Fumy’s eye 別府史之が見た世界 étape03

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別府史之が見た世界03

ボンジュール!みなさん、こんにちは。

なんだか悪い夢を見ていたような気がする。でも朝起きてみたら、やっぱり現実だった。……今はそんな気分です。自分としては「これは悪い冗談なんだ」って笑い飛ばしたかったんですけどね。正直、すごく、こたえてます。ショックです。それが本音です。

先日GPドゥナン(3月19日予定)に出場するために自宅を出発し、現地へと向かっている途中に、レース中止のアナウンスが飛んできました。じゃあみんなでルーベの下見を兼ねた練習キャンプに行こうか、って気持ちを切り替えたんですが、一緒に来ていたスペイン人とルーマニア人のチームメート、さらにポルトガル人スタッフは「国に帰れなくなっちゃうかもしれない」と結局そのまま空港へと逆戻り。そもそもイタリア人は最初から来れなくて。

アランベールを試走するも……

最終的には石上と岡と僕の3人でルーベの下見に出かけました。でもほんの30分くらい走ったところで「戻ってこい、俺達も帰ろう」って呼び戻された(涙)。せっかく来たんだし、おそらく2020年ルーベはなくなっちゃうだろうから……って、アランベールだけ走って帰りました。

自分が一番狙っていた時期が、これからやってくるはずでした。東京五輪へ向けてのポイント収集も含めて、これからが、自分にとってシーズン本番になるはずだったんです。そこへ向けて昨冬からしっかり準備も積んできました。でも、一番に狙っていたレースたちが、ことごとくキャンセルになった。全部なくなってしまった。

胸にぽっかり穴が開いてしまった感じです。今まで16年間プロとして走ってきて、選手の死とか、東日本大震災とか、テロとか、色々と難しい時期を通り抜けてきました。でも、今回が、一番キツイ。でかすぎますね。どうしたらいいか分からない。気持ちの行き場がない。ぶつける場所がない。きっとどの選手も同じように、精神的な辛さを味わってると思います。

しかもレースが中止になり、国境封鎖になったからといって、僕らアスリートにとっては「休み」じゃない。僕らの仕事は、次のレースに向けてトレーニングすること。再開に向け準備をしっかり積んでいかなきゃならない。フランスでは外出制限が出されて、外でのトレーニングはできません。その代わり室内でローラーに乗ったり、コアトレーニングに励んだりしています。ただ、その「次のレース」が、いつ訪れるのか分からない。どこへ向けて体を仕上げていくべきなのか、どの練習に集中していくべきなのかも、分かりません。だからすごく難しいんです。

別府史之が見た世界03

できることは何?

でも今の状況を見ていると、一個人としてのそんな感情を通り越して、世界全体が危機的状況にさらされてしまったことに不安を感じます。なにしろヨーロッパ全体が国境封鎖ですからね。日本のみなさんにはピンとこないかもしれないですが、外出も制限されて、お店もスーパーと薬局くらいしか開いてないんですよ。もはや国民全体が路頭に迷っているというか……。

プロアスリートはもちろん、スポーツの仕事に携わるすべての人の環境が、がらりと変わってしまった。特に自転界は、ただでさえスポンサーを見つけることが大変な時代です。たとえば今回のルーベ下見も、ルックのルーベ仕様バイクでテストトレーニング、というプロモーション的な要素も兼ねていたはずなんです。でも一切がダメになった。スポンサーにとっては大きな痛手です。

またレースオーガナイザーたちだって、開催したいけれど、現状を考えれば断念せざるをえない。つい2週間前だったら、まだパリ〜ニースのように開催にこぎつけられる大会もあったかもしれない。でも今は世界的に見てそういう状況ではありませんよね。もしかしたらこの影響で、永遠に消滅してしまうレースだって出てくるかもしれない。

もちろん自転車関係者のみなさんの健康状態だって心配です。今はまだ、この病気がどれだけ死につながるのかは、はっきりしていません。ただ僕ら選手は若いし、日々鍛えていますから、もしも感染しても……調子は悪くなるかもしれないけど、死につながる危険性はおそらく少ないと思うんです。でも大会オーガナイザーやチーム関係者には、大昔からずっとやってきている年齢の高い人たちがたくさんいる。沿道に応援に来てくれるファンの中には、お年寄りも多いです。そういう人たちがいるからこそ、これまで自転車レースというのが成り立ってきたわけで……。

とにかく、今は、できる限りのことをやるだけです。下ばかり見ていたら、ずるずる下に引っ張られちゃうだけ。だから気持ちを切り替えて、ポジティブに行きます。そのために、今までできなかったことをやってみようかな。練習は続けますけど、自転車や競技だけの人生からは少し離れて、視野を広げるべき時だと思ってます。ただ選手の仕事は自転車に乗ることで、レースに出てナンボの生き物ですし、シーズン中に今までこういった状況に置かれたことがないので、ホント、なにをやったらいいのかよく分からないんですけどね。まずは家の中の片付けとか整理とかから始めます(笑)。

 

質問コーナー

なんだか暗い話題ばかりになってしまいましたが……、この辺で気分を明るく切り替えて、質問コーナーへ移りましょう。今回も質問ありがとうございました!

1)今季から使用バイクがルックに変わったことで、別府選手の走りに何か変化がでますか?トレックとルックに乗られた別府選手なりの両者の比較や感想を教えてください。(新井洋平さん)

走るのは自転車ではなくて僕自身。だから「走り方」の変化はあまり感じません。ただルックの自転車に初めて乗った時は「不思議」な感覚でした。あれ、これ、なんか今まで知ってる自転車とは違うぞ、と。

ルックはペダルで有名ですけど、実はカーボンフレームでも老舗なんです。かなりの初期からカーボンを扱ってます。先日ルックの会社を訪問して、その「不思議」さの理由が少し分かりました。例えばトレックのフレームはOCLVという加熱圧縮方式で作られていますが、ルックはカーボンシートを一枚一枚巻いて作っています。強度を高くすべきところはシートを多く巻き、硬いシートや柔らかいシートを部分によって細かく使い分ける。その工程を見せてもらって、なるほどなぁと。カーボンフレームだから硬い、でも、乗り心地はしなりがあってやわらかい。

もちろん両ブランドにそれぞれの良さがある。乗り心地の良さを優先するのか、加速性を追求するのか。どちらが良い悪いではないんです。単純に各ブランドの「コンセプト」の違いです。結局は実際に乗ってみて自分に合うか合わないか、でしょうね。

会社を訪問して改めて感じたのは、ルックが昔ながらの、職人さんたちによる、フランスらしさあふれる会社だということ。最先端技術を駆使したバイクはたくさん外国から入ってくるし、時代にあわせて流行の波はあるけれど、でも、ルックのような歴史も味もある老舗ブランド、しかもトップブランドというのはすごく貴重な存在ですよ。

 

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2)私も石畳のような荒れた路面をロードバイクで走るのが好きなんですが、Fumyの視点からパリ〜ルーベの魅力って何ですか?(投稿者名なしさん)

ついこの前アランベールを走った時に、道端に、古く形が悪くなって外に出されちゃった石畳の石を見つけたんです。あ、もしかしたら、自分も過去にこの石の上を走ったことがあるのかもしれないな〜、なんてしみじみ感じ入ってしまいました。

過去に何千何万というレーサーがこの石畳の上を走ってきて、その一つ一つの石には彼らの汗と涙がしみ込んでいる。そして僕ら現代の選手が、今もこうして自転車で颯爽と駆け抜ける……。歴史の長いクラシックの、そういう部分に魅かれます。

実は荒れた道を走るのが好きというわけじゃないんです。石畳のあるルーベやフランドルをクラシックレースとして走るのは好きですけど、できたら舗装路のほうがありがたい(笑)。

ただ石畳を走る時は、集中していないと危ないので、精神が研ぎ澄まされていく感じはありますね。自分のレーサーとしてのスイッチが入る。パヴェを抜け出して舗装路に入った直後にも、「あれ!体がまだ興奮してる!」って自分でもびっくりするほどです。そう、振動も激しいし、集中力も必要だし、エネルギーはものすごく使ってるはずなんですけど、なんか人間としてのポテンシャルが上がるような気がします。アドレナリンも出まくって、極度の興奮状態になります。だから走っていて気持ちいいのかな。

ルーベが終わった後は、夜もしばらく指が細かく揺れているような感じ。翌日は、自転車レースでは普段感じないはずの痛みに襲われます。全身筋肉痛というか。なんか違う競技をやった後みたいな……。ルーベはいわば格闘技といったところでしょうか!

 

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3)毎日の食事は基本洋食でバランスを摂られているのでしょうか? 日本に比べてハイカロリーな料理が多いイメージがあるので、栄養管理が大変だったりするのかなと気になりました。また和食が恋しくなって作られることはありますか?(吉井利華さん)

いわゆるフランス料理だとハイカロリーなイメージがあるかもしれません。でもそこは工夫しながら食べてます。あえてバターをとったりすることもあるんですよ。あくまでタンパク質、炭水化物、脂質をバランスよく摂るのが大切です。

それに脂質をちょっと入れると腹もちが良くなるんですよね。だから摂り過ぎはよくないけど、だからと言って避けるものでもない。肉の脂質ではなく、質の良い脂質であれば僕的にはOKとしてます。たとえばオリーブオイルは内臓にすごくいいし、便秘にもなりにくいし、いい効能がたくさんありますからね。

自宅では僕がメインでご飯を作るので、レパートリーは豊富ですよ。たこ焼きも餃子も、ピッツァだって作ります。あれ、なんかアスリート食じゃないみたい(笑)。というのもレストランには普段は全然行かないんです。外食だと何が入ってるか分かりませんし、油の量も多い。だから、あれ食べたい!って思ったものは、自宅で工夫して作る。油の量や炭水化物の量を調整したり、野菜を多めにしたり。

たこ焼き器と土鍋は日本から持ってきました。餃子は自分で包みます。昔は皮から作っていたんですけど、自分で作るとどうしてもぶ厚くなりすぎちゃって。市販の皮が買える場所を見つけたので、今は楽させてもらってます。その代わりにひき肉は自分で作ります。凍らせた肉を、ちょっと解凍させて、あとはぶんぶんチョッパーで……。ほんとは刃こぼれするからダメらしいんですけど、結構よく切れますよ。

 

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最後に。1日、1日、状況が変わっていくだけに、この先1ヶ月後がどうなっているかは分かりません。だから、残念ながら、「また、次のレースで!」という言葉では締めくくれません。

とにかく、みなさん、健康第一でいきましょう。ズイフトを使ってエクササイズをするのもいいし、家の中で筋トレして鍛え上げるのもありだと思います。今しかできないことがあると思うから、気持ちを切り替えて、お互い頑張りましょう。

そして、みんなでつらい時期を乗り越えることができたら、きっと失われた時間を取り戻すことが出来るのかなって思います。この逆境をチャンスに変えるんだ、と思って生きていくことこそが……うん、自分の力になるはずだと信じてます。ポジティブに!

 

 

別府史之

 

 

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(宮本あさか)