安井行生のロードバイク徹底評論 第3回 RIDLEY FENIX vol.1

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安井フェニックス1

フレーム価格10万円台ながら、ロット・ベリソルのメンバーを乗せて過酷なパリ~ルーベを走るフェニックス。プロトンの中で最も安価なフレームとして有名なリドレーのミドルグレードモデルである。この不死鳥は40~50万円クラスを蹴散らすハイエンドキラーなのか、それとも値段相応の凡車なのか。歴代のリドレーミドルグレードを試乗してきた安井がシゴき倒す。

 

簡単ではないミドルグレードの試乗

高価格車の試乗なら、なにも考えずに乗って走ってじっくりと吟味すればいい。フラッグシップモデルであればなおさらだ。それは、各ブランドが威信をかけて技術をつぎ込んで作り上げた看板娘。ブランドにとって言い訳ができない存在であり、その運動性能や質感や存在意義をそのまま素直に文章にすれば、評論として一応は成り立つ。対するエントリー~ミドルグレードモデルは価格が言い訳として成り立つ商品群。このコストに縛りのある価格帯の試乗が難しい。
 
どうしても、いつも乗っているハイエンド帯のフレームとの比較になってしまうからである。なぜならロードバイクの場合、10万円の完成車でも150万円をつぎ込んだ超高級車でも、「乗ってできること」にさほどの違いはないからだ。クルマのように、馬力や加速力や最高速や静粛性が明らかに違うのなら、評価の視点をパチッと切り替えることができるのだろうが、基本的に自転車の動力性能は乗り手に依存する。楽器の試弾やワインの試飲に近いかもしれない。
 
加えて、ホイールやタイヤなどのパーツを換えることで走りが激変するという特性がことをさらにややこしくする。フレームの価格差が総合性能に表れにくい乗り物なのである。低価格帯のバイクの試乗においては、純粋な走行性能以外にも考えなければいけないことがたくさんあるのだ。

 

「ハイエンドとの差」に注目すべき一台

安井フェニックス1
 
そんな事情をよりいっそう混乱させてくれるのが、リドレーというブランドである。リドレーはミドルグレードがおいしいメーカー、というのが実際の経験に基づく筆者の印象だ。気合いを入れて作るのはトップモデルだけで、ミドル以下はトップモデルの香りを振りかけるだけで適当にまとめるようなブランドも多いなか、リドレーのミドルグレードはいつの時代も価格以上によく走ってくれたからだ。
 
その「ミドルグレードの完成度の高さ」を自ら証明するかのように、リドレーはエントリー~ミドルクラスのフレームを積極的にプロチームに供給している。今回取り上げるフェニックスも、ロット・ベリソルのメインバイクとして活躍しており、デビュー時には「15万円以下のプロ供給モデル」と話題になった。2014モデルは為替の変動に伴って16万円台に値上げしてしまったが、それでもマーケット内で最も安いプロユースフレームであることは変わらない。通常、エントリー~ミドルグレードの試乗では、常にプライスタグと同価格帯のライバル車を頭の片隅に置きながら走らねばならない。しかし、リドレーの場合、価格を念頭に置きつつ、「上位グレードにどれほど肉薄しているか」という、通常とは少し異なる点に着目してもいいだろう。