台湾一周サイクリング「フォルモサ900 2023」帯同記 第3章:世界を魅了するサイクリングツアー、その内幕

目次

フォルモサ900第3章

台湾一周約900kmを9日間のグループサイクリングで走破するツアーイベント「フォルモサ900」。その国家級のイベントへの参加窓口となるジャイアントジャパン公式ツアーが4年ぶりに開催された。筆者は参加者をサポートするサイクリングガイドとしてツアーに帯同し、台湾の先進的なサイクリング環境に触れることとなった。第3章は圧倒的に快適な台湾でのサイクリング体験と、ツアー前半5日間をダイジェストでお届けする。

フォルモサツアー、3つの「快」

前回のレポートでは将来のツアー参加者に向けた準備のノウハウと、ツアー開始前日までを紹介した。本稿では、ツアーの核心となるサイクリング中の1日を、順を追ってお見せしたい。

小雨に濡れた台北市街地を進む

いよいよツアー開始。小雨に濡れた台北市街地を進む

いきなり質問で恐縮だが、あなたはサイクリングツアーにお金を払った経験があるだろうか? 読者の中にはレースやロングライドイベントへの参加経験はあれど、ガイド付きツアーは未経験という方が大多数ではないかと推察する。

その理由は、日本国内ではサイクリング特化型の旅行商品やツアー事業者が、まだまだ少数だからだ。ガイドの帯同するサイクリングツアーと聞けばぼんやりとイメージは浮かぶが、どのような体験ができるかは掴みきれていない、そんな方が大半であろうと思う。

筆者は今回サイクリングガイドの一人として参加したが、同時に初めてのフォルモサでもあったので、ツアー運営側と参加者側と双方の視点を持つことができた。振り返ると、ツアーを通じたノンストレスな旅行体験は、掛け値なしに絶賛できるものであった。

ここから先は、フォルモサツアーで得られる上質な体験を、「3つの快」として以下に要約したい。

その1:サイクリストに優しい「快」走路

河川敷に整備されたサイクリングロード

淡水の河川敷に整備されたサイクリングロード。幅広で、路面は快適そのもの

はじめに、台湾のサイクリングフレンドリーな走行環境について言及したい。

ツアースタート直後は信号の多い台北市街地を走る。東京と違うのはスクーターの多さで、横50cmを追い越していく場面は思わずヒヤリとしたが、一列走行を守り不意な横移動をしなければ心配はない。次第に交通の流れに慣れてきた頃、市街地を抜けると一気に爽快な道があなたを待っている。

川沿いのサイクリングロードは、スムーズでゆとりある走路が続きストレスフリーだった。この日は週末とあって、数えきれないサイクリストとすれ違った。老若男女が思い思いのスタイルでスポーツバイクを駆り、台湾の自転車文化の成熟ぶりを感じさせる光景であった。

バイクレーン

5日目に通ったバイクレーン、その広さに注目。自転車はスクーターとともにキープ“ライト”で通行する

また、幹線道路沿いに整備されたサイクリングロード「環島1号線」はサイクリストにとって非常に快適な走路だ。スクーター社会と共存するようにピクトグラム付きのラインが引かれ、大人数でも余裕をもって隊列走行ができる。舗装の状態は全体的に良好で、28cクリンチャータイヤで丁度いい塩梅だった。

たとえ最初はグループライドに不慣れであっても、広いレーンを走るうちに徐々に順応していくはずだ。実際、参加者のトレイン走行スキルは日ごとに向上し、中盤以降は美しい隊列が出来上がっていた。台湾の走行環境はグループライドビギナーに優しいと言えよう。

その2:安全で「快」適なグループライド

フォルモサ公式ジャージの参加者

初日は全員フォルモサ公式ジャージでコーディネート。一目でツアー参加者と分かる効果もある

次は専業のサイクリングガイドと、サポートカーの存在について。

旅先で見知らぬ道を走りたいと思った時、現地を知り尽くしたサイクリングガイドの存在は貴重だ。9日間で1000kmもの長旅とあれば、その役割は一層重要性を増す。参加者の大半は初めての台湾サイクリングで、交通ルールやルート詳細については全く明るくない。

マサオさん、スターフィーさんと

本国アドベンチャースタッフのマサオさん(左)とスターフィーさん(右)。それぞれ大先頭と最後尾を担当した

そこでサイクリングガイドの出番となるが、彼らの役割の一つは「参加者全員を安全にゴールまで導くこと」だ。今回はスタッフ含め33名が4グループに分かれ、各班の先頭と最後尾にガイドを配置し、単独ロストやミスコースを防ぐ構えだった。さらにガイドは無線を携帯し、走行中にチームカーとの連携やグループ間の位置情報を共有する。この体制により参加者は安全、快適にサイクリングを楽しむことができる。

台湾のサイクリング環境は日本との相違点がいくつかあるが、例えば右側通行なので信号付きの十字交差点は2段階“左”折する必要がある。先頭ガイドは参加者を所定の位置で待機させたり、右左折や停止のハンドサインを出し、参加者が迷いなく走れるように意思疎通を図る。8名グループだと長さ30mほどの隊列になるが、先頭ガイドは危険回避や適切なスピード管理に務め、後続のライダーをアシストしてくれる。

さらに付言すると、9日分のルートデータはRide with GPSを通じて出国前に共有されるのだが、常時ガイドに追従するのでサイクルコンピューターのナビ機能は一切使わずとも済む。つまり、下調べ無しに、道に迷う心配もなく、最適なルートだけを走行できるということだ。

ガイドツアーの集団走行

各グループの前後をガイドが固める。2台のサポートカーのうち1台は、最後尾グループをカバーする

そしてガイドとともに重要なのが、随行する2台のサポートカーの存在だ。

台北をスタートして20km、最初の休憩ポイントに着くと先回りしたサポートカーが後部ハッチを開けて待機していた。サポートカー後部はフードスタンドに改造され、スナックから飲料、必要な補給を無制限に受け取れる。このサポートによってジャージのポケットを補給食で占める必要がなくなり、限りなく身軽にサイクリングを楽しめるのだ。

補給食満載のサポートカー後部

補給食満載のサポートカー後部。味のバリエーションは豊富で、まるでフードスタンドのよう

食事以外にも日焼け止めや修理工具、果てはスペアバイクまで一式揃っており、サイクリストのニーズに的確に応えてくれる。また、個人の手荷物はサポートカーから出し入れでき、例えば使い終わった雨具を収納したり、出先で買ったお土産を預けることも可能だ。これにより、バックパックを背負う負担からも開放される。

リヤエンド曲がりを修理

リヤエンド曲がりを修理。同型エンドのストックがあり、丸ごと交換となった

ドライバーのノビタさんはジャイアントストア台南店の店長でもあり、メカニック作業はお手のもの。9日間で実際に起きたメカトラブルはリアエンド交換が一回、パンクも一回程度で済んだが、愛車に万が一があっても安心してツアーを続けられるだろう。無論、出国前にバイクのメンテナンスは完璧に仕上げてツアーに参加するのがベストだ。ちなみに、ツアー中の写真撮影も彼が担当してくれた。

その3:行く先々で出会う「快」食

ツアー最初のランチタイム

ツアー最初のランチタイム。中華テーブルを囲んで大皿料理を楽しみつつ、その豪華さに驚く

最後は食事について。サイクリングと食は不可分な関係だ。

ランチタイムはたっぷり1時間設けられ、ロードサイドの食堂で中華テーブルを囲う台湾スタイルだ。日本騎士團以外のグループも合流していて、ちょっとしたパーティー会場のような賑やかな空気の中で地元料理を味わった。大皿で次々と運ばれてくる豚角煮や煮魚は本当に絶品だった。栄養バランスは完璧で、野菜も多いのでヘルシーだ。

ランチ

サイクリング中のランチとしては豪華そのもの。台湾の豊かな食文化に毎日驚かされることに

台湾食の多様さは驚くほどで、毎回違う美食が楽しめると言ってもいいほど。円卓上でこれまでのサイクリングルートに話を弾ませながら、未体験の味に驚嘆しつつ、あっという間に時間が経つ。

想像してほしいのだが、サイクリングにおける毎回のグルメ選びは楽しみのひとつではあるものの、意外に手間がかかる。休憩したいタイミングで補給スポットがあるとは限らないし、突然の定休日に出くわすこともあり、何より味の保証はない。しかしツアーであれば毎日食べる場所に悩む必要もなく、台湾ローカルも認める美食を楽しめる。実感しにくいが、これは重要なツアーの重要なメリットだと思う。

77km地点の寺院でeバイクグループと記念撮影

77km地点の寺院でeバイクグループと記念撮影。彼らも9日間で環島する同志だ

新竹の福華大飯店

初日のゴール、新竹の福華大飯店に投宿。清潔で快適なホテルだ

上記の流れを経て初日は順調に進み、まだ明るいうちに新竹のホテル「福華大飯店」に到着した。バイクを地下に置いてロビーにあがると、サポートカーからスーツケースが降ろされておりチェックインの準備が完了している。あとは自室のルームキーを受け取り、手早くシャワーと洗濯を済ませ、19時頃に夕食へと繰り出すのみ。メンバー同士で1日を振り返りつつ、賑やかな晩餐を楽しんだ。食後は自由時間となり、部屋に戻ってくつろぐのも良し、2軒目を求めて町を散策するも良しだ。

初日の夕飯の煮魚

初日の夕飯で参加者から大絶賛された煮魚。醤油ベースで独特の風味が絶品

初日の100kmだけでも、アドベンチャーチームの手厚いサポートと台湾のサイクリング環境に感激するばかりであった。筆者はガイド担当とはいえ、いちサイクリストとしてすっかりエンジョイしていたほどだ。この快適さを知ってしまうと、ぜひ国内でも同様のツアーを体験したいと思える。

走って食べて寝て、1日を目一杯楽しむ。このすこぶる健康的でエキサイティングな生活が9日間続く。1日100km超を連日走ることになるが、十分な休憩タイムと余裕のある走行ペースで疲労困憊になることはほとんどない。誰でも完走できるとまでは言わないが、心身ともに健康な成人ならば9日間を無理なく走破できるだろう。

前半5日間をダイジェストでご紹介

ツアーマップ

9日間のツアーは反時計回りに進む。最南端までの西海岸側は概ねフラットで、追い風区間が続く

今回の日本騎士團は反時計回りに進み、常に海側を走るルートをとる。前半5日間はこの時期特有の北風を追い風として活用でき、アップダウンも少ないため、台湾の走行環境とグループライドに慣れるには最適な条件が揃っている。

以降は前半5日間の中で、特に印象的だったパートをダイジェストでお見せしたい。とにかく1日1日が濃厚であったが、全てをお見せできない旨をご容赦いただきたい。その全貌はぜひツアーに参加し、自らの目と脚で体験してもらえたら幸いだ。

2日目 : ジャイアントグループの本拠地を訪問

ショートヒルクライム

85km地点から始まるショートヒルクライム。丘の向こうに台中の街が待つ

ジャイアントグループ新社屋

ジャイアントグループ新社屋を表敬訪問。自転車博物館やカフェも備える

スタート : 新竹
ゴール : 台中(台中福華大飯店)
走行距離 : 100km/獲得標高801m

フラットな市街地走行がメインで、終盤に標高260mの登りがひとつあるコース。追い風も相まって、スポーツサイクリング然としたスピードで快走できた。

この日の最終休憩ポイントは、2019年に竣工したジャイアントグループ新社屋。初日の開会式に登壇したジャイアントファミリーのフィービーさんがお出迎えしてくれて、広大な自転車博物館からは一同驚きの声が上がった。オリジナルグッズも購入でき、ジャイアントファンならずとも楽しめるサイクリストの聖地と呼べる場所であった。

3日目:追い風を受け、快走は続く

コンビニ休憩

コンビニ休憩は台湾でもお馴染みの光景。品揃えは日本と変わらず、トイレも利用できる

順澤宮

開運スポットである順澤宮。プロトライアスリートのグスタフ・イデンの秘話は必聴

スタート : 台中
ゴール : 嘉義(兆品酒店)
走行距離 : 95km/獲得標高226m

この日も強い追い風が吹き、大部分がフラットな走りやすいコースであった。

3日も経つと全員がサイクリング中心の生活ルーティンに慣れ、一連のグループ行動もスムーズに運ぶようになってくる。なお、走行グループの配置は毎日シャッフルされるため、様々な参加者と走るチャンスがある。

ゴール地点の嘉義(かぎ)は小さな街で、筆者はこのツアー参加で初めて存在を知ったほどだ。小さな街にもスポットが当たるのはフォルモサツアーならではで、素朴な街並みに親しみを覚えた。

4日目:北回帰線の向こう側へ突入

熱帯へ突入

北回帰線を超えると熱帯へ突入。南国らしい雰囲気にガラリと変わる

ツアー中最長距離を走る

4日目はツアー中最長距離を走る。日没後はライトを点灯

スタート : 嘉義
ゴール : 高雄(シャトー・ド・シンホテル)
走行距離 : 123km/獲得標高246m

スタート5kmで北回帰線を越えると亜熱帯から熱帯に切り替わり、みるみる暑くなる。11月とは思えない真夏の陽射しに焼かれる1日となった。

前半3日間は市街地を抜けるため信号が多かったが、この日は最長距離ながらノンストップで走れる区間が長く、一層快適に進んだ。景色も段々と田園風景が目立ちはじめ、巨大に育ったバナナの木は南国の趣があった。

ゴール地点は台湾第2の都市、高雄。高層ビルが立ち並ぶ景観は近代的で圧巻であった。

5日目:高雄の街並みから南国リゾートへ

バイクレーンを走行

高雄の朝は通勤ラッシュで混み合う幹線道路を避け、バイクレーンを走行した

新感覚のかき氷

日本には見られない新感覚のかき氷。氷の下の温かい餡を絡めて食べる

スタート : 高雄
ゴール : 恒春(墾丁怡湾渡仮酒店)
走行距離 : 106km/獲得標高397m

高雄の通勤ラッシュは凄まじい光景で、何百ものスクーターに囲まれながら走る場面もあり、まさに圧倒される。とはいえ大部分は安全なバイクレーンを利用するので、そこまで心配はなかった。

後半40kmは四国一周の室戸岬までのルートに似た、一本道でゆるやかなアップダウンを繰り返す快走路であった。ゴールのホテルからもう少し南進すると台湾の最南端に行けるが、それは次回に持ち越しとなった。

参加者一行

毎日走って食べて、友情を深める参加者一行。大型ツアーはサイクリング仲間もおのずと増えていく

5日間を走り通してもなお、参加者みな元気はつらつであり、筆者もエネルギーを貰えるほどだった。ここまで幸にして大きなトラブルや事故もなく、日本騎士團の雰囲気はとても良いもので、後半戦への不安は一切なかった。環島達成を目指す同志であるからか、日本人ゆえの連帯感からなのか、30人以上のグループ行動でも滞りなく進んでいたのはとても印象的だった。

読者の中にはフォルモサは走りたいが大人数での行動が苦手な方もいるかもしれないが、どうか安心してほしい。もし単独で参加したとしても、サイクリストの輪は自然と生まれていくので尻込みせずに飛び込んでいただければと思う。優れたサイクリング体験に並ぶフォルモサツアーのもう一つの価値は、サイクリングを通じた人的交流にあるとも言えよう。

 

次回の最終章では、ツアー後半4日間を振り返りつつ、日本のサイクルツーリズムにおけるフォルモサツアーの存在意義について考察を述べたい。

 

速報! 2024フォルモサ900ジャイアントジャパン公式ツアーの開催が決定。

フォルモサツアー参加者

フォルモサツアーは早くも2024年開催が決定している。台湾サイクリングのベストシーズンである10/4から10/13の予定で、今回より1日少ない8日間+移動日2日間で最終調整中とのことだが、筆者も続報を心待ちにしたい。気になる読者は、ぜひ今からスケジュール確保をおすすめする。なお、ツアー費用や宿泊地などの募集要項は近日中に確定されるとのこと。タイミングが合えば次回で詳報する。

 

筆者プロフィール:中谷亮太
富山在住の自転車ライター。JCGA公認サイクリングガイドとして本ツアーに帯同した。