ピレリ「Pゼロ レース RS」×TPUチューブはロードバイクの新基準になるか? 軽さと速さを検証
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ワイドリム&ワイドタイヤ化が進み、チューブレスの恩恵を享受しやすくなった近年のロードバイクシーン。その一方で、イタリアのピレリは高性能TPUチューブの展開により、チューブド(いわゆるクリンチャー)システムに新たな価値を提示した。今回は、最高峰モデル「Pゼロ レース RS」と「Pゼロ スマーチューブ RS」のコンビネーションが、レーシングタイヤとしていかなる真価を秘めているのか。その実力を改めて探る。
ピレリ「Pゼロ レース RS」とは?〜ピレリのフラッグシップロードクリンチャータイヤ

ピレリ・Pゼロ レース RS ●価格/1万3500円 ●サイズ/700×26、700×28、700×30 ●カラー/ブラック、クラシック、レトロ ●写真の仕様/700×28C、ブラック

「Pゼロ レース RS」のパッケージ

今回インプレッションした28Cサイズの実測重量は222g。230gのカタログ表記よりも軽量に仕上がっている。他サイズのカタログ重量は、26Cが210g、30Cが245g
昨シーズン、ジョナタン・ミランとマス・ピーダースンの活躍でグランツールのポイント賞を席巻したリドル・トレック。常勝軍団となった彼らの足元を支えているのが、ピレリのフラッグシップモデル「Pゼロ レース TLR RS」だ。
さらにピレリは、このチューブド版となる「P ゼロ レース RS」を市場に投入している。その真意は単なるラインナップの補完ではない。同社が展開するTPUチューブ「Pゼロ スマーチューブ RS」との組み合わせにより、「クリンチャー+TPUチューブ」が持つ軽量性と利便性の最適解を改めて提示したのだ。
「P ゼロ レース RS」最大の魅力は、その軽さにある。28Cサイズの重量は230gで、チューブレスレディ(TLR)モデルの「Pゼロ レース TLR RS」より60gも軽い。ここに32gの「Pゼロ スマーチューブ RS」を組み合わせれば、シーラント(40g)を含めた前述のTLRモデルを遥かに凌ぐ軽量セットアップが完結する。また、自社のテストにおいて「Pゼロ レース TLR RS」(シーラントでの運用)との転がり抵抗の差は、1.9Wに抑えられている。外周部の軽量化が加速のキレにもたらす恩恵は計り知れないだろう。
構造面では、TLRモデルが「SpeedCORE」を採用するのに対し、本モデルは「TechBELT ROAD」構造を採用。しなやかな120TPIケーシングに耐切断性に優れた層を配置することで、軽さを損なうことなく高い耐パンク性能を確保している。
グリップ性能の要となるコンパウンドには、TLR版と同じくピレリ史上最強の「SmartEVO2」を奢る。世界のトッププロが全幅の信頼を寄せるグリップ性能と、路面を滑るような回転効率がクリンチャー特有のダイレクトな接地感と融合し、ライダーへ極めてピュアなフィードバックを返してくれる。
「Pゼロ レース RS」は、軽量化を突き詰めるヒルクライマーや、チューブレスの運用コストを避けつつ世界最高峰の性能を求めるライダーにとって、今最も洗練された選択肢と言えるだろう。

トレッドは全体にしぼ加工がされており、サイド部分には進行方向に従うように切り欠きのパターンが刻まれる
「Pゼロ スマーチューブ RS」とは?〜ロード用TPUチューブのベンチマーク的存在

ピレリ「Pゼロ スマーチューブ RS」 ●価格:5400円 ●サイズ:700×26/35C(バルブ長42mm)、700×26/35C(バルブ長60mm)、700×26/35C(バルブ長80mm)

バルブ長60mmのモデルの実測重量は34g(カタログ値は33g)。この他42mm、80mmのバルブ長があり、カタログ値重量はそれぞれ32、34g

肉厚こそ大差ないが、その他の部分では一般的なTPIチューブとかなり異なる。多くのTPIチューブは見た目に光沢があり、触感は固いが、スマーチューブRSはマットな見た目で触感はしっとりかつもちもちとした印象
昨年登場したピレリのTPUチューブ、その第3世代にあたるのが「Pゼロ スマーチューブ RS」だ。自社開発された新たなTPU素材により、軽さと耐久性が向上。さらにヒステリシスロスを抑えることで、転がり抵抗の低減(走行効率の向上)を狙っている。
重量は従来品の「スマーチューブ EVO」から3g削減し、32g(バルブ長42mm)を実現。転がり抵抗については、従来品の「スマーチューブ」が12.4Wであるのに対し、今作は9.8Wを記録。約21%の効率化を果たしたという(タイヤは「Pゼロ レース TLR RS」を使用。時速28km、適正空気圧での試験による)。
先に触れたとおりチューブドタイプの「P ゼロ レース RS」との組み合わせでは、シーラントを用いてTLRとして運用する「P ゼロ レース TLR RS」との転がり抵抗差は1.9Wにまで抑えられている。さらに、耐パンク性能を高めるためにチューブの肉厚を確保しながらも、トータルでは軽量化を達成。「Pゼロ スマーチューブRS」は、まさに全方位に進化を遂げた「魔法の次世代TPUチューブ」と呼べる仕上がりだ。

一般的なTPIチューブと比べると伸縮性が圧倒的に高い。実際に手に持って伸ばしてみても、その伸縮性の高さがよく分かる。この特性が走りの良さに影響しているのだろう

バルブ本体は樹脂製で金属製のコアは取り外しができないタイプ。チューブとの接合は無駄なくきれいに行われている。チューブ同士継ぎ目は、一般的なTPUチューブのよりも接合部の重なりが少ない(7~8mm程度)
「Pゼロ レース RS」+「Pゼロ スマーチューブ RS」をテスト!〜「これでいい」ではなく「これがいい」

インプレッションライダー:吉本 司 ロードバイクに軸足を置きながらも、車種や遊び方を問わず幅広い視点を持つことで知られるフリーの自転車ジャーナリスト。オンロードタイヤはTPUチューブを組み合わせるチューブド派
バイクやタイヤの試乗を通じ、筆者はこれまで数多くのTLRに乗ってきた。そのパフォーマンスの高さは十分に認識しており、近年のプロレースにおいてTLRが瞬く間にスタンダードとなったことも納得でしかない。
しかし、自身の足まわりはいまだにチューブドであり、TPUチューブを組み合わせている。最大の理由は「合理性」だ。ご承知のサイクリストも多いだろうが、TLRは運用面でストレスが皆無とは言いがたい。一方、TPUならそのストレスがなく、重量面でもアドバンテージがある。
走行性能こそTLRに譲る部分はあるものの、決して決定的な差ではない。性能だけにフォーカスすれば、TPUは「妥協」と捉えられる面もある。しかし、ピレリが投じた「Pゼロ スマーチューブ RS」と「Pゼロ レース RS」の組み合わせは、性能の「妥協」を感じさせない。
今回試乗する「Pゼロ レース RS」のサイズは28C。「Pゼロ スマーチューブ RS」を装着したシステム重量は262gとなる。一方、TLR仕様のタイヤ単体重量は290gだ。28Cの場合、40~60ccのシーラントを注入する必要があるため、総重量は330~350gに達する。つまり、チューブド構成の方が68~88gも軽量になる計算だ。外周部の軽量化は走りの軽さに直結するため、この重量差は極めて大きい。
今回はTLR仕様と直接乗り比べたわけではないため、純粋に「Pゼロ レース RS × Pゼロ スマーチューブRS」のパッケージとしての評価となる。ちなみに筆者は、Pゼロ レース RSのTLR仕様はもちろん、各社の主要なTPUチューブについても試乗経験があることを付け加えておく。
出足はこの重量の軽さが際立つ。弾けるような軽快感はTPUチューブらしい特性だが、既存の製品が生み出す走りとは明らかに一線を画している。それは走り出してすぐに体感できるレベルだ。
転がりがより一層滑らかになったことで、タイヤが路面に吸い付くような接地感が高まった。その結果、速度の低下が抑えられ、極めてシームレスな巡航を可能にする。加速局面ではTPU特有の反発の強さと滑らかさが相まって、鋭い加速が持続する感覚を味わえるのだ。
当然ながら重量の軽さはヒルクライムに生きてくるが、単に走りが軽いだけでなく、ダンシング時のステアリングから雑味が消え、シッティングへの移行もスムーズになる。この「つなぎ」の良さによる精神的・肉体的な消耗の軽減は、一見地味だが、ライド後半の疲弊した場面で大きな恩恵をもたらすに違いない。
そして、コーナリングやダウンヒル性能は「信頼」と「安心」の言葉に尽きる。元々ハイグリップなピレリだが、ケーシングの動きがより明確になり、荒れた路面であっても自信を持って荷重をかけられる。グリップ性能そのものはもちろん、限界域を把握するための「グリップ感」がより一層豊かになっているのだ。
先述のとおりTLRとの直接比較ではないが、このパッケージはその走りだけで絶対的な魅力がある。転がり抵抗のデータ上はTLRが優位とされるが、今回の試乗体験からすれば実用上の差は肉薄した印象を受ける。筆者としては、TPU特有の軽快感とTLRのような滑らかさが絶妙に融合したこのコンビネーションは、TLRよりも好みだ。
また、Pゼロ スマーチューブ RSを他社の人気レーシングタイヤと組み合わせた経験もあるが、それらと比較しても全く遜色はない。むしろ、コーナリングにおける路面情報の掴みやすさは、Pゼロ レース RSに絶対の分があると感じた。このパッケージは、現代のレーシングユースにおいても最先端の性能を有している。そして、Pゼロ スマーチューブ RSの真価を引き出すなら、Pゼロ レース RSこそがベストな選択となるだろう。
これまでTPU仕様は、運用面のメリットから「これでいい」という下位互換的な文脈で選ばれることも少なくなかった。しかし、今回の組み合わせを体感すれば、その評価は「これがいい」という確信に置き換わる。特にホビーレーサーにとって、このパッケージはロードレーシングタイヤの新たな理想形、あるいは新定番と言える存在になるはずだ。

世界のトップレーサーも使用〜選手コメント
締めくくりに、昨年のツールでポイント賞に輝いたジョナタン・ミラン、そしてグランツールで山岳賞争いの主役を演じるジュリオ・チッコーネの両名の言葉をお届けしよう。コンマ数秒の加速、そして限界域でのコーナリング。過酷なプロレースの最前線において、彼らが「Pゼロ レース RS」シリーズに寄せる信頼は、揺るぎないものがある。
ジョナタン・ミラン 「パワーを即座にスピードに変え、スプリントを制す」


「スプリンターにとって、転がり抵抗の少なさは何物にも代えがたい要素です。RSの路面を滑るような滑らかな走りは誰もが驚くはず。勝敗を決する一瞬のスプリントでは、パワーに対する即座の反応が求められますが、このタイヤは私の要求に見事に応えてくれました。それだけでなく重量の軽さを実現していることにも驚きを隠せません。Pゼロ レース RSシリーズは、まさに『レースのために生まれた』と言っていい一切の妥協がないプロダクトです」。
ジュリオ・チッコーネ 「勝利を約束する絶対のスピードと心強い信頼感」

「Pゼロ レース RSシリーズを試して、最初に突きつけられた事実は『速さ』の衝撃でした。ペダルをこぎ出した瞬間に、従来のタイヤとの決定的な違いを感じました。本当に速い。中でも特筆すべきは、コーナーでの卓越したグリップ性能です。テクニカルな下りでも一切の不安なく、攻めのラインをトレースできる。これはプロの現場において、極めて大きな進化と言えるでしょう。勝利が求められるレースにおいて、このスピードと信頼感ほど心強い武器はありません」。











