猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第25回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第25回

佐渡ロングライド翌日に変態に引き摺り回され疲弊する筆者。この後 平均勾配15%の激坂が待っているとは…

「回すべきか……踏むべきか……それが問題だ」
自転車競技にはケイデンスというものが存在する。
このケイデンスが自転車競技を更に奥深く、そして面白くさせていると思う。

重いギヤか、軽いギヤか

前にも書かせていただいたが、元世界チャンピオンのアレハンドロ・バルベルデに
「どうやったらあんたみたいに重いギヤを踏めるんだ?」と聞いたら
「俺の筋繊維は神様からのギフトさ!」と答えた。
その時のドヤ顔は今でも私の脳裏に焼き付いている。

そう!自転車競技は脚質というものが残酷に存在する。
ギフトを貰った奴だけが踏めて…貰えなかった奴はクルクル回してひぃ〜こら苦しめという事かなのか。

そんな事があってたまるか!俺にもギフトをくれ!
という事で私はとあるギフトを授かったであろう男に会いに新潟の魚沼に向かった。

その男の名は「変態クライマー」こと佐藤忍氏だ。
彼は数々のヒルクライムで今も優勝し続けている。
そして彼もまた重いギヤを踏み続けられるギフトの持ち主だ。

果たしてギフトだけで速いのか?
同じトレーニングをして検証させて貰う事になった。

いろいろと、ユニーク

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第25回

規格外な男 佐藤忍さん。暴飲暴食を続けているが、なぜか体は絞れている。

まず忍さんの家に着くと「ライド前にエネルギー補給しましょう!」という事で一緒に朝食をいただく事になった。
そこにも速さの秘密があるかも知れない。
すると忍さんのお母様が作られたピザやフルーツたっぷりのヨーグルトや野菜が出てきた。それを猛烈な勢いで食べる。
そう忍さんは、とにかくよく食べるのだ。

朝食を食べながら普段のトレーニングの内容を聞いてみた。
「キツいの(高強度)はあんまやんないっす!前はやってたんですけど楽しくないし合わなくて。だから淡々と楽しく好きなように乗ってる感じっす。だから今日で170日レスト無しっすね」

これは意外だった……ヒルクライムのトレーニングには高強度はつきものだ。
先日チャリダーの姉妹番組のランスマの出演者とトレーニングの話で盛り上がったが、マラソンにも高強度練習は必須だという。

私も、もちろん高強度練習を取り入れているがあまり好きではない。
高強度=無酸素はダメージが大きいし、コンディションを崩しやすい。そしてきっと寿命を縮める。

忍さんは好きな有酸素領域だけやって優勝しているのか?
ますます変態クライマーという男に興味が沸いてきた。

極端な機材と練習方法

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第25回

忍さんの練習機材。男ギヤ仕様で重い。ちなみに本番機材は5kgと超軽量、乗鞍だと1kg軽いと1分速いらしい…

朝食を食べ終わり早速トレーニング!
するとサンダルで出掛ける忍さん。
忍さんは基本的に本番しかビンディングシューズは履かず、練習は200円のサンダルらしい。
これも速さの秘訣と思われるので私もサンダルでスタート!!

スタートして2分で長い坂が現れる。
魚沼は山に囲まれている素晴らしい環境だ。
早速アウター縛りで重いギヤを踏むが、あっという間に乳酸がたまり踏めなくなる。
ロケ前日が佐渡ロングライドだったので脚が無いのもあるが、忍さんは小柄な体で踏み続けている。
乳酸はたまらないのか?

そしてなんと言ってもサンダルではペダルに力が伝わらない。

以前にとあるコーチに「ビンディングシューズのソールって、なぜあんなに硬いかわかりますか?」と問われた事がある。
あの硬さを利用して走れている人は意外と少ないらしい。サンダルの今では分かるような気がする。

何とかサンダルで上り続ける。パワーは230W。確かに高い強度ではない。
有酸素領域だ。

しかし私と忍さんは10kgの体重差があるのでどんどん離される。
わかってはいたが、一本目から全く歯が立たなかった。さすが優勝常連者。

頂上に着き、早速なぜサンダルなのか聞いてみた。
すると「なんかシューズ履くの面倒くさいんすよ」と……。冗談なのか、本音なのか……。つかめない男だ。
サンダルで危なくないのか聞くと、案の定コンクリにぶつけて骨折した事があるらしい。

そして更に忍さんを観察するとある事に気付く。
汗だくなのにボトルを持っていないではないか!?

トレーニング中は給水しないのか?と
聞くと、忍さんならではのクレイジーな理由が……。

ますます掴めなくなってきた。変態に常識は通用しない……これは手強いぞ!
速さの秘訣を探るロケだが、今のところその秘訣があるどころか、クライマーがやってはいけない事ばかりやっていて全く参考にならない。
自転車情報番組として成立するのか!?

焦り始める番組スタッフ。
しかし…しかしだ!変態クライマーにも正常な常識人に当てはまる「何か」がきっとあるはずだ!
信じよう!もうカメラ回っちゃってるんだから信じるしかない!
そう信じて我々は次の坂へと向かったが、信じた我々が馬鹿だった…

後編 遂に発覚!変態クライマーの速さの謎!
「スワンボートペダリング編」へと続く。

猪野 学 公式X(Twitter)