“混ぜるな危険!?”スポーツバイクのリムブレーキ×TPUチューブ【baruの◯×研究所 第2回】
目次
スポーツバイクの機材は日々最新の製品がリリースされている。近年はディスクブレーキ化やスマートガジェットの登場によって、これまで以上にユーザーが「初めて触れる」ようなアイテムも増えつつある。しかしそんなアイテムによっては、組み合わせや運用方法を間違えると大きなトラブルの原因となってしまうことも……。そんな状況に警鐘を慣らすのが、ブログやSNSで機材やライド情報を発信しているbaruさんだ。そこで、新しいアイテムの運用や組み合わせの「○×」を、メーカーや専門家への取材も交えて実践し紹介。これは、自転車愛好家の知識をアップデートし、より安心してサイクリングを楽しんでもらうためのウェブ連載だ。
はじめに
第2回のテーマは「リムブレーキ(特にカーボンリム)×TPUチューブ」。前回に引き続き「TPUチューブと熱」に関するトラブルを取り上げます。
ディスクブレーキの浸透とともに広がったTPUチューブですが、まだまだリムブレーキユーザーの方も多くいらっしゃいます。当然、軽量なTPUチューブをリムブレーキで使いたいという方も多いはず。しかし、リムブレーキとTPUチューブの組み合わせは、使い方によってはパンクやバーストと言ったトラブルを誘発することがあります。
今回も、実際に発生した「熱によるパンク」の事例を入り口として、専門家からお聞きしたトラブルの発生メカニズムと防止法について紹介していきます。今回は、先進的なTPUチューブを開発する台湾メーカー「Guee(グイー)」の技術者から貴重なお話を聞くことができました。
トラブル実例紹介
まずはこちらの写真を見てください。
真冬に開催されたブルベ(⻑距離サイクリングイベント)の途中でパンク修理をしているときの写真です。
箱根旧道(急勾配で知られる約15kmの峠道)を下りきってしばらく走った所で前輪の感触がおかしいことに気づき、停車して触ってみると明らかに柔らかい。スローパンクでした。
私は年1回くらいはライド中のパンクを経験しますが、そのほとんどは体重が掛かる後輪です。前輪がパンクしたケースというのは、数えるほどしかありません。「なんでパンクしたんだろう?」と疑問に思いつつ、チューブを交換してライド再開。なんとか時間内にブルベを完走することはできました。
帰宅後、パンクしたTPUチューブを確認。少しチューブに空気を入れて水に浸けてみると、バルブ根本から微細な空気漏れがあることが分かりました。これがパンクの原因です。
発生理由と防止方法
では、なぜこのような状態になってしまったのでしょうか。
熱を溜め込みやすいカーボンリム×熱に弱いバルブ根本の接着剤
このスローパンクが起きた時、私の自転車は以下のような構成でした。
- ブレーキシステム:リムブレーキ
- リム素材:カーボンリム
- チューブ:TPUチューブ(リムブレーキ使用可)
この状態で、15kmの急勾配を下りました。体重80kg超の私が。
ブレーキをかけると、当然ながら熱が発生します。リムブレーキの場合は、リムのブレーキ面をブレーキパッドが挟むことで制動をするわけで、ブレーキ面には皆さんが想像するよりも高い熱が発生しています。
アルミリムであれば、そこまで熱が高まることはありません。アルミという素材はヒートシンク(発熱部品から熱を吸収して空気中に逃がす装置)としても使われるほど熱伝導率が高く、瞬時にリム全体に熱を散らします。また、走行風によってもリムは冷やされ、そこまで高温になることがないわけです。
しかし、カーボンリムの場合は話が変わります。カーボンの熱伝導率はアルミの数百分の1しかなく、熱がその場に留まりやすい性質があるからです。ブレーキで発生した熱はリムに留まり、やがてブレーキ面の内側にあるチューブにも到達します。恐らく、今回の事例は以下のように発生したのでしょう。
- ブレーキ面で熱が発生する。
- リムと接するバルブ根本に熱が伝わり、接着剤が柔らかくなる。
- 接着剤が部分的に剥がれたことで空気が漏れた。
この写真は、TPUチューブのバルブ周辺を撮影したものです。バルブを直接チューブ本体に取り付けただけでは空気漏れが生じてしまうので、接着剤を使って楕円形のフタ(バルブベースと呼ばれることが多い)を貼り付けることで気密しています。この接着剤が熱で溶けてしまったことがスローパンクの原因となったわけですね。
長く急勾配のダウンヒルは、特にリムが高温になりやすいシチュエーションです。急勾配であればブレーキ時に発生する熱も大きくなり、長時間ブレーキを掛け続けることでリム内部まで熱が浸透しやすくなります。そこで熱を溜め込みやすいカーボンリムを使ってしまうと……TPUチューブは耐えられなくなるわけです。
私の場合、ダウンヒルでは前ブレーキを8割、後ブレーキを2割くらいの割合で使っています。後輪がパンクせずに前輪がパンクしたのは、前ブレーキをメインで使ったことによるものだったと思われます。
今回は「バルブ根本の接着剤剥がれ」の例を取り上げましたが、チューブ本体が熱によって損傷する場合もあります。詳しくは、記事の後半にて。
ブレーキ熱によるTPUチューブのトラブルを防ぐ方法
リムブレーキでTPUチューブを使う場合に、熱によるパンクトラブルを防ぐにはどうすれば良いのでしょうか。
一番良い対策法は、「リムブレーキにはTPUチューブを使わない」ことです。特にカーボンリムの場合は、極力TPUチューブを使わないことをオススメします。ブチルチューブやラテックスチューブを使いましょう。
それでも、「リムブレーキでTPUチューブを使いたい」という方もいらっしゃると思います。その場合は、メーカー側がリムブレーキでの使用を許可しているTPUチューブを使ってください。TPUチューブには、「リムブレーキ/ディスクブレーキ兼用」のものと、「ディスクブレーキ専用(リムブレーキ禁止)」のものがあります。リムブレーキで使用する場合には、前者のTPUチューブを選んでください。後者のTPUチューブをリムブレーキで使用すると非常に危険ですのでやめましょう。
リムブレーキで使用が許可されているTPUチューブであっても、カーボンリムでの使用は避けたほうが賢明です。リムブレーキでTPUチューブを使うのであれば、アルミリムで使うことをオススメします。熱の拡散が早いので、トラブルが起こりにくいはずです。
リムブレーキでTPUチューブを使う場合には、「ブレーキの掛け方」にも気をつける必要があります。長いダウンヒルでは、長い時間ブレーキを掛け続けることは避け、短いブレーキを繰り返し行う(いわゆるポンピングブレーキ)ようにするとブレーキ面の温度が上がりにくくなります。前後のブレーキをバランスよく使うことでも、熱の発生を分散させることができます。
ダウンヒルの途中で自主的に休憩を入れて「リムを冷ます」のも良いでしょう。長いダウンヒルではブレーキを掛け続けて手も疲れるので、握力を回復する意味でも自主休憩を入れることは有効だと思います。
温度の問題なので、季節も関係します。夏場は特に気をつけて運用するようにしてください。
Guee技術者に聞く、「リムブレーキとTPUチューブ」
前の章までで、「トラブルの発生理由」と「防止方法」については述べ終わりました。
しかし、「研究所」を名乗る以上、これだけで終わっては名前倒れ。本連載では、読者の方により理解を深めていただくため、毎回専門家にお話を聞いて詳しいメカニズムについても解説をしていこうと考えています。
今回は、2024年からTPUチューブを販売している台湾メーカー「Guee(グイー)」の技術者の方にインタビューを行いました。
数あるTPUチューブメーカーの中でなぜGueeに話を聞いたのか。それは、「ディスクブレーキ専用のTPUチューブ」しか販売していない数少ないメーカーだからです。
2026年現在でこそディスクブレーキ専用のTPUチューブは増えてきましたが、2024年当時は「リムブレーキ/ディスクブレーキ兼用」のTPUチューブが大半を占めており、「ディスクブレーキ専用」のTPUチューブは異質な存在でした。
ディスクブレーキ専用としてしまえば、リムブレーキユーザーには売れず、販売量を落とす可能性もあります。それでもディスクブレーキ専用として販売したということは、「恐らくリムブレーキにおける熱トラブルを考慮した結果なのだろう」という推測が立ちます。そして、その判断に至るまでには、TPUという素材の特性と、リムブレーキで発生する熱に関するデータ収集を行っているはず。
そんな理由から今回の「リムブレーキ×TPUチューブ」というテーマにはピッタリだと思ってお話を聞くことにしたのですが……想像していた以上の詳細な回答とデータを頂くことが出来ました。多分、今までどこにも出ていないTPUチューブに関するデータも含まれていると思います。
ここからは、頂いた回答を元に「TPUチューブがブレーキ熱によって受けるダメージ」について詳しく述べていきます。
リムブレーキで発生する熱
まず、「リムブレーキでブレーキ面にどのくらいの熱が発生するのか」について尋ねました。回答は以下のとおり。
問題になるのは、山岳地帯での長距離のダウンヒルです。カーボンリムは熱伝導率が低いため、長時間ブレーキを掛け続けるとリム内に熱が蓄積されてしまいます。このとき、ブレーキ面の温度は180~220℃に達します。私たちの実験で記録されたピーク温度は250℃を超えていました。 また、カーボンリムのブレーキ面は完全に平滑ではないため、局所的に超高温に達する箇所が観測されました。
まず驚いたのは、「平地のブレーキでも100℃を超える温度になっている」という点です。アルミリムであれば瞬時に熱がリム全体と空気中に拡散しますが、熱伝導率の低いカーボンリムでは(瞬間的ではあるものの)かなりの高熱が発生しているわけですね。
そして、一番問題となるのはやはり「長距離のダウンヒル」。熱伝導率が低いカーボンリムに対してブレーキを掛け続けると、熱はどんどんリムに溜まっていきます。その熱はリム内部を伝わり、TPUチューブに届くことで熱トラブルを起こすことになるわけです。
「ブレーキ面の平滑度」については盲点でしたが、言われてみれば確かに。2020年以降ともなるとカーボンリムのブレーキ面の平滑度も高くなりましたが、それ以前は大手ブランドでもブレーキ面が多少波打っているケースもあったことが思い出されます。そうなると局所的に超高温になる場所が発生し、その箇所からチューブへの熱ダメージが発生しやすくなるとのことでした。
TPUチューブの状態変化温度
TPUは「Thermoplastic Poly-Urethane(熱可塑性ポリウレタン)」の略称です。その名の通り、熱を受けると柔らかくなる特性があります。
次の質問は「TPUチューブはどのくらいの温度で状態変化が起こるのか」。回答は以下のとおりです。
- ガラス転移点(Tg):45~55℃
- 軟化/クリープ開始:70~90℃
- 接着剤の劣化:90~110℃
- 深刻な変形リスク:110℃以上
(訳注) TPUや接着剤には多種多様なグレードが存在し、その特性や状態変化が起こる温度は、個別の配合によって異なります 。ここで挙げられた温度は、自転車用インナーチューブに使用される一般的なTPU素材における「物理的な特性の目安(平均的な指標)」として提示されたものです。
プラスチックやゴムなどの高分子材料を温めていくと、「硬くて脆い」状態から「ゴムのように弾性を持つ」状態へと変化します。このときの温度をガラス転移点(Tg)と呼びます。ガラス転移点の温度を上回ると素材が軟化しますが、冷えれば元の状態に戻ります。まだ後戻りの効く段階です。
次の段階として挙げられているのが「軟化/クリープ開始」。クリープとは、長い時間を掛けて不可逆な変形が起こることを指します。これは冷えても元には戻りません。
その次の段階は「接着剤の劣化」です。TPUチューブにおいて、チューブ本体とバルブが接着剤で貼り付けられていることは既に述べましたが、具体的には90~110℃まで上昇すると接着力が落ちるとのことでした。
最終的に、110℃を超えると深刻な変形リスクが生じるとされています。
リムブレーキのブレーキ面で発生する温度を見比べてみると、それよりも低い温度域でTPUの状態変化が起きていることが分かります。実走時は走行風による冷却があるとはいえ、長いダウンヒルではリム内部が110℃を超える温度に達する可能性は高く、TPUチューブにとっては高リスクな状態であることが数値上でも確かめられました。
なお、ある工夫を行うことでTPU素材の耐熱性を上げることは可能です。しかし、TPUの耐熱性を上げると、それと引き換えに失う性能もあります。その詳細については後述します。
TPUチューブが熱でパンクに至るプロセス
続いて、「TPUチューブが高温にさらされた場合、どのようなプロセスを経てパンクに至るのか」についてお聞きしました。回答は以下のとおりです。
熱によるTPUチューブの故障は、主に「融解」ではなく「機械的劣化」によって引き起こされます。各ステップごとの挙動は以下のとおりです。
1. TPUの温度がガラス転移点(Tg)に到達
45~55℃になると、素材の弾性が低下して柔らかくなります。
2. 圧力下でのクリープ発生
更に温度が上昇し、70~90℃に達するとクリープが発生します。軟化したTPUがチューブ内圧によって伸ばされ、肉厚が不均一になります。
3. 境界におけるストレス発生
90~110℃に達すると接着剤が劣化します。温度が上がると物質は膨張しますが、TPU素材とバルブ素材は膨張する具合が異なります。バルブはTPUほど膨張しないため、TPUとバルブの間には「せん断応力」が発生します。接着剤が劣化した状態でせん断応力が発生すると、接着面の一部が剥離し始めます。
4. 温度による圧力上昇
空気の温度が上昇すると、圧力が上昇します(60℃上昇につき+1bar)。このチューブ内部の圧力上昇が、肉厚の不均一化や接着面の剥離を加速させます。
5. 故障
1~4までのプロセスを経た結果、バルブ根本からの空気漏れや、チューブ表面の肉厚が薄くなった場所が裂けます。結果として、パンクが発生することになります。
こちらの回答では、「バルブ根本の接着剤剥がれ」と「チューブ表面の裂け」という、TPUチューブで起きやすいパンクの発生プロセスについて触れられています。
意外だったのは、チューブ表面に発生するパンクのメカニズム。私は「熱でTPUが溶けた」ことで穴が開くのだと考えていましたが、実は「素材軟化+空気圧上昇」によって肉厚が薄くなることで最終的に「裂け」に至るとのことでした。今回の回答ではTPU素材の融点については言及されていませんでしたが、恐らくは200℃より上です。そこに達するよりも前に、TPU素材の軟化と空気圧上昇によってチューブが耐えられなくなって裂けてしまうわけですね。
リムブレーキ×TPUチューブでダメージを受けやすい箇所
「TPUチューブをリムブレーキで使用した場合、熱ダメージを受けやすい箇所はどこなのか」についてもお聞きしました。回答は以下のとおりです。
バルブとチューブの境界最もダメージを受けやすいのは、バルブ根本とチューブの接合部であると思われます。ここは、「TPU」「接着剤」「バルブ」という3つの異素材の境界であることが理由です。
既に述べた通り、70~90℃でTPU素材が軟化し、90~110℃で接着剤が劣化します。素材の膨張率の差によってせん断応力が発生し、接着部の剥離が生じます。
これは、TPUチューブの熱による故障でもっとも典型的なパターンです。
2. チューブ表面
次に破損が起こりやすいのが、チューブ表面です。
こちらも既に述べた通り、温度が上昇するとクリープ現象を起こして肉厚が薄くなります。空気圧が上昇することで変形はさらに加速し、やがて故障に至ります。
こちらの故障は、ブチルチューブでよくあるピンホールではなく、薄くなって裂けることによって生じています。
3. チューブの継ぎ目
TPUチューブには、「継ぎ目」が存在します。こちらも境界面ではありますが、熱ダメージの観点ではバルブ接合部より故障しにくい場所です。故障するとしても、バルブ接合部・チューブ表面より後になります。
ただし、古かったり、熱を受けた履歴のあるTPUチューブはこの部分の故障が起こるケースもあります。
一番起きやすい箇所は「バルブ接合部」。まさに私が箱根のダウンヒルで陥ったケースですね。リムブレーキでのTPUチューブのパンクとしては、もっとも起きやすいパターンのようです。
前の章で述べた通り、比較的低い温度で接着力が弱まるため、チューブ自身に穴が開く前に接着剤の剥離によるパンクが起きる――ということになります。
次に起こりやすい箇所が「チューブ表面」。熱によって軟化したTPUチューブが内圧で膨らみ、裂けてしまうパターンです。上の写真はリムブレーキでの走行時に実際に起きた「裂け」の様子。内圧を受けているので外側に膨らんで裂けていることが良く分かります。
最後が、「チューブの継ぎ目」です。こちらも接着部分なので熱による影響を受けそうなイメージはありますが、バルブ接合部と異なり「同素材の接着」です。膨張率は同じなのでせん断応力は生じにくく、トラブルが起きるとしても最後になるのでしょう。
ここで出てきた「熱を受けた履歴」というワードにも注目が必要です。たとえ熱を受けて破損が起きなかったとしても、そのダメージは蓄積されているということ。「前回は大丈夫だった」使い方でも、二回目では破損が起きる可能性があるということです。極力、TPUチューブには熱を与えないように運用するべきということになります。
Guee「AeroLite」がディスクブレーキ専用である理由
Gueeの販売しているTPUチューブ「AeroLite」がディスクブレーキ専用である理由についても聞きました。回答は以下のとおりです。
ディスクブレーキはローターでブレーキ熱を遮断し、リムとチューブを外気温に近い状態に保つため、AeroLiteのような超軽量TPUチューブにおいて唯一安全に使用できるケースとなります。
Guee AeroLite TPUチューブに「ディスクブレーキ専用」のラベルが貼られているのは、リムブレーキシステムが、超軽量TPUの安全な熱動作範囲を超えてリムベッドの温度を上昇させる可能性があるためです。
やはり、リムブレーキで発生する熱が主な理由でした。
これまでの回答から分かるように、Gueeは「TPUチューブと熱」に関する実験を数多く行い、データを取ってきたようです。その結果、「リムブレーキで発生する熱によるリスクはどうしても排除できない」との判断からディスクブレーキ専用としたようですね。
実はもう一つ、Gueeが「ディスクブレーキ専用」とした理由があります。
TPUの耐熱性を向上させるには、一般的に以下の対策を行います。
- 結晶化度を高める。
- 補強フィラーを添加する。
- 剛性の高いポリマーをブレンドする。
これらの変更を加えると耐熱性は高まりますが、同時に以下の変化も起こります。
- ヤング率の増加
- 弾性の低下
この変化により、走行時の「しなやかさ」と「振動吸収性」を損なってしまうのです。
(訳注) 「結晶化度」「補強フィラー」「剛性の高いポリマー」「ヤング率」と材料系の専門用語が出てきましたが、長くなるので本記事では説明いたしません。
要約すると、「耐熱性を上げることはできるが、それによってTPU素材が固くなってしまう」ということです。
TPU素材が固くなると、転がり抵抗に直結する「しなやかさ」が低下し、「振動吸収性」が下がることによって乗り心地も悪くなります。Gueeはそれを嫌ったのです。
弊社のTPUチューブ「AeroLite」は、意図的に以下を優先した設計を行いました。
- 最大限のしなやかさ
- 転がり抵抗の低減
- 乗り心地の快適さ
- パフォーマンスフィール
そして、以下のトレードオフを受け入れました。
- リムブレーキで発生する熱に対するマージンを持たない
- ディスクブレーキ専用とする
これは「限界」ではなく、パフォーマンス主導による設計上の「選択」です。
(訳注)「パフォーマンスフィール」という言葉はどう訳すのが適切か分からず、そのまま書きました。「乗り心地」と分けて書かれていることから、「加速時の反応の良さ」「コーナリングでの粘り・接地感」など走行に関するフィーリングの良さを表しているものと思われます。
Gueeは「耐熱性を上げるよりも、パフォーマンスの高いTPUチューブを作りたい」という想いから、あえてディスクブレーキ専用にしたとのこと。AeroLiteチューブの発売は2024年秋。もはやロードバイクブランドの販売するフレームの9割はディスクブレーキとなっていたこともあり、「ディスクブレーキ専用」で問題ないという判断に至ったのでしょう。
なお、回答には含まれていませんでしたが、調べてみると接着剤も耐熱性を上げることは可能だそうです。ただし、こちらもTPUと同様に耐熱性を上げると固くなってしまうようです。適度な弾性があるからこそチューブとバルブ間のせん断応力を吸収できるわけで、あまりにも硬いと衝撃を吸収できずに割れてしまう可能性があります。このように、接着剤の耐熱性も大きく上げられない事情があるようでした。
Guee「AeroLite」がアルミバルブを採用した理由
こちらは今回というよりは前回(電動ポンプ×TPUチューブ)のテーマに近い話になるのですが、AeroLiteチューブのバルブについてもお聞きしました。
一般にTPUチューブで採用される樹脂バルブはアルミバルブよりも軽量ですが、特に電動ポンプを使用する際に、故障や破損を起こすリスクがあります。
我々の計測では、電動ポンプは以下のように温度を上昇させます。
- 通常時(4-5bar):40~60℃
- 高圧時(7-9bar):60~80℃
これらの熱により、樹脂バルブは軟化・溶解する可能性があります。
Gueeのアルミバルブは、耐熱性を持ちながらも非常に軽量で、ホイールの回転バランスを阻害しません。
仏式のチューブに採用されるバルブ素材は、大きく分けて「真鍮」「アルミ」「樹脂」の3種類が存在します。真鍮がもっとも重く、樹脂がもっとも軽く仕上がります。
TPUチューブの大半で採用されている樹脂バルブが熱に弱いことは本連載の第一回で述べました。この点についてもGueeはしっかりと把握しており、電動ポンプを使った場合でもトラブルを起こさないようにアルミ製バルブと採用したとのことです。第1回の記事でCYCPLUSから聞いた温度域と、今回Gueeから聞いた温度域は一致していることからも、しっかり実験を行ったことが伺えます。
ブチルチューブで一般に使用される真鍮バルブではなく、アルミバルブを採用したのは「軽く仕上げたい」ことが理由のようです。試しに、破損したチューブからバルブステム部分のみを取り出して重量を比較してみました。
- 真鍮バルブ:5.1g
- アルミバルブ:2.6g
- 樹脂バルブ:1.8g
アルミバルブは樹脂バルブほどは軽くならないものの、真鍮バルブよりは大幅に軽くなるようです。
チューブ本体は「耐熱性よりも性能」を取ったGueeですが、バルブは「耐熱性重視」。今後、リムブレーキの割合は減っていくと思われますが、電動ポンプの割合は増えていくはずなので、このような判断に至ったのでしょう。極めて合理的です。
おわりに
以上、「リムブレーキ×TPUチューブ」で発生する、熱によるパンクリスクについてのお話でした。
質問先としてGueeを選んだのは「熱に関する知見を持っていそう」という理由からでしたが、期待以上に詳しい回答を頂けて驚きました。「最高の性能を持つTPUチューブを作りたい」という姿勢が垣間見えたインタビューとなりました。
リムブレーキでTPUチューブを使う場合、まずは「リムブレーキ使用可」と書かれたものを選んでください。そして、できればカーボンリムでの使用は避け、アルミリムで使用するようにしましょう。また、長いダウンヒルを走行する際には、ポンピングブレーキと自主的な停止を併用し、リムを冷やすようにしてください。
次回も、「良かれと思った(実はリスクのある)組み合わせ」と、その対処について紹介予定です。お楽しみに。
筆者プロフィール

baru
ブルベ関連アイテムのレビューをブログ「東京⇔大阪キャノンボール研究」やSNSで発信するロングライド系自転車乗り。



















