うまく・速くなる ロードバイクのブレーキング

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ロードバイクに乗るうえで、重要なのに軽視されがちなブレーキングのテクニック。しかし、しっかりとブレーキングができなければ、速く走ることは到底不可能だ。ロードバイクに必要不可欠なブレーキングの基本的技術について特集しよう。

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速く走れることとブレーキング技術はセット

今回の指南役は、おなじみプロコーチで自身もプロ選手として活躍する小笠原崇裕さんだ。

UCIコーチ/プロサイクリストの小笠原崇裕さん。全日本MTB選手権アンダー23優勝、エクステラ8年連続優勝など、アスリートとしても輝かしい成績を持つ

「とかく体力を鍛えたり、ペダリング技術を磨いてより速く走れるようになろう、ということはよく言われますが、一方でブレーキング技術もかなり重要です。速く走るためには、きちんと止まる・スピードコントロールできなければなりません。というか、それができなければ速く走ってはいけないと思います」と小笠原さん。

なるほど。逆に言えば、ブレーキング技術を磨けば、より安全に・速く走れることにもつながるということだ。

基本その1 ブレーキレバーの引き方

最初に、基本中の基本として、ブレーキレバーの引き方について教えてもらおう。

ブラケットポジションのとき

ブラケットポジションでの引き方(2本指)

「まずは最も多く使う、ブラケットポジションのときの引き方からです。上の写真のように、人差し指と中指の2本指でレバーを引くのが基本です」。

ブラケットポジションでの引き方(3本指)

「握力が弱い人、手の小さい人は3本で引くのもOKです」。

ブラケットポジションでの小指と薬指の位置

「このとき気をつけてほしいのは、小指と薬指をしっかりとハンドルバーとブレーキブラケットとの間の内側に入れることです。これによって、手がブラケットから外れにくくなり、安全です」。

下ハンドルポジションのとき

下ハンドルポジションでの引き方(2本指)

「下ハンドルの場合も、人差し指と中指の2本でレバーを引くのが基本です」。

下ハンドルポジションでの引き方(1本指)

「きちんと制動力が確保できるなら、人差し指の1本で引くのもOKです」。

下ハンドルポジションでの引き方(3本指)

「例えば、下りで指が凍えて2本指では十分に握力を出せないなど、状況によっては3本で引いてもOKです。ただ、手がハンドルバーから外れやすいので、注意が必要です」。

下ハンドルでブレーキを掛けるときの注意点

「下ハンドルの場合も、ブラケットと同様にしっかりと小指と薬指をハンドルバーの内側に入れ、握っておくことが重要です。これによって、振動や段差で手がハンドルバーから離れてしまいにくくなります」。

上ハンドルポジションのとき

いわゆる“上ハン”のポジション

ハンドルバーのフラット部分、いわゆる“上ハン”“上ハンドル”を持つときは、そもそもブレーキがない(補助ブレーキがついているバイクもあるが)のだが、その場合はどうしたらいいのか?

「ブレーキがついていないので、ブレーキをかけるときは持ち替える必要がありますよね。ですから、見通しが良くて、人や車が飛び出してくる可能性の低い状況でだけ上ハンドルを使うようにしてください。

そうでない場所では、ブラケットか下ハンドルを持つようにしましょう」。

ブレーキは右が前で左が後ろ?

そもそもブレーキは右手側レバーと左手側レバーのどちらが前で後ろだっけ? という人もいるだろう。日本でロードバイクを完成車販売で購入した場合は、多くのバイクが右手側レバー=前ブレーキ、左手側レバー=後ろブレーキのセッティングになっている。国や地域によっては右手側レバー=後ろブレーキ、左手側レバー=前ブレーキだ(世界的に見るとこちらの方が主流と言われている)。日本のライダーでも、好んで右手側レバー=後ろブレーキ、左手側レバー=前ブレーキにする人もいる。

基本その2 ブレーキレバーを引く前後の比率

次に、前ブレーキと後ろブレーキをそれぞれどのくらいの力の比率でかけるべきか、という基本についてだ。

「基本は

前:後=5:5

です。速度を上げた状態から速く・短い距離で止まったり、下り坂の場合は

前:後=6:4

になったり、より速度が速い場合は

前:後=7:3

になります」。

前後でかけるバランスが大きく崩れるとどんなことが起こるのか?

「まず、後ろブレーキを強くかけすぎると、後輪がロックし、タイヤが滑ります。それで落車してしまう原因にもなります。多くの人は、後ろブレーキを強く引いてしまいがちです」。

後輪がロックした状態

「逆に、前ブレーキを強く掛けすぎると、ジャックナイフと言われる、後輪が浮き上がる状態になり、最悪前転してしまいます」。

ジャックナイフ状態

実践その1 ブレーキングして止まる

では、ここからは実践編だ。ロードバイク走行中のブレーキングでポイントとなるのは?

「2つあります。1つは“止まる”ということです。もう一つは“スピードコントロール”です」。

では、まずは“止まる”について教えてもらう。

「ブレーキングして止まるというのは、止まりたいポイントまででスピードをゼロに落とし、安全に足を着くまでが含まれます。

その際に大切なのは、一定で・なめらかにスピードを落としていくことです。止まるまでにギュッとブレーキを引いてしまったりして、カクカクとした動きでスピードを落としてくと、バイクが不安定になってしまいます。

スピードが出ていようが、勾配の急な下りであろうが、止まりたいポイントまでで一定で・なめらかにスピードを落とし、止まれるようにすることが大切です」。

止まるときのポイントその1

止まるときのポイントその2

止まるときのだめな例

「なお、初心者なら、ブレーキをかける前にあらかじめクリートを外しておくか、またはブレーキング中にクリートを外しておけば、立ちごけ防止になります。ただし注意点として、クリートが外れているとブレーキング中に踏ん張ることができずにペダルから足を滑らせるおそれがあるので、(後半で紹介する)急ブレーキをかけるときはクリートを外さないようにしてください。とはいえ、 急ブレーキの場合はクリートを途中で外す余裕はないので、止まる直前にクリートを外す練習も必要になります(「これでもう立ちごけしない! クリートの外し方」の記事も参照)」。

ブレーキを引いて止まり、安全に足を着く。誰でも簡単にできそうに思えるが、一定・なめらかにスピードを落としていくというと、結構できていない人が多いように思える。ブレーキングして止まるまでにぎこちなく、フラフラとした挙動になっているロードバイク乗りはしょっちゅう見かける。

「これができるようにするための練習法があります。はじめはゆっくりとしたスピードでいいので、区間を決めて目標とするポイントまでブレーキを掛け、一定・なめらかににスピードを落とし、最後にそのポイントでスピードをゼロにして足を安定して着く、という流れを繰り返す練習です」。

ブレーキングして止まる練習法

「慣れてきたら、止まるまでの距離を短くしたり、スピードを少しずつ上げた状態から止まるようにしていきましょう。

なお、この練習は交通量の少ない道路(または自転車の乗り入れが禁止でない、公道ではない場所)で、周囲に車や人がまったくいないときに行い、安全には十分に気をつけましょう。また、できるだけ路面がきれいな舗装路で行ってください。砂利などが浮いていると、スリップする可能性があります」。

実践その2 ブレーキングしてスピードコントロール

次のスピードコントロールについて。

「スピードコントロールとは、スピードをゼロにして止まるわけではなくて、スピードを落とすためのブレーキングです。例えば前方に車がいるから減速するとか、レースならば集団に合わせてスピードを落とす、といった状況で使います。

ここでポイントとなる技術は、“当て効き”状態からブレーキを引くことです。当て効きとは、ディスクブレーキならブレーキパッドがブレーキローターにわずかに触れた状態に、リムブレーキならブレーキシューがリムにわずかに触れた状態にしてスピードを微妙にコントロールすることを言います。そこから必要な分だけ少し強くブレーキを引くことで、スムーズに減速してスピードコントロールすることができます」。

“当て効き”によるスピードコントール

「皆さん、スピードコントロールするときにギュッと強くブレーキをかけてしまい、バイクが不安定になったり、レースで集団で走っているなら急減速で周囲に迷惑を掛けてしまったりと、そうした挙動をする人が多いので、しっかり当て効きブレーキングを習得してほしいと思います。

練習方法としては、

走りながら当て効き状態にする

少し強くブレーキをかける

また当て効き状態に戻す

→繰り返して、当て効き状態からブレーキをなめらかにかける感覚を磨く

ということを行ってみましょう」。

応用編 予期せぬ急ブレーキへの対応

最後に、考えたくはないが、ロードバイクで走っているとどうしても急ブレーキを予期せず掛けなければならない場面が出てくるが、そうしたときのポイントとは?

「急ブレーキをかけなくていいように安全に走ることが第一ですが、とはいえ、万が一ということがあります。そのとき、それに対処する技術を持っているかどうかで大きな事故になるかどうかの分かれ目となりますから、きちんと習得しておく必要があります。

そのためには、やはり練習が必要です。急ブレーキのポイントは2つです」。

急ブレーキを掛けるときのポイントその1

1つは、腰をしっかりと後ろに引き、重心を後ろに下げることです。サドルにお腹が乗るくらいまで重心を後ろに下げることが重要です。同時に、記事の最初にも説明しましたが、前ブレーキを引く割合を6割〜7割に上げてください。

急ブレーキでは前ブレーキの割合が上がるので、その分重心が前に行かないようにするために、腰をしっかりと引くのです。また、後輪のグリップを失いやすいので、そのグリップを稼ぐためでもあります」。

急ブレーキをかけるときのポイントその2

「2つ目のポイントは、バイクをしっかり立てた状態にしてブレーキングすることです。バイクは傾けば傾くほど、ブレーキをかけたときにスリップしやすくなる性質があるためです」。

急ブレーキをかけるときは、下ハンドルを持った方が良いのか、それともブラケットを持った方がいいのか?

「下ハンドルを持ちながらブレーキレバーを引いた方が、強い制動力を得られます。しかし、とっさの急ブレーキでハンドルを持ち替えている暇はないので、ブラケットでも下ハンドルでも、どちらでも急ブレーキがかけられるように練習しておきましょう。

これも交通量のない安全な道路などで、繰り返し練習してください。目標は“考えなくても体が勝手に動くレベル”まで持っていくことです」。

さまざまなシチュエーションで練習し、“考えなくてもできる”ように

今回のレクチャーを受けて、「ブレーキングなんて誰でも簡単にできるのでは」という考えは吹き飛んだ。結構難しいし、内容は深い。

「ペダリングや体力を鍛えることと同じで、ブレーキングも練習が必要です。雨が降ったときや路面の状況で掛けるコツが少し変わってきたりもするので、さまざまなシチュエーションで練習してほしいと思います。繰り返しになりますが、“考えなくてもできる”くらいに、しっかりと身につけてほしいですね」。

皆さんも、安全には十分気をつけつつ、練習を繰り返し行ってみよう。