安井行生のロードバイク徹底評論第7回 LOOK 795LIGHT Vol.6
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675は予兆にすぎなかったのか。「これがルックの新型フラッグシップ?」 コンセプトモデルのスケッチがそのまま現実世界に飛び出てきたようなその姿に誰もが驚いた。695のオーナーである安井は、そんな795に何を感じ、何を見たのか。泣く子も黙る2016モデルの目玉、ルック・795の美点欠点を好き勝手に書き散らかす徹底評論第7回。Vol.6
クランクの弱点は改善されず
クランクは695と同じ構造のZED2クランクを使う。左右アームとシャフトがカーボンで一体化された軽量高剛性クランクで、BB65という専用の大口径BBシステムを介してフレームに挿入される。先端に配されたおむすび型のシムの向きを変えることでクランク長を170mm~172.5mm~175mmと可変できる機構も盛り込まれている。アーム~シャフト一体成型&大口径ベアリング使用によって、軽量化&高剛性化の最先端を行くクランクセットである。
しかし、このクランクには瑕疵も多い。左右アームが一体成型でBBベアリングを通過する構造上、Qファクターは149mmより詰めることが出来ないのだ。これは、自分で695を買ったときに気付いた大きな欠点である。また、クランク長を167.5mm以下には設定できないことも不備である。ZED2は「小柄なライダーを無視したクランクセット」なのである。
チェーンリングはOEM先をストロングライトからプラクシスワークスに変更した。電動化によってチェーンリングにも剛性が求められるようになったためだという。これによって貧弱なフロント変速性能はやや改善されたが、まだまだコンポーネントメーカー純正にはほど遠い。クランクにおける欠点は、695のときからそっくりそのまま健在なのだ。ちなみに、BBアダプターでJISに変換することが可能だ。
(※先日行われた展示会で新型となるZED3クランクが発表された。それには、155、157.5、160mmと、162.5、165、167.5mmに設定できる2サイズが追加された。よくやった、とも思うが、最初からこうすべきだった、とも思う)
ルック技術陣の偏狂性
たかがシートポストなのにここまで複雑なものを設計して作る手間は評価すべきだろう。真円シートポストならどっかからテキトーに調達してくれば済む話なのだ。ZED2クランクを見て「こんなに自由なモノづくりができる社風が羨ましい」と言った某社のエンジニアがいたそうだが、このEポストもルック技術陣の偏狂性が端的に表れている部分である。
ほぼ全てのケーブルを内蔵した結果、ショップのメカニックを悶絶させているという噂の795。今回は、フレームの状態からくみ上げるまでの作業を見学させてもらった。ここで詳しく書いてもしょうがないので詳細は省くが、これは確かに一種の知恵の輪である。メカニックは通常の5倍ほどの工賃をもらわないとやっていられないだろう。
しっかりと乗り込むことで正確な試乗を期するこの連載では、いつもは<右フロント・左リヤ>で組まれている試乗車のブレーキの左右を入れ替えて<右リヤ>にして乗るのだが、今回はとうとう諦めた。リヤブレーキのアウターをあるべき場所に収める自信がなかったからだ。「自転車くらい組めるし」と軽い気持ちで手を出すとにっちもさっちもいかなくなって泣きを見ること間違いなしである。
要するに、795は専用パーツを満載し、機械式時計のように極めて複雑なエアロロードとなったのだ。これはこれでなかなか勇敢なモデルチェンジだといえる。猛烈にイジりにくい。ポジション面での制約も強い。ハンドリングに悪影響がある(後述)。エアロライトのインテグレーテッドブレーキはデュラエースの性能と比べると一歩も二歩も劣るだろう。
確かに新型マドンや新型ヴェンジなども、色々なものの犠牲の上に成り立っているフレームである。しかし、彼らの商品構成は手広い。トレックにはエモンダがある。スペシャはターマックを持っている。エイリアンのようなバイクがお嫌いならこちらをどうぞ、と言えるのだ。スコットだってジャイアントだってリドレーだって、エアロロードとは別に万能モデルを持つ。しかしルックはそうではない。695を万能モデルとして残しているとはいえ、795と695を同列に扱うのはやや無理がある。695はいまだに一級の性能を持っているが、デビューからすでに5年も経っているのだ。
事実上、今のルックというブランドを牽引するのは795ただ一人。だから「勇敢なモデルチェンジ」なのだ。