Jプロツアー第11&12戦@南魚沼 成長する若手と背中を見せるベテラン

目次

9月18日、19日に行われたJBCF南魚沼クリテリウム&ロードレース。レースの展開とともに選手たちのその時に感じた思いを振り返る。
 

南魚沼クリテリウム

Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム

スタート前のセレモニーの時点ではまだ雨が降っていなかった

 
 
三連休の中日の9月18日、新潟県南魚沼市にて2回目の開催となるJBCF南魚沼クリテリウムが行われた。シーズンもいよいよ終盤戦に突入したJプロツアーは、六日町・坂戸特設コース、1周1.24㎞のほぼ四角形のコースを40周する49.6㎞で争われた。
 
スタート前は晴れた青空がほとんどの面積を占めていたが、スタート時刻が迫るごとに雲の割合が増えてきた。そしてスタート数分前になって大粒の雨が降り出した。
 
このレースではリーダージャージを着るマトリックスパワータグが参戦せず、クリテリウムで圧倒的な力を見せてきたチームブリヂストンサイクリングも10月に行われるトラック世界選手権への準備のため、人数を減らしての出走となった。
 
昨年は愛三工業レーシングチームのスプリンター岡本隼が勝ったこのコース。
岡本は2連覇というプレッシャーは特にはなかったと話すが、前年ここで勝ってからチームとしても調子が上がったこともあり、チームの思いは共通だったと話す。
「チームの中でもみんな口にはしないですけど多分ここでもう1回、後半戦に向けて勢いをつけるっていう思いはあったと思う」
 
Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム

前半はアタック合戦が続く

Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム

風間の飛び出しに入部がつく

 
 
レース開始とともにスタートアタックが相次ぐが、決定的な差は広がらず。
レース後半に入った頃、風間翔眞(シマノレーシングチーム)が飛び出し、それに入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)がつき、2人の逃げが集団とのタイム差をつけ始めた。
 
序盤にも逃げようとアタックをしていた入部はスプリントではない分がないと踏み、勝ち方を模索するとともに自身の調子を確認した。
「最初からスプリントだったら分が悪いのはわかっているので、僕ができるのは上位でなんとか流れ込むか、逃げしかないわけで。2カ月ぶりのレースで調子を確認したいっていうのもありましたし、スタイル的にやっぱり逃げが好きなので、最初からもううちは攻めていこうという話で」
 
Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム

入部と風間が数周の間逃げ続ける

 
 
しかし入部は、2人での逃げ切りが難しいことも察していた。
「2人は厳しいのはわかってましたし、愛三が(メイン集団前方を)ガチガチに固めてるんで。正直、僕は捕まるときのことも考えて立ち回っていました」
 
Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム

愛三工業レーシングチームが前を固める

 
 
そしてラスト4周となる36周目に愛三工業レーシングチームを中心とした集団は2人を飲み込んだ。
ラスト2周ではさらにペースアップ。シマノレーシングが先頭に立ち、その後ろで愛三工業レーシングチームは、渡邊翔太郎、草場啓吾、岡本の3人でスプリント体制を既に整えていた。
 
その後、少しの飛び出しなどもあったが、集団はそれも全て吸収し切って、ラスト1周。
最終コーナー手前のストレートで一人先頭に上がっていった新人賞ジャージを着る山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)がそのまま最初にフィニッシュラインの直線にあらわれた。
 
スプリント勝負に絞っていた岡本はこう振り返る。
「(山本は)結構いいスピードを持っている選手で、人数を構えてないとそういうふうに行くしかないっていうような走りを見せていたんですけど、自分としては前に草場もいたので、最終コーナーを落ち着いて曲がって、ラスト200mから仕掛けて勝負できるかなと思いました。(山本の抜け出しは)ちょっと気にはなりましたけど、最後、信じていくだけだなと」
 
Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム

横一線のスプリントから岡本が突き抜けた

Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム

岡本が先頭でフィニッシュラインを切った

 
 
山本の左側からは岡本、右からは草場が飛び出してスプリントを開始。
フィニッシュラインよりも前で抜き去った岡本がこのコース2勝目を飾った。
 
「今回マトリックスとブリヂストンの主力メンバーが来ないっていうのもあったんで、ここはコントロールして圧倒的にスプリントで勝負するんだっていう、チームとしてミーティングして意志を見せたんで。その中で、自分は最後に勝ち取るっていうところを任されて、しっかり実現できたのが今日は良かったですね」と岡本は喜びを語った。
 

南魚沼ロードレース

Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

スタート前、前年の経済産業大臣旗を獲得したチームブリヂストンサイクリングから旗が返還された

 
 
強烈な台風が日本列島を襲った9月19日、日本で唯一の晴れ予報となった新潟県。35度を超える炎天下の中、Jプロツアー第12戦は、南魚沼市の三国川ダムを一周する1周12㎞×13周の156㎞で争われた。なお、このレースは経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップも兼ねており、チーム内で完走した上位3人の成績で決まるチーム団体戦も設定された。その団体戦で優勝したチームには経済産業大臣旗が贈られる。
 
前日のクリテリウムで、表彰台から下、4位~6位をとった弱虫ペダルサイクリングチームだったが、以前までのレースよりもチームでの動きが活発なように見えた。
 
「(レースから)戻ってから3位欲しかったねっていう話はして、満足するなっていうことは言ってるので。みんな悔しそうにしてるんで、それがいいなと思って。明日もう1回チャンスあるから明日やるぞと言ってます。いい状態です」
入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)はレース後にそう話していた。
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

このレースにはマトリックスパワータグが参戦した

 
 
また、このレースにはマトリックスパワータグが参戦。
前半戦では勝利に勝利を重ねる強い走りを見せ続けた小林海だが、新型コロナウイルスに罹患してから2週間が経過してすぐのレースと、調子が万全でない状態での参戦となった。
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

2周目にできた5人の逃げ

 
 
2周目には十数名が飛び出したが、途中で入部、フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)、アリア・キアニ(オープン参加)、伊藤雅和(シエルブルー鹿屋)、横山航太(シマノレーシング)の5人の逃げとなった。
 
だが、次の周には伊藤と横山が落ち、中盤に入る頃にはキアニが遅れ、入部、マンセボの2人が残った。
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

5人から3人、3人から2人へと人数を減らした逃げグループ

 
 
「めちゃくちゃきつかったですよ。3人もドロップしちゃって、足並みも揃ってなかったですし、暑いし、結構きついベースだったんで」
入部はそう振り返る。
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

愛三工業レーシングチームが先頭を引く集団

Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

シマノレーシングも先頭牽引に協力

 
 
集団は愛三工業レーシングチームやシマノレーシングが先頭にメンバーを揃えてコントロールをし始めた。愛三工業レーシングチームは、昨年の1日目南魚沼クリテリウムで岡本隼が勝ち、2日目の南魚沼ロードレースでは草場啓吾が勝った。その焼き直しをしようとしていた。
 
7周目にはマンセボにメカトラが発生。ニュートラルバイクへと乗り換える。これによりペースが落ち、二人とも集団に吸収され、振り出しへと戻った。
集団はシマノレーシング、マトリックスパワータグ、愛三工業レーシングチームが先頭を固める。
 
ここからはアタック合戦が断続的に行われては吸収されを繰り返した。8周目にはレオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)が1人アタックし、9周目に入る手前では小森亮平がアタック。一時独走状態に入っても、ともに同一周回中には吸収された。
この時点で集団はすでに18人まで人数を減らしていた。
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

佐藤と内田が抜け出す

 
 
そこから11周目に入る前の上りで佐藤光(稲城FIETSクラスアクト)が「周りがきつそうな顔をしていて余裕がないのは分かっていたので」とアタックを仕掛けると、内田宇海(弱虫ペダルサイクリングチーム)がついた。
 
富士ヒルクライムのエキシビジョンクラスを制した佐藤は、今年から本格的にレースを始め、Jプロツアーでも勝負がかかる終盤戦まで残るシーンが今シーズン多く見られる。
佐藤は新人賞ジャージを狙っており、シーズンを通して最もポイント配分が高いこのレースを狙っていたと話す。
「今日に照準を一番合わせていました。内田選手が1位取らない限りは、(自分が)新人賞は確定してるっていうことが分かってたので」
 
12周目に入っても2人は25秒ほど前方を抜け出している状態。集団は8人にまで絞られていたが、まだ力を蓄えた猛者ばかりという状況でもあり、そこからの逃げ切りは厳しかった。
 
「僕、上りで結構踏んで、脚を使っていて、回してたんですけど、残り2周になって、もう気持ちが切れて諦めてしまって……。今日はスタミナが持たなかったのでそこは改善していきたいですね」佐藤はこう振り返った。
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

白川と入部が先頭で抜け出し、後ろから金子と内田が追う

 
 
集団に残っていた白川幸希(シエルブルー鹿屋)は、入部と全日本TTチャンピオンである金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)をマークしていた。
シエルブルー鹿屋は、年間チームランキングで5位を目標としており、僅差の位置に弱虫ペダルサイクリングチームと群馬グリフィンがいたために、その2チームには特に負けるわけにはいかなかった。
 
ラスト一周に入る前の下りで、白川と入部が抜け出し、その後ろを金子と内田が追う形に。
「弱虫ペダルが2人いたので、1人は絶対置いていきたいなと思ってたんですけど、下りでたまたま後ろ見たら離れてたんで、上りでちょっと頑張って、もうここが最後だと思って踏みました。入部さんはすぐ後ろに内田くんが来てたから、回るわけにもいかないしってことで、もう踏むしかないなと思って行きました」白川はこう話した。
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

前を追う金子と内田

 
 
一方の金子も同様の考えから、白川と入部を先に行かせることを選んだ。
「意図的にちょっと遅れたというところもあるんですけど。弱虫ペダルが2人いて、とりあえず(内田は)ずっと付き位置をしてくれたんで、そのままペース落として、差が開いたところで(先頭に)行こうと思って」
 
金子の思惑通りに、ラスト1周に入った上りで内田が千切れ、金子は先頭の白川と入部に追いついた。
 
白川、入部、金子の先頭と6人が残る集団とは、ラスト1周の時点でもう1分半以上開いていた。
ダム周辺のアップダウン区間でも差は縮まらず、最後の下り区間に入る。下りは「人並み以上に下れる」と話した白川は、ラスト2周の下りで差をつけたが、最後の下りでは仕掛けなかった。
 
「ラスト2周で下ったときに後ろもそこまで離れてなかったんで、ラストラップで攻めても、あの2人にはちょっと下の平坦区間でやられるなと思って、それだったら後ろからもう脚をためていけばいいかなと思ったんですけど、入部さんも考えは同じで。下りはもうどうぞどうぞみたいな感じになってて」
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

3人でのゴールスプリント

 
 
3人のままフィニッシュラインまであと僅かに迫る。ラスト500mで金子がロングスプリントを仕掛けたが、「思った以上に平ら」だった。
「ずっと後ろに簡単に付かれちゃって。そこで一回止めて。若干お見合いになって、ラスト100~150mぐらいでかけました」
 
3人のままフィニッシュラインが見える直線へと入り、金子が先に最終コーナーを曲がった内側からもがき、白川が中央、入部がアウト側からもがく。入部はそのラインを狙っていた。
「最後にやっぱスプリントは難しいですけど、ラインも決めてましたし、金子の外側から行ってるんです。内側が伸びないのは分かってるんで」
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

入部が突き抜け、先着した

 
 
ラスト50mほどで金子に並んだ入部はそのまま踏み続け、ゴールラインを一番最初に切って優勝を飾った。2位は白川、3位は金子。
 
金子は表彰台に乗るのは初めてではないが、うれしさよりも悔しさをあらわにした。
「ちょっと悔しいですね。3位でも今まではうれしかったんですけど……」
 
これまでと異なり、金子は補給のボトルに糖質を入れずに経口補水液のみに変えると脚が攣る気配すらなくなったと話す。
「今までJプロツアーで千切れるときって必ず脚が攣りそうになって千切れる。実力で脚を攣りそうになってるのかなってもう諦めてたんですけど、(ボトルの中身を)変えただけで改善したんでこの後が楽しみです」
 
2位の白川は「まぐれでもいいから勝ちたかった」と同じように悔しさを見せる。
「最後、まさかそのマークしていた2人と一緒になるとは思わなくて、そこはちょっとびっくりしましたけど、やっぱり最後すごい興奮していて、楽しかったですね。負けましたけど。
やっぱり勝ちたかったんすけど、どんだけ本気で踏んでも届かなかったですね、入部さんには。だけど、やっぱりまだまだ僕ももっとこの先続けていきたいと思ってるんで、いつか入部さんをやっつけて、もっと攻められるような選手になりたいなと思います」
 
3人が完走できたチームは弱虫ペダルサイクリングチームとマトリックスパワータグのみ。そして1位、4位、9位に入った弱虫ペダルサイクリングチームが経済産業大臣旗を獲得した。
「かなり準備してきましたし、昨日(クリテリウムは)4位~6位だったので、形として悪くなかったですけど、これで満足するな、もっと上見なきゃ駄目だって言ってたんで、その気持ちをみんなちゃんと持ってやってくれました」
 
入部自身も年長者として後輩に背中を見せるべく、レース中最も動いていた一人だ。
「僕は、後輩に動いて捕まったら仕事終わりじゃないっていうのを見せたいので、やっぱ捕まっても諦めずやれることを最後までやろうと思って。でも今日はちょっとやり過ぎたぐらいです。あそこまでいけると思わなかったです。何か上り軽いなと思って。だいぶ絞ってきたんで」
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース

弱虫ペダルサイクリングチーム全員で登壇

 
 
また、初めての経済産業大臣旗を獲得について、「カテゴリーはクラブチームで、(自分の)経歴で言ったらそうじゃないかもしれないですけど、本当に若い子が頑張ってるんで。それじゃないと取れないですから、経済産業大臣旗というのは。チームの成長を確認できたかなと思います」と話した。
 
全日本チャンピオンも経験したベテラン選手が若手選手たちにいい刺激を与え、さらに自身も良い刺激を受けているようだ。若いチームのこれからのさらなる成長にも期待したい。
 
シーズンを通したリーダージャージは変わらず小林が着用。新人賞ジャージは山本から佐藤へと入れ替わった。
残るレースもあと僅か。マトリックスが調子を戻した時、成長してきた若手チームはどう対抗を見せるだろうか。
次戦は9月23日からの三連休で行われる群馬での戦いだ。
 
 

Jプロツアー2022 第11戦、第12戦 結果

Jプロツアー第11戦 南魚沼クリテリウム
 
Jプロツアー第11戦
第2回南魚沼クリテリウム リザルト
1位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム) 1時間5分33秒
2位 山本哲央(チームブリヂストンサイクリング) +0秒
3位 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) +0秒
 
 
 
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース
 
Jプロツアー第12戦
第56回JBCF経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ 兼 第7回南魚沼ロードレース リザルト
1位 入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム) 4時間6分29秒
2位 白川幸希(シエルブルー鹿屋) +0秒
3位 金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム) +1秒
 
 
 
 
Jプロツアー第12戦 南魚沼ロードレース
 
団体総合
1位 弱虫ペダルサイクリングチーム
2位 マトリックスパワータグ
 
 
全日本実業団自転車競技連盟
https://jbcfroad.jp/