安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.2

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安井スーパーシックスエボ2

徹底評論第13回は、近年稀に見る「衝撃のモデルチェンジ」となったキャノンデール・スーパーシックスエボである。アメリカでのローンチイベントに参加し、帰国後も日本で何度も試乗を行い、さらにこの連載のために新型エボの全モデルに(ホイールを統一して)乗った安井。新世代万能ロードに関する考察をしながら、新型エボを分析・評価する。

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空力と快適性が必須科目に

数年前であれば「ケーブルフル内蔵」は先鋭のエアロロードのみが持つ必殺技のようなものだった。それが万能ロードにまで広がったのは、実は空気抵抗削減という実利だけが理由ではない。「ユーザーは見た目がクリーンな自転車を望んでいる」というマーケティング結果によるものでもある。ケーブルが外に出ているとユーザーに「古臭い自転車だ」とみなされる時代になった、とメーカーのマーケティング部門が判断しているのだ。
それによって我々自転車乗りはメンテナンス性の悪化やハンドル周りの汎用性低下で悩まされているのだから、自業自得というかなんというか。

①(各チューブのカムテール化)と②(ケーブル類の内蔵)に呼応して、軽量化のプライオリティはやや下がっている(というか①と②を取り入れると自ずと重くなってしまうので重量にはあえて言及しなくなった、と言った方が正しいか)。

③(リヤ三角のコンパクト化)は快適性の向上を狙ったもの。シートステーとトップチューブの交点を下げることでシートチューブが弓なりに変形しやすくなり、快適性の向上が見込めるのである。これには前面投影面積がわずかに減り、シートステーに起因する乱流が少なくなり、空力性能が向上するというメリットもある。
この「リヤ三角のコンパクト化」について、“リヤセクションの剛性を上げるため”と説明されることも多いが、知己のエンジニアに聞いたところ、「こうすることで剛性は向上しないでしょう。むしろ下がることが多いはず。近年の自転車がこういう設計になっているのは、リヤ三角の剛性はもう十分だと判断し、あえて剛性を下げて快適性を上げるためでは」とのことだった。
事実、コンパクトリヤ三角の意図を新型エボのエンジニア、ネイサン・ベリー氏に尋ねると、「シートステーとシートチューブの交点の位置を下げると、シートチューブがしなりやすくなります。この設計はそれを狙ったもの。トップストーンカーボンと同様の考え方です。従来のようにシートステーをソフトにするよりも、新型エボのような設計にしてシートチューブをフレックスさせるほうが快適性は上がります。もちろん空力面でのメリットもあります」という回答だった。

安井スーパーシックスエボ2

 

近代万能ロードはなぜ似てしまうのか

①②③に加え、タイヤクリアランスを広げ、太いタイヤを許容する設定にしていること(=④)も共通している。当然、主流になりつつあるワイドタイヤ&ワイドリムに対応させるためである。これはロードフレームのエンジニアにとって悩みの種の一つだろう。
ただでさえロードバイクのハンガー幅はQファクターを詰めるため狭くならざるを得ない。しかもそこにできるだけしっかりとチェーンステーを接合しなければならない。それに加えて「タイヤクリアランスを確保しろ」という条件が加わると、もう制限だらけの設計になる(グラベルロードのハンガー周りの四苦八苦を見れば一目瞭然だろう)。
確かに汎用性・メンテナンス性が高くトラブルの少ないスレッド式(=ハンガー幅狭い)もいいが、それと広いタイヤクリアランスと高いハンガー~チェーンステー剛性を同時に実現させるのは難しい。近年の流行(ワイドタイヤ、チューブ大径化)とスレッド式BBの相性は悪い。こればっかりは物理の壁なのだ。

最近の万能ロードの多くが①と②と③と④を同時に取り入れている。カムテールでケーブル内装でリヤ三角がコンパクトで太いタイヤを履く。これが最新万能モデルの典型であり、特に①~③はフレームの形状を決定づける要素なので、どうしても似てきてしまうのだ。
しかしそれについて自転車ライターが「どれも似てきましたねぇ」なんて書いてちゃ小学生の感想文なので、「なぜ似てきたのか(=なぜ近年の万能ロードは①~③を同時に取り入れるようになったのか)」について、ちょっとした考察を試みることにしよう。

理由その1は、エアロ化の波が万能モデルにも伝染したから。
数年前にエアロロードの一大ブームが巻き起こったことで、各社はそれまで感覚で判断していた(もしくは無視していた)空力性能を、CFDや風洞実験を使って数値的に解析するようになった。それら知見の蓄積によって、「自転車の速度域でもフレームのエアロ化は効く」ということが分かってきた。その結果、各メーカーの設計思想が「軽くするより、硬くするより、少しでも空力を向上させたほうが速いバイクになる」というものになった(あくまでシミュレーション上では、だが)。
だから万能モデルのみならず、エンデュランスロードまでもがカムテール形状を使い、ハンドルを翼断面にし、ケーブル類をフル内蔵するようになったのだ。もちろん、「エアロにしないと売れない」というビジネス上・マーケティング上の理由も大きいだろう。

安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.3に続く