ロードバイクの下り基本テクニック

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ロードバイクでヒルクライムを楽しんだ後は、多くの場合長い下りが待っている。それは、時としてつづら折りのこともある。長い下り坂を安全かつ確実に走れるかどうかは、ロードバイク乗りに求められる必須テクニックと言える。ところが、「怖い」「どうしてもうまく走れない」という苦手意識を持っている人も多いのではないだろうか。そこで、ロードバイクで長く曲がりくねった下り坂を安全に確実に、そして結果として速く走るための基本的なテクニックについて特集しよう。

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4つのポイントを守ろう

今回もアドバイザーとして、UCIコーチで自身もプロサイクリストである、信頼の小笠原 崇裕さんに教えてもらう。

UCIコーチ/プロサイクリスト:小笠原 崇裕さん

UCIコーチ/プロサイクリストの小笠原 崇裕さん

長く曲がりくねった下り坂を、安全かつ確実に走るためのポイントはあるのだろうか?

「次の4つのポイントに気をつけることが大切です。

POINT① ライン取り
POINT② 目線
POINT③ スピードコントロール(ブレーキング)
POINT④ 重心位置

これらをしっかりと守っていれば、危なげなく下れるはずです」と小笠原さん。

それでは、それぞれのポイントについて詳しく見ていこう。

POINT① ライン取り

ロードバイクの下り坂におけるライン取りとは? 平地を走るときと何か違いはあるのだろうか?

「基本は平地と同じで、道路の左側をキープして走り続けることが大切です。下の写真くらいの位置を走るとスムーズに走れます」。

下りのライン取り

常に道路の左側をキープしよう

レースなどではよくアウト・イン・アウト、つまりコーナリングするときはアウト側から入ってイン側を通り、そのあとまたアウト側へ出ていくといいなどと言われるが、それはやった方がいいのだろうか?

「絶対にだめです! それはクローズドされたレースでの話で、一般公道では道路交通法を厳守して走らなければいけません。対向車線から車が来るかもしれないし、そんな走りをしていたら周りの交通の妨げにもなり危険です。プロ選手でもふだんの練習でそんなことはやっていません」。

当たり前だが、下りだからといって特別なライン取りをするのではなく、道路の左側走行と交通ルールをしっかり守ることが大切ということだ。

「ただし、対向車線からはみ出してくる車などを恐れるあまり道路の端に寄りすぎてしまうと、今度は草や砂利、木々の破片などでタイヤを取られたりし落車やパンクのリスクを高めてしまいます。あまりに端に寄り過ぎないようにも注意してください」。

道路の端に寄りすぎないこと

道路の端に寄りすぎないこと

コーナリングの最中も同じラインを守るべきなのか?

「もちろんです。道路の端に寄りすぎないけど、きちんと道路の左寄りをキープし続ける位置を守りましょう。下の写真のように、道路の左端から適切な間隔を保って走り続ける意識を持つといいと思います」。

コーナリング中のライン取り

コーナリング中でもライン取りの方法は同じに

POINT② 目線

下りに目線が大切なのだろうか?

「そうです。これはPOINT①のライン取りと密接に関わっていて、適切なライン取りをするために重要なことです。

大切なのは、“自分の進みたい方向を見る”ことです。

ありがちなのは、怖がって近い所や下ばかり見てしまうことです。そうするとラインの乱れにつながってしまい、路面状況の判断やコーナーで対向車線からはみだしてきた車などへの対処がワンテンポ遅れる原因ともなります。コーナリングの場合は速度を見誤って曲がりきれなくなり、“アンダーステア”が出てしまう原因にもなります。

常に自分の進みたい方向を、つまり遠く先の先を見るように心がけましょう。コーナーの場合は、そのような目線によって見えない道の先を予想していくことも必要となります」。

目線の置き方

目線の置き方

POINT③ スピードコントロール(ブレーキング)

スピードコントロールとは?

「ブレーキングとも言いかえられます。下りのスピードコントロールで大切なのは、コーナーに入る前にしっかりとブレーキングして曲がれるだけの速度まで減速し、コーナリング中は“当て効き”にとどめ、強いブレーキを掛けないようにすることです。“当て効き”とは、軽くスピード調節する程度に軽めにブレーキングすることを言います」。

コーナーに入る前にブレーキング

コーナーにおけるブレーキングの流れその1 ※右コーナーを例に

コーナー直前で曲がり切れるだけの速度に

コーナーにおけるブレーキングの流れその2

コーナリング中は“当て効き”

コーナリングにおけるブレーキングの流れその3

素人的な考えだが、コーナーを曲がっているときに強くブレーキを掛けた方がいいような気がするが?

「それはまさに間違いです。専門的な言葉で言うと、“摩擦円”という考え方を理解する必要があります。

自転車は、車体がまっすぐの状態だとブレーキを強く掛けることができます。この状態なら、もし強くブレーキを掛けすぎてホイールがロックしても、縦に滑っていくだけで立て直しもしやすいです。

一方、自転車はコーナリング中など車体を傾けた状態になるほど、ブレーキを強く掛けるとグリップを失いやすくなる性質があります。

ですから、きちんとコーナーに入る前の車体がまっすぐな状態でブレーキングを行い、車体の傾くコーナリング中は強くブレーキを掛けないようにすることが大切なんです。それを守らないと、コーナリング中のスリップと落車の原因となってしまいます」。

摩擦円の考え方

この考え方をしっかりと覚えよう

ここで素朴な疑問があるのだが、見通しの良い直線のストレートではどんどん速度が上がってしまうが、そういうときはずっとブレーキを掛け続けた方がいいのだろうか?

「直線で見通しが良い下り坂の場合は、制限速度を超えない範囲で、たまにブレーキから指を離してあげることが大切です(本当に離すという意味ではなくて、ブレーキングをしないということ)。

速度が上がって怖いからといってずっとブレーキを掛けっぱなしにすると、指や腕にストレスが掛かって疲れてしまい、いざしっかりとブレーキを掛けないといけないときに掛けられなくなってしまう可能性があります。それこそ最も避けるべきことです。

また、ずっとブレーキを掛けっぱなしにすると、ブレーキが熱を持って機材へダメージを与えてしまう危険性もあります。最悪それによってブレーキが効かなくなってしまうことも」。

下りでブレーキを掛け続けるのは避ける

ずっと下りでブレーキを掛け続けるのは避けよう

なるほど。もちろん速度を出しすぎてもいけないが、怖さでずっとブレーキを掛けっぱなしにすると、むしろ危険な場合もありうるということだ。

POINT④ 重心位置

最後のポイントについて。下りでの重心位置というとピンとこないのだが、どういうことなのだろうか?

「“バイクの中心に自分の体の重たい所を持ってくる”ことです。自転車の中心となる部分の上に、胴体など体の重たい部分、つまり重心が来るようにするということですね。ここから前にずれたり後ろにずれてしまうと、バイクの挙動が安定しなくなります。

例えばバイクの中心から後ろに重心位置がずれた状態としては、下の写真のように怖さのあまり腰が後ろに引けてしまっている状態が挙げられます」。

重心位置がバイクの中心から後ろにずれている例

重心位置がバイクの中心から後ろにずれている例

「重心位置がバイクの中心から前にずれた例としては、下の写真のように怖さのあまりブレーキを握りしめてしまって、体が前につんのめったような状態が挙げられます」。

重心位置が前にずれている例

バイクの中心から重心位置が前にずれている例

「そうではなくて、下の写真のように、バイクの中心に体の重心が来るようにしましょう」。

バイクの中心に体の重心位置を合わせることが大切

バイクの中心に体の重心位置を合わせることが大切

これはバイクを横から見た位置での重心位置だったが、バイクを正面から見た場合は?

「正面から見たときは、バイクの中心と体の中心がまっすぐに一致するようにすることが大切です。特にコーナリング中でバイクが傾いたとき、この軸がずれると挙動が不安定になりがちです。この、コーナリング中にバイクと体の軸をまっすぐにしておくことを、“リーンウィズ”と言います」。

リーンウィズ

リーンウィズ

外足荷重は?

小笠原さんの走りを見ていて疑問なのが、コーナリング中にバイクが傾いたときクランクが地面に対し水平になる位置にしていることが多い点だ。よく、コーナリングでバイクが傾いたときは、アウト側の足を下に降ろす“外足荷重”にしろなどど言われるが、そこはどう考えたらいいのか?

「外足荷重が効果的に使えるのは、相当にバイクを倒し込んだときです。そのときはバイクの安定に寄与するのですが、一般公道を一般のサイクリストが安全な速度域で走る場合は、まずそこまで倒し込むことはないと思います」。

外足荷重が効果的な状態

外足荷重が効果的な状態

「むしろ問題なのは、それほどバイクが傾いていないのに“外足荷重をしなければ”という思いにとらわれて無理にやってしまい、体とバイクの中心軸がずれてしまって挙動が不安定になることです。こういう人はよく見受けられます」。

無理な外足荷重の例

無理な外足荷重で挙動が安定しなくなる例

「バイクをそれほど傾けないなら、 コーナリング中はクランクを水平にすることによって重心位置が保たれ、バイクの挙動が安定しやすいと思います」。

クランク位置を水平に

クランク位置を水平にしたコーナリング

「コーナリング中は常に外足荷重!」 という意識にとらわれすぎないようにしたいところだ。

下ハンドルは?

重心位置に関してもう一つ疑問がある。小笠原さんの走りを見ていると、ブラケットを持っているときが多かった。下りでは下ハンドルを持ちましょうとよく言われるが、その点についてはどう考えたらいいのか?

「下ハンドルを持つことで、振動で手が滑り落ちてしまいにくくなったり、ブレーキレバーを軽い力で引きやすくなるといった利点はあります。

ただ、下ハンドルを持つと前傾姿勢がきつくなるので、その分視界が確保しづらくなったり、顔を上げ気味になって肩や首にストレスが掛かってしまうなどのデメリットもあります。初心者だと、そもそも下ハンドルを持って下る姿勢が取れない人もいるかもしれません」。

下ハンドルの性質

下りにおける下ハンドルの性質

「一方、ブラケットは下ハンドルよりもブレーキレバーを指で引きにくいというデメリットはありますが、上体が起きてリラックスできたり、視界がより大きく確保できるといったメリットも多いです。リラックスして下るというのはとても大切なポイントですよ」。

下りにおけるブラケットの性質

下りにおけるブラケットの性質

「あと、最近はディスクブレーキ仕様のロードバイクが普及してきて、ブラケットでも小さい力で強い制動力が得られますし、もちろんリムブレーキでも最近のものは引きが軽くて制動力が高いです。必ずしも下ハンドルでブレーキレバーを引かなくても、十分な制動力は得られるようになってきています。

なので、ブラケットでも下ハンドルでもどちらにもメリット・デメリットがあり、どっちがいい悪いということはない、ということがポイントです。“下りは絶対に下ハンドルを持たないといけない”という思いにとらわれて、無理に下ハンドルを持って挙動が不安定になるようなことが避けられればいいと私は思います」。

明快だ。何だか心のモヤモヤが解けた気分だ。

緊急回避の方法は?

ここまで4つの基本ポイントを教えてもらった。最後に疑問なのは、こうした基本項目を守っていてもどうしても生じてしまう“とっさの出来事”だ。例えば、ブラインドコーナーの先にいきなり大きな穴が空いていたり、木の枝が落ちていたり、側溝が現れたりする場面だ。どんなに気をつけていても起こるかもしれない、こうした緊急の場面の回避方法とは?

「最も大切なのは、絶対に対向車線に飛び出ないことです。もしとっさの出来事に対処できず、反対車線に飛び出るようなことになって向こうから車がやってきたら……。大惨事です。

何か路面に障害物などが急に現れたときの対処としては、まずは一旦バイクをまっすぐに立てた状態にして、その後ブレーキングで減速することが大切です。これは、POINT②で教わったのと同じ原理ですね。バイクが傾いた状態で強くブレーキを掛けるとグリップを失いやすくなるからです。

その後で、障害物を避けます。例えば、ブラインドコーナーを曲がっている最中に大きな木の枝が落ちていた場面であれば、下の写真の流れとなります」。

緊急回避の流れの一例 その1

緊急回避の流れの一例 その1:発見

緊急回避の一例の流れ その2

緊急回避の流れの一例 その2:バイクを立てて減速

緊急回避の流れの一例 その3

緊急回避の流れの一例 その3:障害物を避ける

下りの緊急回避の流れの一例 その4

緊急回避の流れの一例 その4:元のラインに復帰する

「避ける以外に、障害物の上に乗って越えていく方法もあります。とっさすぎて避けきれないとか、乗り越えてしまった方が安全・たやすいといった場合に使います。

直前でバイクを立てて極力減速するところまでは流れは同じで、そこから“抜重”して障害物を乗り越えます(「ロードバイクでパンクしない走り方」の記事を参照)」。

抜重で障害物を乗り越える方法

抜重で障害物を乗り越える方法もある

以上がロードバイクで下りを安全に・確実に走るためのポイントだ。さて、今回の取材で小笠原さんの走りを見ていて思ったことがある。小笠原さんはきちんと制限速度を守り、危なげなくそしてかなり安全マージンを持って余裕で走っているのが伝わってきたが、それでもものすごい速いのだ(我々一般サイクリストの速度域に比べて)。

そこで痛感したのが、安全に確実に下れるということは、結果として速く走れることにつながる、ということだ。

「そのとおりです。そして大切なのは、“絶対に自分のキャパシティを超えた走りをしないこと”でもあります。ぜひ次回のライドから実践してみて、安全で快適なライドを楽しんでほしいと思います」。