衝撃的エアロロードバイク ファクターの「ワン」に乗ってみた

目次

ワン

トライスポーツが取り扱うイギリス生まれのレーシングブランド「FACTOR(ファクター)」。その処女作となるコンセプトモデル「001」からの流れをくむ先進エアロロード「ONE(ワン)」がフルモデルチェンジし、早くも日本に上陸した。フレームセットおよび5種類の完成車が用意されており、今回はアルテグラ仕様の完成車に試乗することができた。

 

ファクター・ワンの特徴

ワン

ファクター・ワン 【試乗車スペック】●価格/181万5000円(税込) ●コンポーネント/シマノ・アルテグラDi2 ●ホイール/ブラックインク・62 ●タイヤ/コンチネンタル・グランプリS TR 28c ●ハンドルステム/ファクター・ワン一体型ハンドルバーステム ●サドル/セライタリア・SLRブーストスーパーフロー 145mm ●シートポスト/ファクター・ワンシートポスト ●ボトルケージ/ブラックインク・エアロケージ ●サイズ/52 ●カラー/ニンバスグレー

 

2024年、ファクターはUCIの「3:1ルール」撤廃を受けて、究極のオールラウンダーであるオストロVAMのエアロダイナミクスをアップデートし、「オストロVAM 2.0」をリリース。それからわずか2年後、同ブランドのアイコン的な存在である「ワン」をフルモデルチェンジして発売した。

新型ワンが誕生するきっかけとなったのは、イギリスのTT王者であるアレックス・ドーセット元選手の「リードアウトバイクが欲しい」というリクエストだったという。チームのスプリンターを集団から引き離すために、空力性能に優れたバイクが必要とされたのだ。

開発にあたり、チーフエンジニアとなったのは、サーヴェロなどで手腕を発揮したグラハム・シュライブ氏だ。付け加えると、ファクターの処女作である001を開発する際、ベンチマークとして選ばれたのはサーヴェロのS3だった。これは現オーナーであるロブ・ギテリス氏が所有する台湾工場で同モデルを製造していたことが理由だ。

チーフエンジニアのグラハム氏はUCIと密接に連携し、最新のルール内でエアロダイナミクスを最大限に高めることを追求。ダウンチューブボックスがフォークの一部を覆うことが許可されたことで、フォークブレードを前方へオフセットしたデザインが可能となった。結果、ヨー角±15°にわたる空気抵抗は、オストロVAM 2.0に対して平均で8%も下回っている。

特異なスタイリングもさることながら、注目すべきはポジション設定だ。近年、プロ選手の乗車位置が徐々に前寄りになり、さらにショートクランクが主流になりつつあることから、これらに特化したジオメトリーを導入。専用のハンドルやシートポストもそうしたコンセプトを反映したものなので、慣れ親しんだポジションが出せない可能性も。そのあたりを十分に理解した上で購入を検討してほしい。

 

フォーク

新型ワンにおける最もアイコニックなパーツが、このワイドスパンなフォークだろう。もちろん最新のUCIルールの範囲内に収まるように設計されている。なお、最大タイヤクリアランスは実測で34mmとなっている

ハンドルステム

コラムではなく、ヒンジフォークに直接マウントするワン専用のハンドルバー。幅は380mm一択で、仮想ステム長は1:110mmから5:150mmまでの5種類。また、1~3については20mm高いハイバーが用意される。5mm厚のスペーサーで最大15mmまで高く上げることが可能だ。なお、フレームセットにもガーミン専用マウントとファクターのバーテープが付属する

ヘッドチューブ

ヘッドパーツのベアリングはFSA製で、サイズは上下とも1-1/8インチ。フォーククラウンに相当する部分とハンドルマウントをつないでいるのがチン(顎)フェアリングシステムだ

シートポスト

オストロVAM 2.0の流れを汲む非常に薄いシートポストを採用。オフセットは0mmと30mmの2種類 で、30mmの方でもオストロVAM 2.0の0mmよりも前方に位置するという攻めた設計だ

ダウンチューブまわり

ワンのアイコンであったツインベーン(双胴)と決別したダウンチューブ。標準装着されるブラックインク製のボトルケージは、一般的な円筒形のボトルに対応したもので、ワンのダウンチューブとシートチューブそれぞれの形状に合うように専用設計となっている

バイクを後ろから

シートステーは、フォークブレードおよびライダーの脚部で発生した負圧エリアに隠れるように位置している。シートチューブの薄さにも注目を

UDH

体積を最小限に抑えるべく薄型設計を採用したファクターのミニUDH。リヤのスルーアクスルは12×142mmだ

フォークのスルーアクスル

フロントのスルーアクスルは12×100mm。エアロダイナミクスを追求しつつもステルスエンドは採用していない

フォークのブレーキキャリパー

特殊なデザインのフォークだが、一般規格のブレーキキャリパーが装着可能。ディスクローターは前後とも160mm径まで許容する

BBまわり

BB規格はオストロVAMと共通のT47Aで、セラミックスピード製のアルミカップとベアリングを標準装着。シマノDi2のバッテリーはBBパーツのすぐ後方にレイアウトされ、車体の低重心化に貢献する

 

ファクター・ワン

●価格/
115万5000円(税込/フレームセット)
156万2000円(税込/フレームセット、ブラックインク・62ホイール付き)
209万円(税込/シマノ・デュラエース完成車)
181万5000円(税込/シマノ・アルテグラ完成車)
214万5000円(税込/スラム・レッドeタップAXS完成車、パワーメーター付き)
184万8000円(税込/スラム・フォースeタップAXS完成車、パワーメーター付き)
220万円(税込/カンパニョーロ・スーパーレコード完成車)

※シマノ、スラム完成車はセラミックスピードのビッグプーリーケージに変更するアップチャージが可能
シマノ完成車/OSPW RSアルファディスク9250/8150 +10万4500円(税込)
スラム完成車/OSPWエアロアルファスラムレッド/フォースAXS +11万5500円(税込)

●サイズ/47、52、54、56、58

●カラー/オニキスブラック、ニンバスグレー、ブラッシュ、シルバーストーン

 

ワン試乗インプレッション〜卓越した空力性能、減速方向も秀逸

ワンに乗る大屋さん

インプレッションライダー/自転車ジャーナリスト 大屋雄一 モーターサイクルにも造詣が深いフリーランスライター。ヒルクライム、エンデューロ、ブルベ 、シクロクロス、MTBレース、ママチャリ耐久、仮装レース、バイクパッキングなど、自転車遊びを一通り経験して今に至る。今年は12年ぶりに富士ヒルにエントリーした

 

2019年にロータス/ホープHB.Tが登場して以降、トラックバイクのエアロダイナミクスが一気に加速したように思う。ワイドスパンなフォークとシートステーは、空力的には理に適っているのだろうが、ほぼ無風の室内競技だからこそ有効なのではないか。それに、100kgを超えるような巨漢選手の2000Wオーバーのもがきにも耐えられるのだから、剛性は相当に高いはず。よって、このテクノロジーがロードバイクにまで波及することはない、そう思っていた矢先に新型「ファクター・ワン」が発売されたのだ。

まるで最新のトラックバイクにロードコンポを組み込んだようなこのニューモデル。PCのモニターやスマホで見る以上に実車のビジュアルはインパクト大だ。バヨネット(銃剣)と名付けられたフォークの角度と、実際のキャスター角が違うのは理解できる。だが、フォークブレードがここまで垂直に近いと、少なからず不安を覚えるのは事実だ。

特殊なハンドルシステムゆえに、とりあえずサドルの高さと前後位置のみを調整する。体重の多くがフロントタイヤに分布しているような、いわゆる近代的な前乗りポジションとなる。乗車姿勢が普段とだいぶ異なることから慎重に走り始めたのだが、微速域からの身のこなしがあまりにも“自然”であることに驚いた。視界の下方では常にバヨネットフォークが存在感を主張してくるが、操舵自体は至ってナチュラルだ。この基本的なハンドリングは、時速50km付近まで上げても大きく変わらないのだ。

コラム軸から離れた位置に重量物(フォークブレードやチンフェアリングなど)が存在することから、少なからずステアリングモーメントに影響が出るはず。また、フォークブレードが空気層に挟まれるような力が生じるかもしれない。などと試乗前にはあれこれ想像を膨らませていたのだが、そんなことにファクターのエンジニアたちが気付かないわけがなく、当然ながらそうした問題は完璧に解決していたのだ。

ワンのエアロダイナミクスのスゴさは、特に向かい風の中で実感できる。普段よりも少ない出力で巡航できるイメージであり、これについては完成車に標準装着されるブラックインク・ブラック62ホイールとの相乗効果もあるだろう。また、試乗車には165mmという短めのクランクが装着されていたのだが、これと前乗りポジションとの相性の良さも好印象の源になっている。

ここまで空力特性を追求したデザインでありながら、勾配の高低にかかわらず、上りで気持ち良く進んでくれることにも感心した。全体の剛性感としては高めではあるものの、部分的に突っ張るような箇所がなく、同ブランドのオストロVAM 2.0と同様に踏み負けるような印象は印象は一切なし。目的の速度に達するまでの速さとその維持のしやすさは、完全にプロユースマシンのそれであり、乗り心地も快適と言えるレベルにある。

特にすばらしいと感じたのがブレーキ性能だ。これだけ前乗り(前荷重)のポジションなので、フロントブレーキをロックさせればすぐにスリップダウンするはず。しかし、あえて腰を引かなくても急減速できるような安心感がフロントエンドにあるのだ。これは単に減速Gを受け止めるだけの高い剛性を有するだけでなく、接地感を維持するような横方向のしなりがフォークブレードに発生しているのでは、などと邪推する次第だ。

パフォーマンス的にも“スーパー”な存在であることを確認できたファクター・ワン。プロユースマシンでありながら、ホビーライダーにもその片鱗を垣間見せる。だからこそ流しているだけでも楽しいし、乗り続けたと思わせてくれるのだ。オーナーになった人が心配すべきは、このビジュアルゆえに走り出せば終始注目され、休憩のたびに質問攻めに遭う可能性が大ということだろう。

 

ファクターについて〜Brand Info

2007年、イギリスのノーフォークにあるBF1システムズ社からファクターの歴史がスタートした。同社はF1やモトGP、WRCなど、モータースポーツの各トップカテゴリーから航空宇宙産業にまで携わるエンジニアリング企業であり、テストライダーにはデビッド・ミラー氏などが名を連ねている。