フランス本社取材で解き明かすホイール作りの神髄 マヴィックの真実(後編)
目次
先日公開した、サイクルスポーツ4月号にて掲載された『マヴィックの真実』のノーカット版、前編。今回はその後編として、製品作りの核となるデザインセンターの模様、プロダクトマネージャーへのインタビュー、そして最新モデル『キシリウムプロカーボンUST』と『キシリウムプロカーボンSL UST』の乗り比べを、ライターの安井行生がお届けする。
マヴィックホイールの性能と品質の核心 デザインセンター
耐久性、安全性、十分な強度、何千本作っても均一な品質。そのような条件をクリアして初めてホイールを商品として世に出せる。剛性だの空力だの軽さだのは、その後に出てくる話だ。マヴィックのデザインセンターでホイール作りの裏側を垣間見る。
「地味なこと」に全精力を捧げている人たち
工場をじっくり見学した翌日は、マヴィックのデザインセンターへ。南仏の古都、アヌシーの街の中に建つ近代的な建物。その内部には工作機械や試験機械、作りかけのプロトタイプ、試験によって破壊されたパーツたちなどが所せましと並んでいる。
ここでは、ホイールはもちろん、ウエア、シューズ、ヘルメット、タイヤなど、全てのマヴィック製品の開発やプロトタイプ製作が行われている。それだけでなく、各種テストや量産プロセスの構築もこの施設の担当だ。
設計がどれほど優れていても、量産できなければ意味がない。製品の品質にバラつきがあれば、我々は「優れた設計」の恩恵に与れない。シミュレートでいくら優秀な結果を出したとしても、危険な製品だったら命を預けることができない。
しかし新型ホイールのデビューで注目されるのは、重量、空力、剛性、斬新なスポークパターンやセラミックベアリング、どのチームが使ってどんな活躍をしたか、そんなことばかりだ。耐久性、安全性、強度、摩耗や劣化やヘタり、固体差、品質管理、納期……そんな地味なことには誰も注目しない。しかしここには、そんな「地味なこと」に全精力を捧げている人たちがいる。
※1 プリプレグ:カーボン繊維に樹脂を染み込ませてシート状にしたもの。
※2 ブラダー:カーボン部品を成形する際に使用する加圧用のエアバッグ。成型時に膨らんでプリプレグを金型に押し付け、余分な樹脂を絞り出す。
モノ作りの最大の障壁、「量産」
開発部で新型ホイールの設計が終わったとしても、ホイール作りの旅はやっと道半ばといったところだ。カーボン製品の試作を行うカーボンラボでは、開発部から図面を受け取り、設計通りにプリプレグをカットし、それを正確に貼り合わせ、金型で成形して実際にリムを作ってみる。もちろんハブなどの試作もこのデザインセンターで行われる。
続いて、それら(試作品)を使って生産プロセスの構築だ。全スポークのテンションをコンピュータ上で管理しながら実際に組み上げ、このホイールを目標通り量産するために必要な時間・設備・人員など、生産計画を立てる。ここで完成されたプロセスをそのまま工場でも実践する。よって、ここにある生産設備(プリプレグのカッティングマシン、治具、金型、加圧装置、切削措置など)と全く同じものが、生産を行う工場にも置いてある。細かいプリプレグをレイアップスケジュール通りに貼っていく積層作業は非常に複雑だが、新製品の製造を始めるときは必ず熟練の作業者が工場に赴き、徹底的に指導するのだという。
設計が終わってもホイール作りは終わらない
プロトタイプのホイールが組み上がったら、お次は試験だ。分厚い扉を開けると、いくつもの巨大な機械が轟音を立てている。テストラボである。
ウェット状態でブレーキをかけ続ける制動テスト、ハブの耐久テスト、ベアリングに水をかけながら高速回転させる耐久テスト、ホイールに左右から負荷をかけてダンシング時のホイールの状態を再現した強度テスト、悪路走行を想定した衝撃テスト、タイヤの転がり抵抗試験。タイヤの空気圧をどこまで高めれば破裂するか。破損後でもホイールの品質に変化はないか。回転するホイールのスポーク部に鉄の棒を突っ込むという、信じがたいテストも行っていた。そんなことをすればどんなホイールだって壊れるに決まっているが、そんな状態でもホイールがバラバラにならないか、カーボンリムが(ライダーにとって)危険な壊れ方をしないか、を見ているのだという。なにもそこまで……とも思ってしまうが、人に危害を加えにくい壊れ方まで考えているのだ。UCIでも似たようなテストはしているが、マヴィックはさらに厳しい基準でテストを行っているという。
もちろんこんな試験をクリアするのは簡単だ。重くすればいい。もしくはコストをかければいい。前後セット3kgのホイールでよければ、売価100万円でいいのであれば、手作業で現物合わせで一点モノでいいのであれば、これらのテストは即パスできる。しかしそれは許されない。十分に軽く、かつ適切な価格帯に収め、しかも安全で、そして年間何千本も同じ品質で生産できるようなモノでこれらの試験を全てパスしなければ、製品にはならない。モノづくりの世界はかくも深い。
まだ終わらない。これらの試験でマヴィックの基準をクリアしたら、ようやく世界中にいるテストライダーによる実走テストに入る。実世界で数千キロだか数万キロだかのテストを終えたホイールは、デザインセンターに送り返され、再度チェックされ、問題なしと判断されればようやく販売にゴーサインが出る。ホイール作りの旅もようやく終わり。あとは計画通り生産され、世界中にデリバリーされ、ライダーの自転車人生を支えるのだ。
ホイール設計の要点を技術者に一問一答 マヴィックホイールの理想と未来
マヴィック本社取材、最後は技術者インタビュー。PRマネージャーのミシェル・ルザネ氏に加え、プロダクトマネージャーのマキシム・ブレナン氏を迎え、ホイールに関する一問一答をお届けする。
ホイールはバランス命
安井:技術者の方にずっと聞いてみたかったんですが、ホイールの性能ってどこで決まるんですか?
マキシム:一言でどことは言えません。リム、ハブ、スポーク、それらの要素の組み合わせでホイールの完成度が決まります。いいリム・ハブ・スポークを使ってもスポークパターンがダメならいいホイールにはなりませんし、もちろん正しいテンションで組まなければ性能は出ません。
ミシェル:重要なのはコンビネーション。だから我々は94年に完組ホイールの販売を始めたんです。トータルで設計すれば全てを我々でコントロールできますから。
安井:では、なぜ現在もリムやハブの単体販売を続けているんでしょう?
マキシム:我々の完組ホイールでユーザーの要求の90%はカバーできていると考えています。しかし、残りの10%に、例えばかなり体重があるライダーや、タンデムに乗るライダーなど、特別な目的を持っているユーザーがいます。自分たちが考えている使用用途の外にいるユーザーに答えるために、我々はリムやハブの販売をしているんです。
ミシェル:ただし、通常の用途においては完組ホイールのほうが性能的には上です。手組が完組に勝てる可能性はほぼありません。マキシムが言ったように、手組にもメリットはありますが、性能的にはリミットがあります。
安井:ではその完組について。マヴィックのホイールからは「押し出すようなトルクフルな走り」を感じることが多いんですが、それには秘密があるんでしょうか?
マキシム:うーん……剛性と重量のバランスによって生み出されているものかもしれませんね。それは感覚の話なので定量化は難しいんです。ライドフィーリングやライドクオリティは、人によって評価が変わるところですし。
安井:では、ホイールを開発する際に、「走り」はどのように煮詰めているんですか?テストライドでライダーの意見が分かれたら、どのように判断するんでしょう?
マキシス:数年前に、見た目と重量と空力が全く同じで、剛性だけを変えたホイールを3種類作り、何人かのジャーナリストにテストしてもらったんです。それで「一番剛性が高いホイールと低いホイールは?」と聞いたところ、3分の1しか正解しませんでした。3分の1は全く逆の答えをし、残りの3分の1は「違いが分からなかった」と。
安井:それはまた何と言うか……。
マキシス:と言っても、そのジャーナリストの感想そのものを否定している訳では無いのです。ジャーナリストがそう感じたのは事実ですからね。その位感覚というのは人それぞれなのだという事なんです。但し、それでは開発の方向性としては定まらない。だからマヴィックは、設計に応じた正しい判断ができるテストライダーを選ぶようにしています。結局のところ、「走り」もバランスなんですけどね。鋭い加速を実現する外周部の軽さ、十分な剛性、空力、ベアリングとタイヤの抵抗……ホイールを一つの要素だけで語ることは難しいんです。
ミシェル:ホイールはバランスが命です。各要素は複雑に関連しあっているので、どこかの剛性が高いとどうなって低いとどうなる……とは安易に言えないんですね。一つの要素を変更すると他の要素に影響しますし。例えばスポークテンションを上げるとリムの強度が必要になり、強度を上げると重くなります。剛性だけで言えばRシスとアルチメイトは同じですが、走りは違いますよね。重さなどが違うからです。剛性だけ、重量だけ、空力だけで語ることはできません。
安井:その要素の一つであるベアリングですが、マヴィックはなぜセラミックベアリングを使わないんですか。
マキシム:我々の求めるスペックでセラミックベアリングを使おうとすると、500ユーロ以上の追加コストが必要になります。得られるメリットに対してコストがかかりすぎるんです。
ミシェル:自転車のホイールはF1のエンジンのように高回転で回りません。セラミックベアリングはトレンドではありますが、技術的にはそれほど重要ではありません。
マキシム:「セラミックベアリング採用!」と謳って商品を出すことは簡単ですが、それはユーザーにとってフェアじゃない。売り上げのためにユーザーを欺くことはできません。
安井:ではディスクブレーキについて。ディスクブレーキ用ロードホイールの設計の難しさは?
マキシム:制動時にペダリングパワーより大きなねじりがかかるので、スポーク数や組み方などを工夫してねじり剛性を上げるのが難しいポイントです。駆動方向と制動方向の力を考慮してスポークパターンや左右バランスを最適化しなければなりません。片側にローターが付きますし、ローターが高温になるのでハブの高温対策も必要になります。それらはホイールメーカーだけではなく、業界全体で考えていく必要がありますね。
安井:ディスクブレーキになることでリムが軽くなるというのは本当なんですか?リム剛性やタイヤの圧力への耐力を確保しようとすると、リムブレーキ用とさほど変わらないのではと思ってるんですが。
マキシム:ディスクブレーキもリムブレーキも、タイヤから加わる圧力などに対して強化しないといけないことに変わりはないので、大幅に軽くはなりません。実はリムブレーキのブレーキシューからの圧力は、リム重量にさほど影響しないんです。でも摩耗しなくなることは大きいですね。リムブレーキ用リムのように、摩耗することを見越してブレーキ面を多く積層する必要がなくなりますから。ディスクブレーキはリムの熱を考えなくてもいいので、そのぶん軽くすることもできます。結果的に、同じリム形状ならリムブレーキより20~30gは軽くできるでしょう。
安井:なるほど。決して無視できる数字ではないですね。
マキシム:でも、ディスク化するとハブやスポークを強化する必要があるので、そこで重量は増してしまいます。トータル重量では同じくらいになります。でも外周部が軽くなるので性能的には有利でしょう。また、ブレーキ面を考慮しなくてよいぶん形状が自由になり、空力に特化させることもできます。そこも大きなメリットですね。
目標はチューブラーの軽さ
安井:6年前にインタビューしたときは「デメリットが多いのでロードチューブレスには手を出さない」と言われてました。でも今はほとんどがチューブレス対応モデルになりましたね。なぜチューブレスへの参入が遅かったのか、そしてなぜ一気にチューブレスへ大転換したのか。
マキシム:大きな理由はリムがワイドになったからです。それによってタイヤ交換の際にビードを落とすスペースができ、タイヤの脱着が容易になりました。さらに我々は同時にタイヤも開発し、リムやタイヤの直径、リムの断面形状、ビードの剛性などを煮詰めて、安全性、脱着性、低抵抗を両立させました。それが転換の理由です。
ミシェル:確かに他社よりチューブレスを始める時期は遅かったんですが、我々としてはチューブレスのメリットである転がり抵抗だけに注目することはできなかったんです。大きなデメリットは脱着性でした。容易に脱着できないチューブレスタイヤで家から遠く離れた場所でパンクしたら?プロ選手のように手を挙げて「サポートカー!」というわけにはいきませんよね(笑) そんな状態では「チューブレス売ろう」とは言えませんでした。性能と脱着性と安全性のバランスを見つめ直し、それが達成できたため、現在はチューブレスに積極的になれたというわけです。ロードタイヤが太くなってきた結果、低圧になったこともポイントです。空気圧を下げるとビードの剛性を落とせます。それは脱着性の向上につながります。だからMTBでは昔からチューブレスをやっていたんです。リムはワイドだし空気圧は低いし。
安井:なるほど。ワイド化と低圧化という、チューブレスにとって有利な条件が揃ったと。じゃあもしまだナローリムが主流だったら……。
マキシム:マヴィックは今もチューブレスをやっていないでしょうね。
安井:後発にもかかわらず、マヴィックはロードUSTという規格を提案し、それが現在のロードタイヤマーケットに大きな影響を与えましたね。
マキシム:ロード用チューブレスは最初、基準がない状態でスタートしてしまったんです。その結果、外れにくくするためにリムメーカーはリムを大きめに作り、タイヤメーカーは小さめに作り……と脱着性が悪くなってしまいました。でも時代の流れからリムがワイドになり、かつ空気圧が低くなってきたため、我々が各ホイール・タイヤメーカーに「改めてロードチューブレスの基準を作りませんか」と提案し、みんな合意してくれたんです。
安井:で、現在ここまでロード用チューブレスが活況になっていると。現在マヴィックはタイヤを販売していますが、他メーカーのようにタイヤの種類は増やさないんですか?
ミシェル:我々はタイヤメーカーではありません。ロードUSTが多くのメーカーに受け入れられ、業界のスタンダードと言える状況になった今、タイヤに関しては我々の役目は終わったと思っています。マヴィックはタイヤメーカーになるつもりはありません。だからタイヤラインナップを増やすつもりはありませんし、ホイールメーカーとしての役割に集中するため、タイヤメーカーとしての役割は終わらせようと思っています。事実、MTBタイヤは2年前にもうやめています。
安井:そうなんですか。タイヤと言えば、最近すっかり忘れられてしまったチューブラーは、もう死んでしまったんでしょうか?
マキシム:チューブラーはプロレースをメインにまだ生きています。転がり抵抗ではチューブレスのほうが上ですが、軽さが求められる山岳ではホイールも含めてトータルで軽くできるチューブラーがまだ有利ですから。
安井:では最後の質問。ロード用ホイールはこれからどのように進化していくんでしょう?
マキシム:現在、我々は新しい可能性を探りながら軽量化に挑んでいます。ただし、軽くしたことで剛性や耐久性が下がっては意味がありません。性能を保ったまま重量をそぎ落とします。将来的にはチューブレスホイールをチューブラーホイールと同等の軽さにすることができるでしょう。
安井:それにはどれくらいかかりそうですか?
マキシム:10年……いや、もっと短いかな。5年くらいでしょうか。本当は3年くらいで達成したいですけどね。
安井:期待してます。ありがとうございました。
4つのパターンで〝SL〟と〝ノンSL〟を比較試乗 マヴィックホイール、ラインナップの意義を探る
マヴィックのモノ作りについてじっくり見たあとは、モノ自体について語ってみたい。マヴィックのカーボンホイールの特徴は、各モデルにSLとノンSLという2モデルを用意していること。比較試乗を通して、ホイール選びの難しさと楽しさを知る。
「高価=善」、「高剛性=速い」、「軽さ=絶対」、ユーザーがそんな分かりやすい価値観にとらわれている限り、日本のスポーツバイクマーケットは成熟しない、とはあるエンジニア氏の言葉だが、100%同意させていただきたい。そんなシンプルな度量衡で決められるほど自転車は単純ではない。
そういう意味では、マヴィックのカーボンホイールのラインナップは、機材選びの難しさと深さをよく表している。カーボンモデルの3本柱、キシリウムプロカーボン、コスミックプロカーボン、コメットプロカーボンのそれぞれに、「SL」と「ノンSL」という2タイプが用意されているからだ(もちろんそれぞれにリムブレーキ用とディスクブレーキ用がある)。
ざっくり説明すると、SLもノンSLもリムは全く同じ。ハブの形状とスポークの形状とスポークパターンを変更して、価格と味付けを変えているのだ。価格差はどのモデルでも約7万5000円とかなり大きい(SLのほうが高い)。そしてホイール重量はSLのほうがペアで100g前後軽い。
SLのほうが高くて軽い……どう考えてもSLのほうがいいような気がするが、実際にSLとノンSLを乗り比べると、そうとも言い切れなくなってくる。参考までに、いくつかの条件でSLとノンSLの比較試乗を行ったので、ここでまとめてみる。
比較試乗①コスミックプロカーボンSL UST vs コスミックプロカーボンUST(リムブレーキ用、バイクはメリダ・スクルトゥーラ)
●インプレッション
自分の体重・パワーではノンSLの方が3倍いいホイールに感じる。適度な剛性感によってペダリングしやすく、加速がラクになったような印象。扱いやすく、その結果疲れにくいという「ノンSLの上昇スパイラル」だ。筆者にとってSLは過剛性で、ペダリングの際にやや重ったるさを感じる。ただ、高負荷域に持っていくとSLのほうが動きが機敏になる。高速レースでガンガン踏むならSL、それ以外ならノンSL、という感じ。体重やパワーや負荷域で評価が大きく分かれるだろう。
●ホイール紹介
リムハイト40㎜の万能ホイール。リヤホイールのイソパルス組み(フリー側:ラジアル、反フリー側:クロス)になっているのがSL(写真右)の特徴。SLと同じリムを使いながらスポークパターンを変更し、リヤホイールをフリー側:クロス、反フリー側:ラジアルにしたモデルがノンSL(写真左)。両モデルともUSTに対応しており、専用チューブレスタイヤが付属する。
比較試乗②コスミックプロカーボンSL USTディスク vs コスミックプロカーボンUSTディスク(ディスクブレーキ用、バイクはキャニオン・アルチメイトCF SLX ディスク)
●インプレッション
リムブレーキ版はノンSLのほうが好印象だったが、ディスク版はSLのほうがよく走ると感じた。加速も登坂性もSLのほうが一段上手。特に挙動のシャッキリ感はノンSLよりかなり高い。ノンSLは平地ではなかなかの走りを見せてくれるが、軽快感が薄い。SLは平地系ホイールとして非常にいい完成度に達している。フレームとの相性も大きいと思われるが、価格差なりの性能差が感じられた。
●ホイール紹介
コスミックカーボンのディスクブレーキ版。リムブレーキ版はハイト40mmだが、これは45mmと5mm高くなっている。また、ディスク版のほうがリム外幅がやや広い。これはブレーキ面が必要なくなったことで形状の自由度が上がり、空力的に有利な形状にできたためだろう。リヤホイールはイソパルス組みとなる。同じリムを使い、スポーク形状とスポークパターンを変えたモデルがノンSL。リヤホイールが左右ともクロスとなり、当然ハブの形状も変えられている。また、ディスクブレーキ版はノンSLもフリーボディがインスタントドライブ360となる(リムブレーキモデルのノンSLはフリーボディがFTS-L)。
比較試乗③キシリウムプロカーボンSL USTディスク vs キシリウムプロカーボンUSTディスク(ディスクブレーキ用、バイクはキャニオン・アルチメイトCF SLX ディスク)
●インプレッション
見た目はほぼ一緒だが、走りはかなり違う。SLのほうが明らかに剛性感が硬質で、ガンガン進む。ただし筆者のような非力な人間ならノンSLのほうが踏みやすく疲れにくいと感じる。全体的にマイルドで快適で脚に優しいのがノンSLの美点。扱いやすく、フワッと軽やかで、ロングライドやグランフォンド的な使い方に向く。淡々と走るならノンSL、ガシガシ踏むならSLが合う。価格には大差があるが、予算で選ぶのではなく、使い方で選び分けるべき。
●ホイール紹介
ディスクブレーキ専用設計の32mmハイトリムを持つ軽量チューブレスモデル。リムの内幅はリムブレーキ版が19mmなのに対し、これは21mmで、主流の25Cよりさらに太い28Cタイヤに最適化。ブレーキ面が必要なくなることで空力も意識した形状になっている。SLはリヤホイールがイソパルス組みだが、ノンSLは両側クロスに。フリーボディは上位モデルのSLと同様のインスタントドライブ360を採用。また、SLはアルミニップルを使うが、このノンSLはスチールニップルとなる。
比較試乗④キシリウムプロカーボンSL USTディスク vs キシリウムプロカーボンUSTディスク(ディスクブレーキ用、バイクはタイム・アルプデュエズ21ディスク)
●インプレッション
どちらのモデルもトルクフルで快適性が高くよく走るが、SLのほうが挙動がシャッキリしており、初期加速や登坂で微差が出る。しかし差は小さい。むしろフレームとの相性によっては、ヒルクライムでノンSLのほうがよく走るという印象になるだろう。「乗りやすさ」「一体感」「脚への優しさ」という点でもノンSLのほうが優秀。体重が軽く、パワーがないなら、予算が潤沢にあってもノンSLを選ぶべきかもしれない。
乗り比べテスト総論
モデルによって「SLのほうがいい」、「いやノンSLのほうが好きだ」と、印象がコロコロ変わる。③と④の比較は、対象となるホイールは一緒だが、バイクが変わったことで印象がやや変化した例だ。読んでいるほうは混乱するだろうが、得られた印象をありのままに報告するとこういうことになってしまう。
今回、お話しをお伺いしたマヴィック社の2人とも、「ホイールはとにかくバランスだ」と言っていたが、もっと言うなら「自転車はホイールを含めたバランスで決まる」である。ホイール選びに正解はない。書いておきながらこんなことを言うのもなんだが、インプレなんかあてにせず、実際に自分のバイクで乗ってみるしかない。最近、マヴィックは試乗に力を入れているようだ。全国110店舗の取り扱い店に試乗ホイールを用意し、ライダーに合ったホイール選びの相談・試乗が可能になったという。ぜひ足を運んで自分で比較してみてほしい。