「ツール・ド・おきなわ2025」市民200㎞詳報 大前翔が初挑戦で初勝利
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11月9日に行われたツール・ド・おきなわ2025。市民200㎞のレースを振り返りつつ、上位でフィニッシュした選手たちのコメントを聞いた。
序盤はゆったり

序盤は一人逃げとなった川勝
朝7時25分にスタートした市民200㎞。雨が上がり、太陽も出てきた頃だった。まずは川勝敦嗣(MiNERVA-asahi)が単独先頭で逃げに出る。西側の海岸線を一人で走り切ったときにはタイム差は3分30秒ほどまで広がり、普久川(ふんがわ)ダムのKOMの1回目を先頭で通過した。一方、後ろの集団は、安全確保のために前方に有力選手ばかりが集まり、ゆったりペースでまだまだ余力を残した状態のように見えた。

集団は横いっぱいに広がりまだまだゆったりペース
その後、普久川を下って北側の周回コースに入ったところで川勝が吸収されると、今度は田山昇吾(湾岸サイクリング・ユナイテッド)と牧野郁斗(エキップホッカイドウ)の2人が集団から飛び出す。2回目の普久川ダムの上りの麓である与那の交差点通過時点で集団との差を1分ほどに広げた。牧野が2回目のKOMを先頭通過した後、集団へと吸収された。
※山岳賞 Second Sprint(KOM)について訂正しました(2025年11月13日時点)

北部の周回コースで抜け出した田山と牧野

海沿いを走る集団

2回目の普久川の上りへと向かう集団
勝負は、後半戦の東側の海岸線に入ってから国頭村立安波小学校横の上り、通称学校坂からとなった。「予定どおり」と動いたのは2023年、前回優勝者の井上亮(Magellan Systems Japan)。
「学校坂のところで上げて抜け出したんですけど、そこで今日は脚がないかなと思いました。決めきれなかったです。後ろも脚があったので追いつかれちゃいましたね。しょうがないなと思うんですけど」と井上は話す。今回のおきなわは、直前にコンディションを少し落としてしまったそうだ。
集団は20人前後となっていたが、その後も集団は人数を徐々に減らしていった。残り20㎞ほどの地点にある有銘(あるめ)の2段坂でも再び井上が先頭でペースアップ。「やっぱりそこで決め切る脚がなかった感じですね」しかし、そこで先頭集団はさらにふるいにかけられ、強者ばかりの10人に絞られた。
10人の中には、今年ツール・ド・ふくしまでの独走勝利やニセコクラシック(19歳〜34歳カテゴリー)でのスプリント勝利を挙げている石井雄悟(MASXSAURUS)や、Roppongi Expressからは7度もこのおきなわで勝利を挙げている高岡亮寛と、JBCFのE1カテゴリーで首位となっており、今年初めて市民200㎞に出場した大前翔が入っていた。
今回、高岡と大前は明確にチーム戦を意図していたわけではなかったが、この時点で言葉を交わしたそうだ。「高岡さんに『いけるか?』って聞かれて。僕がいけるからチームとしてどうってことはないんですけど、『勝てよ』と言われました。高岡さんも勝負できる脚はあったと思うんですけど、井上先生も上り速いし、石井雄悟くんも上り強いし、ってなったときに、高岡さんが勝つ確率と、僕が勝つ確率とを多分てんびんにかけたんだと思います」それまで、先頭から20番手以内の位置をキープしながら、スプリントがあるからと徹底して先頭に出ず脚を溜めていた大前はこう振り返る。
井上から見た2人の印象をこう話す。「今回は2人とも同じくらいのレベルの、力のある選手だったので、たしかに高岡さんが行っても、最後のところも大前くん引かなくてもいいし、みたいな2人のチームとして機能している感じはしましたね」
市民200㎞は去年が初出場だったが中止となり、今年が初めての出走となった石井は、「そもそも知らないんです。誰かについていけばいいかな、というところぐらい。楽しく走ろうと思っていました」と話し、抜け出した選手についていけば最後までついていけるだろうと考えていたそうだ。
終盤の攻防
距離を減らすとともにさらに人数が絞られていく。最後の勝負所とされる長い橋がかかった羽地の上りでも井上がペースアップ。一人また一人と付いていけなくなり、石井や大前も振り落とされ、井上の後輪を捕らえ続けたのは畝原尚太郎(チームGINRIN熊本)のみとなった。
「だいぶ自分でも厳しかったんですけど、井上さんのアタック自体はそこまで強烈なものではなくて、周りが徐々に落ちていった感じでした」こう話す畝原は、3回目のツール・ド・おきなわ出場。これまではメカトラや落車による骨折など勝負に絡めない状況が続いていた。「終盤は自分でも予想外でした」と話す。研修医2年目だという畝原は井上のブログを愛読しており、自身の憧れの選手であった井上と共に先頭で抜け出している状況には、「きついのもあったんですけど、感動していました」と話しながらも、最後のスプリント勝負に備えた。
後続では、前から落ちてきた大前と石井が合流。2人で協力して前を追った。石井は「前から大前くんが落ちてきて、大前くんと2人で協力して追いつきました」と言い、大前はそこで助けられたと話す。「石井くんと2人になっていなかったら、そこで心が折れてちぎれてたと思うので、そこで2人で回せたのは良かったと思います」
下り区間で先頭2人に追いつき、4人となった。先頭2人で逃げ切るつもりだった井上は、「2人で決まったかなと思って、確かに油断してた部分はありましたね。しまったと思ってたら、さらに最後の直線に向かうコーナーで高岡さんが追いついてきて、あれはちょっとやられました。さすがだなと思いましたね」と振り返る。
追いついた高岡は先頭4人を一気に抜き去ると、躊躇せず4人はそれを追いかける。さらに後ろからは2人が先頭へと合流。高岡を捕らえると、井上がスプリントをかけ始めた。番手には大前がつけ、その後ろには石井がつけ、5人でのスプリント勝負となった。
井上の後ろから石井が勢いよく発射、大前はそれに反応。ニセコクラシックの時と同様、横並びのスプリント勝負から僅かに上回ったのは大前だった。

井上の後ろから飛び出した石井に大前が反応



一番最初にフィニッシュラインを切ったのは大前だった
石井は「スプリントは負ける前提ですけど挑戦して、勝てればいいかなくらいの感じで挑みました。まあ2位に入れたので結果的には良かったかなと思います。全体的にあまり積極的なレースができていないので、まあまた来年ですね」と話す。スプリントで3位に入った畝原は、初めての入賞に喜びの表情を見せていた。

5位という結果だが、レースを動かし続けた井上
2連覇はならず、今年は5位となった井上は、「勝負所ではいい走りができたから、自分らしい積極的な走りができたなと思うんですけど。その点では全く悔いはないです。今のコンディションの中では力をしっかり出して、いいレースだったなと思いますね」と話した。

チームメイトの勝利にガッツポーズでフィニッシュを切る高岡
展開に恵まれた勝利
「今年、調子が良かったのでワンチャンあるかな、勝てるかなと思っていたんですけど、本当に勝ってみると全然実感が湧かないですね」レース後、大前はそう話した。

大前は集団で温存し続けた
自身の勝ち筋を考えるにあたって、懸念材料は医師の先輩である井上のことだった。「スプリントになれば勝てると思うし、今年はJBCFでも何回か独走で勝ってるので、そういうパターンもあるかなと思っていたんですけど、やっぱり井上先生の力が……一緒に走ったこともないし、ほとんどレースにも出られない方なので。先生がどれくらい強いのかなっていうところが一番の懸念事項でした。実際に羽地でちぎられているので。展開が良かったとしか言いようがないですね」
大前はこのツール・ド・おきなわを愛三工業レーシングチーム所属時代に1度だけ走ったことがあった。しかし、そのときは序盤に仕事をしてDNF。バスで帰ってきていたため終盤のコースすら知らなかった。今回は前日に車と一部自転車で試走をし、厳しいコースであることを確認。通して走ったのは今回のレースが初めてとなった。
「ホビーレース人生を懸けて“おきなわ”での優勝を至上命題にしている人がいる中で、初挑戦で勝てたというのは、幸運としか言いようがないです」

表彰台で声援に応える大前
大前自身も研修医1年目として、時間をやりくりしてこの200㎞という長丁場のレースの対策をしてきた。しかしそれも「結構付け焼き刃でした」と話す。「(10月中旬に行われた)グランフォンド世界選手権が終わってから3週間ありましたけど、その週末で、6時間、6時間を2回やって、その6時間のメニューの中でも、5時間は淡々と走って、最後の1時間でめちゃくちゃ高強度のメニューを詰め込んだりとか、その辺は自分のトレーニングコーチとしての知見を生かしてやったんですけど、やっぱりちょっと足りなかったですね。最後脚が攣って、井上先生にちぎられちゃったので。勝てたけど、強かったわけではないです」
展開に恵まれながらも初挑戦で初勝利を掴んだ大前の目標は、グランフォンド世界選手権で世界チャンピオンになることと、フルタイムワーカーで全日本チャンピオンになることだそうだ。新たなチャンピオンが生まれた今回の市民200㎞のレースだったが、ホビーレーサーたちの層は厚く、このおきなわでの戦いはまだまだおもしろくなっていきそうだ。
第37回ツール・ド・おきなわ2025 市民200㎞リザルト

1位 大前 翔(Roppongi Express)5時間16分37秒
2位 石井雄悟(MASXSAURUS)+0秒
3位 畝原尚太郎(チームGINRIN熊本)+0秒
第37回ツール・ド・おきなわ 2025大会
開催日:2025年11月8日(土)・9日(日)
開催地:沖縄県北部地域











