フランス本社取材で解き明かすホイール作りの神髄 マヴィックの真実

目次

マヴィックの真実

Specialthanks●Eclair

マヴィックはいま、何を考えているのか―。

ここ数年で激変したホイール市場。そんななか、完組ホイールの先駆者たるマヴィックは、何を考え、どんなモノづくりをしているのか。初代キシリウムの性能に衝撃を受けたあの日からもうすぐ20年。安井が書くフランス本社取材記。誌幅の都合上、本誌4月号にてお届けできなかった内容を加えて公開する完全版。

 

マヴィックの二面性

言わずと知れた完組ホイールのパイオニア。リムに直接ネジを切るFOREテクノロジー、高剛性ジクラルスポーク、リムを大胆に切削するISM。カーボンスポークを用いるトラコンプテクノロジー、特殊な薬品をリムに浸透させるエグザリット。ロード用チューブレスの規格を作り、市場の流れを変えた。これらはマヴィックの革新的な一面だ。
しかし、ロード用のワイドリムやフルカーボンクリンチャーに手を出したのはビッグメーカーとしては遅かった。絶賛大流行中のセラミックベアリングは一部の例外を除き今でも使わず、件のロード用チューブレスだって後発だったことは否めない。これらはマヴィックの保守的な部分だろう。
革新と保守。ホイールメーカーとしては業界トップの規模と人気を誇るにもかかわらず、そんな二面性を有する。それがマヴィックというホイールメーカーの不思議である。
マヴィックが125周年を迎えた6年前、筆者は本社の開発施設や工場を見学した。それからホイール市場は一変している。ディスクブレーキ化が進み、チューブレスが主流になりつつある。変化の激しいこの時代、彼らのモノづくりはどのように変わったのだろう。二面性の理由は何だろう。それを知りたくなり、再びフランスへ向かった。

マヴィックというメーカーの歴史は、1889年にシャルル・イドゥーとリュシアン・シャネルという2人の人物が自転車パーツの製造を志したことから始まる。社名の「MAVIC」は、「イドゥー&シャネル自転車用品製造所(Manufacture d’Articles Vélocipédiques Idoux et Chanel)」の頭文字だ。1934年には、それまで木製や鉄製だったリムを軽量なアルミで作ることに成功する。素材を軽いものに置換しただけでなく、アイレットがリムの上側と下側にまたがるように設置されており、リムにかかるスポークテンションのストレスを分散させる構造も採用していた。マヴィックはこのリムをツール・ド・フランスへ投入、それを使用したアントナン・マーニュが総合優勝を飾っている。マヴィックはこのとき早くも、リム屋として素材と構造の両面からロード界に革新をもたらしたことになる。

その後も、79年にロード用コンポーネントを、92年には電動変速機(ZMS=ザップ・マヴィック・システム)を、99年には無線変速システム(メカトロニック)を開発するなど、面白い製品づくりを続ける。ZMSやメカトロニックは、当時は技術的な問題をクリアできず成功はしなかったが、現在のコンポーネント事情を考えると先見の明があったと言える。
もちろん主戦場たるリム・ホイール市場でも積極的だ。目的に合わせてリムとハブとスポークを選んで組み上げる手組ホイールが一般的だった94年、全てが専用設計された初代コスミックを発売し、完組ホイールという概念を確立。高性能を容易に手に入れることができる完組ホイール時代の礎を築いた。96年には軽量モデルであるヘリウムを、そして99年には先述のFOREテクノロジーを用い、さらに太いアルミスポークを採用して当時としては驚異的な高性能を誇る初代キシリウムを発売。キシリウムはツールをはじめとしたプロレース界で大暴れし、ロード用ホイールの金字塔として現在もラインナップされている。

マヴィックの真実

マヴィックのリム工場は本社からクルマで1時間半ほどのフランス南東部の村に立つ。2001年まではここに本社機能があった

 

大胆かつ慎重

これらの歴史を「革新的な技術を武器に~」とか「自転車界をリードし続ける~」などという耳触りのいい言葉で片付けることは容易だが、それでは先述の“二面性”を説明できない。今回の取材行をアテンドしてくれたPRマネージャーのミシェル・ルザネ氏に、ちょっと失礼な質問をぶつけてみた。御社の強みと弱みはなんでしょう?
「強みは技術の蓄積ですね。例えばFOREテクノロジーは、3人のエンジニアが付きっ切りで4年間研究を行い、やっと実現した技術です。今では当たり前になっている空力テストは73年から始め、80年代には風洞実験も行っています」
「製品テストに関するノウハウもしかり。安全なホイールを作るためにはどんなテストが必要なのか。どのくらいの負荷をかければいいのか。どのくらいの時間をクリアすればOKなのか。ブレーキのテストはどのくらい行えば市販していいのか。カーボンリムを成形する際に加圧する温度や時間や圧力、一度で成形するのか数回に分けるのか、樹脂を吸い出すのか否か。アルミリムのISMにしても、切削のスピードや温度やアルミの素材や添加剤……それらは製品を見ただけでは判断できない要素です。そうして蓄積されたノウハウが我々の一番の強みです」

では弱みは。
「柔軟性がないことが弱点かもしれませんね。私たちは幅広いセグメントの製品を作っており、毎年多くの新作を出すため、トレンドや新技術を一気に全製品に反映させるのが難しい場合もあります。全ての製品で安全性や耐久性や扱いやすさなどを考慮し、膨大な数のテストを行わなければなりませんから。それをせずに商品化するわけにはいきません」
それはマヴィックの強みでもある。例えば13年に発売したコスミックカーボン40クリンチャー。競合他社が次々とカーボンクリンチャーを発売する中、マヴィックはリムの中にアルミの骨子を仕込むという誰も予想しなかった構造を採用した。それは安全性に固執したからである。マヴィックはスペシャル・サービス・コースを通して、下りでリムが崩壊するケースを何件も見てきたという。ユーザーをこのような危険にさらすわけにはいかないと、出せば確実に売れるフルカーボンクリンチャーではなく、アルミとのハイブリッド構造を採用したのだ。
コスミックカーボン40クリンチャーを最初に見たときは、「この時代にフルカーボンじゃないのかよ」と思ったものだが、その後も僕はショップで何本もの破損した(他社の)フルカーボンクリンチャーを見ることになった。スタッフに聞くと、どれも「下りでブレーキの熱に負けてリムが崩壊してバーストした」のだという。安全性においては、マヴィックのモノ作りが正しかったのだ。マヴィックの製品哲学をよく表している一件である(もちろん現在は技術的問題をクリアし、安全なフルカーボンクリンチャーを完成させている)。

「一から十まで慎重」とか、「徹底的に先進的」というならメーカーの姿勢として分かりやすい。しかしマヴィックは「大胆かつ慎重」なのだ。やるべきだと判断したら技術を集中的に投入し、ユーザーの度肝を抜くような、ホイールマーケットを一変させるような、大胆な製品を作る。
一方、いくら流行していようと、「ユーザーのためにならない」「安全性が確保できない」と判断すれば、絶対に採用しない。そんなメリハリのある開発姿勢が特徴なのだ。その慎重さにも大胆さにも共通しているのは「サイクリストのため」という目的意識である。

顧客のため― 誰もが口にしがちな美しい言葉だが、商売的にはそうとも言っていられないのが実情だろう。耐久性・堅牢性・安全性・頑丈さ……それらはスペックには表れにくい性能である。誤解されることも多いだろう。しかし高速で公道を走る自転車において、それらは最も重視すべき要素だ。ロードレースにおいて無謀なアタックは時として美談になるかもしれないが、メーカーの無謀な挑戦で犠牲になるのはユーザーである。しかしマヴィックは徹底的にユーザーファースト、安全重視だ。それがマヴィックの二面性の理由なのだと思う。

マヴィックの真実

ミシェル・ルザネ 今回の取材のアテンドを買って出てくれたマヴィックのPRマネージャー。取材の数日前まではフランスの冬山にこもってスキーを楽しんでいた趣味人。かつては自転車ジャーナリストとして活躍していた

 

レースシーンに欠かせない黄色い“マヴィックカー” スペシャル・サービス・コースの意義

マヴィックが73年から行っているレースでの機材サポート活動、スペシャル・サービス・コース(SSC)。いつ、誰が、どんな目的で始めたのか。なぜマヴィックは膨大なコストと人手と時間を割いてまでそれを行うのか。そのベテランメカニック、デニス・グレフェさんに話を聞く。

スペシャル・サービス・コース

スペシャル・サービス・コースとは

レースやイベントでパンクなどの機材トラブルに見舞われた選手に対し、チームや国籍に関係なくマヴィックが機材サポート(交換用の機材提供や修理など)を行う活動。活動開始からもうすぐ50年、このマヴィックカーに助けられた選手は数知れず。プロレースのみならずアマチュアレースやロングライドイベントのサポートも行っており、今や黄色いマヴィックカーは世界ではもちろん日本でも欠かせない存在だ。

 

1972年のアクシデントがきっかけ

安井:まず、マヴィックがサービス・コースという機材サポート活動を始めたきっかけを教えてください。

デニス:1972年、ドーフィネ・リベレ(現在のクリテリウム・ド・ドーフィネ)でコロンビアチームのチームカーがトラブルで走行不能になってしまったんです。それではチームは選手に帯同することができませんね。そこでマヴィックのブルーノ・ゴーマン社長が「我々のクルマを貸せば、このチームはレースを続けられるのでは」と考え、マヴィックのクルマをコロンビアチームに貸したんです。それがスペシャル・サービス・コースのアイディアの発端となりました。

安井:アクシデントがサービス・コース開始のきっかけだったと。

デニス:そう。そして翌年(73年)、スペシャル・サービス・コースが結成され、パリ・ニースから機材サポート活動を始めたんです。77年からはツール・ド・フランスへも帯同しています。そうそう、最初は機材サービスに加えて無線サービスも提供していたんですよ。

安井:そうなんですか。

デニス:レースオーガナイザーは無線を持っていないことがありましたし、当時はヘリコプターも携帯電話もありませんでしたから。

安井:レディオツールは最初マヴィックがやってたんですね。知りませんでした。

スペシャル・サービス・コース

マヴィックは、何台ものクルマとオートバイ、スタッフ、膨大な数のホイール、スペアバイク、タイヤ、スプロケットなどを持ち込んで世界中のレースに帯同し、選手の機材トラブルを迅速に解消する。驚くべきことに、これらは全て無償で行われている

 

スペシャル・サービス・コースの意図

安井:では、スペシャル・サービス・コースの意図は?

デニス:チームや国籍やスポンサーに関係なく、公平に機材サービスを提供することです。機材トラブルで選手をリタイヤさせたくない。レースを続けさせたい。そういう想いから始めました。

安井:何のために?マヴィックにはどんなメリットがあるんですか?

デニス:レースに対する情熱があったからです。プロレース界との関係を築きたいという意図もありましたが。また、レース現場からのフィードバックを製品に反映するという目的もありました。スペシャル・サービス・コースを始めた当時、マヴィックはリムメーカーで、ラボでテストも行っていましたが、レースというリアルな場で選手から直接話が聞けるというのは大きなメリットでした。

安井:レースが“走る実験室”だったというわけですね。

デニス:そう。現在、マヴィックには大きなラボがあるので、“走る実験室”としての意義は薄くなり、ブランドイメージの創出という側面が強くなっています。でも、「レースの現場で何が起きているか」を直接知ることができるのは今でも大きなメリットであり、レースのフィードバックを製品の進化に役立てるという目的は変わっていません。

安井:商品開発において、スペシャル・サービス・コースは今でも重要なポイントだと。

デニス:そうです。現場ではたくさんのライバル製品の情報を得ることができますし。発売されている全てのホイールを買って壊れるまでテストするわけにはいきませんからね。現在、マヴィックは世界中で年間90近くのレースやイベントに帯同しています(※)。ハイシーズンには、マヴィックの社員の30%ほどがスペシャル・サービス・コースで活動していることもあるんですよ。

※ツールのようなステージレースも1イベントとして数える。

スペシャル・サービス・コース

デニス・グレフェ 30年以上スペシャル・サービス・コースで働くベテランメカニック。年間200日はスペシャル・サービス・コースの一員として世界中を飛び回っている。ツール・ド・フランスには32年間帯同しているという

 

写真と動画で製造工程を紹介 マヴィックリムの作り方をつぶさに見る

マヴィックのリムが生まれる場所

マヴィックのアルミリムを生み出す工場は、フランスの長閑な村にある。そこで最新のISM4Dリムの製造工程を見た。メディア初公開となる写真や動画も公開する。

マヴィック製造工程

 

フランス生産の理由

フランス南東部にあるサン・トリヴィエ・シュル・モワナン。牧場の中に教会や小さなレストランが点在する長閑な村。そこにマヴィックのリム工場がある。イメージからすると小規模にも思えるが、マヴィックのアルミリムの約90%がここで生み出されている。
不思議なのは、本社のあるフランスに自社工場を構えていることだ。多くのメーカーが中国や台湾に生産拠点を移す昨今。製造コストでは圧倒的にアジアンメイドが有利であり、しかもアジア生産=低品質というイメージは遠く過去のものになった。マヴィックはなぜそうしないのか。
「改良が必要になったときに迅速に製品に反映できるためです。開発やテストを行っているデザインセンターで改良すべき点が見つかれば、工場ですぐに対応できます。また、工場で製造した製品をデザインセンターのテストラボで検査することも容易です。工場からデザインセンターはクルマで1時間ちょっとですから。開発拠点と工場が遠く離れていればそうはいきません」とルザネ氏。
確かに、ISMの矢継ぎ早の進化や、リム直径の高精度化が必須のロードUSTへの大転換は、その「開発拠点と生産拠点の濃密な連携」がなくては不可能だったろう。
最新のISM4Dアルミリムの生産プロセスを追いながら、この工場をじっくりと見学した。

 

精度をUST基準へ

製造工程は<曲げ→切断→溶接→スポークホール空け→切削>という順番である。
最初の曲げ工程を見ていきなり疑問が浮かんだ。マヴィックが17年にロードUST規格を発表したとき、「安全性を高めつつ、チューブレスタイヤの脱着性を改善するため、タイヤとリムの直径の精度を向上させた」と主張していたはずだ。しかし、リムの曲げ加工の方法は5年前に見た加工方法と何も変わっていない。一体どこで“精度を上げた”のか。
「工作機械や加工方法は変えていません。素直に曲がるように、設計時にリムの形状や素材を工夫し、さらに加工時にベンダー(曲げ加工機)のセッティングを煮詰めることで、精度を上げているんです」。
また、切断後のリムの直径のチェック体制をより厳重にし、許容範囲を狭くしたという。リムの原料であるアルミチューブのロットが変わった際にも、製造するリムを変更した際にも、毎回直径を計測する。「ここで厳重にチェックしないと、万が一公差から外れたものが出たときラインの最後まで行っちゃうからな」と職人。なにか1つだけを変えたわけではない。小さな工夫の積み重ねによって精度向上を実現しているのだ。
さらに、FORE工程後には目視で傷やクラックなどをチェックし、ISM加工後は超音波探査でリムの厚みをチェックし……と、要所要所で人の目と手が大活躍している。加工は工作機械で行うが、精度や品質を担保しているのは人なのだ。

 

曲げ/切断
リム製造の第一歩、アルミチューブの曲げ加工

写真①
アルミニウム加工業者から納入された大量のアルミチューブ。これがリムの原材料。工場に隣接する倉庫に保管されている。

マヴィック製造工程

写真①

写真②
アルミチューブはすでにリムの断面形状に加工されている。写真のチューブは、断面形状からおそらくISM4D用のリヤ用。ロード用ホイールの場合、一本のチューブの長さは約6m。これをベンダーで曲げ、輪状にしていくところからリム製造は始まる。

マヴィック製造工程

写真②

写真③
約6mのチューブをベンダー(曲げ機械)にセットすると、あっという間にグルグルと丸められて3巻きの輪に。700Cホイールの周長は約2mなので、約6mのアルミチューブからリム3本ができる。なお、ワイドリムは6m(リム3本ぶん)ではなく、4m(リム2本ぶん)のチューブで加工するという。ワイドリムは重いので、運搬や作業の際に、工員に負担がかかるためだ。また、ワイドリムは剛性が高いため、6mのままだと曲げ加工時に機械の操作・コントロールが難しくなるのだという。

マヴィック製造工程

写真③

写真④
これがベンダー(チューブを曲げるための工作機械)。モデル(リムの断面形状)によって専用品が用意されている。このベンダーはマヴィック社のエンジニアが設計したもので、中には80年代から使われているものもあるという。

マヴィック製造工程

写真④

写真⑤
6m(もしくは4m)のチューブを曲げて3巻き(もしくは2巻き)のコイル状にしたら、すぐさまそれを切断して3本(もしくは2本)の輪にする。切断機の中に曲げ加工後のチューブをセットすると、自動で切断される。カットする際に治具がリムを挟んでいるが、これで直径の精度を出しているわけではなく、おそらく切断時にリムが暴れないようにするためだろう。曲げ加工時にはすでにかなりの精度が出ているのだと思われる。なお、溶接時に母材が溶けてリムがわずかに縮むため、それを見込んで長めに曲げ&切断を行うという。

マヴィック製造工程

写真⑤

写真⑥
カットしたら、繋ぎ目に小さなスリーブを入れる。これは溶接時に正確にリムの端を繋ぎ、リムが潰れないようにするためのもの。

マヴィック製造工程

写真⑥

写真⑦
ロットごとにリムの直径を計測し、公差範囲内に収まっているかをチェックしたら、次の工程へ。

マヴィック製造工程

写真⑦

 

溶接
リムの切断面をアーク溶接で接合するSUP

写真①
次はリムの切断面を接合して、完全なリングにする工程。リムの接合にはコストが抑えられるスリーブジョイントが用いられることも多いが、マヴィックの上位モデルは溶接で接合する。SUPと呼ばれる技術で、接合部が軽くなるのでリムの重量バランスが悪化しにくく、強度も高くなる。まず、継ぎ目の位置をレーザーで正確に計測する。

マヴィック製造工程

写真①

写真②
溶接は自動溶接機によるもの。接合部の位置を計測したら、巨大なアームが溶接機にリムを入れ、アーク溶接で接合する。

マヴィック製造工程

写真②

写真③
溶接時に生じたバリは、別の切削機械で綺麗に削り取られる。

マヴィック製造工程

写真③

 

穴開け
マヴィックアルミリムの核心、FOREテクノロジー

写真①
次はスポーク穴の加工だ。この工程にもマヴィック独自の技術が活きる。マヴィックアルミリムの上位グレードは、FOREテクノロジーという特殊なスポーク穴加工法を採用している。リム表面に高温のビットを回転させながら押し込んで、素材を溶かしながら内側にチューブを形成、そこに雌ネジを切るのだ。リムのタイヤ側には穴を開ける必要がないため、剛性・強度面で有利であり、リムテープやアイレットを必要としないので軽量化にもつながる。マヴィックアルミホイールのキモとなる技術である。まず未加工のリムを、巨大なアームが驚くほどの速さと正確さで一本ずつ持ち上げ、ドリルのところまで運んで設置。

マヴィック製造工程

写真①

写真②
その後リムを少しずつ回転させながら、一カ所ずつ高温のビットをリムに押し当て、ギュルギュルとスポーク穴を開けていく。この巨大なFOREテクノロジー専用機械が工場内には数基設置されていた。加工が終わったら、リム内部にアルミのカスが入っていないかをチェックし、次の工程へ。

マヴィック製造工程

写真②

 

切削
分厚いリムを大胆に切削し強度・剛性と軽さを両立

写真①
このリム工場のハイライト、ISM(インター・スポーク・ミリング)である。ISMとは、応力のかからないスポークホール間を切削し、リムを軽くする加工法。この写真がISM用の刃物。刃の形状からISM4Dの後輪(オフセットリム)用だろう。

マヴィック製造工程

写真①

写真②
まず、バルブホールやスポーク穴の位置をレーザーで計測。

マヴィック製造工程

写真②

写真③
写真①の刃を高速回転させ、リムをゆっくり回しながら削っていく。リム全体を皮むきしていく要領だ。スポーク部分にくると刃が浮いてリムの厚みを残す。一度に削るのではなく、粗削り→仕上げという2段階で切削が行われる。切削後のリムの最薄部はかなり薄いため、高い精度が求められる加工。機械のモニターを凝視していたのだが、精度はコンマゼロ数ミリという世界だった。なお、ISM4Dの場合、切削後はリム重量が半分になるという。

マヴィック製造工程

写真③

写真④
加工後、傷がないか目視のチェックを受けたあと、リムの薄さを超音波探査でチェックする。

マヴィック製造工程

写真④

写真⑤
刃の温度や摩耗度合いなども精度に影響をおよぼすため、こまめなチェックを行うという(数十本に一本の抜き取り検査)。

マヴィック製造工程

写真⑤

 

UBコントロール加工
ブレーキ面を滑らかに切削し制動性能を確保

写真①②
最後はブレーキ面の切削。特殊な刃でブレーキ面を均一に削るのである。溶接部も滑らかになるため、リムブレーキの制動性能向上には不可欠な工程だ。エグザリット用の縦溝もこの工程で刻まれる。これでリムは完成。なお、切断や切削時に発生するアルミの屑は全てリサイクルされている。

マヴィック製造工程

写真①

マヴィック製造工程

写真②

写真③
精度チェックを経て、ステッカー類が貼られたら、梱包され、ルーマニアのビルディングファクトリーへ送られる。なお、エグザリットリムは、このフランス工場ではなくイギリスに送られ、海の向こうで薬品浸透処理を受ける。フランスでリム製造→イギリスに送ってエグザリット処理→再びフランスに戻し最終仕上げ→ルーマニアに送って組み立て……という手間のかかる工程を踏むため、エグザリットリムは高価なのだ。

マヴィック製造工程

写真③