猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第28回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第28回

御来光前の伊勢神宮。伊勢神宮は正装じゃないという事でサイクルジャージはNGらしい…

私が初めてサイクルスポーツという雑誌に出会ったのは14年前だ。
初めてのロードバイクを手に入れるための情報源として購入した。

全くロードバイクの知識のない私は、雑誌のインプレを見てルック・555の購入を決めた。
そこには「ホビーからレースまで」と書かれていた。
19万円のエントリーモデルでレースまでカバー!おかげで良い買い物をした。
それからイタリアを旅し、チャリダーが始まり今年で12年が経つ。

そして今回14年の歳月を経て私はサイクルスポーツの表紙を飾らせていただく「運び」となったのだ。
私は、この「運び」という言葉が好きだ。
「縁」と言っても良いが世の中は「運び」や「縁」に溢れている。

伊勢志摩大特集の裏話

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第28回

サイクルスポーツ3月号の特集「自転車大好き俳優・猪野 学がゆく “伊勢志摩” 快走サイクリングガイド」

 

今回サイクルスポーツで紹介する事になったのは私の地元・三重県、伊勢志摩地方。
ロケ当日、伊勢志摩駅に10時に集合した。
初めてお会いする編集部の江里口氏。
サイクル・フォトグラファーの岩崎竜太氏。
そしてお正月の猪野家貧脚三兄弟ライドに登場する、誰よりも三重県を愛する男、サイクル・ジャーナリストの浅野真則氏だ。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第28回

右からフォトグラファー岩崎氏、ライター浅野氏、著者

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第28回

撮影の指示を出す編集江里口氏

伊勢志摩といえばやはり伊勢神宮。
まずは伊勢神宮、周辺のロケから始まった。

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アップダウンが続くバールライン。プライベートでもトレーニングに使っている。

 

今回は普段行かない伊勢神宮の別の顔が見れる場所に行かせて貰った。
名所旧跡には遊郭というものが付きものだ。昔、伊勢の遊郭だったのが浅吉だ。
古い建物がそのまま残っていて映画のセットのよう。

撮影をしていると自転車乗った女性が一人で観光している。聞くと横浜から来て駅でレンタルサイクルを借りて旅をしているとの事。
自転車が観光のツールとして使われるまさに理想の形ではないか!
この女性との出会いもまさに「運び」ではないか!
これは幸先が良い!と午前の撮影を終え昼食をとる時に「それ」は起こった。

海鮮丼に気を付けろ

大きく「海鮮」と書かれた看板が目に止まる。伊勢志摩といえは伊勢湾の海鮮だ!!
意気揚々と江里口氏が「4人ですけど大丈夫ですか?」と聞くと店主らしき男は一瞬、間を置いて「だ 大丈夫です」と我々を2階に案内した。
この時にあの「間」に気付けていたら…あんな事にはならなかった。

午後の撮影はサイクルトレインの撮影で近鉄電車に乗る。
近鉄広報と13時に待ち合わせいるので、4人とも早く出てくる海鮮丼を注文する。
2000円するが江里口氏は「撮影初日だし美味いもん喰いましょう!」と満面の笑みだ。

江里口氏は撮影の打ち合わせのため、タバコを吸いに行く岩崎氏と一階に降りてゆく。
すると残された私と浅野氏の耳に厨房から店主のスマホの会話が聞こえて来る。

「4人とも海鮮丼注文しよったんよぉ〜サーモンしかあれへんでぇ!いゃ、あかん!サーモンも無いわぁ〜玉子しか無いで!買うて来てくれへん!?」
関西ではよく注文したものが遅い時に「今、獲りに行ってんのやわ〜」などと場を紛らす場面がある。
もちろん現実に獲りに行くなんて事は有り得ない…有り得ないから笑えるのだ。しかし有り得ないコントの様な事が現実に起こったのだ。

待てど暮らせど出て来ない海鮮丼。
40分ぐらい待っただろうか…ようやく運ばれて来た海鮮丼は我々の目を疑うものだった。
スーパーで購入されたであろう鮮やかなピンク色のびんちょうマグロは、解凍が追い付かず凍っている。
海鮮の少なさをカバーするためか?玉子焼きが異様にデカい。

言葉を失うとはこの事だ!
しかし我々は大人だ。仕事で来ているし時間が無い!現実を受け入れて黙々と食す。

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問題の海鮮丼。玉子が異様にデカいのが特徴的だ。

 

すると店主が「すんません蟹、忘れてました!」と蟹を小皿に乗せてやって来た。
わざわざ遅れても持ってくるのだからさぞかし美味い蟹なのだろう…
一筋の光が見えた時に誰よりも温厚な浅野氏が沈黙を破った…「カマやん!!」

遅れて運ばれた一見蟹に見えるそれは見事にカニカマだったのだ。
三重をこよなく愛する浅野氏には耐えられなかったのだろう。

その時、江里口氏の携帯がけたたましく鳴った!
「今どちらにおいでですか?」
近鉄の広報からの電話だ。
時計を見ると13:20分。
謝罪する江里口氏。海鮮丼が地獄絵図を作り出す。

慌てて会計を済ませて近鉄の駅へと向かうと寒空の中、近鉄広報が2人待っておられた。
もちろん海鮮丼で遅れたとは言えない。

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御座白浜海水浴場。エメラルドグリーンの海が美しい。

 

何とかサイクルトレインの撮影を終えると、何と江里口氏と近鉄広報が同じ高校出身という事が発覚した。
一気に場が和む。同郷は海鮮丼を上回る。
これもひとつの「運び」では無いか。

その夜の宴は海鮮丼の話題で大いに盛り上がった。
「2000円でこれだけ話題が盛り上がったんやから安いもんや!結果良ければ全て良しや!」と誰よりもカニカマにキレた浅野氏の言葉が旅を締め括った。

2024年はどんな「運び」がやって来るのだろうか…
海鮮丼のように運ばれてこないかも知れない。
また運ばれたとしても、カニカマのような紛い物かも知れない。

世界は予測不能な現実に満ちている。
今年も宜しくお願いいたします。

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撮影最終日に食べたちゃんとした海鮮丼。じつは三重は美味しい食べ物に溢れている。

 

猪野 学 公式X(Twitter)