Fumy’s eye 別府史之が見た世界 étape10

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別府史之が見た世界10

本場ヨーロッパで活躍するプロロードレーサー・別府史之選手の「今」を、本人の言葉で読者の皆さんにお伝えする連載の第10回目。今回は2020シーズンを終えての心境をお届けします(編集部)。

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Bonjour!
こんにちは、別府史之です。

10月14日のスヘルデプライスを最後に、僕の2020シーズンはひとまずオフに入りました。今はちょっとリラックスして、おいしいもの食べたりできる、そんな時間です。

レースのあとはチームカーに乗り合わせて、みんなとベルギー北部からフランスまで帰ったんですが、途中でマクドナルドに立ち寄ったんですよ。「せっかくのオフだからハンバーガーでも食べるか〜!」って。チームの栄養士にばれたら怒られるかもなんて、みんなひやひやしてたんですけど、「でもシーズン終わったら2週間だけは好きなもの食べていいって言ってたぞ」って誰かが思い出して。おかげで色々好きなもの食べました。もちろんポテトも!

これからしばらくは、今まで使えなかった時間を使って、今までできなかったことをするつもりです。家の中で今まで見ないようにしてきた場所の整理整頓とか(笑)。重い腰をあげてやらなきゃ。

もちろん軽く走りに行ったりもしますよ。激しい強度で目一杯トレーニングするのでなければ、オフだって自転車に乗っても全然問題ないんです。乗りたいときに楽しく乗りたいですね。

実を言うと、僕にとって、例年はオフはあってないようなもの。たいてい欧州でこの時期まで走って、その後に日本でジャパンカップとさいたまクリテリウムも走って。その1〜2週間後にはすぐに冬のキャンプに向けて動き始めて……という流れでしたから。だから今年は「すごく早くオフが来た!」という実感です。

ただシーズン終わっても、なにかが胸に引っかかっている、そんな感覚はあります。落車もなく、大きな病気もない1年でしたけど、無事に終えた、とは決して言えないシーズンでした。

秋に日本のファンのみなさんの前で走ることができない、っていうのもなにかすっきりしない理由のひとつかもしれません。出場レース数が少なくなってしまったことも残念でした。外出制限中もその後もいいトレーニングができていたし、パワーも出るし、しっかり走れている感覚がありましたからね。

 

パリ~ルーベへの想い

もちろんシーズン再開後にはステージレースに立て続けに出場しましたけど、僕は脚質的に見て総合上位に入れるタイプじゃない。本音を言えばもっとワンデーレースを走りたかった。だからスヘルデプライスはワンデーでしたし、自分の好きなタイプのコースでしたから、思い切り走りました。五輪に選考される可能性もほぼ残ってはいないと分かってはいましたけれど、やるだけやって後悔のないように終えたかったですしね。今の自分にできる限りの走りをしました。全力で走ってダメなら自分自身で納得できますから。コロナを言い訳にはしたくはなかった。好きなレースに好きなように出場できなかったとは言え、ポイントを獲れなかったのは自分のせいなんです。さすがにパリ〜ルーベの中止は気持ちが折れましたね。3月、ルーベに向けた試走をしている最中に、あらゆるレースがばたばたと中止になって、外出や移動の制限が始まって、慌てて自宅に帰って。ルーベも中止になって。それでもカレンダー再編でシーズン最後にルーベが組み込まれた。シーズンの最後に大きな目標があるというのは、すごくモチベーションになったし、ずっと気持ちが高ぶっていたんですよ。でも10月25日に開催予定だったルーベが改めて中止に追い込まれた。ニュースを聞いた時に「あ、僕のシーズンは終わった」と落ち込んじゃいました。

別府史之が見た世界10

だって9月末に改めてチームで試走に行ったんです。タイヤの空気圧からマテリアルまですごく細かく準備しましたし、どんな走りをしようか頭の中で色々と考えてもいました。今までならエースのためにコース前半を全速力で駆け抜けて、石畳に入る頃にはもうぼろぼろで……という状態だったけど、今年は違う走り方ができたはずでしたからね。逃げに乗ってもいいし、逆に前半は静かに体力を温存して、石畳に入ったら思いっきり全開で走ることだってあり得た。目標のような、夢のようなものを、思い巡らせていたんです。

別府史之が見た世界10
別府史之が見た世界10

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そこからの中止のニュースだったので……どうしても気持ち的には落ちますよ。複雑でした。次の日も変わらず練習には行きましたが、なんだかぽっかりと胸に穴があいたような。

このつらくて過酷なシーズンを、ルーベを走って終えたかった。それほど自分の中でルーベに対する気持ちは大きかったんです。これは自転車レースに対する思いにも通じてます。実は五輪についてはシーズン再開後からそれほど頭にはなくて、むしろ自分の走りをしたいという想いの方が強かった。だってレースがない日々は「自分がどこに向かって走っているんだろう、なにが悲しくて練習を続けているんだろう」っていう暗い気分にもなったりして。だからレースを走れることは喜びだったんです。やっぱり僕はレースが好きなんだ、自転車選手というのはレースを走ってこそ生きるんだな……と。

 

いつもと違う、いつもより早いオフ

それにしても、オフになっても、妙な感じなんですよね。外出制限やシーズン中断で走らなかった時期を考えれば、まだまだ体力的には走れる状況ではあるんです。レース数だって例年と比べたらかなり少ないので、気持ち的には不完全燃焼です。でも……やっぱりこの時期になると、自然に体のスイッチが「オフ」に入ってしまうというか。気温が下がってきたせいですかね。それとも長年そういうサイクルでやってきたせいで、「10月半ばを過ぎたら休み」という感覚が染み込んでいるのかな。

その一方ではまだまだ気持ちが完全に緩まないんですよ。ほっと安堵のため息を付けるわけでもなく、やったーって浮かれるのでもなく。どこか気持ちが張った状態と言うか。コロナの影響で色々と気をつけて生活しなきゃならないのは変わりないですし、来年に向けて色々としなきゃならないこともたくさんありますから。

それでも、1週間から10日間くらいは、できるかぎり肩の力を抜いてゆっくり過ごすつもりです。この状況ですからさすがに外国にバカンスに出かける気にはならないですけど、それでもフランス国内の友達には久しぶりに会いに行きたいですね。あとは美味しいものを食べたり。幸いにも自宅の近所は感染も少ないので、しっかり気をつければレストランにも行くことができます。かなり気が早いけどクリスマスの準備も始めちゃおうかな。

別府史之が見た世界10

昨日(10月15日)、教会に行ってきたんです。シーズンオフになって、自分自身を見つめ直す機会が持ちたかった。この1年間を思い返し、考える時間が必要だったんです。お寺や神社とはまた違いますけど、ああいう神聖な場所というのは、自分自身と語り合うのにふさわしい場所ですからね。20分くらい過ごしたのかな。おかげで自分の内側と深く向き合って、今後どうしていきたいのか、どうしていくべきなのか、そんな気持ちを整理することができました。

別府史之が見た世界10
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まだ来年の状況はクリアにはなっていません。それでも前を見て、頑張っていきます。

それでは、また。

別府史之

 
 
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(宮本あさか)