シマノが作った“自転車用オートマ変速”を使ってみた

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シマノが作った“自転車用オートマ変速”を使ってみた

2025年6月に発表されたばかりで、話題を呼んでいるシマノによるオート変速システム「Q’AUTO(クオート)」。メディア向けの試乗会が10月に開催され、実機が搭載された自転車に乗る機会を得たので、レポートしよう。

 

改めてQ’AUTO(クオート)の特徴をおさらい

クオートの核となるリヤハブ

クオートの核となるリヤハブ、シマノ・FH-U6060(3万9482円)

 

クオートはAIによる学習機能を持ったオート変速システムだ。また、乗車中に発電を行い、バッテリー不要で電動変速をする。

リヤハブがハブダイナモの役割を果たし、電動変速に必要な電力を発電して供給してくれる。また、ハブには速度・ケイデンス・傾斜を計測するセンサーが搭載されており、走行状況やライダーの走り方に応じて自動で変速を行ってくれる。

クオートに対応する電動リヤディレーラー

クオートに対応する電動リヤディレーラーのシマノ・RD-U8050(2万9124円〜3万3625円)。コンポーネントとしては「ライフスタイルバイクコンポーネンツ」に位置付けられる「CUES(キューズ)」シリーズの一つとなる

クオートのスプロケット

スプロケットもキューズシリーズのものを使用。「リンクグライド」という機構で、変速ショックが極力抑えられ、かつ耐久性を通常のロードバイク系スプロケットに比較し3倍向上させている。なお、こちらはシマノ・CS-LG300-10(11-48T/8220円)

クオートの手元変速スイッチ

こちらはフラットバー用の手元変速スイッチ、シマノ・SW-EN605(1万5506円)。リヤディレーラーとはワイヤレス通信する。なお、ここだけ電源としてボタン電池を使用する

 

さらに、手元変速スイッチと組み合わせて使うことで、ライダーの変速の傾向を学習していき、使えば使うほど乗り手に合わせた精度の高いオート変速が可能となる。

クオート用に装着した105 Di2レバー

ドロップハンドル系バイクには、このように別のロードバイク用コンポーネントのDi2デュアルコントロールレバーを組み合わせて使用する。なお、こちらはシマノ・105 Di2のものが装着されている

 

シマノの開発担当者によると、多くの自転車ユーザーが変速機をうまく使えていないという。あらゆる人にオート変速と電動変速の快適さを提供したいという思いと、長年の企業努力の集大成がこのクオートである、ということだ。

2025年10月現在、クオートが採用されたスポーツ自転車は3モデルが発売&発表されている。今後その採用数は拡大していくと見られる。

 

Q’AUTO(クオート)搭載の自転車に乗ってみた

今回試乗してみたNESTO(ネスト)の「AUTOMATE(オートメイト)」

今回試乗してみたNESTO(ネスト)の「AUTOMATE(オートメイト)」。2025年11月に発売予定で、価格は19万8000円だ。なお、手元変速スイッチを追加で搭載した状態で試乗した

編集部員が試乗

編集部員が試乗

 

筆者が長年スポーツ自転車に乗っていて変速には慣れているということもあるが、まず良いなと思ったのは変速自体の気持ち良さと電動変速システムとしての秀逸さだ。

スプロケットに採用される「リンクグライド」は、そのうたい文句どおり変速ショックが非常に少なく、“コツン”という感じでとにかくストレスなく、気持ち良く変速してくれる。変速の速度自体はそれほど速くないのだが、このショックの少なさがそれを打ち消してくれるほどだ。まさに街乗りやサイクリング目的で使うにはもってこいだ。

また、変速スイッチはマニュアルモードも搭載しており、使ってみると、単純に上記の変速性能の高さから電動変速機としても非常に優れていると感じた。他の高価なロードバイク系・グラベル系の電動変速システムよりも安くワイヤレス電動変速システムを導入できるうえ、しかもバッテリー不要で充電も不要ときている。これだけでも十分に価値はある。

さて、肝心のオートマチック変速について。正直、乗り始め30分程度はまだAI学習が進んでいないためか、自動変速のタイミング、特に上り坂での変速が合っておらず、気持ち悪い感じはした。その都度変速スイッチで手動変速を行った。

30分経過後頃から、学習が進んできたのか自分にとって適しているなと思えるタイミングで変速してくれるようになってきた。思っていたよりも短時間で学習が進んだ感じだったので、1週間も使っていればほぼ手動で変速する必要がないほど自然なオート変速をしてくれそうだ。

オート変速の恩恵を特に感じたのは下り坂、こぎ出し、そして停止時だ。特に下り坂はあまり学習が進んでいない段階から自然な変速タイミングで、適切にどんどんギヤが重くなっていった。変速スイッチを押さなくていいだけで相当にストレスが軽減され、ライドに集中できる感覚が得られた。

こぎ出し時も学習が進む前から自然なタイミングであり、何も考えずにとにかくペダルを回しさえすれば気持ち良く発進できるのがいい。そして停止時だが、通常だと足を着く前に次の発進時を考慮してギヤを軽くしてから止まるという作業を行うものだが、これを勝手にやってくれるので(これも学習が進まないうちからタイミングが秀逸だった)、かなりストレスが軽減される感覚がした。

今回クオートを使ってみて気づかされたのは、ふだん特に意識せず行っていた変速という行為が、意外にストレスになっていたのだな、ということ。そして、そこからちょっと解放されるだけで、例えば目の前の景色を楽しむ余裕が生まれたり、よりライドの楽しさを味わうのに集中できたりと、さまざまな恩恵が生まれるように感じられた。これは、スポーツ自転車に乗り慣れたベテランユーザーにとっても大きな価値があると思われた。

“広く一般のユーザーにオート変速の価値を提供する”というのが本製品のコンセプトではあるが、今後より本格的なロードバイクなどのスポーツ自転車でもクオートが採用された完成車が登場してくることを期待したい。