の断面形状となったダウンチューブやシートチューブがもたらす高速巡航時の空気がスムーズに後ろに流れるような感じも変わらない。特に時速30kmを超えるような速度域で先代までのモデルよりパワーをセーブしながら走れる感覚がある。
変速ケーブルがフレームからの取り込みになるため、上位モデルと比べるとケーブルの露出量はやや多くなるものの、ブレーキケーブルは内装されるので空気抵抗に与える影響はフルアウターに比べれば大きくはない。ルーティングも自然で、変速用のアウターケーブルが突っ張ってステアリングに悪影響を及ぼすわけではなかった。
ディスクブレーキ化も操縦安定性という面ではメリットになっている。特に下りコーナーを高速で走るようなシーンで軽量バイクにありがちな腰高感がなく、ハンドリングも過敏なところがないので狙ったラインをトレースしやすい。スルーアクスルによってフォークエンドとリアエンド付近の剛性感やホイールとフレームの一体感が増したこともプラスに働いている。ディスクブレーキ化に関しては重量増につながっているはずで、純粋なヒルクライム性能ではリムブレーキ仕様の先代までのモデルの方が高いのかもしれないが、平坦や下りを含めたトータルの速さでは3世代目の圧勝と言える。
一方で気になる部分もある。先代までのモデルと比べて、同一サイズでヘッドチューブが長くなっていることだ。自分のサイズである54で比較すると、先代までは14センチだったのが、最新モデルでは15.3センチと1センチ以上も長くなっている。他社の軽量レーシングロードの同じようなサイズと比べても長めだ。このため、ハンドルを低くするレーシーなポジションを出すには限界があり、ポジションがかなり制約されるのは残念だ。仮に僕が今乗っている初代と同じポジションを出すとしたら、小さめのフレームを選ぶかライズが極端に前下がりな特殊なステムを使うしかない。
この点に関しては前回のキャード13の記事でも触れたように、ハンドルを高めにセッティングしたい人にとっては、スペーサーの数を減らしながらポジションが出せるということでもある。そういう方にとってはすっきりした外観を手に入れられるというメリットとなり得る。
もしハンドル高も含め理想のポジションを出せるのであれば、個人的には現段階で理想のレーシングロードの一つだと思う。ハイモッドよりも剛性感もマイルドなので、ヒルクライムもロードレースもエンデューロも、時にはロングライドも楽しみたいレース志向の強いサイクリストにはお勧めだ。
スーパーシックスエボ カーボンディスクアルテグラ-スペック-
価格:47万3000円
素材:カーボン
サイズ:44、48、51、54、56、58、60
コンポーネント:シマノ・アルテグラ
スーパーシックスエボ カーボンディスクアルテグラとキャード13の比較-ケーブルのフル内装が可能なスーパーシックスエボ-
スーパーシックスエボとキャード13は、フレームジオメトリーの一部にミリ単位の違いはあるが、基本的にはほぼ同じジオメトリーと言っても差し支えない。両者の最大の違いは、フレーム素材の違いと言っても過言ではない。
このことが主にフレーム重量や振動吸収性という部分に違いをもたらす。フレーム重量はカーボフレームを採用するスーパーシックスエボが軽く、加速時の軽快感や登坂性能に関してはスーパーシックスエボに軍配が上がる。路面からの振動を吸収して収束させるスピードもスーパーシックスエボの方が速く、快適な乗り心地だ。
機構的な違いとしては、ケーブルの内装にどこまで対応しているかという違いがある。スーパーシックスエボは専用のステムやヘッドのトップキャップを使うことで電動変速仕様であればシフトケーブルとブレーキケーブルをヘッドチューブ前のケーブル取り込み口からフル内装することができる。一方、キャード13はフレームのダウンチューブからケーブルを内装できるが、ハンドルからフレームまではブレーキケーブルもシフトケーブルも露出する。この部分は見た目のクリーンさだけでなく、速度域が上がったときの巡航性能にもいくらか影響があると感じる。
アッセンブルされるパーツも微妙に異なる。シートポストは、スーパーシックスエボはカーボン製のホログラム27SLノット、キャード13はアルミ製のホログラム27ノットとなる。
アルミフレームのキャード13は、加速時の軽快感や登坂性能ではスーパーシックスに及ばないものの、ひとたびスピードに乗せてしまえば時速35kmを超えるような高速域までなら巡航性能も上々だ。何より、スーパーシックスシリーズ譲りの優れた走行性能をより安価な価格で手に入れられることこそがキャード13の魅力だ。また、アルミフレームを採用していてカーボンフレームより少々ラフに扱えるという点で、輪行や通勤ライドなどタフな使い方にも向くマルチさも持ち合わせる。1台でいろいろ楽しみたい人にはおすすめだ。