安井行生のロードバイク徹底評論第10回 BMC SLR01 vol.9
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2018シーズンはアツい年となりそうである。ドグマF10とK10。ターマックとルーベ。エモンダ、プロペル、リアクト、シナプス、R5に785……。
各社の主力機のモデルチェンジに日本中のロード好きが話題騒然としているなか、BMCは旗艦SLR01を世代交代させた。
開発プログラム主導による前作をどのように変化させたのか。イタリアでのプレスローンチに参加した安井が報告する。vol.9
試乗記:ディスクブレーキ版
驚いたのがディスクブレーキ版である。イタリアではSLR01 チームとSLR01ディスクチームに、日本ではSLR01スリーとSLR01ディスクワンに乗ることができた。リムブレーキ版と比較しながら印象を書いてみようと思う。
当然リムブレーキ版とはホイールが異なるため正確な比較にはならないのだが、日本での試乗ではSLR01ディスクワンに付属するホイール(DTスイスのカーボンクリンチャー)に合わせて、SLR01スリーのホイールをボーラクリンチャーに変え、できるだけ条件を接近させて比較した。
今までリムブレーキモデルと基本設計を共有したディスクロードにいい印象がなかったので、SLR01ディスクの走りにはいささかショックを受けた。どんな踏み方をしてもディスク版はリムブレーキ版より力強く進むのだ。上りでも平地でもどんな状況でもディスク版の吐き出すトラクションはかなり濃い。どっからどう踏んでも蹴りだしてくれるのだから、低負荷時の走りにも余裕が生まれる。
メインフレームは全く同じだというが、フォーク剛性はディスク版のほうが8%も高いからか、フレーム剛性までもディスク版のほうが高い印象を受ける。もしくは左チェーンステーの構造強化が影響したか。
ただし体に馴染みやすいのはリムブレーキのほうだ。扱いやすさ・自然な挙動・一体感においてはリムブレーキ車に分があり、力強さ・トラクションならディスクブレーキ車という印象だ。エンジニアにそう伝えたら「それはホイールの違いによるところが大きいのではないか」と言われてしまったが、数種類のホイールで比較してもこの印象は変わらなかった。個人的には旧型SLR01と新型SLR01の差より、新型SLR01と新型SLR01ディスクの差のほうが大きいと断固主張したい。
左ブレードだけが太いフォークのせいか、ハンドリングにはやや違和感がある。Di2仕様ということも手伝って(シフトアウターがないためハンドリングが軽い)リムブレーキ版よりさらにクイックで、スラロームをしてみると左右の操舵感にわずかながら差があるようにも感じる。先入観による思い込みという可能性も否定できないが。
しかし従来のディスク台座ポン付け即席ディスクロードにありがちな、フレーム末端がいやに硬く生煮え感のあるギクシャクした感じがほとんどないことは称賛に値する。今まで乗ったディスクロードの中でもかなり完成度は高い。ロード用ディスクブレーキもフィーリング面でかなり煮詰められたことだし、これならディスクロードも悪くない。
結論
最後に剛性感の変化について書き、結論としたい。SLT01、SLC01、インペック、先々代SLR01。BMCの歴代トップモデルに共通していたのは、脚への当たりが非常にマイルドだったことだ。それらは当時のライバル達と比較してキレや加速力はトップでは決してなかった。高負荷域での炸裂感が若干薄まることを承知で、人間の生理に逆らうことのない剛性感に仕立てられていたのである。
新型SLR01は、一気に高剛性化した先代よりもさらに剛性が高められたが、リムブレーキ版、ディスクブレーキ版ともに脚当たりがさほど悪くなってはいない。高負荷ペダリングに最適化された剛性感ではあるものの、ガチガチでお手上げというレベルには至っておらず、どこかにわずかな“逃がし”がある。この新型も、歴代BMCの流儀に沿って仕立てられているのだ。
ただ、BMCは以前のような孤高の存在ではなくなったことも確かである。SLC01やインペックや初代SLR01の、どこか超然としていたあの頃のBMCではなく、高剛性化し高性能化し、数多あるレーシングロードバイク達と同じ階層で闘う存在になったのだ。当然だろう。そうでなくてはこのロードバイク総高性能化時代を生き抜くことはできない。これはなにもBMCだけの話ではない。多くのマスプロメーカーに言えることである。
カテゴリ確立後間もないエアロロードやエンデュランスロードならば、まだ方向性も様々で個性豊かだ。そこには795のような王子様やマドン9のような天才児が生まれる余地が残っている。ドマーネのような至れり尽くせりやK8のような割り切った設計が許される自由な空気がある。
しかしレーシングモデルが向かう方向はどこも似通っている。軽量化と高剛性化が落ち着いたとはいえ、なるべく硬くなるべく軽く、しかし最低限の快適性は確保し、そこにできるだけ乗りやすさを加え、インテグレーションでスタイリングを競うこともディスク版の追加も忘れない。もちろん各メーカーにはそれぞれ個性はあるが、大まかに言えば競技用機材としても商品としても正しいそういう方向である。
BMCも先代SLRからその流れに加わった。加わっただけでなく、いきなり先頭に躍り出たことが驚異的だった。新型はそんな名車の後継としての責務を見事に果たしている。加速性操安性制動性快適性軽量性、それらのバランス点は驚くほど高く、とくにディスクブレーキ版の出来は頭一つ抜けている。そろそろディスクロードを買わねばと思いつつ数年が経ってしまった。専用ステムの煩雑さが物欲にブレーキをかけはするが、今のところ第一候補はSLR01ディスクツーだ。
さて。買う段となると悩ましい。グレードとフレームカラーを自由に組み合わせることができないからだ。BMCに限ったことではないが、今年のBMCは様々な方向性のカラーが各グレードに設定されており、いつにも増して好みが分かれそうなのだ。
イタリアではもちろん全カラーがズラリ並べられていたのだが、一目で気に入ったのはレッド/ホワイト。ありがちな赤と白ではなく、白基調のフレームの上面に入るのは暗めのメタリックワインレッドという渋い色。そこに鮮やかな赤いラインが入って純白と濃赤の対比を際立たせ、仕上げのクリアはマットとグロスの2トーン。なんと気品のあるカラーリングだろう。フレーム上面に特徴的な色が入っているため、真横からのカタログ写真ではこのカッコよさは一切伝わらない。
しかしこのカラーが設定されるのはリムブレーキ版のレッドeタップ完成車のみで、しかも日本には入ってこない。もしこのレッド/ホワイトがフレーム販売されていたら、もしこのカラーがSLRディスクツーに設定されていたら、もう一度ショップに駆け込んでいたかもしれない。これをレコードあたりの真っ黒なパーツで組んだらめちゃくちゃカッコよくなるのにと、叶わぬ夢を見る日々である。