猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第52回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第52回

後ろにそびえる、やくらい山。今年(2026年)8月には日本初のUCIグラベルワールドシリーズが開催される。

坂バカ俳優、猪野学(いの まなぶ)。NHK BS1の番組「チャリダー★」で活躍する姿は、多くのサイクリストが知るところだ。Cyclist(サイクリスト)で連載中だった「猪野学の坂バカ奮闘記」が、サイト閉鎖にともないサイクルスポーツへお引越し。さらなる活躍をレポートしていく。今回は、ついのあの人物と対決する(編集部)。

前回のお話(今まで走った中で一番すてきな道のお話)

 

打倒! 竹谷賢二企画がスタート

私はこれまで13年間チャリダーで数々のレースに出場してきた。そのたびに「これまでの集大成!」だと高々と言ってきた。私ほど何度も集大成を迎えたサイクリストはいないだろう。しかしついに! 今回本当の意味での「集大成」を迎えることとなったのである…たぶん。

番組でレースに出るのはこれで最後になるかも知れない。そこで、「最後は竹谷賢二さんに勝とう!」とスタッフから打診があった。私はオフロードが得意だし、超長距離も得意だ。ということで「グラベルクラシックやくらい2025」の男子エリート(100km)に出場することになったのである。

いくらオフロードが得意だといっても竹谷さんはMTBクロスカントリーの元全日本チャンピオンだし、今なお世界トップクラスのトライアスリートだ。そう、勝てるわけがないのだ!

しかし、しかしだ!! オフロードにはパンクやメカトラがあるではないか!? そう、ワンチャンスに賭けるのだ! メカトラを期待している時点ですでに負けているような気もするが、自転車競技は何が起こるか分からない(そして実際にそれは起きた)!!

ということで、私にとっての集大成、打倒! 竹谷賢二企画がスタートしたのである。今回は最後ということで、今までメスを入れてこなかった「食事」にまで踏み込んだ。アスリートフード研究家の池田清子さんに、勝つための食事管理をお願いしたのだ。

 

食事管理により体が変化?

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第52回

レース本番4日前の筆者。1日3食生活のおかげでお腹がぽっこりしている。

 

まず最初に指摘されたのは1日3食しっかり食べること! 私はこれまで1日1食しか食べてこなかった。俳優として太れないという事もあり、いつしか1日1食の食生活になっていたのである。これはアスリート以前の問題だ。人間は一回に吸収できる栄養が限られている。だから3回に分けて食べなければならないのだ。

では3食しっかり食べれば速くなれのだろうか? 体重が増えたら上りは遅くなる…なんて気持ちもあったが、今やそんなことを言える立場ではない。素直に1日3食生活が始まった。

そして問題は食事の内容である。まず当然、脂質は控えなければならない。もちろん揚げ物はNGだ。太るからというよりは体が酸化してしまうからだそうだ。そしてお肉も消化が悪く、体を酸化させるらしい(これは肉の種類にもよる)。体が酸化すると何がいけないのか? 疲労回復が遅くなってしまうのだ。よくツール・ド・フランスで選手がゴール直後に酸化防止ドリンクを飲んでいる光景を見るが、あれは疲労回復のためだ。

お肉よりは消化に優しいお魚の方がいいとのこと。そしてもちろんビタミン豊富な野菜も必須だ! ブロッコリーやブロッコリースプラウトが万能らしい。ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックで“りくりゅうペア”もブロッコリーを食べていた。それらを手軽に一気に摂取できるのがセイロ蒸し料理だとすすめてくれた。具材を入れて10分蒸すだけだし、煮るより蒸した方が栄養が流れ出ないらしい。食後は果物とヨーグルトでビタミンとタンパク質を摂取。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第52回

セイロ蒸し料理 レースが終わった今でも続けている。ポン酢にスリ胡麻で食べるとうまい。

 

1日3食の生活がはじまって1週間くらい経った頃に少しパワーが上がったような気がする。そしてこれだけは明確に言える!「回復が早い!」激しい高強度のトレーニングをしても、2日間休めばしっかりと回復していてまた追い込める。これにより質のいいトレーニングを重ねる事ができる。そして何だか肌艶も良くなり、飢餓感がなくなったからだろうか、メンタルも落ち着いてきた。

一番恐れていた体重は思ったよりは増えない。2〜3kg増えたくらいだ。しかしサイクリストあるあるだろうか? 体幹は大きくなってしまった…ぽっこりとお腹がでてしまった。ズボンがきつい…ビールっ腹のように見えるがこれは「腹圧だ」と信じることにする。

禁断の食事にメスを入れたことにより、私はどこまで強くなれるのだろうか? 竹谷さんには勝てるのだろうか? 50歳を過ぎても「挑戦」すればこのようなワクワク感を味わう事ができる。しかし一歩間違えるとワクワクから地獄のドン底へと叩き落とされる事になるのである。この頃の私はただワクワクしかなく…絶望が待っているとは露ほども思わないのであった。

次回、「やくらい試走編」へと続く…