タイムの最高級ロードバイク「サイロン」第2世代を試乗インプレッション

目次

サイロンGen2

ハイクオリティかつプレミアムなロードバイクを送り出す、フランス発祥のブランド、タイム。そのエアロロードである「サイロン」が、今年、第2世代へと進化した。伝統のRTM工法、BCS構造には新技術が反映され、重量、空力、剛性など、すべてに磨きをかけた最新作の実力をジャーナリストの吉本司が探る。

 

フレーム作りの要所となるBCS構造に新技術を投入

タイム・サイロンGen2

タイム・サイロンGen2 【試乗車スペック】●フレームセット/タイム・サイロンGen2 ●コンポーネント/シマノ・デュラエースDi2 ●ホイールセット/ヴィジョン・メトロン60SL ●タイヤ/ハッチンソン・ブラックバードレース ●ハンドルセット/ヴィジョン・メトロン 5D ACR EVO インテグレーテッド ●シートポスト/タイム(サイロン付属品) ●サドル/セラサンマルコ・アスピデショート カーボンFX

 

TIME SCYLON GEN2

●価格/79万2000円(フレームセット、シートポスト、ヘッドパーツ付き)
●カラー展開/ヌード、パール、ブリリアンレッド、ブリリアントパープル
●サイズ展開/XXS、XS、S、M、L、XL

 

RTM(レジン トランスファー モールディング)工法と、BCS(ブレーデッド カーボン ストラクチャー)構造による独自のフレーム作りと、その特徴的な走りでサイクリストを魅了する、異色の存在ともいえるロードバイクブランドがタイムである。

そんな同社が今年、エアロロードのサイロンを刷新してきた。8年振りとなる2代目(Gen2)だ。基本コンセプトは万能型エアロロード。最新レーサーはケーブル類のフル内蔵が標準となり、重量増を招きやすい。これを可能な限り回避して、理想とする空力性能をいかに両立するかも開発のテーマの1つとなった。もちろん、これまでタイムが大切にしてきたペダリングフィール、高い強度と耐久性、優れた乗り心地の継承は必須条件だ。

そこでまずはカーボン素材を見直し、東レの超高弾性糸M46Jと高強度糸のT800が、7:3の割合で使用された。さらに注目すべきは、同社のフレーム製造で基軸となるBCS構造に「方向性モーフィング」という新技術を投入した点だ。BSC構造はソックス状にカーボン繊維を編み込むものだが、方向性モーフィングは1つのチューブ内で編み込み角度を30~45度へと徐々に変化させて、部位ごとに最適な素材を最適な角度で配置することを可能にしている。例えば、フレーム前三角の中でもシートチューブは柔軟性を持たせ、ヘッドやBBまわりは剛性を強化するなど、部位ごとの特性調節がより緻密にできるのだ。

これらによって、空力向上とケーブル内蔵による重量増、軽量化による耐久性と乗り心地の低下、剛性の向上による耐久性の低下という弱点が解消され、タイムの設計基準を満たしつつも、軽量化、剛性、強度、乗り心地に優れるフレームの開発が可能になった。

さらに、新型サイロンではフレーム前三角の作りも新たになった。従来はBCS構造の各チューブを金型に入れ、そこに樹脂を流し込む工法(RTM)だった。しかし本作ではBBからダウンチューブ、ヘッドチューブ、トップチューブまでが完全に連続したカーボン繊維で構成される技術に革新された。これにより卓越した強度や高い製品クオリティを実現している。

前作でパフォーマンスとハンドリングの要所となっていたチェーンステーは、「パワー ボックス システム」として見直された。超高弾性糸を全体に使用することで、従来の性能を落とすことなく20%の軽量化に成功。加えて、タイヤクリアランスも32Cまでに拡幅された。

こうして新型サイロンは前作から100g(フレームサイズごと)以上の軽量化を達成して、フレーム単体重量は870g(Mサイズ、塗装前重量)を実現した。それだけでなく、ペダリングに関わるねじり剛性は9%向上しており、駆動性能と軽量化の向上を両立している。

エアロロードの要点である空力性能は、確実に進化を遂げている。ケーブル類は完全に内蔵となり、軽量化、剛性と強度、そして乗り心地を損ねることのないチューブ形状が風洞実験により吟味された。ダウンチューブは最新エロロードの定番でもあるカムテール型だが、それだけでなくフレームの部位に応じて最適な断面形状が突き詰められ、空力はフレームで12%、フロントフォークで4%向上させることに成功している。

細部の煮詰めも抜かりはなく、ジオメトリーも見直された。各サイズでリーチ&スタックのバランスを再設計し、同時にシートアングルも全サイズで適正化。フォークオフセットは43mmと50mmを用意して、フレームサイズに応じてセットされ、高精度なハンドリングを全フレームサイズで追求する。そして、シートポストはオフセットを+10mmと-20mmに設定することができ、サドル後退幅を拡大させている。

こうして独特のフレーム作りにさらなる磨きをかけて、最新レーシングバイクに求められる空力性能、軽量性、剛性といった要素を追求した新型サイロン。タイムらしさと現代レーサーが望む性能はいかなる融合をみせるだろうか。

 

ヘッド部

前作と比べて滑らかな造形となり空力性能が向上したヘッド部。FSAのインテグレーテッドヘッドシステムを搭載し、ケーブルのフル内蔵とセミ内蔵の両方に対応する

シートステー

シートステーはより空力を高める断面形状に進化した。シートチューブとの接合部もよりすっきりとした構造となり、美しいデザインとともに軽量化も期待できる

BBまわり

必要最小限のボリュームに抑えられた印象のBBまわり。内部に構造リブを持つ新設計のチェーンステーを接合することで、必要な剛性レベルを実現しているのだろう

タイムロゴ

タイムのロゴはカーボン地がスケルトンとなるペイントワークを施す。同社のアイデンティティであるRTM工法とBCS構造であることを強く訴えかけてくる

リヤエンド

前後エンドは、短く切ったカーボンを樹脂と混ぜ合わせ、高圧・高温で鍛造する鍛造カーボンで作られる。高い強度と優れた耐久性を備えつつ軽量化も実現する

フロントフォークのコラム

フロントフォークのステアリングコラムはケブラー素材で補強。さらにコラム内の下部とクラウンをつなげるようにリブを配置して強度と剛性が強化されている

シートクランプ

しっかりとシートポストを固定できるシートクランプ。エアロロードに多い沈頭式は、ポストがずり落ちることも少なくないので、サイロンの仕様は実用性に富む

ヨーロッパ製の証

タイムはフレーム製造の全てをヨーロッパにある自社の工場とスタッフで行うことで高性能と高品質を維持している。トップチューブにはその証が記される

 

試乗インプレッション〜タイムにしかないフレーム特性がレーサーの能力を絞り出してくれる

吉本さん

インプレッションライダー/吉本 司(自転車ジャーナリスト) 各種の自転車メディアで執筆する自転車ジャーナリスト。40年以上にわたる自転車歴から、ロードバイクから小径車までさまざまなタイプのバイクに乗り、レースからツーリングまでいろいろな遊び方を経験。機材解説、レース、市場動向、文化まで幅広い知見を持つ。

 

タイムのバイクといえば、フレームに一体感があり、構造体として強いものに乗っている感覚が強い。それは単に剛性が高いとか、柔らかいとかの単純な言葉では表せない。筆者の語彙力の不足なのかもしれないが、言葉にすればするほど陳腐になってしまう。そんな不思議がタイムにはある。もちろん、この新型サイロンもしかりである。

サイロンは最新レースバイクにあるパリッとしたペダリングフィール、キンとした加速感というような、分かりやすいキャラクターとは一線を画す。分厚く、踏みしろのあるペダリングフィールを伴って、俊敏にそして滑らかに加速する。

今回はサイクルスポーツ本誌の企画の取材も重なって、偶然にも同社のクライミングモデル、アルプデュエズとサイロンを乗り比べることができた。やはりサイロンの方が、エアロオールラウンダーでありピュアレーサーとしてのキャラクターが強いので、フレーム剛性は高めに仕上げられているようだ。そもそもタイムは足に固さを感じることはないけれど、しっかりしていてトルクをかけると粘るようなペダリングフィールというのが特徴だが、この特性はサイロンの方がフレーム剛性が高いので、より高負荷・高速域になるとそれが顔を出しやすいようだ。

高負荷域では踏みしろがあるのでパワーをかけやすい。なおかつ一体感はあるけれど微妙ないなしが感じられる剛性によって、中・高速域の加速、巡航走行ともに伸びやかで、ライダーの力を無理なく絞り出してくれる。ロードレースにおいて最も重視される領域において、乗り手の負担を抑えながら速さを楽しむことができる絶妙な味付けである。

ライダーとバイクの一体感に優れるのもタイムの大きな魅力だが、この点においてもサイロンは色濃い。路面に密接にコンタクトしていて、車軸の長いものに乗っているような安心感がある。ホイールベースがやや長いジオメトリーの効果もあるが、それ以上に振動減衰が早い特性が功を奏しているのだろう。さらに的確なロードインフォメーションと重心位置によって、ダウンヒルの安定感とコーナリングでのオン・ザ・レール感は絶品だ。恐らくこのシチュエーションでタイムと争えるのは、コルナゴのCシリーズだけかもしれない。そして、振動減衰が早いというのは、当然ながら乗り心地の良さにもつながってくる。その能力はレーシングバイクとしてはトップレベルだ。

ライダーのパフォーマンスを絞り出し、扱いやすいサイロンのレーシングパフォーマンスは、公道を舞台にするような長距離のロードレースにおいて光り輝く。レーサーにとって頼れる存在になるのはもちろんのことだが、ある程度の高い負荷をかけたファストライドにライドの快感を覚えるようなサイクリストであっても、きっと大きな充実感を得られる良いパートナーになってくれるはずだ。

近年のタイムは資本関係が変わるなどして、ブランドの行方が心配された。しかし取り扱い代理店に話を伺うと、20年来タイムのフレーム作りで中核をなしていた欧州の自社生産工場とそのスタッフは、完全に維持されているという。タイムは昔と変わらず、今なおそこでカーボンをソックス状に編み、RTM工法によりフレームをサイクリストに届けている。独自のフレーム作りとライディングフィールを核としながら、最新レーサーに必要な性能と折り合いを付けた新型サイロンは、ちゃんとタイム味を堪能できる価値ある1台である。

 

Brand Info~TIME(タイム)について

1987年に足をフローティングさせる独自機構を持つロード用ビンディングペダルで自転車界に参入したフランス発祥のブランド。後に自国の有力カーボンフレームメーカー「TVT」の製造施設を買い取り、1993年、RTM工法を駆使した独自のフレーム作りに着手する。2000年代前半には「VXRS」シリーズを発表して、P・ベッティーニ、T・ボーネンのアルカンシェル獲得に貢献。以降プレミアムブランドとしての地位を固めている。