オールラウンダーからエアロロードへ!? BMC新型チームマシンRの実力チェック

目次

チームマシンR

BMCが5年の歳月をかけて開発したエアロロード。その過程ではF1の空力開発も手掛けるレッドブルアドバンスドテクノロジーズとのコラボレーションがあった。その新作を、BMCのバイクを販売するバイクショップスネルの諏訪店長と、本誌編集長中島が試乗しレポートする。

 

1994年にブランド誕生と、比較的新しいメーカーであるBMC。このスイスメーカーは、開発に必要なリソースを自社で持ち、常に独創的なバイクを世に送り出してきた。

今年、オールラウンダーカテゴリーに、フルモデルチェンジされたエアロロード「チームマシンR」が新たに追加された。チームマシンというシリーズ名こそ同じだが、これまで存在したSLRと今回紹介するRは全く別のバイクである。同社のR&Dセクションであるインペックラボがこれまで積み上げたバイク設計のノウハウをベースに、F1やモトGP参戦車両の開発を手掛けるレッドブルアドバンスドテクノロジーズとの協業によって生み出されたバイクは、5年の歳月をかけて誕生した。

特徴的なのはフロントフォークだ。バイクの空気抵抗を低減するために重要になってくるのはご存じのとおり。リムブレーキの頃はタイヤ、ホイールとのクリアランスを小さくするのが主流だったが、ディスクブレーキ化とタイヤの太幅化が進むに伴って、逆にこの部分のクリアランスを大きく取る設計がTTバイクを中心に増えてきている。その設計がチームマシンRにも生かされているのだ。

メインフレームももちろん空力を考慮に入れたデザインになっている。UCIルールに抵触しないラインをキープして、前後方向にかなりボリュームがある。ヘッドチューブは言うに及ばず、大ボリュームのBBまわりもそうだ。細部を丁寧に見ていってみよう。

ICSカーボンエアロコックピット

ステム一体型ハンドルICSカーボンエアロコックピットは、幅360 /420mm(C-C)とドロップ部が12.5度フレアになったエアロハンドル。幅は1種類!(理由は後ほど)。ステム長は80mm〜140mmまで10mm刻み

BB周辺

非常にボリューミーなBB周辺。ダウンチューブ下端からシートチューブ、チェーンステーへと面でつながっている。これにより、フレームからリヤホイールへの気流を整え、空気抵抗を低減している

フォーク

自転車本体の空気抵抗で重要な位置にあるフォークは大胆な形状だ。タイヤ、ホイールとフォークの間に大きなクリアランスが設けられた。ホイールの回転で生じる乱気流をフォークまわりからスムーズに後方へと流す

ヘッドチューブまわり

ヘッドチューブを上から見ると、空気抵抗低減のためダウンチューブにつながる部分がぐっと絞り込まれた形状になっていることが分かる。上記のステム一体型ハンドル以外にも、通常のハンドルバーで組むこともできる(BMC純正ステムが必要)

シートステーとシートチューブの接合部分

シートステーとシートチューブの接合部分も三角形の面で構成されている。リヤホイールに覆いかぶさるようなデザインで、これも空気抵抗低減のための造型だ

BBの裏側

BBの裏側には小さな突起がある。クランク下の空気の流れを整える効果があり、空力のためだけにフレームに付加物を付けることを禁じたUCIルールに抵触しないギリギリの大きさ

ボトルケージ

ボトルケージは円筒のボトルをつけても空気抵抗が増えないよう、フレームの形状にフィットした独自の形状を持つ。シートチューブ側とそれぞれ形が異なる専用形状

リヤエンド

BB裏の突起と同じく、リヤエンドとフォークエンドにも整流効果のあるコブが用意されている。細部までこだわり抜いていることが見て取れる

シマノ・アルテグラDi2完成車価格:165万円、フレームセット価格:105万6000円(ICSカーボンエアロハンドル付き)

Spec(国内販売モデルは、写真の試乗車とスペックが異なります)

フレーム●カーボン
フォーク●カーボン
メインコンポ●シマノ・アルテグラDi2
ホイール●CRD・501SL
タイヤ●ピレリ・PゼロレースTLR 700×26mm
ハンドル&ステム●BMC・RCB01カーボン
サドル●フィジーク・アルゴベントR3
シートポスト●専用品
サイズ●47、51、54、56
カラー●マットカーボン×カーボン、ヘリテージブルー×ストーンブルー
試乗車重量●7.68kg(ペダルなし)
フレーム重量●910g
フォーク重量●395g(ともにサイズ54)

チームマシンRのジオメトリ図 チームマシンRのジオメトリ表

試乗 Impression

見た目より、ずっとナチュラルな 乗り心地−−−諏訪

本誌・中島(以下N):乗る前に、バイクを前にしての印象とか、どういう走りをしそうだと想像しましたか?

スネル・諏訪(以下S):今のはやりのオールラウンドよりエアロを追求したような感じには見えたかな。

N:結構ボリュームがあったじゃないですか、BBまわりとか。

S:そうですね。これまでのチームマシンって言われているのとは、ちょっと変わったかな。よりエアロに近づいた。でも、平地もこなせて上りもこなそうという印象。見た目が硬そうだし。

N:BBのまわりを見て、ガチガチのフレームなのかなと想像をしていて、となると結構すぐに踏み負けちゃったりするのかなと。実際乗ってみた感じはいかがでした?

S:見た目よりはナチュラルというか、別にレーサーに特化していないような感じはしますね。見た目にほれたから欲しい!と思って買っても、ガチガチで乗りこなせないということはないと思います。お金があっても、これはあなたには無理ですよって感じにはならない。

N:確かにもっと路面の凸凹をどんどん拾ってくるかと思ったんですけど。ハンドリングも結構穏やかです。

S:今風かな。クイックでもないけど思った方向にハンドルをスパッと切って曲がってくれる。

N:横方向の踏ん張り感が強いと感じました。

S:そうですね。だからコーナーは結構安定していると思います。粘るというか、ハンドルを切らないコーナー、体を傾けて曲がるような感じだと安心感がある。

N:見た目の印象もありますが、前側のしっかり感と、逆に後ろのしっかり感の差がある。前側はすごく踏ん張りが効いている。

S:これははやりっぽいですよね。前が太くて後ろは細い。たぶん後ろは振動吸収を若干狙っていると思うんです。突き上げはそんなにないような気もする。

N:そうですね。突き上げはそう思いました。剛性の前後バランスは前7後3みたいな感覚です。

S:フォークが左右に広がっているのが硬そうに見えるけれど、実はあれで振動をちゃんと和らげているというか、いなしている。フォーククラウンの広がりで。あれがいいんだと思います。単なるストレートフォークと比べると、広がっている分ダイレクトに余り振動が来ないようになっているんでしょうね。

N:フォークの話でいうと、空力が一番売りにしている部分です。その辺は感じるものがありましたか?  エアロロードって言われても、空気抵抗が少ない!って感じることなかなかないじゃないですか。でも、このチームマシンはちょっとあるような気がしているんです。

S:あんまり自分はそこまでは感じなかったかな。ただ、平地と緩やかなアップダウンが続くところだと、速度が垂れにくい感じはあるかも。ただ一直線で普通に平地を踏んでいる分には余り感じなかった。下りは垂れにくいから脚を使わなくていいかもしれないですよね。

N:下りの話ですけど、速度が上がってきても安定していて、怖い感じはなかった。

S:それは空力というかうまく風を流しているからだと思う。フォークとかフレーム前まわりに風が当たっても、不安定さをなくしている。

N:ヨー角に強くなっている設計だと資料にもあります。

S:そうですね。それがある意味空気抵抗の軽減が効いているポイントかもしれない。空気抵抗が上がるとどうしても曲がっているときにバイクの挙動に影響が出る。

N:平地でも時速35km超えてきたくらいから本領を発揮してくる気がしました。

S:平地ではそれくらいは出さないとだめかもしれない。でも下りなら普通の人でもそれ以上の速度に達するから、安定感を感じられると思う。風でハンドルを持って行かれないというか。それで空気抵抗を軽減している分、自分の負担は減りますね。だから速いと速くないは抜きとして安定感は出ているのかな、フォークの設計で。風の流れが良いんでしょうね。

ライダーがエアロポジションを取りやすい−−−中島

N:フレームサイズが47、51、54、56の4種類あるのに対して、ステム一体型ハンドルは、幅が1種類でステム長が7種類という展開です。僕にとっては、形状と幅はかなり良かった。

S:自分もBMCのタイムマシンロードにも乗っていたので、若干フレア角が違うかもしれないですけど別に嫌いじゃないです。ただ、何で幅1種類? 一番小さいフレームサイズもあの広さだし。その辺は今のはやりに逆行しているような気がしますね。今狭いですよね、自分が思っているより皆。昔の体格でパッと見て、この人だったら400mmでしょっていうのが、それより狭い人がまあまあ多くて。ドロップ部を握る方が安定感はあると思います。

N:ステム長は80、90、100、110、120、130、140mmまであります。

S:すごい。でもあのハンドル幅で背が高い人も使っているの? それもすごいな。昔、自分が乗っていたタイムマシンロードのサイズは51。そのハンドル幅が400mmだった。2サイズあったと思うんですよ。小さいのと中間で分かれていて。

N:試乗車のサイズは51でした。

S:単純にコストの問題もあるのかな。

N:あると思いますね。金型をたくさん作る方がコストが高くなりますから。

S:100歩譲ってステム長はバリエーションを用意したよっていう感じかな。

N:プロトンは皆、今狭いからこれだけあれば大丈夫なんだということかもしれません。

S:一体型ハンドルを採用するバイクは増えましたね。サイズと形状がハマるならいいけど、合わないとどうにもならない。やっぱり一体型はその辺だめな人はだめなのかもしれないですよね。でも一体型の方が剛性は高いですね、どうやってもやっぱり。あと安心感。

N:ちなみに丸クランプのハンドルで組むためのステムもオプションで用意されています。続いて、重量について。試乗車は7.68kgでした。

S:こう言ってはあれだけど、軽くは感じないですよね。

N:そうなんですよ。軽く感じないんですよ。結構重量感がある走り。

S:安定感がある分、走りはどっしりしている感じがあった。

N:そうですね。チューブレスになっていればまた違ったと思いますか?

S:まあね。チューブレスだったら振動吸収性は、もっと良くなると思うんですよね。太いリム幅を生かした。

N:ジオメトリは前作と同じですが、BBが低くなったかのような安定感があります。

S:低いようなイメージですよね。乗った感じは。下りの安定感なんか特に。レースをやる人とかだとどうなのかな、かかりの問題とかも出てくるのかもしれないですけれどね。

N:加速性能みたいな部分っていかがですか?軽い感じがないと話していましたが。

S:ダンシングに関してはそんなに感じないかもしれないです。見た目ほど硬くなく、気持ちよく進む感じがします。反発もなく。頑張って走んなくていいのかなと思わせてくれる。

諏訪店長

バイクショップスネル店長
諏訪孝浩

オランダのロードレースを4シーズン走った経験を元にショップを開店。シクロクロスチームを持ち、今年からJプロツアーチーム「チーム・サイクラーズ・スネル」のメカニックも務める

中島編集長

本誌編集長
中島丈博

海外のバイクショーやメーカー本社の取材を積極的に行う。趣味ではトライアスロンをしているので、平地が速いバイクには特に強い興味をひかれる

開発担当者シュテファン・クリス氏に聞いたチームマシンRのこだわり

photo:Jérémie Reuiller

シュテファン・クリス氏

Q:空力設計についてプロセスを教えてください

シュテファン(以下S):CFDでシミュレーションを行い、それを元にライダーを乗せて風洞実験を行いました。また、本社のすぐ横にあるベロドローム内で走行テストも行っています。風洞実験は条件を一定にすることができるので、結果を定量化してみることができます。しかし、ロードバイクは外を走るわけですから実際に走行することで、よりリアルな走行環境での数値を見る必要もあります。

Q:共同開発チーム「レッドブルアドバンスドテクノロジーズは、F1のような4輪モータースポーツだけではなく、モトGPのような2輪モータースポーツにも関わっているかと思います。バイクの空力性能を考えるうえではモーターサイクルの空力性能と比較した方が理にかなっていると思いますが、BMCの新作設計ではモーターサイクルのデータを参考にされたことがありますか?

S:モーターサイクルは自転車と近い部分がいくつもあります。F1の場合は車体の空力を考えればいい、なぜならドライバーはヘルメットしか車体の外に出ていないから。それに比べてモーターサイクルは、車輪が2つなのはもちろん、ライダーが受ける空気抵抗の比率が増える。そして、走行中にライダーがバイクの上で動くので、それを考慮に入れる必要が出てくる。その点において共通するものがありました。

BMC

Q:チームマシンRは、TTバイクのスピードマシンのノウハウをいくつか落とし込んで作られたのでしょうか? それとも前作をベースに1から作られたのでしょうか?

S:スピードマシンは、F・カンチェッラーラとP・ニルソンにハンドリング性能についてアドバイスをもらいました。空力性能についてはレッドブルが途中から協力しています。チームマシンRに関しては、開発の初期段階からレッドブルと協力しています。なので、スピードマシンよりもコラボレーションという言葉が似合うでしょう。彼らも自転車を開発した経験がなかったので、とても興味深く関わってくれました。BMCには「インペックラボ」という、社内の開発リソースがあります。テストバイクなら自社内で完成車として製造できる規模です。この基本があり、そこにレッドブルという外部のノウハウを積み上げています。

BMC

Q:ターゲットとしている速度域は時速何kmくらいでしょうか? その理由は?

S:時速40kmを基準にしています。それは工業規格がそうなっているからです。

Q:重量面では他社のモデルと比べると軽量ではない。ターゲット重量をどのように決定しましたか?

S:エアロロードということで、DTスイスの60mmハイトのホイールを付けた状態で、7kgになるよう設計しました。なので、より軽量なホイールと組み合わせればUCIルールギリギリまで軽くできます。

Q:TTバイクと見比べるとフォークのデザインが大きく違います。TTバイクはタイヤの周辺が全体的に大きくスペースがある。チームマシンはタイヤの左右には大きなスペースがありますが、上側はギリギリです。この違いにはどのような理由がありますか?

S:TTバイクのスピードマシンは、フロントホイールの上、フォークの内側にシャークフィンという整流効果があるフィンがついています。そのためのスペースを確保するためにタイヤとのクリアランスが全体的に大きいです。対してチームマシンRは、空力だけではなく軽量化も考慮して設計しました。ですので、シャークフィンがありません。その分タイヤとのクリアランスは小さいです。

Q:ハンドル幅が1サイズです。ロード業界の慣例から考えると大きな決断ですが、この決断に至った経緯を教えてください

S:ロードバイクは、ライダーの空気抵抗も含めて考えなければなりません。ハンドル幅が広いとその分空気抵抗は増えます。そこで、このハンドルを設計して、幅の異なるサンプルを作り、複数のライダーに聞き取りを行いました。結果、8割のライダーはこの幅で問題ないという回答でした。空気抵抗を意識して上半身をコンパクトにしたいときはブラケット部を握り、ダンシングでバイクを振りたいときは、幅が広いドロップ部を持つというふうに使い分けができるのがその理由です。

Q:普通のステムとハンドルのセットでも組めますか?

S:はい、ICSコックピット用のアルミ製ステムを用意しています。これを使えばライダーの好みのハンドルを組み合わせることが可能です。ケーブルもステムから内装できます。

Q:オールラウンダーのチームマシンがエアロも手に入れました。ラインナップ内の立ち位置はどうなりますか?

S:チームマシンSLRは、まだラインナップに残ります。チームマシンRとSLRの両方が存在することになります。空力性能に振ったRは、強豪ライダーのように巡航速度が35km、40kmもしくはそれ以上の速度で走り続けるライダーに向けて作っています。ただ、重量はSLRの方が軽いです。なので、グランフォンドを楽しむライダーや、軽さを重視するライダーのためにSLRも残しています。

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