自転車の「フィッティング」って何? 意味あるの?

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自転車の「フィッティング」って何? 意味あるの?

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ロードバイクのようなスポーツ自転車に本格的に乗っている人なら、「フィッティング」というサービスの存在を知っているだろう。だけど、フィッティングって実際どんなことをやるのだろうか? また、受ける意味って? 今回はその点について、代表的なスペシャライズドの「リトゥールフィット」を例に深掘りしてみよう。

 

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フィッティングとは? 我流がダメな理由は?

そもそもフィッティングとは、分かりやすく言うとどんなサービスなんだろう。

そこで、日本国内で受けられる代表的なものとしてスペシャライズドの「Retül Fit(リトゥールフィット)」があるが、そのフィッターとして活躍しているスペシャライズド幕張の松田航介さんに聞いてみた。

スペシャライズド幕張の松田さん

松田航介さん。スペシャライズドのブランドストア、スペシャライズド幕張のストアマネージャーを務める。フィッターとして高い技術を持っている

 

「自転車に乗るうえで、必ず体が触れる部分がありますよね。ハンドル、サドル、ペダルの部分です。これらはタッチポイントと呼ばれます。それらを、“ライダー本人に合うように調整して最適化する”のがフィッティングです」と松田さん。

なるほど。ちょっと意地悪な言い方だが、そうしたことって自分でやろうと思えばできてしまう。というか、多くの人は自分でやってしまっているのではないだろうか。それをわざわざお金を払ってまでフィッティングを受けて調整する意味って?

「たしかにそのとおりで、ポジションの調整はご自身でやろうと思えばできてしまいます。ただ専門的に見てもらわないと、ご自身の力だけで本当に自分に合ったポジションを見出すのは、かなり難しいと思います」。

そうか。例えばサドルの高さと前後位置は個人でも簡単にいじれてしまうが、それを素人判断で自分に最適化されたものにするのは難しいのか。

「そうですね。ご自身が自分の体や乗り方に合っていない変なポジションで乗っていることにずっと気づいていない、というケースも多いんです。たとえプロ選手でも、間違った体の使い方にいったん慣れてしまえば、それに自分で気がつくというのは難しいでしょう。

そうしたことを続けていると、例えば膝や腰の痛みやケガにつながってしまう可能性すらあるんです。早い段階で、そして定期的にフィッティングを受けていくことで、そうしたことをあらかじめ予防することにもつながると思います」。

なるほど。レースに出場するような“ガチ勢”だけでなく、ロングライドなどサイクリングを楽しむ層にとっても、体に痛みが出ないというのは大事なことだ。快適に自転車を楽しむためにも、フィッティングは重要ということか。

 

フィッティングってどんなことをやる? 〜リトゥールフィットを事例に

では、実際にフィッティングってどんなことをやるんだろうか。代表例ということで、前述のリトゥールフィットを事例にその流れを紹介しよう。

さて、被験者として“超”豪華ゲストをお呼びした。何と……こちらのビッグネームだ!

中上貴晶さん

中上貴晶(なかがみ たかあき)さん。1992年生まれのモーターバイク・ロードレーサー。幼少期よりモーターバイクレースを始め、モトGP参戦など輝かしい戦績を残してきたプロライダーだ

 

「ロードバイクを始めたのは2019年頃で、モーターバイクのトレーニングの一環として乗ってきました。心肺機能を高めるのに有効なので、トレーナーについてもらってヒルクライムをする、といった乗り方をしてました。

乗り始めたくらいの時期に一度スペインでリトゥールフィットを受けたことがあるのですが、それ以降は受けていません。これからはロングライドにも挑戦していきたいので、ここで一度ポジションを見直したいと思います」と中上さん。

彼をフィッティングを受けるライダーの事例として、その流れを追っていこう。

「ちなみに、リトゥールフィットはこのたびリニューアルしました。よりライダーに“パーソナライズ”されたフィッティングを提供できるようになっています。その点も注目していただきたいですね」と松田さん。

 

【STEP1】インタビュー

リトゥールフィットのインタビュー

最初に行うのは、フィッターによるライダーへの「インタビュー」だ。ライダーが今後どういう乗り方をしていきたいのか、現状でどのくらいの頻度でライドをしているか、ケガをしていたり痛みが出ているか、自分の体で気になることはあるか、といったことのヒアリングを行なっていく。これは、フィッティングを進めていくうえで重要なステップとなる。

中上さんの場合は、

●ライドは週2回程度で、1回に乗る時間は3時間弱ほど
●ロードバイクに乗る目的は体力の維持・向上だが、今後はファンライドとしてロングライドにも挑戦していきたい
●過去にモーターバイクレーサーという職業上ケガをしたことがあり、すでに完治はしているが体の左右差、柔軟性の左右差があって、特に股関節の動きには若干左右差を感じている

という状況があった。

そこで今回は、長い距離を乗っても痛みが出にくい、ニュートラルで快適なポジションを探っていく方針とした。

 

【STEP2】現状のポジションを計測

リトゥールフィットのポジション計測

フィッティング本番に入る前にこちらも重要なステップとなる。

リトゥールフィットの場合はメジャーを使って目視で計測を行うわけではなく、専用の3Dカメラと「ジンツール」という機器を使って行う。このジンツールをサドルやハンドルなどの部位に当ててカメラでスキャンをするだけで、医療機器レベルで精度の高いポジション計測が短時間で行える。ハイテクだ。

 

【STEP3】フィジカルアセスメント

いよいよここから本格的な作業に入っていく。ここでは、ライダーの体の特徴、柔軟性、関節可動域などについて、全17項目にわたって調べていく。

以下に、いくつか項目をピックアップして紹介しよう。

リトゥールフィットのフィジカルアセスメントの一例

坐骨(ざこつ)幅の計測。専用ツールを用いて計測する

リトゥールフィットのフィジカルアセスメントの一例

骨盤に左右で高さの違いがあるかの計測

リトゥールフィットのフィジカルアセスメントの一例

立位前屈による柔軟性の計測

リトゥールフィットのフィジカルアセスメントの一例

スクワットによる“動的アセスメント”

リトゥールフィットのフィジカルアセスメントの一例

片脚でのスクワットによる動的アセスメント。前述の(両脚)スクワットと合わせて、ペダリング時にどれだけ自分で膝を安定させられるかのチェックのために行う

リトゥールフィットのフィジカルアセスメントの一例

股関節の可動域の計測

リトゥールフィットのフィジカルアセスメントの一例

脚の長さの左右差を計測

 

アセスメントの結果、中上さんには関節の可動域、柔軟性に若干の左右差があるものの、一般的に見ればほとんどないと言っていいレベルで、体の動きにも特に制約がない状態であることが確認された。

ライダーによっては体に大きく左右差が出ていたり、柔軟性が低く体の動きに制約がある状況が確認される。その場合は、それを踏まえたフィッティングが行われていくことになる。

「なお、例えばスクワットのようなライダー自身に動いてもらう動的なアセスメントがありましたが、これは今回のリニューアルで新たに加わった項目です。

次のステップではいよいよ自転車にまたがってフィッティングを行いますが、そのときにリトゥールフィットの専用アプリがライダーにとっての“推奨レンジ”を導き出してくれます。先ほどの動的アセスメントを行うことによって、その推奨レンジがよりパーソナライズされたものになるよう修正してくれる機能が加わりました」と松田さん。

 

【STEP4】フィッティング

リトゥールフィットのフィッティング風景

いよいよ“本番”。ここでは、「ムーブSL」というロードバイクからクロスバイクまであらゆるポジションの再現が可能な、可変式フィット用バイクを使用する。このムーブSLに、まずはSTEP2で計測した中上さんのバイクのポジションを再現する。

リトゥールフィットのモーションキャプチャー

中上さんに取り付けられた発光LED付きハーネス。光をカメラで読み取ることで、3Dモーションキャプチャーによる測定が可能になる

 

ライダー、つまり中上さんには、体の各部に3Dモーションキャプチャーのセンサーが装着された。これを専用カメラで読み取ることで、アプリにリアルタイムで動作を解析したさまざまなデータが送られてくる。ここからポジションを変化させ、それによってデータがどう変化するのかを確認しつつ、ライダーにとっての最適なポジションを探っていくのだ。

リトゥールフィット専用アプリ画面の様子

リトゥールフィット専用アプリ画面の様子

 

準備が整ったところでペダリング開始。まずは現状のペダリングの状態をチェック。中上さんのペダリングは左右で差がない状態であることが確認された。

そこで、まずはサドルをさらに上げた方がより動作が良くなるのか、あるいは下げた方が良いのか、前に出した方が良いのか、あるいは後ろに下げた方が良いのかを、ミリ単位でポジションを変化させて確かめていく。

リトゥールフィットのムーブSL

ポジションを変化させてペダリングをチェックする松田さん。ほとんどのポジションはダイヤルを回すだけで調整でき、ペダリングしながら即ポジションを変化させられるのがムーブSLの特徴だ

 

時折「ちょっとこれは違和感があるなぁ」と言う中上さん。それに対し松田さんは「OK。じゃあ、もとの位置に戻してみましょう」と、本人の感覚にも注意を払い、ポジションの調整をしていった。データが示すことだけなく、本人の感覚とも合わせて総合的にポジションを判断していくのが印象的だった。

結果、サドル高さ、前後位置については、現状のままのポジションを動かさない方が良いことが確かめられた。

コクピットまわりの調整についても同様に行なっていく。ステム長については、現状の長さ(80mm)を基準に前後で10mm単位ずつ動かしてチェックし、こちらも現状の長さのままにした方が良いと判断。ハンドル幅については現状(420mm)よりも20mm狭い400mmの方が良いと判断された。

ハンドル高さについては、下ハンドルを持ったときの関節角度と「これ以上下げるとつらい感じがする」という中上さん本人の感覚とを総合的に判断し、現状のままとした。

リトゥールフィットのアライメント確認

最後に「膝のアライメント」の確認

 

ひととおり各ポジションのセッティングが済んだところで、最後に「膝のアライメント」の確認が行われた。アライメントとは、股関節、膝関節、足関節の軌道がまっすぐにそろっているか、ということだ。この3点がまっすぐにそろっているとペダルにダイレクトにパワーを伝えられるうえ、けが予防の観点でもアライメントが狂っていないことが重要となる。

ライダーによってはアライメントの狂い(膝が大きく内側に入る、あるいは外側にそれる)が出るので、その場合はそれを調整することになる。

中上さんの場合は、アライメントがきれいに整っており、特に何もする必要はないことが確認された。

と、ここで中上さんから質問が。

「長い距離を乗っているとたまにお尻に痛みが出ることがあるんですが、他にサドルの種類ってあるんですか?」これに対し、「なるほど。痛みが出るのは恥骨(ちこつ)の部分ですね。では違う素材を使ったサドルに交換してみて、ストレスを感じないのがどれか探してみましょう」と松田さん。

リトゥールフィットの様子

これまで中上さんが使用していたサドルと形状とサイズは同じで、素材が3Dプリントになった「S-WORKS POWER WITH MIRROR SADDLE」に交換してみる

 

すると、「前のより全然いいですね。ポジションも変わらない感じがします」と中上さん。「スコーンとはまる感じですね。では、このサドルでいってみましょう」と松田さん。

 

【STEP5】フィッティング後の計測

リトゥールフィットのフィット後の計測

フィッティングが終わったら、最終的なポジションを再びジンツールと専用カメラを用いて計測。そのデータをライダーに納品するとともに、同じポジションをマイバイクで再現することで全ての流れは完了だ(無論、ハンドル・ステム、サドル等の交換が別途必要になる場合がある)。

 

リトゥールフィット 詳細

通常メニュー
●価格:3万3000円
●所要時間:2時間〜3時間

MTB/TT/トライアスロン用メニュー
●価格:3万8500円
●所要時間:2時間〜3時間

 

受ける価値は十分にある

リトゥールフィットの様子

今回のフィッティングでは、最終的に中上さんはハンドル幅を420mm→400mmに変更し、サドルをMirror(3Dプリント)サドルに変更した。受けてみた感想は?

「率直に自分のライディングポジションについていろいろな気づきや発見があって、楽しかったですね。

そして、これだけじっくりと時間をかけてミリ単位で調整してもらえるのはとれもうれしい体験です。自分では考えてもみなかった提案ももらえましたし。

これは現状のまま変えない方がいい、ここは変えた方がいいとか、自分が納得のいくように突き詰められたので、このサービスは受ける価値はあると思うし、(ロードバイクの場合で)3万3000円という対価は、十分に払う価値はあると思いました」と中上さん。

筆者が見ていて感じたのは“良い意味でアナログだな”ということ。さまざまな機器を用い、専用のアプリでデータを収集して推奨レンジが示されるわけだが、最終的にはフィッターという“人”の手が入ってフィッティングが行われる。まるでオーダーメイドのような良さが、そこにはある。

「そうですね。確かにデータは示されるわけですが、一人ひとりで体の状態も求める乗り方も異なってきますから、我々フィッターが、“人”が補完しているわけです。そして、あくまで主役はライダー、つまり今回は中上さんであるわけですから、ライダーが最も良い状態でライドができるようにサポートするうえでも、最終的にはフィッターで判断するというのはポイントになると思います」。

また、PCではなくiPadを用いていたのも印象的だった。

「今まではPCと専用ソフトウェアを使っていたのですが、今回のリニューアルでiPadと専用アプリを使うように変わりました。そしてデータの共有がされてどんどんサービスがアップデートされる仕組みにもなったので、さまざまなライダーのフィットデータがたまればたまるほど、よりフィッティングの精度が向上していきます。

また、お客様へのデータの受け渡しがよりスムーズに行えたり、フィッティングしながらデータをお見せするのにiPadなので“小回りが効く”といいますか、そうしたメリットもあります。細かい点だと、さまざまな店舗でサービスを導入しやすくなるという利点もありますね」と松田さん。

 

いかがだっただろうか。「ポジションなんて、自分の感覚で出せるし、今ので合っているよ」と思っている人は、これを読んだ今、本当にそうだと言えるか。そのポジションが自分に合っているかどうかとは、ここまで専門的にやってはじめて分かるものなのだ。

合っているかどうか分からないポジションで走り続け、最悪体に不調をきたしてしまう前に、一度フィッティングを受けて自分自身の走りを見直してみてはどうだろうか。

 

リトゥールフィットが受けられる店舗リストはこちら

https://www.specialized.com/jp/ja/retul#storelist