猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第47回
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レース会場のゴルフ場。思った以上に芝が深く体力を消耗するが転んでも全く痛くない
坂バカ俳優、猪野学(いの まなぶ)。NHK BS1の番組「チャリダー★」で活躍する姿は、多くのサイクリストが知るところだ。Cyclist(サイクリスト)で連載中だった「猪野学の坂バカ奮闘記」が、サイト閉鎖にともないサイクルスポーツへお引越し。さらなる活躍をレポートしていく。今回は、石川県志賀町で行われたチャリダー大運動会のシクロクロスレースだ。(編集部)
能登でチャリダー大運動会
初めて能登を自転車で走ったのは2019年のツール・ド・のと400だった。3日間で400km以上走るサイクリングイベントはあまりなく。エイドやサポートライダーも充実しているすばらしいイベントだった。その能登が2024年の地震でかなりの被害を受けてしまった。
震災から1年半。能登シクロクロスの会場のゴルフ場をお借りしてチャリダー大運動会が開催されることになったのである。
競技内容はズバリ! ゴルフ場でのシクロクロス! シクロクロスといえば泥や砂浜が多いが、能登シクロクロスはズバリ芝生だ!! これがかなり辛い。スピードが乗るきれいなグリーンのような芝生もあれば全然進まないラフな芝生もある。30分で何周できるかを競う。
周りを見ると速そうなシクロクロッサーがたくさんいる。聞くと能登シクロクロス常連者で金沢市内や東海地区から駆けつけている。中にはロードレース男子部の姿もある。これはレベルが高い……。
シクロクロスなのにグラベルロードで
しかし私はオフロードが得意だ! 久々の表彰台はあるのか!? いざ! スタートが切られた!
一番前でスタートした私は一瞬トップに躍り出る……しかし次の瞬間! 盛大に他の選手に抜かれまくる!! 笑うしかない……みんな速すぎるではないか!?
コースはシケインあり、ぐるぐると円を描きながら走る渦巻き地獄や激坂もあったりコース設計者の遊び心が伺える。
それにしても盛大に抜かれ続ける……何かおかしい……私はC3だがお台場シクロクロスで4位になったことがある。こんなに遅かったか?
そのときっ! 私はあることに気づく!
「あれ? これグラベルロードやないかいっ!!」
何と私が乗っていたのはシクロクロスのバイクではなくグラベルロードだったのだ。どうやら番組スタッフが間違えて発注したらしい。グラベルロードはホイールベースが長く小回りが利かない……そして重い。どおりでコーナーで抜かれるわけだ。しかし久しぶりのシクロクロスはキツいけどかなり楽しい。
レースをenjoyに切り替えて周りの選手の走りを観察する。ロードバイク男子部の面々もやはり速い。そしてかなりケイデンスが低いことに気づく。オフロードはケイデンス高めでクルクル回すのが鉄則だが。悪路を器用に踏んでいる……前回の富士クリテリウムでも思ったが男子部の面々はしっかりと重いギヤにトルクをかけられている。
私も真似してギヤを重くしてみる……すると少しスピードに乗るではないか!? ケイデンスは自転車の醍醐味のひとつだ! 回すべきか? 踏むべきか? それが問題だ。
順位は分からないが無事にゴールし倒れ込んだ。シクロクロスは常に最大心拍数……オールアウトが心地よい。
金メダリストから学ぶ
ゴール後にみんなで走りの反省をしていると、男子部の誰かがふと口にした。
「菜那さんの立ち姿がめちゃくちゃきれいですよね」。
菜那さんとは番組MCの高木菜那さんだ。言わずと知れたスピードスケートのオリンピック金メダリスト。菜那さんは「私達はまずまっすぐ立つことから始めるんですよ」と気さくに答えてくれる。重心が真ん中にないとパワーが氷に伝わらないらしい。
するとみんなで真剣に前後左右に腰をふり重心を探り出す。突如始まるゴルフ場でのフラダンス……。弱者は強く……強者はさらに強くなりたいのが世の常である。私はここぞとばかり「レース前はどんなアプローチをするのですか?」と菜那さんに質問をしてみた。
「レース前は脚の張りを大事にしますねぇ〜。脚の張りを残したままレースに挑みます」。
これには驚いた。筋肉に張りを残したままだとすぐに脚が終わりそうだが……筋肉に張りや緊張がある方が氷を強く踏めるのだそうだ。
自転車でも同じなのだろうか? 私が筧五郎さんに「ヒルクライムでも同じですか?」と聞くとコクリとうなずいていた。短距離と長距離でも違うのだろうがとても興味深い話であった。
牡蠣(かき)を食べるか否か
とても勉強になった後はみんなで昼食タイムだ。地元、穴水町の牡蠣や珠洲(すず)市のお米が無料で振る舞われた。私は20年くらい前に牡蠣にあたってしまい……それから牡蠣を食べると必ずあたってしまう。「もう免疫できてますよ!」と甘い言葉をささやかれ食べると見事に上はマーライオン! 下はナイアガラ状態になる。それはそれはひどいものだ。かれこれ10回以上はナイアガラ&マーライオンを経験している私は牡蠣を見ても食べたいと思わなくなっていた。
しかしだ……この穴水町の牡蠣だけは違った。見ただけで旨いのが分かる。食べたみんなは口々に「今まで食べた牡蠣で一番うまい!」と歓喜する。揺れる牡蠣心……食べるべきか? 食べぬべきか? それが問題だ。
そのとき「猪野さん! やめときましょう!」と番組スタッフが冷酷に言い放った。私はその日の内に新幹線で帰京しなければならないからだ。シクロクロスバイクとグラベルロードを間違えたくせに随分と冷酷に言い放つものだと思ったが、皆様に迷惑をかけるわけにはいかない。私は極上の牡蠣を諦め、能登を後にした。
ちなみに穴水町の牡蠣は卸業者がまだ復興していなくてまだ流通できないそうだ(6月の段階で)。一刻も早く復興が進み、旨い牡蠣がみんなの元に届く日が来たら良いと思う。そしてまたきれいな能登半島を自転車で走りたいものだ。
















