9万9000円のカーボンスポークホイール スコムホイールの性能ってどうなんだ!?

目次

スコムのホイール

今ロードバイクにおける最もホットなプロダクトといえばカーボンスポークホイールである。そこで猛威を振るう中国ブランドから新たな刺客「スコム」が日本にやってきた。しかも価格は耳を疑う9万9000円! 玉石混交ともいわれるカーボンスポークホイールだが、この激安モデルは果たして“玉”なのか“石”なのか。自転車ジャーナリスト吉本 司が占う。

 

試乗ホイールのスペック

ヴォソ コア 50

スコム・ヴォソ コア 50
価格/9万9000円(前後セット)

SPEC.
●素材/カーボン(リム、スポーク)
●実測重量/627 g(フロント)、751g(リヤ)
●リムハイト/50mm(前後とも)
●リム内幅/21mm
●リム外幅/28mm
●スポーク本数/20本(前後とも。クロスパターン左右1:1構造)
●対応タイヤ/チューブド、チューブレスレディ
●対応カセット/シマノHG

 

ヴォソ ライト アルティメイト50+

スコム・ヴォソ  ライト アルティメイト50+
価格/11万5500円(前後セット)

SPEC.
●素材/カーボン(リム、スポーク)
●実測重量/622g(フロント)、752g(リヤ)
●リムハイト/50mm(前後とも)
●リム内幅/22mm
●リム外幅/29mm
●スポーク本数/21本(前後とも。2:1スポークパターン)
●対応タイヤ/チューブド、チューブレスレディ
●対応カセット/シマノHG

 

スコムホイールその他のラインナップ

SCOM(スコム)

スコム・ウルトラ
価格/19万8000円

スコムホイールの最上位となるモデル。内幅23mm、外幅30mmという最先端のワイドシェイプリムを採用。スポークは前輪が21本、後輪が24本で、ともに2:1の構造で組み上げる。ベアリングはセラミック仕様だ。リムハイトの異なる以下の4モデルを展開。

「ウルトラ40/40」リムハイト前後40mm、重量1320g
「ウルトラ50/50」リムハイト前後50mm、重量1385g
「ウルトラ62/62」リムハイト前後62mm、重量1500g
「ウルトラ50/62」リムハイト前50mm/後62mm、重量1445g

 

SCOM(スコム)

スコム・エアロライト
価格/15万4000円(前後セット)

ウルトラ同様、内幅23mm、外幅30mmのリム、スポーク数は前輪21本、後輪24本で、2:1の構造を採用したミドルグレード。重量はウルトラよりも若干重いようだ。リムハイトの異なる以下の4モデルを展開する。

「エアロライト40/40」リムハイト前後40mm、重量1390g
「エアロライト50/50」リムハイト前後50mm、重量1435g
「エアロライト62/62」リムハイト前後62mm、重量1535g
「エアロライト50/62」リムハイト前50mm/後62mm、重量1485g

 

前代未聞ともいえる高コスパのスペック

直近ではロヴァール、ヴィジョンといった大手ブランドが採用するなど、本格的なトレンドとなってきたカーボンスポークホイール。その震源地となったのは中国である。国内でカーボンコンポジット産業の拠点となる厦門(アモイ)には各種のカーボン製品を手がける企業がひしめき、その中にはカーボンスポークの供給元となるメーカーがあり、カーボンフレームやホイールのOEMで力をつけた生産工場が自社ブランドを展開するようになり、重量が軽くて価格も手ごろな製品が市場へ出ることになった。

当初は色物にも見られていた彼らだが、そのスペックだけでなく、走りも納得のコスパとあってこの数年で爆発的にシェアを広げ、日本のみならず今や世界的にも無視できない存在である。ルン、エリートホイールズ、ファースポーツ、ネペスト、スーパーチームといったブランドをよく耳にするが、中国の通販サイトなどで直販されるブランドまで含めると、もはや相当な数が日本へ届けられている。

そんな中にあって、最近日本に上陸を果たした中国ブランドが2020年に誕生した「スコム」だ。カーボンスポーク採用のモデルは、以下4つのシリーズを展開する。頂点となる「スコム ウルトラ」の下には「スコム エアロライト」があり、入門機には「ヴォソ」という名称が与えられ、「ヴォソ ライト アルティメイト」、「ヴォソ コア」をそろえる。今回試乗するのは、「ヴォソ コア」と「ヴォソ ライト アルティメイト」で、それぞれ9万9000円と11万5500円の価格だ。

中国ブランドの台頭によってカーボンホイールにおける価格は相当に下げられたとはいえ、スコムの安価は衝撃的である。現在、カーボンスポーク採用のモデルといえば、中国の有力ブランドで18~20万円程度が中央値。恐らくスコムの向こうを張れるのはスーパーチームのエントリーモデルだが、それでも10万円を下回ることはないので、ヴォソ コアがいかに爆安であるかが分かる。

というわけで大注目のヴォソ コアだが、リムハイトの異なる3つのバリエーションから、前後50mmのリムハイトを持つコア50を選んだ(ほかの2モデルは、前後60mmの「ヴォソ コア60」(12万1000円)、前輪50mm、後輪60mmの「ヴォソ コア50/60」(11万円)がある。リム幅は内側が21mm、外が28mmのワイドタイプ。スポーク本数は前後ともに20本。前後左右ともにクロスパターンで、左右10本ずつ(1:1)の仕様で組み上げる。採用するスポークのメーカーは、カーボンスポークの一大供給メーカーである中国のVONOA(ヴォノア)社である。

メーカー公表重量は1330g。50mmクラスのカーボンリムを備えたエントリーグレードのモデルといえば、前後セットで1500~1600gが当たり前で、1800g近いものもある。それを考えるとヴォソ コアは重量面でも大きなアドバンテージを持つ。カーボンスポークはステンレス製と比べて、1本あたり2g前半台の軽量化を可能にすると言われているが、やはりその効果は絶大だ。スペックだけで判断すれば、前代未聞のコスパを持つホイールと言えよう。

そして、もう少し価格が高いヴォソ ライト アルティメイトは、前後50mmのリムハイトを持つ「ヴォソ ライト アルティメイト50+」のほかウェーブ形状のリムを使った2モデルがそろう(ライトアルティメイト45-50(価格/12万1000円)とライトアルティメイト53-58(価格/13万2000円))。今回試乗するのはオーソドックスなリム形状のアルティメイト50+だ。

ヴォソ ライト アルティメイト50+の重量は1340gで、ヴォソ コアにかなり近いものだ。しかし、使用されているカーボンスポークはアルティメイト50+の方が扁平度合いは大きく、スポークパターンについても2:1でクロス×ストレートのパターンが採用される。当然ながらハブもフランジ形状を含めてコア50とは異なる。恐らくヴォソ コアよりもエアロ性能を重視した設計なのだろう。

リムブレーキ時代はエントリーグレード(10万円程度)のカーボンホイールというと、あからさまにチープ感のあるハブに、リムも肉厚な印象を受けるものが多かった。しかし、今回試乗する2つのモデルにはそうした雰囲気を感じることはない。さらにカーボンスポークホイールとして見ても現在の最新・定番の構造が反映されており、廉価モデルだからといって時代遅れ感もない。スペックとルックスは、これまでのエントリーにはないコスパの良さがあると言っていい。さて、肝心な走行性能は果たしてどうだろうか。

 

ヴォソ コアのハブ

ヴォソ コアのハブ。ハブフランジはスポークを平行に配置する設計。ハブシェル全体のフォルムもコンパクトだ

アルティメイト50+のハブ

アルティメイト50+のハブ。2:1のスポークパターンに最適化すべく、リヤのフリーボディ側と前輪ディスク側のフランジが大きく、反対側のフランジはコンパクトに設計される

フリーボディの内部構造

フリーボディの内部構造

フリーボディの内部構造は、両モデルともに現在のホイールで主流となるオープンラチェット方式。駆動効率に優れる

カーボンスポーク

カーボンスポークはヴォソ コア、アルティメイト50+ともに中国ヴォノア社の製品だ

アルティメイト50+のカーボンスポーク

アルティメイト50+のカーボンスポークは、エアロ効果を高めるためか扁平具合が大きい。幅は5mmで厚みは0.5mmだった

ヴォソ コアのカーボンスポークの幅と厚み

ヴォソ コアのカーボンスポークは、アルティメイト50+よりも扁平具合が小さく3mmの幅。反面、厚みは1.3mmと大きい。剛性を確保するためだろうか

ヴォソ コアのスポークパターン

左右ともにクロスで1:1のスポークパターンで組み上げられるヴォソ コア

アルティメイト50+のスポークパターン

アルティメイト50+は2:1の比率で、後輪のドライブ側と前輪のディスク側をクロス、それぞれの反対側をラジアルのスポークパターンで組み上げる

ヴォソ コアのリム

ヴォソ コアのリム。オーソドックスなエアロ形状だ。内幅21mm、外幅28mm。最新トレンドの23~25mmの内幅よりは細いが、25Cから30Cのタイヤまでバランスよく使える仕様だ

アルティメイト50+のリム

アルティメイト50+のリム。基本的なシェイプはヴォソ コアと変わらない印象だが、リム幅は内幅22mm、外幅30mmと太くなっている。より高いエアロ効果を求めるための設計だろうか

 

試乗インプレッション〜いい意味の“フツー”が驚異のカーボンスポークホイール

吉本さん

インプレッションライダー/吉本 司
各種の自転車メディアで執筆する自転車ジャーナリスト。40年以上にわたる自転車歴から、ロードバイクから小径車までさまざまなタイプのバイクに乗り、レースからツーリングまでいろいろな遊び方を楽しんできた。豊富な経験を基にして、機材解説、レース、市場動向、文化面に至るまで幅広い見識を持つ

 

最近、筆者は主要なカーボンスポークホイールを試乗している。中国ブランドのルン、エリートホイールズ、ファースポーツ、ネペストはもとより、ロヴァール、ヴィジョンといった大手ブランドのモデルまである。価格帯も20万円弱〜60万円弱までまちまちで、性能には開きがあるのは当然だ。しかしながら共通して挙げられる特徴は、やはり重量の軽さに起因する走りの軽やかさである。特に出足の軽さは鮮明だ。だが、その一方で数は少ないものの一部モデルでは、この特徴が高負荷・高速域になると、とたんに鈍ってしまう現象も見られた。高負荷をかけると推進力が食われるような感覚である。筆者だけでなく、一緒に試乗をしたサイクリストも同じような意見だったので、恐らく偶然ではないだろう。

さて、前置きが少し長くなったが、スコムのヴォソ コアである。まず気がかりだったのは、先述した高負荷域の走りでのネガがないかということである。まず、その走り出しは軽量なカーボンスポークホイールらしく走りの軽さを感じやすい。それだけで価格が9万9000円であることを忘れさせる。そして、そこからペダリングトルクをさらに高めていっても、ホイールがパワーを食ってしまうようなそぶりは見せにくい(プロのような大パワーのライダーだと分からないが……)。外周部となるリムがハイエンドモデルのように軽量ではないので、胸が空くような超絶な加速とまではいかないものの、ペダリングトルクがしっかりと加速に結びつく感覚は得られるので、フラストレーションをためるようなことはないだろう。

そのリムとタンジェント組のスポークパターンによるものなのか、ホイール剛性はしっかりとしている。若干ダンシングで前輪の突っ張り感もあるが、不快感はなく慣れで対応できるレベルだ。ペダリングの脚当たりも強すぎることはない。平地の巡航域においても50㎜のリムハイトらしい特性を示して、バイクの流れを止めないような走行感覚だ。そして空力は特段に優れる印象もないが、かといってハンドリングを大きく乱すような挙動も示さない。安定感も高いし、乗り心地もこのクラスのリムハイトとしては良好。上りも急登、長距離以外はこなせるので、50mmハイトとしては十分な万能性を持っている。また、走りに刺々しい雰囲気がないのはカーボンスポークの効果なのかもしれない。

 

ヴォソ コアを試す吉本さん

 

もう一つのモデル、ヴォソ ライト アルティメイト50+は、重量はほぼ同じだが、走りのフィーリングはヴォソ コアと少々異なる。スポーク自体の違いと2:1のスポークパターンが効果なのかバネ感を得やすい。それでいてホイール剛性は低い印象もなく、懸念される高負荷域で進みが鈍るような感覚も見られない。低速域ではヴォソ コアよりも軽快感、加速の反応性はやや高く、高速域のスピードの伸びにも優れる印象を受けた。ライダーとの相性もあるかもしれないが、レースで使うのならヴォソ ライト アルティメイト50+の方がより良いと感じた。

 

アルティメイト50+を試す吉本さん

 

ヴォソ コア、ヴォソ ライト アルティメイト50+ともに、総合的な走行性能にネガティブな印象はない。激安のカーボンスポークホイールとあっていろいろな疑念を抱いたが、いい意味で“フツー”の良いホイールだ。現在の中華系カーボンホイールでボリュームゾーンとなる価格帯の製品の性能水準にも迫っている。9万9000円と11万5500円でここまでの性能を実現しているのは“驚異”という言葉以外にない。乗り味に楽しみを見いだすようなサイクリストは別にして、道具として費用対効果を重視するのなら、今のところこれがトップランナーの1つであるし、十分すぎると言っていい価値があるだろう。

中国ブランドといえば歴史が短いだけに品質や耐久性、さらにはユーザー直販のメーカーなどは、万が一のトラブルがあった際の対応に心配を寄せるユーザーも少なくはないことだろう。スコムはその点に関して心配することはない。タイムやヴィジョンをはじめ数々のブランドを取り扱う実績を持つポディウムが代理店を務めるので、安心した対応が期待できる。スコムホイールは、コスパはもとよりアフターケアにおけるまで全方位において高い満足度を期待できる存在となりそうだ。

 

Brand Info~SCOM(スコム)について

2020年に設立された新興ホイールブランド。2016年に創業し、モータースポーツのボディやホイール、風力発電のブレード、中国高速鉄道のパーツなど、さまざまなカーボンコンポジット製品を研究開発・製造する企業が手がけている。中国におけるカーボンコンポジット産業の中心地である厦門(アモイ)に本拠を構える。