サイクルスポーツ.jpが選ぶ2023年自転車10大ニュース・海外ロードレース編

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2023 Road News
  • photo ©SprintCycling / LaPress / A.S.O. / Unipublic

2023年の海外ロードレースは、まだまだ新型コロナの影響を受けながらも、トップスターたちが期待通りの活躍を見せ、様々なドラマが生まれ、熱き戦いが繰り広げられた。サイクルスポーツ.jpが厳選した10大ニュースで、2023年シーズンの海外ロードレースを振り返ろう。
 

初開催のスーパー世界選でファンデルプールが初優勝

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初開催されたスーパー世界選の男子ロードで優勝したオランダのファンデルプール (©SprintCycling)

 
国際自転車競技連合(UCI)は、4年に1度、自転車競技の異なった13競技の世界選手権を、2週間にわたり1つの場所で同時開催する『UCIサイクリング世界選手権』を、2023年に初めて開催した。

スーパー世界選と呼ばれる新イベントは、8月に英国北部スコットランドのグラスゴーが舞台となり、男子エリートのロードレースはオランダのマテュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク/28)が初優勝を果たした。

ファンデルプールは2月に母国オランダのホーヘルハイデで開催されたシクロクロス世界選手権で5度目の優勝を果たしていて、同じ年にシクロクロスとロードレースの両方で世界チャンピオンになった最初の男子選手になった。
 

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ファンデルプールは同じ年にシクロクロスとロードレースの両方で世界チャンピオンになった最初の男子選手になった (©SprintCycling)

 

ロンド・バン・ブラーンデレンでポガチャルが初優勝

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ついにロンド・バン・ブラーンデレンを制したスロベニアのポガチャル (©SprintCycling)

 
2020年、2021年のツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)で総合優勝しているスロベニアのタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ/24)が、4月にベルギー北部フランダース地方で開催されたロンド・バン・ブラーンデレン(ツール・デ・フランドル/UCIワールドツアー)で初優勝を果たした。

ポガチャルは2022年の大会で終盤にファンデルプールと2人でレースをリードした後、後続に追いつかれてゴールスプリントで4位になっていた。その苦い経験から、今年彼は最後のオウド・クワルモントでディフェンディングチャンピオンのファンデルプールを蹴落とし、独走でゴールに到着する事ができた。

グランツールの総合優勝者が、モニュメントと呼ばれる5大クラシックの1つであるロンドで優勝したのは、1994年のジャンニ・ブーニョ(1990年にジロ・デ・イタリアで総合優勝したイタリア人)以来だった。

ポガチャルは既に2021年にリエージュ~バストーニュ~リエージュ(ベルギー)、2021年と2022年にイル・ロンバルディア(イタリア)で優勝してして、これが3つ目のモニュメント制覇だった。
 

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グランツール総合優勝者がロンドで優勝したのはイタリアのブーニョ以来だった (©SprintCycling)

 

マリア・ローザが新型コロナ陽性でジロ・デ・イタリア棄権

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2022年世界チャンピオンのエヴェネプールは、マリア・ローザを着用した翌日に新型コロナでレースを棄権しなければならなくなった (©SprintCycling)

 
5月に開催されたジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)は、開幕前から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け続け、総合首位でマリア・ローザのレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ/ベルギー)が、チームの定期検査で陽性になり、第10ステージで棄権せざるを得なくなる異常事態になった。

2022年にブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー)で総合優勝し、その2週間後のウロンゴン世界選(オーストラリア)で世界チャンピオンになったエヴェネプールは、今年のジロで優勝候補の1人として期待されていた。

エヴェネプールがエースだったベルギーのスーダル・クイックステップは、参加選手8人中5人が新型コロナでレースを去り、結局2人しか完走できなかった。

 

ログリッチがジロ・デ・イタリアで総合初優勝

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国境を越えてやってきたスロベニア応援団がログリッチに逆転劇の力を与えた (photo : LaPresse)

 
5月に開催されたジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)は、プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)が総合初優勝し、祖国スロベニアに初めて “終わりのないトロフィー”をもたらした。

33歳のログリッチは2019年、2020年、2021年にブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー)で総合優勝していて、これが4回目のグランツール制覇だった。

最終日前日に行われた山岳個人タイムトライアルは、奇しくもスロベニア国境に近い北イタリアのウディネ県で開催され、国境を越えてログリッチの応援団が来ていた。そこで彼は英国のゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアズ)を打ち負かし、総合首位に立ってマリア・ローザを獲得した。

ログリッチは2020年のツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)で、同郷のタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)に最終日前日の山岳個人タイムトライアルで逆転され、総合優勝のチャンスを失った経験があり、それがトラウマになっていると言われ続けていた。しかし、彼はそれを克服し、ジロ初優勝を手中に収めた。

ミラノの表彰台には、マリア・ローザを着た息子のレフ君と一緒に上がり、2人でテレマークのポーズを決めていた。
 

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ジロで総合初優勝し、表彰台で息子と一緒にテレマークのポーズを決めたスロベニアのログリッチ (©SprintCycling)

 

ツール・ド・スイスで地元のメーダーが事故死

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ツール・ド・スイスの転落事故で亡くなったメーダー。まだ26歳だった (©SprintCycling)

 
6月15日に開催されたツール・ド・スイス(UCIワールドツアー)の第5ステージで、スイスのジーノ・メーダー(バーレーン ヴィクトリアス/26)が転落事故で帰らぬ人となった。

メーダーはアルブラ峠の下り坂で谷底へ転落し、すぐに駆けつけた医療スタッフによって心肺蘇生処置を受け、ヘリコプターで病院へ搬送されて治療を受けたが、翌日に息を引き取った。

第6ステージは事故が起きたアルブラ峠を再び通過する予定だったが、主催者はメーダーの訃報を受けてこのステージを中止にした。代わりにゴールまでの20kmを『ジーノ・メモリアル・ライド』として、集団全員で走る追悼ランを行い、バーレーン ヴィクトリアスのチームメイトたちが一列に並んでゴールした。
 

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追悼ライドはバーレーン ヴィクトリアスのチームメイトたちが一列になってゴールした (©SprintCycling)

 

引退を発表したカヴェンディッシュがジロ最終日に区間優勝

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ジロ最終区間でドラマチックな勝利を上げたカヴェンディッシュ (©SprintCycling)

 
5月のジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)期間中に38歳の誕生日を迎えた英国のマーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム)は、休養日に家族を伴って記者会見を開き、今シーズンで引退すると発表した。

その後、カヴェンディッシュはローマで開催された最終ステージで区間優勝し、ジロ区間通算17勝目を上げた。このドラマチックな成功で、7月のツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)では史上最多の区間通算35勝の記録達成が期待されたが、彼は第8ステージの落車で鎖骨を骨折し、その夢は消えてしまった。

しかし、カヴェンディッシュの物語はまだ終わりではない。アレクサンドル・ヴィノクロフGMのオファーを受け、彼は引退を1年延期し、2024年シーズンもアスタナ・カザクスタン チームで走る事になった。
 

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ツール区間通算35勝の夢は落車事故で消えてしまった (©SprintCycling)

 

ヴィンゲゴーがツール・ド・フランス総合連覇

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デンマークのヴィンゲゴーがツール総合連覇を果たした

 
2022年のツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)で総合初優勝し、一躍時の人となったデンマークのヨーナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ/26)が、2023年は連覇を成し遂げた。彼は最大のライバルだったスロベニアのタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)に、7分35秒もの大差を付けて最終日のパリに到着した。

4月にリエージュ~バストーニュ~リエージュ(UCIワールドツアー)で落車して手首を骨折したポガチャルは、決して万全ではない状態で今年のツールに挑んでいたが、それでも熱戦の主役として輝き続けていた。しかし、彼はクイーンステージだった第17ステージで力尽き、大きく遅れてしまった。
 

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クイーンステージで力尽き、チームメートに付き添われてゴールしたマイヨ・ブランのポガチャル (©SprintCycling)

 
ツール・ド・フランスの長い歴史の中で、総合優勝と総合2位の選手が2年連続で同じだったのは、1978年と1979年に総合優勝したベルナール・イノー(フランス)と2位になったヨープ・ズートメルク(オランダ)以来だった。2021年にポガチャルが総合優勝した時はヴィンゲゴーが総合2位で、同じ2人の選手が3年連続で総合1位と2位になったのは史上初の出来事だった。
 

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3年連続ツールで総合争いをしているポガチャルとヴィンゲゴー。2024年シーズンもこの2人の熱い戦いが楽しみだ

 

アシスト選手のクースがブエルタ・ア・エスパーニャで総合初優勝

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アシスト選手のクース (中央) がブエルタでサプライズな総合初優勝を成し遂げた

 
オランダのユンボ・ヴィスマで長年山岳アシストとして働いている米国のセップ・クース(ユンボ・ヴィスマ/29歳)が、9月のブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー)で、サプライズな総合初優勝を果たした。米国の選手がグランツールで総合優勝したのは、2013年に41歳でブエルタ総合初優勝を果たしたクリス・ホーナー以来だった。

クースは2023年のグランツール全てに参加し、ジロではプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)、ツールではヨーナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)の総合優勝に貢献していた。彼はブエルタにもアシストとして参加したのだが、序盤に逃げて総合をリードし、第8ステージで獲得したラ・ロハを最終日のマドリードまで持ち帰った。

総合2位はヴィンゲゴー、総合3位はログリッチで、アシスト選手のクースが総合優勝する事は、チーム内で話し合って認められたという。そこ至るまでは、果たしてクースは総合優勝させてもらえるのだろうかと、気をもむような場面もあった。
 

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霧のアングリル登坂で先行したユンボ・ヴィスマの3選手。クースにとっては試練のステージだった (©SprintCycling)

 

ユンボ・ヴィスマが3大ツアー全制覇

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ブエルタの最終ステージで、2023年の3大ツアー優勝者がそれぞれのリーダージャージを着て記念撮影を行った

 
オランダのユンボ・ヴィスマはプリモシュ・ログリッチがジロ・デ・イタリア、ヨーナス・ヴィンゲゴーがツール・ド・フランス、そしてセップ・クースがブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝し、2023年シーズンの3大ツアー(グランツール)を全制覇した。

自転車競技の長い歴史の中で、同じチームが1つのシーズンに3大ツアー全てを制覇したのは初めての出来事だった。それが達成されたブエルタの最終ステージで、ユンボ・ヴィスマはそれぞれのレースを象徴するピンク、黄色、赤のラインが入った特別なチームジャージを着用していた。

3大ツアー総合優勝を含め、2023年シーズンは69勝を上げたユンボ・ヴィスマだったが、意外にも国際自転車競技連合(UCI)が発表するUCIワールドランキングのチームランキングでは、首位にはならなかった。

2023年シーズンのチームランキングで首位になったのは、個人ランキングでも首位になったスロベニアのタデイ・ポガチャルが所属するアラブ首長国連邦登録のUAEチーム・エミレーツだった。
 

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ユンボ・ヴィスマは3大ツアー全制覇を祝う特別なジャージを着てブエルタ最終ステージを走った

 

2大チームの合併騒動?!

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エヴェネプールをチームに留めるために奔走するスーダル・クイックステップのルフェーブルGM (©SprintCycling)

 
2023年も終盤の9月下旬に、ベルギーのスーダル・クイックステップとオランダのユンボ・ヴィスマが合併するというニュースが、オランダのニュースサイトで暴露された。

レムコ・エヴェネプールをチームに留めたいスーダル・クイックステップが、英国のイネオス・グレナディアズと合併するかもしれないという噂話はシーズン中に囁かれていたが、ユンボ・ヴィスマとの合併は寝耳に水で、レース界は一時騒然となった。

この合併話は噂ではなく、実際に両チームの首脳陣が話し合いも行ったが、結局様々な理由から中止になり、レースファンは安堵のため息をもらした。もし、合併が実現していれば、多くの選手が2024年の移籍先を探さなければならなくなっただろう。

ユンボ・ヴィスマは大手スーパーチェーンのユンボがタイトルスポンサーから退き、サプスポンサーだったオランダの自転車リースサービス、リースアバイクがタイトルスポンサーに昇格し、2024年シーズンはチーム ヴィスマ・リースアバイクに名称変更する。
 

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ユンボ・ヴィスマは2024年シーズンからチーム ヴィスマ・リースアバイクになる

 
ベルギーのヘットニュースプラッド紙は、リースアバイクはオランダ複合企業のポンホールディングが創立したサービスで、同社はチームが使用するサーヴェロのオーナーでもあるため、それがスペシャライズドを使用するスーダル・クイックステップとの合併が実現しなかった理由の1つだったようだと報じていた。
 

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See you in the next season….coming soon!