猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第49回
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坂バカ俳優、猪野学(いの まなぶ)。NHK BS1の番組「チャリダー★」で活躍する姿は、多くのサイクリストが知るところだ。Cyclist(サイクリスト)で連載中だった「猪野学の坂バカ奮闘記」が、サイト閉鎖にともないサイクルスポーツへお引越し。さらなる活躍をレポートしていく。今回はある暑い日のトレーニングのお話だ(編集部)。
前回のお話(マイナビ ツール・ド・九州2025 筑後・八女ステージライド)はこちら
暑い日のレースのために必要なこと
今年の私はあるレースに挑戦するために新しいコーチ陣とともにトレーニングに励んできた。週に4日のトレーニングだったがその中に暑いなか4〜5時間100kmほど走るメニューがあった。
暑熱順化だ!
レースが8月に行われるため必須なトレーニングだ。走る強度はZ3。パワーでいうと170Wぐらいなので楽かと思いきや気温35℃の中を100km走るのはかなりつらいし消耗が激しい。
レースの1か月前。「一度走りを見たい」とのことでコーチのひとり西谷亮さんと一緒に暑熱順化ライドに行くことになった。待ち合わせは東京都稲城市にある、通称「矢野口ローソン」。恐らく都内で一番サイクリストが集まるコンビニだろう。早めに到着し待っていると真っ黒に日焼けした西谷さんが現れた。今日は多摩川を西に走り時坂峠を折り返すらしい。
補給は大事
朝7時、さっそくスタート! 西谷さんの後ろに付き多摩川を西に走る。西谷さんはツールド沖縄で上位に入る猛者だ。フォームが美しくペダリングに無駄がない。
しばらく走ると多摩川をはずれ東京サマーランドという遊園地の方へ向かう。この方が信号が少なく東京の奥地、檜原村に行けるそうだ。ここで今度は私が前に出て走りを見てもらう。しばらく観察し西谷さんは「なるほど……分かりました」と一言。
2時間ほど走りあっという間に半分の50km地点の武蔵五日市のコンビニに着いた。ここで補給をする。西谷さんはライド中の補給はとても大事だと言う。私は今までトレーニング中は「水」だった。これだとエネルギーが全然足りないらしい。今年からエナジー系のドリンクを飲みながらトレーニングをしているが、なるほど最後までタレることなく効率的にトレーニングができて強くなれる。最後まで「踏める」脚をつくるわけだ。ツール・ド・フランスなどでもエナジー系の補給ドリンクが進化したおかげでレーススピードが格段に上がったと言われている。また新たに勉強になった。
前輪に荷重せよ
休憩を終えるといよいよ檜原村に入る。役所の交差点を右折するとすぐに時坂峠が現れる。初めて上る坂……いきなり激坂のお出迎えだ! 西谷さんはテンポペースで行ってくださいと言い私の後ろにつく。
なぜだろうか? 200Wと大した強度ではないのにキツい。「暑さ」だ。坂はスピードが落ち地面からの照り返しで一気に体温が上がる。これまで暑熱順化を週1で続けてきたがあまり効果がなかったのだろうか……。
西谷さんはペダルを踏むときに膝を引くようにして背中を使うと脚への負担が減るとアドバイスしてくれた……自転車はいろいろな体の使い方があるものだと感心するも、もうヘロヘロだ。
やっとの思いで頂上に着くと西谷さんは「もう少し前輪に荷重した方がいいですね」とおっしゃった。前輪に……荷重。あまり聞いたことがない言葉だ。昔はあまり前輪には荷重しない方がいいと教わったが昔と今ではバイクの剛性が違う。ディスクブレーキによりハブまわりの剛性は高くなったしフレームも昔より硬い。目からウロコであった。
帰路はさっそく前輪荷重を試しながら走る。なるほど確かに自転車全体に体重が分散されるのでバイクの挙動が安定しコーナーリングもスムーズだ。帰りも西谷さんに走りを見てもらったが、前輪に荷重にすることで前傾姿勢がとれてよりペダルにパワーが伝わっているとのこと。「ちょっとした上半身の角度で全然変わるんですよ」と西谷さん。
15年間乗ってきたがまだ発見があるのが自転車競技だ。ちなみに西谷さんはYouTubeもやっており、そちらでも自転車の様々な体の使い方を解説しておられる。
帰りの多摩川は一気に気温が37℃まで上がり完全にオーバーヒート!! 瀕死の思いで矢野口ローソンに帰って来た。ローソンでアイス食べながら西谷さんにライドの御礼を言った。
帰宅したらライドのデータを見たコーチ陣からパワーの割に心拍数が高いとの指摘があった。それは暑熱順化が足りていないことを意味するのであった……。果たしてレースの結果やいかに!? その模様はチャリダーの放送が終わった後に書かせていただく。













