税込20万円台エントリー油圧ディスクロードバイクの実力
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ここ数年、価格の高騰が著しいロードバイク。しかし、その一方で入門者が無理なく手を伸ばすことのできる価格帯のエントリーグレードは、ディスクブレーキをはじめとする最新テクノロジーの恩恵を受けてパフォーマンスが着実に上昇している。そこで今回は、税込20万円代のエントリー油圧ディスクロードを集めて、その実力を探ることにした。
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やっぱり油圧ディスクロードが欲しい! 最安値クラスの傾向は?

昔からロードバイクを本格的に始めたいと考えるユーザーに適した入門モデルの予算は、おおむね「大卒の初任給くらい」と言われてきた。ちなみに2025年の大卒初任給は23~25万円らしいので、それを最新のロードバイクに照らし合わせてみると、やはり先の言葉は今なおあてはまる。
この金額を出せると現代ロードバイクの必須条件であるディスクブレーキを筆頭に、上位モデルの基本機能を受け継ぐような付加価値の高いエントリーモデルが手に入る。
フレームはカーボン素材には手が届かないとはいえ、アルミ製のモデルは軽量性にも配慮された品質の良いものでロードバイクらしい軽快な走りを体感できる。その上で入門者に配慮して、エンデュランスロードのジオメトリーに近い設計により、乗り心地がよく、ハンドル操作が安定する走行性能を実現するモデルも少なくない。
バイク選びのもう一つの重要な要素となるコンポに目を向けると、シマノのロードコンポでサードグレードとなるリヤ12段変速の105の機械式モデル、もしくはその下に位置するリヤ10段変速のティアグラを搭載する車体が中心となる。そしてディスクブレーキも上位モデルと同じく、操作性と制動の安定性に優れる油圧式が主流だ。今回は、そんな仕様で構成されるメジャーブランドの3モデルを試乗して、最新エントリーグレードの現在地を確かめる。
今回試してみるロードバイク【ジャイアント/スペシャライズド/トレック】
今回試乗をするのは、先に説明した価格帯の中からスペシャライズド、トレック、ジャイアントの3モデル。テスターはショップとレーサーの目線からフィールドサイクル代表の野中秀樹さん。一般サイクリストの意見として編集部・大宅。そして、自転車ジャーナリストの吉本司はサブテスターとして参加する。
ジャイアント・コンテンド SL 1【20万9000円】

ジャイアント・コンテンド SL 1 ●価格:20万9000円 ●メインコンポーネント:シマノ・ティアグラ(2×10速) ●サイズ:XS、S、M、ML(試乗車サイズ:S) ●カラー:1種類 ●試乗車実測重量:9.56kg
2025年の10月発表の最新作。ジャイアントのエアロロード、プロペルの空力設計とエンデュランスロード、ディファイの快適設計を受け継ぐ万能ロードバイク。アルミ製のフレームは独自のALUXX SLチューブで軽量化され、接合部は溶接痕が見えないスムースウェルドにより美しい仕上がりだ。メインコンポはシマノ・ティアグラ。ディスクブレーキは油圧式。タイヤサイズは28Cで安定したハンドル操作と快適な乗り心地を提供する。

写真上:チューブの接合部には、一般的なTig溶接で存在するビードと呼ばれる溶接痕がない。美しい造形はカーボンフレームと見まごうほどだ。写真下:ヘッドチューブは中央部にくびれがある。プロペルから受け継ぐエアロ形状だ。

前から見ると薄く、横から見ると幅広なブレード形状によりタイヤとの空間を大きくして空力を高めるフロントフォーク。外から見えないがステアリングコラムもカーボン製で軽量化を追求する

シートステーはシートチューブの低めの位置に接合される。さらにチューブ自体を横方向に大きく扁平させ、薄型に成型することにより乗り心地を高めている

ケーブル類はヘッドチューブに内蔵される。最先端のロードバイクでは定番となっている構造。エアロ効果を高めるだけでなく、クリーンなルックスも魅力的だ

シートポストはD型の断面形状を持つ「Dフューズ」仕様。横剛性はそのままで、前後方向にしなることで乗り心地を高める効果がある。同社のディファイシリーズから受け継ぐ構造だ

ハンドルは下側が広がるフレア形状と呼ばれるタイプを搭載。ブレーキブラケット部分を握るとエアロ効果が得られ、下側を握ると下りや悪路におけるバイク操作性が安定する

主要コンポはシマノ・ティアグラ。ギヤは前2枚×後10枚の20段変速だ。最も軽いギヤ比は1:1の仕様なので、急勾配の上りや長距離のヒルクライムでも無理を強いられない
スペシャライズド・アレー コンプ【24万7500円】

スペシャライズド・アレー コンプ ●価格:24万7500円 ●メインコンポーネント:シマノ・105(2×12速) ●サイズ:44、49、52、54、56、58、61(試乗車サイズは54) ●カラー:3種類(試乗車のカラーはオアシスティントオーバーシルバーダスト/ラグーンブルー) ●試乗車実測重量:9.24kg(54サイズ)
スペシャライズドで40年以上も続く由緒あるモデル。時代とともに仕様を変えているが、現在はアルミ製のエントリーロードとして展開される。フレームチューブはオリジナルのE5。軽さと強さの両立が自慢だ。そこに同社のエンデュランスロード「ルーベ」のジオメトリーを受け継ぎ、アルミ素材独特の軽快なペダリングフィールと安定感ある走行性能を融合さている。ラックを後付けできるダボ穴も標準装備して通勤・通学にも対応する。

E5アルミで作られたフレームは、横方向に大きく扁平加工されたトップチューブなど、軽さだけでなく乗り心地にも配慮する。整備性を重視してケーブル類は一部のみ内蔵仕様

フロントフォークは、ブレード部だけでなくステアリングコラムもカーボン製として、軽さをより推進させる。タイヤは30Cを標準装備。バイク操作の安定性と乗り心地を高める

左右のシートステーを斜めにまたぐように配置される特徴的なシートステーブリッジ。バックステーの剛性を最適化する。ディスクブレーキは安定した制動を発揮する油圧式

24段変速のシマノ・105の機械式コンポを搭載する。最大ローギヤは34×34T。あらゆる地形で体力に無理を強いられない走りを叶えてくれる1:1のギヤ比がうれしい仕様だ
トレック・ドマーネ AL5 GEN4【25万9000円】

トレック・ドマーネ AL5 GEN4 ●価格:25万9000円 ●メインコンポーネント:シマノ・105(2×12速) ●サイズ:44、49、52、54、56、58(試乗車サイズは52) ●カラー:2種類(試乗車のカラーはマット トレック ブラック) ●試乗車実測重量:9.85kg(ペダルなし・52サイズ)
長距離を快走できるモデルとしてトレックが展開するドマーネシリーズ。そのコンセプトをアルミフレームで身近にした1台。軽快なペダリングを生む100シリーズAlphaアルミチューブを採用し、長めのホイールベースとやや太めのタイヤ幅を組み合わせて安定感と乗り心地にも優れる走りを届けてくれる。ラックやバッグを装備できる台座もあり、タイヤも最大で38mm幅まで入るので、バイクパッキングや軽いグラベルライドも楽しめる。

トップチューブの上面には小型のフレームバッグを直接装備できる台座がある。ライド時の補給食やスマホなど、すぐに取り出したい携行品を入れておくのにとても便利だ。快適性を高めるためにシートステーは細身だ。最大38mmのタイヤを履けるようにフレームのクリアランスは大きめで、ラック類を装備できる台座もしっかりと装備する

フロントフォークは軽量化と乗り心地を高めるためにコラムまでカーボン製。ディスクブレーキの台座部分は断面積の大きな設計で、確実なブレーキコントロールに貢献する

ケーブル類はヘッドパーツのトップキャップの部分からフレーム内に収納され、すっきりとした外観を実現している。ヘッドマークがバッジタイプなのも高級感を演出する

タイヤはレーシングモデルよりもやや太幅の700×32Cサイズにより、快適・安心の走りを届けてくる。パンクを低減する素材も仕込まれた仕様なので、高耐久なのもうれしい
エントリーグレード油圧ディスクロードの実力を試す!

インプレッションライダー① フィールドサイクル代表・野中秀樹さん 2025年6月に練馬区にオープンした「フィールドサイクル」の代表。国内自転車メーカーに勤務した実績、ツーリングから実業団レースまで走った豊富な経験を下に、鋭い視点で今回のインプレバイクを評価した

インプレッションライダー② 自転車ジャーナリスト・吉本 司 サイクルスポーツをはじめ各種媒体で活躍する自転車ジャーナリスト。性能だけでなく市場動向など、幅広い視点から製品を評価することに長ける。今回は試乗車のサイズが小さいこともありサブテスターとして関わる

インプレッションライダー③ サイクルスポーツ編集部・大宅 ロードバイク歴約15年。近年は下り系マウンテンバイクをメインで楽しんでいる。今回は一般ライダー目線で試す
CS大宅(以下大宅):では、野中さん、このクラスのバイクの印象はいかがですか?
野中:もともとエントリークラスが得意な自転車メーカーに勤めていたので、この価格帯へのこだわりはあるので、(インプレは)自信があります。楽しみです!
大宅:今回集めた3台はいずれもメジャーブランドのモデルですが、これらに乗れば(このクラスの)全体像をつかめると思うのですが、いかがですか。
吉本:そうですね。メジャーブランドだとスケールメリットを生かして上位モデルの最新の設計思想も反映しやすいので、この3台に乗ればエントリーモデルの現状を把握できるでしょう。
大宅:では、それぞれのモデルについて印象を伺いましょう。
ジャイアント・コンテンド SL1〜レースバイクのようなシャープな走りに魅了される

大宅:まず、今回の最安値のコンテンド SL 1ですが、いかがでしたか?
野中:これはもうびっくりしました! 予想以上の走りの良さで、ちょっと手を加えてレースにも挑戦できるような、そんな楽しいバイクでした。加速も気持ち良いし、癖もなく、乗りやすくて不安感もないですね。あと、タイヤが良いのかとても滑らかに自転車が進みます。チューブレスレディ対応なので、購入後の拡張性があるのもいいですね。
大宅:吉本さんはいかがでしたか?
吉本:これまでのコンテンドシリーズはもっと快適性に振った性能でしたが、今回はシャープな加速が魅力的で、レーシーな味付けが増しましたね。さらにフレームの固さを感じにくいのでペダリングフィールもいいですね。エアロ感のある最新の見た目もあるので、レース仕様にカスタムしても面白いでしょう。
大宅:正直、何かを変える必要がないくらいにすごくまとまった性能ですね。サイクリングからレースまでこれ一台で全てを完結できそう。あと、初心者目線だと、サドルも乗り心地が良くてお尻が痛くなりにくいかなと。
吉本:完成車としてのパッケージがすごくいいですね。
大宅:コンポが他の2台と比べるとグレードが落ちるティアグラでしたが、そのあたりはいかがですか。
野中:ティアグラはもともと評価しているコンポで、変速も他に引けをとらないですし、ブレーキも油圧式なので上位モデルに近いフィーリングを味わえます。最初の一台としては十分です。
大宅:吉本さんはティアグラどうですか?
吉本:特に操作に意識をすることもなく“フツー”の感覚で快適に使えますよ。ワイヤーも内蔵式のフレームですけれど、レバーの引きが重いこともありません。ギヤ比さえ脚力に合っていれば十分なコンポでしょう。
大宅:一番軽いギヤ比で乗ってみましたけど、相当に軽いですよね。最近のティアグラは触っていなかったんですけど、こんなに良くなっているのかと。
吉本:上位だけなく入門グレードもすごく進歩していますね。これはすごくバリューフルな一台ですよ。
野中:間違いないです。
トレック・ドマーネ AL5 Gen4〜サイクリングを楽しくする滑らかで上質な走行感

大宅:いきなりすごいのがきてしまったのですが、続いてのトレック・ドマーネはどうでしたか?
野中:ゆったり乗れる感覚がすごく伝わってきますね。この価格帯でもそういうエッセンスをちゃんと感じられるのは驚きでした。
大宅:やっぱり安定感は一番で、すごく乗りやすいですね。
野中:そういう方向性のバイクですし、仕様もキャリアダボが付いているのでツーリング、エンデュランスな使い方を意識していますね。でも、走りが野暮ったい印象はなくて、かなり軽やかに進むけれど安定感は高いんです。
大宅:いわゆるエンデュランスロードだと感じましたが、吉本さんはどうでしたか?
吉本:安定感は抜群ですね。車重もエントリーモデルなので軽くありませんが、それを感じさせない滑らかな走りがあります。レースバイクじゃないので加速が際立つことはないけれど、等速で走り続けるには慣性が効いて、流れるような走りが気持ち良いですよ。サイクリングを楽しむにはとてもいい一台ですね。
大宅:そうですね。アルミのゴツゴツした感じもなくて、滑らかで上質な走りですね。
吉本:フレームもそうですけど、ホイールまわりでアルミのネガが潰されていて、エンデュランスロードに必要な性能がうまく表現されていますね。
大宅:たぶんスポーツバイクに乗り慣れていないような方でしたら、これを選ぶのが一番良さそうですね。
野中:まさにそうだと思います。今回乗った自転車はどれも不安定な感覚はなかったですけど、一番安定感があったのはこのドマーネですね。
大宅:変速が105の12速になりましたが、ティアグラの10速と差はありましたか?
野中:ローギヤの歯数が大きく(軽く)なると、段数の増加は純粋にプラスしかないです。変速性能が上がるというよりも段数の違いが大きいですね。
スペシャライズド・アレー コンプ〜最大公約数の走行性能でレースからツーリングまで

大宅:そして最後のアレーコンプです。こちらは意見が分かれたんですけど……。まず最初に私の感想ですが、良くも悪くも普通に癖のないバイクという印象でした。 野中さんどうですか?
野中:剛性感はありますね。基本的な印象は大宅さんに近いですね。マイナスもないけど目立つ部分もない。
大宅:まとまっていて、誰が乗っても癖がなくてツーリングもレースも十分いける。性能的には本当に真ん中をとっていて、ある程度の拡張性もあるバイクなのかなと。吉本さんは意外にレーシーだと感じたとか?
吉本:加速感の軽さや鋭さのような分かりやすいレーシーさはコンテンドが際立っていました。バックステーやBBまわりに剛性のいなしがあって、それは軽快な加速やペダルの踏みやすさにつながっています。アレーはコンテンドとは違ってフレーム全体に剛性を感じやすいです。この一体感ある剛性は、特に速度域が上がると走りが力強くて意外にレーシーだなと。アレーはコンテンドと比べて走りの際立つ領域が狭いというか、分かりにくい面はあるかもしれませんね。
大宅:ハンドリングは素直で、ドマーネまでいかないですけど、タイヤに30Cが付いているので乗り心地も結構良かったですよね。野中さんその辺はいかがですか。
野中:リヤがしっかりしている印象が強くて、ハンドリングよりもそっちに印象を持っていかれた感じがしました。フレームのリヤの作りを見ても、最近は上下のブリッジを省くメーカーも増えているので、それが(アレーは)あるのでリヤが固く感じるかもしれないですね。ダンシングでしっかり踏み込める人や大柄のライダーの方が良い印象になるかもしれないですね。
まとめ〜それぞれに個性があり、性能に不足は何一つない

大宅:というわけで3台を乗りましたが、全体の印象はいかがでしたか?
野中:最近のロードバイクはいろいろなタイプや味付けがあるわけですが、今回の価格帯でもそれぞれの味をしっかり感じられるのが良かったです。以前のこの価格帯だとどのバイクに乗っても“こんなもんかな”という似通ったものだったのですが、今回のモデルには三者三様の魅力がありましたね。
大宅:なるほど。吉本さんはいかがでしたか?
吉本:ハイエンドだけでなく、このクラスの実力が相当に上がっていると感じました。特に今回集めた大手メーカーのモデルは、専用パーツを用いるなど完成車としてのパッケージが優れており、性能が進化していますね。
大宅:弱点がほぼ見つからない印象なのですが、あえて挙げるとするならどんな部分がありますか?
野中:価格を考えると仕方がないと思いますが、ブレーキローター、ハンドル、サドルなどは、もう少しお金を出せば良くなるのにと思うことはありますね。
吉本:そのままでも十分ロードバイクを楽しめる性能ですが、手を入れると良くなる部分はいろいろあります。逆に言えばベースとなる性能はかなり高いので手をかける価値あるし、そこを大いに楽しんでほしいです。
大宅:私から言えば、もうこれで十分です。こんなに性能が良いことに驚きました。今ロードバイクは高いと言われていますが、このグレードの性能が上がっているということは、逆に言えば良い時代になっているのではないでしょうか。これから油圧のディスクブレーキの入門ロードバイクを買おうと考えている方は、この価格帯でメジャーブランドのものを選んでおけば、まず間違いないと断言したいです。あとはご自身の好みで見た目が格好いいとか、長距離を楽しみたいのならエンデュランスタイプにするとか、用途に応じてショップの方と相談しつつ選んでもらえれば良いと思います。











