安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.6

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安井ドグマF8-6

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。vol.6

 

従来の高弾性カーボンとは意味合いが違う

安井ドグマF8-6

では、ピナレロはこのT1100Gをどのような目的で使ったのか。素材の特性を考えると、おそらくフレーム剛性を上げるために使ったのではなく、衝撃強度を上げようとしたのだろう。

このT1100Gを使うことで、強度が向上し、設計にマージンが生まれ、その分を軽量化に回すことができる(使う素材を減らして軽量化が可能になる)。さらに、このT1100Gによって高弾性繊維が苦手とする強度を補えるため、高弾性繊維をより多く使えるようにもなる。これにより、フレームの「軽量化」と「高剛性化」という、本来なら相反する性能を両立させたのだろう。
 
だから、従来ピナレロが使ってきた高弾性カーボンと今回のT1100Gでは、意味合い(使用目的)がまったく違うのである。もちろんフレームのすべてがT1100Gでできているわけではない。どこにどれだけ使われているかは公表されていないが、イタリアで行なわれたプレスローンチに参加した編集部員からの情報によると、ピナレロの技術者は「T1100Gはダウンチューブ下側を中心に、決して少なくない量を使っている」と教えてくれたという。

 

繊維とプリプレグ、供給形態の違い

また、ピナレロの場合はカーボンの供給形態にも特徴がある。
 
「東レがフレームメーカーに供給する際のカーボンの形態は、おもに繊維です。フレームメーカーは繊維の状態で買い、自社で樹脂を含浸させ、プリプレグにしてフレーム素材としています。しかし、東レでもプリプレグを生産しているんです。これはハイエンド需要用として作っているもので、特殊な樹脂を使っているため、高機能なプリプレグとなっています」
 
フレームメーカーがわざわざ自社で樹脂を含浸させる理由は、もちろんコスト削減である。東レのプリプレグは高いのだ。
 
「ピナレロというメーカーは、繊維ではなくプリプレグの状態で購入する割合が多いのが特徴です。それだけ高機能な素材がほしいということなのでしょう。もちろんT1100Gも、繊維の性能を最大限に活かすためにプリプレグで購入してもらっています。このプリプレグに使っている樹脂は、東レが使える最高クラスのものです」