リドレーのエアロロードバイク「ノアファスト」&「ノア」の新型を試乗
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高速化の一途をたどるレースシーンでは空力性能が以前にも増して重視されている。そんななかにあってベルギーのリドレーがエアロ系ロードバイクの「ノア」を刷新してきた。UCI規定の極限に迫る最先端の空力設計を施した最高峰の「ノアファスト3.0」と、そのセカンドグレードである「ノア3.0」の走りを、リドレー取り扱い店舗でもあるフィールドサイクルの野中秀樹氏がチェックする。
UCI規定の限界に迫る空力設計を施したノアファストの第3世代

リドレー・ノアファスト3.0 【試乗車スペック】●フレーム素材/エリートHMカーボン ●コンポーネント/シマノ・アルテグラDi2 ●ホイールセット/シマノ・アルテグラ ●タイヤ/コンチネンタル・グランプリ5000S TR 700×28C ●シートポスト/ノアファスト3.0 エアロシートポスト ●サドル/セラSMP・VT20C ●ハンドルセット/フォルツァ・ニンバス エアロ インテグレーテッド コクピット
ノアファスト3.0
●バイククラフト(※)価格/120万3400円(デュラエースDi2仕様)、100万6500円(アルテグラDi2仕様)、92万7300円(105 Di2仕様)
●フレームセット価格/74万8000円(ハンドルセット付き)
●カラー展開/マットブラック、キャンディレッド
●サイズ展開/XXS、XS、S
●フレーム単体重量/1028g(XXS)、1032g(XS)、1050g(S)
※バイククラフトについてはこちらの動画を参照

リドレー・ノア3.0 【試乗車スペック】●フレーム素材/エッセンシャルHMカーボン ●コンポーネント/シマノ・105 Di2 ●ホイールセット/シマノ・105 ●タイヤ/コンチネンタル・グランプリ5000S TR 700×28C ●シートポスト/ノアファスト3.0 エアロシートポスト ●サドル/セラSMP・VT20C ●ハンドルセット/フォルツァ・シーラス プロ ロード インテグレーテッド コクピット
ノア3.0
●バイククラフト価格/93万1700円(デュラエースDi2仕様)、73万4800円(アルテグラDi2仕様)、65万5600円(105 Di2仕様)、57万5300円(105機械式仕様)
●フレームセット価格/46万2000円(ハンドルセット付き)
●カラー展開/パールホワイト、ブラックオイルスリック、エンプレスグレー
●サイズ展開/XXS、XS、S
●フレーム単体重量/1042g(XXS)、1195g(XS)、1210g(S)
自転車王国であるベルギーで生まれたリドレーは、過酷なクラシックレースを制するタフなブランドという印象も強いのだが、その一方で自転車競技における見えざる敵である空気抵抗の克服に対して積極的な取り組みを続けるメーカーである。
2006年に同社初のエアロロードとして登場したノアシリーズは、常に独創的な設計を取り入れて進化を遂げてきた。2013年にはFAST(ファスト:Future Aero Speed Technology)コンセプトを取り入れ、シートステーとフロントフォークにVブレーキシステムを一体成型して、空力性能と運動性能をさらに向上させた「ノアファスト」が誕生する。今回試乗する「ノアファスト3.0」は、シリーズにおける第3世代であり、リドレー通算6作目のエアロロードだ。
圧倒的なボリュームを持つヘッドチューブを筆頭に、トラックバイクのようなエアロフォルムを持つ新型ノアは、2021年に改められたフレーム形状に関するUCIルールを最大限に利用して設計された。従来の3:1から8:1に改められたフレームチューブのアスペクト比のルールを活用することで、さらに前後方向に長いシルエットの“超エアロ”なチューブ形状が追求されている。
鉈(ナタ)のように薄く仕上げられたフロントフォークとともに目を引くのはやはりヘッドチューブだ。後方に大きく伸びたデザインは、フレーム構造の補強に関するUCIの新ルールを最大限に生かして設計されたもの。さらにシートチューブやシートステーも前後方向を伸ばしたエアロチューブがおごられ、小さな前衛投影面積のフロントセクションで切り裂いた空気は、後方へとスムーズに流れる仕組みだ。また、ダウンチューブは大径化することでボトルシステムを装備した状態での空力が最適化している。
エアロダイナミクスを最大化するには専用ハンドルの搭載が定石となる最新エアロロードだが、もちろんノアファスト3.0も専用に開発された「ニンバス エアロ コックピット」を搭載。ヒドゥン構造のヘッドチューブにセットするとトップチューブと一体化するようにデザインされ空気の乱流を抑えてくれる。ドロップ部は上側のハンドル幅を360mmとして、ブラケット部を握った時にエアロポジションをとりやすいフレア形状だ。
これら独創的な空力設計を随所に施すことでノアファスト3.0は前作に対して8.5W(時速50km走行時)、同社のクライミングモデル、ファルコンRSに対しては7W空気抵抗を削減する大きなアドバンテージを獲得するに至った。
ノアファスト3.0はこの高い空力性能に加えて優れたペダリング効率も獲得している。小さな前衛投影面積のフレームにも関わらずヘッドチューブ~BBの剛性はファルコンRSよりも10%優れており、この数値はドイツの第三者機関として近年、多くのメーカーが試験を依頼する第三者機関ゼトラーラボでのテスト結果である。
さらにジオメトリーについても見直しが図られており、昨今の高出力を発揮しやすいペダリングを生む前乗りのライディングポジションをとりやすいようシートチューブの角度を立てている。ちなみにXSサイズは76度で、これは一般的なレーシングバイクの同サイズと比較して1~1.5度ほど立てられたものだ。また、太幅タイヤに対応してハンガー下がりも低めに設計されている。
今回リドレーではノアファスト3.0のDNAを受け継ぐセカンドグレードとして「ノア3.0」も投入されている。こちらは使用するカーボン素材のグレード、ヘッド周りの形状とハンドルセットが異なる。コンポーネントは電動、機械式のセットアップが可能だ。
今年のツール・ド・フランスではJ・アブラハムセンの闘志あふれる走りでウノエックス・モビリティチームに初のステージ優勝をもたらしたノアファスト3.0。リドレーでは軽量モデルのファルコンRSもラインナップするが、同社によれば7%以下の勾配で勝敗を決するようなコースでは、ノアファスト3.0の優れたエアロダイナミクスが優位に働くという。果たしてそのパフォーマンスとはいかなるものか。今回はノア3.0も同時に試乗して魅力を探る。
ノアファスト3.0のディテール
ノア3.0のディテール
試乗インプレッション〜大胆なルックスからは想像しがたい懐の深い走り
第一印象はエアロ性能が高そうなのは当たり前ですけど、同時にボリューム感のあるフレームは固そうだなと。それと形状的に仕方ないのですが、フレーム単体重量が1000gを超えるので、最近のモデルの中ではちょっと重量級というのが気がかりでした。
乗ってまず驚いたのは、見た目のボリューム感ほどペダリングでフレームの固さを感じないことです。他社のエアロロードよりもマイルドです。最近のエアロロードで固いと言われるモデルは、きれいなペダリングをしないと進まないのですが、ノアファストにはそれがありません。かといって力が逃げることもありません。フレームの下半分の剛性感の味付けは、私はかなり好みです。だから高トルクで踏み続けて高速巡航するようなエアロロードの特性が生きるような走りはとても良いですね。ダンシングを織り交ぜながら走るようなライダーにもとても扱いやすく、絶妙な剛性感ですね。
ヘッドまわりはやはり大きなボリュームなので固いのですが、それを専用のハンドルセットがうまくいなしてくれます。ハンドルを含めたフロントまわりとして見ると固さはありません。しっかりしたヘッド部の上にほど良いしなりのあるハンドルが乗っかっていて安定感があります。ダンシングがしにくいこともなく、コーナリングなど取り回しの部分も癖はないですね。やはりフレームとハンドルのトータルでしっかりバランスが考えられているなと。
乗り心地はエアロロードらいしい縦の固さはありますが、BBまわりの剛性を含めて昨今のエアロロードで考えればマイルドな印象です。振動をいなしてくれるので荒れた路面でもとっちらかるような雰囲気はありません。リドレーは昔あったフェニックスみたいにエンデュランス系モデルの作りもうまいので、安定感の勘どころを抑えたバイク作りができているのではないでしょうか。
エアロロードなので空力が良いのは当然ですけど、やはりその性能はめちゃくちゃ高いです。下りなどでブラケットポジションを持って低い乗車姿勢をとったときなど、トップスピードに乗るまでの時間は圧倒的に早いです。スピードに乗っているときの走りは、これぞエアロロードという感覚でものすごく気持ちがいいですね。
弱点はやはり重量があるので上りなどで速度が落ちると、その重さが目立ちます。ただ時速20km半ばから時速20km台後半のアウターで走れる上りであれば、むしろ空力のメリットが効いてきます。多少上りがあってもホイールやタイヤのチョイスでカバーできる部分もありますし、よりきつい上りコースを走るのなら、それこそ軽量モデルのファルコンRSを選べばいいわけです。
リドレーが今回のノアファストで狙ってきたエアロ性能というのはすごく秀逸ですし、それでいて剛性感も固すぎず、すごく落ち着いて乗ることができました。トータルバランスにとても優れたバイクで、あの強烈な見た目にだまされてはいけない懐の深い走りがあります。
フレームセット価格は77万円と安くありませんが、これは専用ハンドル付属の状態です。他社のフレームセットはハンドルが別売となる場合も多く、それ単体は10万円を超えるので、そう考えるとノアファストの価格はかなりお買い得と言えるでしょう。私は今ちょうどバイクを乗り替えようと考えているところなのですが、ノアファストのバランスに優れた性能は、その有力な候補になりうる一台ですね。
動力性能に大差のない優秀なセカンドグレード
カタログでノアファストと重量を見比べると、ノアは160gも重いんですよね。正直これは相当に重いのではと感じました。しかし、やはりエアロ性能が際立っていて、この性能がノアファストに劣る印象はなかったです。加速感も差はないですし、中速域から高速域、そこからさらなる加速をしたときの速度の伸びも変わらないと言って過言ではありません。 重量のデメリットはインナーギヤを使ってダンシングで進むよう上り勾配になると感じやすく、やはりノアファストの方が明らかに軽く進みます。とはいえ速度域が高くなればその差は本当に少ないですし、ペダリングフィールも加速感もノアファストにすごく近いので、ノアは相当に魅力的なセカンドグレードだと言えるでしょう。
ノアファストと比べるとヘッド部がやや固いので、ダンシングの時に若干ハンドルが弾かれる、路面からの振動を伝えやすい面があり、私には少し気になりました。しかしノアは、デダの製品などD型のステアリングコラム対応のステムなら別体式のハンドルセットも装備可能です。それを利用すればフロントまわりの剛性を自分の好みに調整できる余地があるのはいいですね。
ノアファストと性能に決定的な差がなく、別体式のハンドルセットを使える高い汎用性を考えると、熱心にロードレースに参加する方にとってかなりお買い得な一台です。あとは、普段はロードバイクとして乗って、大会のときはエアロハンドルを付けてトライアスロンに参加する方にも最適です。今のエアロロードは一体型ハンドルの装備が前提でエアロバーを後付けできないものも多いですから。ノアは価格も含めてあらゆる部分でホビーサイクリストに寄り添った一台です。
リドレーというと昨年は有力プロチームへのスポンサードも途絶えたりするなど、近年ちょっと目立たない印象で、個人的には少々心配していました。しかし今年はチーム供給も復活してツールでも区間優勝を飾りましたし、今回乗ってみるとトータルバランスに優れた懐の深い見事なエアロロードでした。新型のノアシリーズによってリドレーは復活ののろしをあげたと言えるのではないでしょうか。
ライダー&店舗紹介
野中秀樹(のなか ひでき)
コーダーブルームでおなじみの国内自転車メーカー、ホダカに7年間勤務した後、今年6月に東京・練馬区に「フィールドサイクル」を開業する。大学生時代から実業団クラスのレースに参戦しており、ホダカ在職時には「ホダカファクトリーレーシング」を立ち上げる。サイクルスポーツの人気企画「店長選手権」では、2022~2024年のシクロクロス最速店長選手権を3連覇。ガチのレース派のイメージも強いが、サーリーに乗って日本全国を旅した“ガチ”のツーリストでもある。幅広い視点でスポーツバイクの楽しさを提案する。
フィールドサイクル
東京都練馬区豊玉中3丁目12-6コンフォート渋谷 1階B
TEL:03-5838-5798
営業時間:11:00~19:00
定休日:不定休(X、インスタグラムを参照)




























