関係ないでは済まされない! 改めて知っておくべきアンチ・ドーピングの基礎知識

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アンチ・ドーピングの基礎知識

2月19日、JADA(日本アンチ・ドーピング機構)が、昨年行われた自転車競技でのドーピング違反に関する決定文を発表した。

今回の事件を受けて、改めてドーピングについて、そしてアマチュアサイクリストも気をつけるべき対策法についてなど、薬剤師の資格を持ち、ACTIVIKEにて栄養学を担当する阿部直幸さんとスポーツファーマシストの吉岡幸洋さんに寄稿いただいた。

 

自転車競技における、ショッキングなニュース

日本人の自転車競技選手にドーピング違反があったとJADAが2023年12月9日付の決定書で公表しました。(https://www.playtruejapan.org/entry_img/2023-007.pdf

2023年9月18日の「第57会JBCF経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ」にて行われた検査においてA選手の検体から違反物質のメルドニウムが検出されたとのこと。アマチュアのトップ選手が意図的にドーピング違反をしていたことにショックを受けました。

A選手は新型コロナウイルス感染症に罹った後、なかなか競技力が元に戻らず、その焦りからメルドニウムを服用したそうです。焦る気持ちは分かりますが、そこでドーピングしようと思ってしまったことが残念です。

メルドニウムには血管を拡げて体に酸素がいきわたりやすくする効果と、テストステロンが分解されるのを防いで筋肉量を増やす効果があるため、禁止物質に指定されています。

この薬はロシアやラトビア等の一部の国でしか販売されていないので、どうやって入手したのかも気になるところです。テニスの元世界女王M・シャラポワ選手もこの薬でドーピング違反になり、出場停止処分になっていました。シャラポワ選手も好きだっただけに残念です。

 

改めて、ドーピングとは

なぜドーピングをしてはいけないのか。
WADA(世界アンチ・ドーピング機構)は2つの理由からドーピングを禁止しています。

一つは競技の公平性を保つため、もう一つは選手の健康を守るためです。
アンチ・ドーピング規定には、自然に備わった才能を磨き上げることを通じてスポーツの価値は高められると書かれています。「スポーツの精神」と呼ばれるスポーツ固有の価値に基づいて競技が行われる必要があります。

ドーピングには様々な種類があります。あなたはこの中で何個知っていますか?

1.競技者の体内に禁止物質やその代謝物、マーカー等があること

2.競技者が禁止物質や禁止方法を使用すること、または使用を企てること

3.競技者による検査の回避、拒否

4.居場所情報関連義務違反(抜き打ち検査時に居場所報告したところにいない)

5.ドーピング検査に対して不正をする、不正を企てる

6.選手やサポートスタッフが禁止物質や禁止方法を保有している

7.禁止物質や禁止方法を不正取引する、不正取引を企てる

8.競技者に禁止物質や禁止方法を投与する、投与を企てる

9.他の人が違反するのを助ける、隠ぺいする

10.ドーピング違反により資格停止中の人と関わる

11.違反を通報されるのを阻止する、通報に対して報復する

違反物質や違反方法を使うのはもちろん、使おうとすることや、使っている人がいるのに通報しないことも違反となります。

 

自転車競技で使われてきたドーピング

アンチ・ドーピングの基礎知識

LANCE ARMSTRONG IN THE 1994 TOUR OF FLANDERS © SprintCycling

 

自転車競技ではツール・ド・フランスを7連覇したランス・アームストロングが様々なドーピングをしていたことで話題になりました。当時は今ほど検査体制が整っていなかったことから、検査で発見されない方法を考えながらドーピングしていたそうです。

自転車競技はこれまでドーピング違反が多く行われてきた競技でもあります。
筋肉量、心肺機能を上げることが勝利につながりやすい競技であることが関係していると思われます。

筋肉量を増やすステロイドホルモンやクレンブテロール等、心肺機能を上げるエリスロポエチンや血液ドーピング、ベータ刺激薬といった薬剤だけでなく、ロードバイクにモーターを仕込む機材ドーピングといった方法もありました。個人で行うドーピングではなく、組織的にドーピングが行われてきた印象です。

自転車競技がクリーンな競技であることをアピールするためにも、一人一人がアンチ・ドーピングを意識することが大事です。

ただし、ドーピング検査の結果が常に正しいわけではないことも知っておく必要があります。
過去に自転車競技において処分取り消しとなる事例がありました。

クリストファー・フルーム選手は違反ではない量の喘息治療薬を使用していたにもかかわらず、尿中から違反量の禁止物質が検出されました。その後フルーム選手とチームは、約1年の歳月をかけてパフォーマンス向上目的ではなく治療目的であったことを証明し、ドーピング無実の決定を勝ち取りました。

アルベルト・コンタドール選手は、筋肉増強作用のあるクレンブテロールに汚染された肉を食べたことによりドーピング検査陽性になりましたが、故意ではなかったことが証明され、処分は取り消しとなりました。

 

最近の主な原因物質とその解説

自転車競技では以前から禁止されていた、痛み止めのトラマドールが今年から全競技で禁止されました。トラマドールは麻薬成分であり、使用し続けることにより体へ悪影響が出ることから禁止となりました。

また、今年からは関節へのステロイド注射も競技会時に禁止となりました。アスリートの中には膝や足首、肩等の関節の痛みにステロイド注射を使った経験がある人もいるかと思います。ステロイドの種類によって何日前までであれば大丈夫というのが決まっています。これまでと同じイメージで試合前に注射をしてしまうと違反となる可能性が非常に高いです。

最近ではインドの陸上競技大会においてドーピング検査員が来るとの情報から棄権者が続出し、さらに、競技場の洗面台には注射器が散乱していたとのニュースもありました。赤血球の数を増やすエリスロポエチンの入った注射器だったそうです。エリスロポエチンは、あのアームストロングも使用していた薬です。

 

ドーピング違反にならないための対策

アンチ・ドーピング規定において、選手は自分の体に入る物全てにおいて責任を持つ必要があるとされています。つまり、知らなかったは通用しないということです。

ドーピングを防ぐ一番の方法は、ドーピングに対する意識を常に持つことです。普段何気なく口にしている栄養剤やサプリメントに対して、ドーピング違反にならないかと意識して購入する選手と、意識せず購入する選手ではどちらがリスクが大きくなるでしょうか。

栄養剤やサプリメントを購入する際には、最低限の対策としてアンチ・ドーピングの第三者認証を受けた商品を購入してください。これらは製造メーカー以外の企業がドーピング違反物質が入っていないか検査しており、第三者認証を受けている商品には認証マークが必ずついています。

選べる商品が多い第三者認証は、
「INFORMED SPORT(インフォームドスポーツ)」
「INFORMED CHOICE(インフォームドチョイス)」
「BSCG CERTIFID DRUG FREE」
です。
これらのマークがついている商品はwebで検索することも可能です。

市販の風邪薬やのど飴でもドーピングになってしまう物がありますし、病院でもらう薬にもドーピングになる成分が入っていることがあります。これらを選手個人で常時把握しておくことは困難ですので、すぐに相談できる相手を作っておくことをお勧めします。

 

スポーツファーマシストをご存じでしょうか?

アンチ・ドーピングに関する知識を持っている薬剤師のことです。試験を受けて認定された薬剤師だけがスポーツファーマシストを名乗ることができます。

スポーツファーマシストは最新のアンチ・ドーピングに関する情報を持っています。JADAのページから検索することができますので、お近くのスポーツファーマシストを探していつでも相談できる関係を作っておくと安心です。SNSで見つけるのもお勧めです。

ドーピング違反になる物質、方法等は毎年1月1日に改定されますが、基本的に禁止物質や方法は増えていきます。

ドーピングによって健康を害する危険を冒してまで得た成績は、本当に価値のあるものでしょうか? 全てを失う可能性だってはらんでいます。レースを頑張りたい人はもちろんですが、まわりにいる人も自分には関係ないとは思わずに、ぜひアンテナを張って情報収集を続けてみてほしいです。