CYCLE SPORTS.jpが選ぶ 2020年10大ニュース・プロダクト編

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2020年に発表・発売された製品から1年を振り返る10大ニュース・プロダクト編。新型コロナウイルス感染症の拡大でレースやイベントの中止・延期が相次いだが、インドアサイクリングシーンの盛り上がりや、密になりにくい交通手段・アクティビティとしての自転車が見直されるきっかけとなった。今年話題となった製品を通して2020年を振り返る。

 

スマートトレーナーが続々登場。低価格化、ソフトウエアコンテンツの充実が進む

2020年10大ニュース・プロダクト編

ワフー・キッカー

2020年は新型コロナウイルスに翻弄された1年だった。世界的にレースやサイクリングイベントの中止や延期が相次いだだけでなく、海外ではロックダウンによって外出が厳しく制限された国もあり、屋外でサイクリングを楽しむことさえままならないケースもあった。これを受け、ズイフトなどオンラインサイクリングサービスを活用したインドアサイクリングの人気が高まり、スマートトレーナーをはじめとする関連商品が一時品薄になるほどだった。

オンラインサイクリングサービスのズイフトでは、8月に一部コースで提供されていたステアリング機能を全コースに拡大。エリートが秋に発売したステアリング機能付きのライザーブロック、ステルツォ・スマートによるステアリング操作が可能になり、コーナーでのライン取りやドラフティングやスプリントの際の進路取りなどの実走さながらのテクニックが駆使できるようになった。

また、スマートトレーナーもラインナップが充実。各ブランドから10万円前後のスマートトレーナーも登場するなど、よりスマートトレーナーが身近なものになった。一方、ワフーからは勾配変化に対応して本体が傾くスマートインドアバイク・キッカーバイクも発売され、インドアトレーニングのハードウェアの選択肢も増えた。

実走感の向上もキーワードのひとつだ。ワフーのダイレクトドライブ式トレーナー「キッカー」は、脚部の接地面にアクシスフィートという新しいパーツを備えてバイクを最大左右に5度振れるようにアップデートした。サリスはトレーナーとバイクを設置する専用台・MP1モーションプラットフォームを発売し、ライド時やダンシング時にバイクが前後左右に自然に揺れることで屋外でのライディングに近い感覚を再現した。

 

ロード軽量オールラウンダーがエアロ性能を強化。エアロロードが軽くなってボーダーレスに

エモンダ2021

トレック・エモンダSLR

長年、「ロードバイクは軽さが正義」と考えられてきた。それゆえ、レース向けのロードバイクと言えば長年軽さを武器にしたモデルが多かったが、10年ほど前から空力性能の高さを売りにしたエアロロードという新勢力が台頭し始めた。「軽量レーシングロードは軽いが空力性能ではエアロロードに劣り、エアロロードは空力性能は高いが重い」という相互を補完するような関係性で、プロ選手もレースによって使い分けることが多かった。

しかし、その状況が変わり始めている。軽量オールラウンダーがエアロの要素を取り入れて空力性能を高める一方、エアロロードも軽量化を進め、両者のボーダーがこれまでほど明確ではなくなってきている。

それを象徴する動きは各ブランドで見られる。スペシャライズドは2021年モデルとして軽量レーシングロード「ターマックSL7」を発表。軽量オールラウンダーにエアロの要素を取り入れ、優れた空力性能を実現した。一方、エアロロードのヴェンジは、ターマックSL7の登場で廃番になってしまった。トレックも2021年モデルで軽量オールラウンダーのエモンダシリーズを一新し、高い登坂性能に空力性能の高さを融合した“クライミングエアロ”という概念を打ち出したのは記憶に新しい。

他にもエアアロロードが軽量化された例としてトレック・マドンフェルト・ARメリダ・リアクトキャニオン・エアロードなど、エアロ化が進められた軽量ロードとしてジャイアント・TCRBMC・チームマシーンなどがある。

ロードバイクは軽さも空力も正義。それをいかに高い次元で融合するかが今後のトレンドになるのは間違いない。

 

ロードバイクでありながらグラベルもカバーする、車でいうSUV的なバイクの登場

2020年10大ニュース・プロダクト編

サーヴェロ・カレドニア5

自転車の楽しみ方の多様化を受けてロードバイクの多様化が進み、「ロードバイク=レース用の自転車」という図式は必ずしも成り立たなくなってきている。長距離を快適に走れるエンデュランスロード、未舗装路に対応するグラベルロードはすでに市民権を得ている。一方で製品開発の最新技術を活用や、素材や製造技術の進化に伴い、ロードバイクの価格は高騰しており、完成車価格100万円を超えるような完成車も珍しくなくなった。用途に応じて複数台所有するにはかなりハードルが高くなっているのが実情だ。

1台でさまざまな楽しみ方ができるバイクがほしい――という市井のサイクリストの声に応えるかのように、2021年モデルではエンデュランスロードとグラベルロードのハイブリッドのような、クルマでいうSUV的なバイクが勢力を拡大してきた。中でもサーヴェロの2021年モデル・カレドニアは、クラシックレースを走れるようなジオメトリーとグラベルロード並みの拡張性を兼ね備え、1台でロングライドやグラベルライドはもちろん、レースさえも楽しめるバイクとして開発された。

自転車の楽しみ方はひとつではない。1台のロードバイクでさまざまな楽しみ方ができるのは、ホビーライダーにとっては歓迎すべき傾向と言えるだろう。

 

エートスに象徴される「レース系じゃないハイエンド」という新機軸

2020年10大ニュース・プロダクト編

スペシャライズド・Sワークスエートス

ロードバイクの多様化は、「ハイエンドモデル=レースバイク」という図式も崩そうとしている。スペシャライズドが2021年モデルとして発表したエートスは、まさにその象徴だ。

 

 

 



レースバイクはUCI(国際自転車競技連盟)の定める重量などの条件を満たす必要があるが、エートスはそれすらゼロベースに戻して開発。ハイエンドのSワークスエートスは、ディスクブレーキ仕様ながら完成車重量5kg台という圧倒的な軽さを手に入れた。しかも、ただ軽いだけではなく、下りやコーナーも普通に走れ、太めのタイヤを履かせてちょっとしたダートを走ることさえできるという。フレームはUCIの認証を受けているので、重量制限などの条件を満たせばレースに出ることもできるし、ホビーレースのヒルクライム向けの超軽量バイクを作ることも可能だ。

 

 

 

 

ピュアレーサーではない幅広い楽しみ方を許容する「レース系じゃないハイエンド」は、自転車の楽しみ方の多様化を受けて今後ますます盛り上がることが予想される。

 

フルサスMTBタイプのeバイクが続々登場

2020年10大ニュース・プロダクト編

ヤマハ・YPJ-MTプロ

2020年は日本でもeバイクのマーケットがさらに拡大。中でも太めのタイヤとマッシブなフレームの存在感でアシストユニットやバッテリーが目立ちにくいeマウンテンバイクは人気車種のひとつだ。マウンテンバイクは、日本の法規制でアシストが働く時速24km以下の速度域で走る場面が多いため、eバイクの魅力を存分に味わえることも人気を後押しする理由のひとつと言えるだろう。

eマウンテンバイクでは前後にサスペンションを搭載するフルサスタイプが充実してきた。国産初のフルサスeマウンテンバイク、パナソニック・XM-D2やその改良版のXM-D2 V、トレックのレイルスペシャライズドのターボリーヴォSLミヤタのリッジランナー8080スコットのジーニアスeライド2など、さまざまなブランドがフルサスeマウンテンバイクをラインナップしている。上りはアシストユニットのサポートで力強く走れ、下りは前後のサスペンションの恩恵で走りやすくしてくれるフルサスeマウンテンバイクは、トレイルライドの楽しみを多くの人に伝える魅力的な選択肢としてこれからもますます充実するだろう。

 

ロードバイクタイプのeバイクも進化

2020年10大ニュース・プロダクト編

ジャイアント・ロードEプラス

欧米でeバイクを展開する多くのブランドが、日本の法規制に合わせたアシストユニットを搭載するeバイクを次々と市場に投入した2020年。ロードバイクではアメリカの大手ブランド・スペシャライズドがSワークスターボクレオSLを、ジャイアントはロードEプラスを日本のマーケットに投入。国内のレーシングEロードバイクの先駆けとして話題になった。

Sワークス ターボ クレオSLは、同社の最上級レーシングロード・ターマックSL7にも使われるファクト11rカーボンを採用し、ロバールのカーボンホイールを組み合わせることで完成車重量12.2kgを実現。同社のピュアレーシングモデルに与えられるSワークスの名を冠しており、アシストなしでもロードバイクらしい軽快な走りが楽しめるのが特徴だ。

すでに海外では多くのブランドがeロードバイクを手がけ、ジロ・デ・イタリアと併催される形でeバイクのためのステージレース・ジロEが開催されている。国内でも今後、各ブランドがeロードバイクを市場に投入するのは間違いなく、eバイクのレースも当たり前になる日が来るだろう。

 

 

ロード用フックレスリムが勢力を拡大

2020年10大ニュース・プロダクト編

ジップ・303ファイアクレスト チューブレスディスク

ロードバイクでもチューブレスやチューブレスレディのホイールやタイヤが増えているが、その多くはビードをリムのビードフックに引っかけるタイプだ。しかし、自動車やモーターサイクルのタイヤはチューブレスであるのはもちろん、フックがないフックレスを採用しており、マウンテンバイクでは少しずつフックレス仕様のホイールとタイヤが増えつつある。ロードバイクの場合、タイヤの空気圧が高いためフックレス仕様がなかなか実現しなかったが、昨年、ジャイアント傘下のパーツブランド・カデックスがロードバイク用としては初のフックレスホイールとタイヤを発売し、その後ジップエンヴィもロード用フックレス市場に参入。タイヤとホイールのラインナップも充実し始めた。

カデックスによると、フックレス式はリムの形状がシンプルになることでリムの内幅が広くでき、耐久性やハンドリングの向上が実現できるほか、タイヤ装着時にリムとタイヤとの段差ができにくくなり、空力面でも有利だという。現在はまだ使用できるタイヤに制約もあるが、今後タイヤメーカーやホイールメーカーがこの規格に追従すれば、ロード用チューブレスでもフックレスが主流になるかもしれない。

 

ETRTO(エトルト)規格更新により太幅リムが標準に

2020年10大ニュース・プロダクト編

ヴィットリア・ザフィーロプロファイブ

2020年1月、タイヤとリムの規格を定めるETRTO(エトルト・European Tire and Rim Technical Organization)は、リム幅とタイヤ幅の基準を現在の実情に合わせるべく、規格の更新を行った。主に最近スタンダードになったリム幅の広いワイドリムに対応するのが狙いだ。

現在主流の700×25Cのタイヤを例にとると、これまでのエトルト規格では内幅が15mmのリムに装着した際に25mm幅となるようにタイヤが設計されていたが、新エトルト規格では内幅が19mmのリムに装着したときに25mm幅になるように設計される。28mm幅のタイヤも同様に内幅19mm幅のリムに装着したときに28mm幅になるように設計される。

このため、内幅が19mmより小さなリムに新エトルト規格対応の25mm幅や28mm幅のタイヤを装着すると、タイヤの表示サイズより実測サイズが細くなるため、本来の性能が発揮できないことも考えられる。今後新エトルト対応のタイヤが増えることが予想されるため、古いホイールと組み合わせる際は注意しよう。

 

カンパニョーロがエカルで土の上に帰ってきた

2020年10大ニュース・プロダクト編

カンパニョーロといえば、シマノやスラムとともにコンポーネントの3大ブランドのひとつに挙げられるイタリアの老舗。ロードバイクコンポーネントのイメージが強いが、過去にはマウンテンバイク用のコンポーネントをラインナップしていたこともある。そんなカンパニョーロが、グラベルロード用コンポーネント「エカル」をひっさげてオフロードに帰ってきた。

エカルの最大の特徴は、グラベルロードとして世界最軽量(グループセット重量2385g(カタログ値))を実現し、フロントシングル、リア13スピードを採用していることだろう。リア13スピード化のために専用のフリーボディを設計し、チェーンも13スピードの専用品とした。

一方でブレーキと変速を司るエルゴパワーは、1つのレバーで1つの操作を行う1レバー1アクションという基本設計はロードと同じ。荒れた路面でも操作ミスを起こしにくいのは魅力だ。

グラベルシーンにカンパニョーロが参戦したことで、ユーザーにとってはグラベルロードを組む際にコンポーネントの選択肢が増えたことになる。また、13スピードもローターが実現しているのみで、グラベルロード用コンポーネントとしては“ビッグスリー”の中で一歩抜け出した形になる。グラベルロード用コンポーネントも戦国時代に突入か!?

 

リムブレーキ用ハイエンドロードホイールは減った。でもゼロにはなっていない

 

2020年10大ニュース・プロダクト編

マヴィック・コスミックアルティメイトT

ロードバイクでもディスクブレーキ搭載モデルが主流になりつつある。今やメジャーブランドの多くは軽量オールラウンドロードさえディスクブレーキ仕様のみという状況だ。これを受けて、ロードバイクの完組ホイールもディスクブレーキ仕様が中心になりつつある。特にハイエンドモデルでその傾向が顕著で、リムブレーキ用のハイエンドホイールは絶滅危惧種になりつつある。

とはいえ、まだ絶滅したわけではない。“究極の回転体”と賞されるライトウェイトの最軽量モデル、マイレンシュタイン・オーバーマイヤーは未だにリムブレーキのみのラインナップだし、マヴィックやDTスイス、シマノといったメジャーブランドもリムブレーキ仕様のハイエンドホイールを現在もラインナップしている。なかでもマヴィックはUSTチューブレスに対応するホイールをラインナップ。DTスイスは全モデルがチューブレスレディに対応している。新興ブランドのボルテックスでもカーボンスポーク採用のチューブレス対応クリンチャーホイールがラインナップされるなど、選択肢もまだ少なくない。リムブレーキ用のハイエンドロードホイールを手に入れるなら、最大のチャンスはまさに今だ。