安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.4

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安井スーパーシックスエボ4

徹底評論第13回は、近年稀に見る「衝撃のモデルチェンジ」となったキャノンデール・スーパーシックスエボである。アメリカでのローンチイベントに参加し、帰国後も日本で何度も試乗を行い、さらにこの連載のために新型エボの全モデルに(ホイールを統一して)乗った安井。新世代万能ロードに関する考察をしながら、新型エボを分析・評価する。

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CFRPの普及でやりたい放題の形状自由化時代へ

その後、カーボン時代になってから数年は金属時代の設計思想から脱却しきれずにいたが(トレックの5000シリーズ、ルックの481など)、2004年のスコット・CR-1を嚆矢として、カーボンフレーム形状自由化(フレーム各部を大幅に異形加工することによって走行性能を性格付けようとする設計指針)を迎える。
このとき初めて、ロードバイクは「設計自由度の高いCFRPを使ってやりたい放題状態」に突入し、個性あふれるものになったと言える。
シートステーを嘘みたいに薄くしたサーヴェロ・R3(2006)や、フレーム全体を流麗な曲線で包んだオルベア・オルカ(2007)は、その流れにいち早く追従した例だ。両車とも金属では到底実現不可能な形状である。
そして、フレーム形状自由化は2008年にキャノンデール(スーパーシックス)、デローザ(キング3)、スペシャライズド(ターマックSL2)、トレック(マドン)、ピナレロ(プリンスカーボン)らで一気に爆発。ジャイアント(TCRアドバンスドSL、2009)、BMC(SLR01、2010)、ルック(695、2011)も加わる。フォークやシートポストやフレームに大穴を穿ち、そこにエラストマーを仕込んだスペシャライズドのルーベもその一例だ。あの頃はどのメーカーも好き勝手にフレーム形状で遊んでいた。

そして今。解析技術の進歩によって、「カーボンフレーム形状自由化時代」が終わりを迎えつつあるのだ。ある条件下において工学的正解は一つしかない(ペダリングフィールや乗り味や乗り心地は工学ではない)。だからどのメーカーも万能ロードとしては①(各チューブのカムテール化)と②(ケーブル類の内蔵)と③(リヤ三角のコンパクト化)という答えに帰結するのだ。結果、「外形=“応力担体”」の自転車はどれも似てきてしまう。経験やセンスがモノを言っていた昔とは違って、解析法の進化によって自転車が工学的な正解に近づいている時代。

かつては素材の設計自由度が低かったため、どれも似ざるを得なかった。現在は素材の自由度は高まったが、正解が一つに収斂しつつあるため、どれも似てきた。その二つの時代に挟まれていたのが「フレーム形状自由化時代」だったと言える。
長い目で見れば、ここ十数年の「形状自由化」が特殊だったのだ。ロードバイクは「似てきた」のではなく、「どれも一緒だった時代に戻りつつある」のである。

要するに「万能ロードがどれも似てきたのは、解析ソフトを使っているから」は大筋で正解だと言えそうだ。この「コンピュータでガンガン解析してどんどん工学的正解に近づけていく」という方向性はもう変わらないだろうし、主要メーカーが①②③の全てを満たしたモデルを出し始めたことで、小規模メーカーもこの流れに追従することになるだろう。今後のロードバイクシーンは今よりもっと「似たものばかり」になるはずだ。

 

“机上の空論”によって失うもの

マクロな視点からいきなりミクロな視点に移行するが、近年のこれらのバイクを見ていて気になることがあるので、小言ジジイと言われることを承知で書いておく。
シートポストをカムテール形状にするモデルが多くなった。クランプ機構をトップチューブに内蔵し、シートポストを前から押し子で押して固定する機構のものも増えた(というかトップモデルではほとんどそうだろう)。
このカムテール断面シートポスト&シートクランプ内蔵フレームで注意したいのは、シートチューブ上端(トップチューブ後端)にクラックが入りやすいことである。カムテール形状の2本のエッジの部分に、縦にクラックが入ってしまうのだ。
信じがたいことだが、ここ数年で検分した20台ほどのこのような設計のフレームのうち、実に2割ほどにクラックを見つけた。試乗で酷使されていることもあるのだろうが、これはトンマな設計が原因でもある。

安井スーパーシックスエボ4

真円のシートチューブ&シートポストであれば体重を比較的広い面積で受けられるが、後端がフラットなカムテール断面では、左右のエッジにストレスが集中してしまう。しかも、通常のトラス構造ならばトップチューブ後端をシートステーが支えてくれるが、近年流行りのコンパクトリヤ三角はトップチューブ後端が薄壁一枚になってしまう。
さらに、真円と違い、カムテール形状は雄(シートポスト)と雌(シートチューブ内壁)の公差の設定も難しく、かつ製造時に形状精度を上げにくいため、指定以上のトルクで締めないと固定されないものも多い(指定トルクで締めているのに試乗中にどんどんサドルが下がってくるフレームのいかに多いことか!)。
シートチューブ内形とシートポスト外形が合っていないフレームで、なんとか固定するために押し子状のクランプをギンギンに締め、そこに体重100kgのライダーがドシンと乗り、抜重ってなんですか状態で段差をガツンと降りでもすれば、薄いシートチューブが耐えきれずに破断するのもしょうがない気もする。

カムテール形状シートポスト&内蔵シートクランプ&コンパクトリヤ三角は、そのような危うさを内包した設計なのだ。
シートクランプを内蔵することでシートポストの出代が増え、そのぶんシートポストがたわみやすくなり快適性が向上する、とメーカーは主張するが、それならサドル高が1cm変わるだけで快適性が激変するはずである。しかし実際はほとんど変わらないだろう。そんな机上の空論のために失うものが大きすぎる、と個人的には思うのだが。

安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.5に続く