今村がアワーレコード日本初挑戦 52.468kmという記録で快走

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今村駿介
11月23日、静岡県・伊豆ベロドロームにて今村駿介による日本初のアワーレコード挑戦が行われた。結果は52.468km。日本初の挑戦となるため、今村はもちろん日本記録を樹立したこととなる。さらに、UCIの世界記録として認定されれば世界5位(UCIの公式記録による)の記録となる。
 
今村駿介
 
 

日本初のアワーレコード挑戦

11月19日、突如として日本自転車競技連盟から発表された日本初のアワーレコード挑戦の知らせ。三連休の最終日、11月23日(月・祝)に伊豆ベロドロームにてそれは行われた。走者は、チームブリヂストンサイクリングの今村駿介だ。
 
アワーレコードはこれまでさまざまな海外選手が挑戦していることで名前を知る人は多いかもしれない。単純に言えば、トラック競技場で1時間にどれだけ走れるかという記録に挑戦するものだ。
 
直近では、アレックス・ドーセットが今年の11月12日にアワーレコードに挑戦すると表明していたが、コロナウイルス陽性により延期となってしまった。ちなみに2015年5月2日にドーセットは52.937kmという世界記録を出したが、たった1か月後にブラッドリー・ウィギンスが54.526kmという記録で上塗りされている。その後も立て続けに挑戦者が現れ、現在の世界記録は、2019年4月16日に行われたヴィクトール・カンペナールツの55.089kmとなっている。
 
今村駿介

クレイグ・グリフィンコーチとスタート前最後の言葉を交わす

今村駿介

スタート前、リラックスして息を整える今村

 
出走前、今村がアワーレコードに挑戦するきっかけについて尋ねると、「アレックス・ドーセットの代わりにやってやろうかと」と笑いつつ、続ける。
 
「いや、それは違うんですけど(笑)、学校の事情で(トラック)全日本選手権に出られなかったので、それの代わりに別の目標を作るっていう意味で、アワーレコードやる?みたいに(コーチから)連絡が来て。急に。日本でアワーレコードなんて聞いたことなかったので、間違いかなと思ったんですけど、興味あるっちゃあるって答えたら、よしじゃあ進めてくかとなって今日になりました」
 
大学での教育実習のためにトラック全日本は出られないと以前に話していた今村だったが、9月に入った頃からアワーレコード挑戦の話が浮上し、少しずつ準備を進めることになったそうだ。
 
しかし、準備といっても練習は1時間を走り切ることはなく、30分でのテストを2回やったのが最長だった。今村は走る前、目標を語った。
 
「まずは何kmとかじゃなくて、1時間終わったときにちょうど出し切っているように追い込めればと思います。今の力を知るっていう意味でも。目標は52km超えですね」
 

出し切る戦い

今村駿介

スタートを切る今村

今村駿介

応援に来た橋本英也

 
今村は、スタート数分前でも笑顔が見られるほどにはリラックスしつつもいい緊張感を保てているようだった。中距離ナショナルチームでともに活動するメンバーたちも応援に駆けつけていた。
 
問題なくスタートを切り、序盤のペースは抑え目で入った。それはクレイグ・グリフィンコーチとの事前打ち合わせどおりだったという。
 
「(1周の)ペースが17秒2~3で刻むっていうのをクレイグコーチと話していたんです。最初の30分はそのペースで余裕をもたせて走れれば、後半絶対もつと思っていたので、最初の30分はセーブ気味で走っていたんですけど、それでもやっぱり最初の30分の時点で体のいろんな箇所に不具合だったり疲労だったりが出てきて、あと30分あるんだって言い聞かせて走ってました」
 
今村駿介
今村駿介

グリフィンコーチがラップタイムをカウント

今村駿介
 
クレイグコーチからは、自身の体の状態と相談しながらペースを変えていいと言われていたが、途中からは麻痺するほどだったそうだ。30分経過時には26kmほど走っていた。走りながら意識し続けたのは、空力のいいフォームと走るラインだった。
 
「サドルの圧がすごくて、結構ポジションは変えたりしていたんですけど、頭だけは落としていました。CdAという空力の数値はだいぶ下がっていたので(0.17だそう※低いほどエアロ効果が高い)、空気抵抗のみを意識して走っていました。あとはスプリントレーンのブラックライン。外側を走れば多分距離が変わっていたので、少しでも意識して」
 
残りの30分は気持ち勝負だった。
 
「スプリントレーンの黒ラインだけを見てひたすら走ってたんですけど、クレイグコーチが設定ラップよりも早ければ(いる位置を)移動していってくれるって言う話だったので、(思ったより移動していたので)結構いけるなぁって。あとはきつかったんですけど、ペース配分考えながら。きついと思ったときは、今日これだけの皆さんが僕のために来てくださっているので、何がなんでも、自分の気持ちで負けてしまって悔しい姿をお見せするのは嫌だったので、最後までしっかりプッシュしている走りを見せたかった」
 
今村が言うように、ラスト目標の52kmを超えてからの猛プッシュは凄まじかった。
「最後の最後は追い込めるって自分でも分かっていたので、水分がだいぶ抜けているので攣る可能性もあって、どこから踏み始めようかと思っていたんですけど、最後スピードが上がりつつ終わった感じだったので、それでも1時間頑張れて良かったかなという感じです」
 
今村駿介
今村駿介
今村駿介

今村駿介

応援に来た近谷涼がフィニッシュ後の今村を労う

日本記録、そして世界5位の記録

記録は52.468kmだった。2015年2月8日に走ったローハン・デニスの記録が52.491kmと考えると素晴らしい結果のように思える。しかも、デニスの記録にはにわずかに届かないながら、公式記録として認定されれば世界5位の記録となるはずだ。
 
「まぁでも(デニスの記録も)5~6年前なので。今だったらもっと出るでしょうし、去年世界選手権の(ロード)TT走って、女子のクロエ・ダイガードにもだいぶ差をつけられて負けましたし、アンダーのTTでも3~4分くらい差をつけられたので、多分もっと世界の選手たちは速いと思うので。それにしても今日は頑張った方かなと思います。今の出し切れる力をちゃんと1時間出せたということと、大体これくらいっていうのが分かったのはすごく良かったと思います」
 
もう一度挑戦したい?という問いに対しては、少し黙った後、「引退するまでにはもう一回くらいにはいいかなと思います」と笑った。
 
今村の挑戦によって実績ができた。日本でも記録に挑戦する選手たちが続くことを楽しみにしたい。
 
今村駿介

関わったナショナルチームのメンバーと

 

今村駿介アワーレコード リザルト

記録:52.468㎞(250m×209周+last lap分)
日時:11月23日 10:30~11:30
場所:静岡県・伊豆ベロドローム(標高333m)
気温:24.2℃(10:30スタート時)
使用ギヤ:60-15T