2022Jプロツアー開幕戦@播磨中央公園 マトリックスパワータグが表彰台総なめ

目次

3月27日、前日に行われた雨模様のエリートカテゴリーから一転、青空が広がり、夏のような強い陽射しが地面を照りつけた。
 
兵庫県・播磨中央公園の新設された7kmコースを20周する140kmで争われたJプロツアー開幕戦。マトリックスパワータグがチームとして強さを見せつけ、表彰台を独占する結果となった。
 
JBCF播磨中央公園ロードレース2022
 

スタートアタック一発で決まった逃げ

JBCF播磨中央公園ロードレース2022

レース当日は気温が上がり、桜も開花し始めていた

 
 
全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)のJプロツアーが2022年シーズンの開幕を迎えた。
初戦の地は、昨年と同じ兵庫県加東市にある兵庫県立播磨中央公園だ。昨年は一部コースが改修中であり3km分のコースを使用してのクリテリウムとなったが、今年は新園路が引かれ7kmの特設コースでのロードレースが行われた。
 
80人の選手が立ったスタートラインの先頭には、昨年の年間総合で個人、チームともにトップの座を獲得したマトリックスパワータグが並び、ローリングスタート。マトリックスパワータグのメンバーが先頭を固めたままでリアルスタートを切った。
 
JBCF播磨中央公園ロードレース2022

マトリックスパワータグのメンバーが先頭でスタートを切る

 
 
これまでのJプロツアーであれば、スタートアタックから逃げが決まるまで時間がかかることも多かった。しかし今回はリアルスタート後すぐ、1周目で逃げが確定した。
 
「初戦だから結構アタック合戦が長く続くかなと思ってたんですけど、スパッと決まっちゃって。ちょっと油断してたなと思って」
愛三工業レーシングチームからシエルブルー鹿屋に移籍し、監督兼選手の立場となった伊藤雅和は話す。
 
カーブが多いコースであるため、目視がなかなか難しく、誰が逃げに行ったかの情報が入るまでには時間を要した。そんななか、スタートからメンバー全員を前に位置させたマトリックスパワータグは、逃げに最多の3人を送り込んでいた。
 
JBCF播磨中央公園ロードレース2022

出来上がった逃げグループ

 
 
飛び出したのは13人。途中、落車やパンクで2人が遅れ、マトリックスパワータグからは小林海、レオネル・キンテロ、安原大貴の3人、沢田時(チームブリヂストンサイクリング)、中村龍吉(群馬グリフィンレーシングチーム)、池田隆人(リオモベルマーレレーシングチーム)、横山航太(シマノレーシング)、伊藤舜紀(シエルブルー鹿屋)、細川健太(弱虫ペダルサイクリングチーム)、渡邊翔太郎(愛三工業レーシングチーム)、小山智也(アブニールサイクリング山梨)の計11人の逃げグループとなった。
 
3周目完了時点で早速、集団とのタイム差は1分24秒に広がった。逃げに入ったマトリックスの小林は振り返る。
「あんなに早く僕らが逃げると思ってなかったんですけど。でも、ちゃんとレオ(キンテロ)とか(安原)大貴さんとかとコミュニケーションをとって、あそこ(逃げグループ)にまた何人かブリッジしてきてもいいし、脚を残しながらいろんな展開に対応できるように回していこうと話してたんで。だから僕らはどんな展開になっても大丈夫だったと思いますね」
 

チームそれぞれの意向

JBCF播磨中央公園ロードレース2022

集団はチームブリヂストンサイクリングとシエルブルー鹿屋のメンバーで先頭を引く

JBCF播磨中央公園ロードレース2022

前半の長い時間、橋本らが集団牽引を行った

 
 
一方の集団は、チームごとにまとまっての走行に。先頭からチームブリヂストンサイクリング、シエルブルー鹿屋、愛三工業レーシングチーム、マトリックスパワータグ、シマノレーシングの順番でそれぞれメンバーを揃えていた。
 
先頭での牽引役はチームブリヂストンサイクリングの橋本英也と河野翔輝、そしてシエルブルー鹿屋の道見優太の3人のみ。チームブリヂストンサイクリングとしては、沢田を逃げに1人送っていたが、マトリックスパワータグが3人という数的不利を見越して逃げを吸収したい意向があった。
 
シエルブルー鹿屋が牽引にメンバーを出した理由を伊藤はこう語る。
「前(逃げ)にうちも1人乗ってたんですけど、そのメンバーだと逃げのメンバー的にちょっと勝負はできないだろうなと思って、1回(振り出しに)戻して勝負をしたかったっていうのがあって。BSが(集団牽引を)やるって言ったんで、うちとしても1人(出した)。本当2人出したかったんですけど、もともと自分と冨尾(大地)と白川(幸希)の3人で今日は勝負していこうっていう予定だったから、人数的にちょっと最後残したいメンバーとかもいて、1人しか出せなかったです。でも前に、愛三も1人しか乗ってなかったから、愛三も(集団牽引を)やるかなと思ったんですけど……」
 
しかし愛三工業レーシングチームは集団牽引には加わらなかった。
 
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集団ではブリヂストン勢の後ろ位置した愛三工業レーシングチーム

 
 
愛三工業レーシングチームとしては、渡邊をJプロツアーの年間総合上位に入れたいという目標があった。それゆえに渡邊が入った逃げグループを潰すべきかを模索していた。集団に控えた鈴木譲はこう話す。
 
「(それぞれ逃げにいるチームメンバーが)1人に対してマトリックスが3人いて、ブリヂストンとかシエルブルーとかは追いたい、愛三はどうなの?って言われたんですけど、牽引役と思っていた佐藤(健)がパンクで遅れてしまって、誰を出そうかなっていう状態で。ちょっと様子見させて、という感じでいい位置キープしながら様子を見ていたら、なかなか(差が)詰まらなかったので、どこかでまたペース上がるかなと思って中盤までは少し準備していました」
 
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6人に絞られた逃げグループ

 
 
そのままの状態が続き、レースも折り返しの10周目。逃げグループは6人へと人数を減らした。
 
「ずっとペースが速かったんで、これまでいろんな去年逃げに乗ってきましたけど、一番きつくて。もう緩むときが一瞬もなくてずっと速かったです。本当に攻撃が始まったのはラスト3、4周からでしたけど、それまでもずっとペース上がってたので、かなり削られました」と、逃げの6人に残った沢田は話す。
 
だが、その6人の中にもマトリックスパワータグは3人全員を残し、十分な余裕を持った。
 
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徳田優らブリヂストン勢が中心にタイム差を一気に詰めにかかる

 
 
逃げグループが人数を減らしたタイミングとほぼ同じくして、集団ではチームブリヂストンサイクリングとシエルブルー鹿屋が一気にスピード上げる。集団はどんどんと数を減らしながら、最大およそ2分まで広がっていた逃げとのタイム差を40秒ほどにまで縮めた。
 
ローテーションに加わったシエルブルーの伊藤はこう話す。
「引くメンバーがきつくなったときに上りで一気に行くみたいな雰囲気が出たから、ブリヂストンの3枚とうちの3枚でローテして、追いつこうと思ったけど、数十秒届きませんでした。僕らは最初6人とかで回ってたけど、他の止めたいチームとかも入ってきたりして、その追走がうまくいかなくて終わっちゃった感じですかね。結構脚使ってたから」
 
逃げを潰すか決めかねていた愛三の鈴木だったが、そのタイミングでは集団を止める側に回った。
 
「(集団は)すごいペースが上がって、後ろはブチブチ切れてしまって。そこでうちは4人に残せていて。そこで僕が(前に)行かないっていう選択肢を取っちゃったんですよね。岡本(隼)とかは前の逃げを潰したがってたんですけど、やっぱり1回潰して振り出しに戻すと、渡邉が上位に入れる可能性が……というのがあって。
どっちが良かったのかなって(レース後に監督の)別府さんと話して、潰してもよかったんじゃないって話してたんですけど。マンセボを行かせたっていう部分で脚の差があったし、じゃあ振り出しに戻したところでっていうのは……難しかったですね。今回はちょっと失敗だったかなっていう感じです」
 
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昨年のレースでも逃げに多く入った沢田だったが、今シーズン初戦でもアタックに反応し、逃げに入った

 
 
40秒まで縮まった逃げとメイン集団とのタイム差は、ブリヂストン勢の崩壊とともにまた開き始め、14周完了時点で2分半となった。集団は十数名にまで人数を減らしていた。
 
逃げにいたブリヂストンの沢田は、タイム差を聞き、前の逃げメンバーで勝負が決まることを覚悟した。
「マトリックスが3人で僕1人だったので、かなり不利というか……もうちょっと厳しかったんで、(集団に)追いついて欲しくて。脚は残ってたので、追いついてもらってからまたそっから勝負できるかなと思ったんすけど、追いつくかなと思ったタイミングでまた差が開き出しちゃったんで、これは(逃げ切りが)決まってしまったなという感じで」
 
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松田が単独アタックし、マンセボが追いつく

 
 
それでも16周目、松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)が単独で崩壊したメイン集団から抜け出そうと動く。それに反応したのは、これまで静観していたフランシスコ・マンセボだった。松田と合流し、2人での追走が続くと思われたが、次の周にはマンセボが一人抜け出し、先頭を追っていた。
 

セオリー通りのチームプレー

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小林がアタックを仕掛けると、沢田、キンテロのみが後ろを追った

 
 
18周目、先頭では6人中半分の人数を占めるマトリックスパワータグが波状攻撃を仕掛けていた。まずアタックしたのは安原。小林はこう振り返る。
 
「最後(6人から)3人にしたのは、もうグダってたんで。後ろとのタイム差が開いたり、縮んだりしてたんですけど、2分半とかだと別に安心できるタイム差じゃないし、後ろで大きい動きができたらすぐ縮まっちゃうので、僕はそんなに安心してなかったんです。
僕自身は楽勝だったんですけど、自分が楽勝なときが一番周りの脚が分からない。みんなも楽勝かもしれないし。とりあえず(安原)大貴さんにちょっとアタックして動いてみてと言って、動いてもらって、その後に僕が一発パーンと(アタックに)行ったら、もうほとんど皆千切れちゃって」
 
小林がアタックしたタイミングで後ろを振り返ると、なんとか追おうとする沢田の後ろにキンテロがついているのみだった。
「もうこの3人で行っちゃえ」と考えた小林は2人を少し待った。
 
その後ろでは、横山、渡邊が粘り、前に2人のチームメイトを行かせた安原がその後ろにつく。もう前の3人とは明らかにスピードが違った。
 
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先頭はキンテロと小林の2人に

 
 
先頭では、さらにキンテロがアタック。どうにか反応していた沢田もいよいよ振り落とされ、チームメイトの小林のみが追いつくこととなった。
 
「(マトリックス)3人の波状攻撃が始まったときに、あの中で唯一反応できたんですけど、やっぱり3人目のアタックには付き切れなくてきつかったですね。最後ちぎれてからもう1回、3位集団に復帰できたのはちょっと粘れたんですけど、1回脚攣ってたんで、最後は全然掛からなくてって感じでした。
たらればですけど、3位を狙うことはできたと思うんですが、それは僕のスタイルじゃないし、チームのスタイルでもないので、3対1になっても、つけなくても、ちょっとでも(優勝の)可能性あれば、という動きができたので。また挑戦したいです」
沢田はこう話し、やることはやったと、悔いることはなかった。
 
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フィニッシュラインが見え、キンテロが小林の肩に手を置く

 
 
小林とキンテロは順調にタイム差を保ったまま2人でローテーションをし、ラスト1周に突入。誰も寄せ付けることないまま、あっという間に横並びでフィニッシュラインへと到達。キンテロが小林の肩に手を置いた。横並びの状態から小林が少し先着して優勝を決めた。今回は小林が勝つと決めていたそうだ。
 
「今回は僕でって話していて。これからもっといろんな展開があるし、正直、Jプロツアーのレースの特性から見たらレオの方が合ってるんです。なので、レオの方がチャンスもこれからたくさんあるし、僕もそういうときになったら、レオのために働いたりすると思います。個人の勝利よりチームの勝利が一番なので。次からまた展開によってはレオのために僕がリーダージャージを着ていようと働くことになると思います。今日はうまくチームプレーできていて、僕が強かったので、僕(が優勝)でって感じでした」
 
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一人で追走をかけるマンセボ

 
 
沢田、横山、渡邊、安原の3位グループではスピードが落ちる。そこに集団から一人、マンセボがかっ飛んできた。
 
「『マンセボが来てるから回そう』って言ってたんですけど。このペースやばいなと思ったらやっぱり来てしまって。(横山)航太と一緒に、『マジかよ!』って言っちゃいました……」
沢田は振り返る。
 
そのまま4人をパスし、マンセボが単独3位の位置につけ、前方のチームメイトたちとのタイム差を縮めていくが、先頭は先にフィニッシュ。マンセボは一人で37秒差まで縮め、3位の座を獲得した。
 
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追走集団から抜け出し、4位に入った横山

 
 
4位には最後に単独で飛び出したシマノの横山が入った。横山は力の差を痛感した。
「数もだし、やっぱり力のある選手も乗ってたので、結構厳しい戦いになるだろうなと逃げができたときに思ってたんですけど、そのとおりになってしまったなという感じで。その中でベストを尽くしましたけど、やっぱもう1段、2段、僕に力があれば、もうちょっと対抗できたのかなと思いますし、まだシーズン始まったばっかりなんで、今後力つけていけるように頑張りたいです」
 

絶対強者に引き上げられたチーム

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初めてリーダージャージを着用した小林

 
 
隙を見せない走りで1-2-3をもぎ取ったマトリックスパワータグだったが、優勝した小林がそこまで大きく喜びを表すことはなく、あくまでも順当な結果だと言わんばかりの表情に見えた。
 
3月上旬に行われたジャパンサイクルリーグのプレゼンテーションにて壇上に上がった小林は今年の目標を聞かれ、「内緒です」と答えていた。その内緒の目標の一つ目がJプロツアー開幕戦での勝利だったと話す。
 
「(去年の)12月からずっと今日勝つためにやってたんで、もっと先の目標もありますけど、まず1個目の目標を達成できたのでうれしいですね。でもまあ順当だと思いますし、今日は僕らが勝つべくして勝ったかと思います。でももう今日も終わったので、次の目標のために明日から集中してまたやっていければなと思ってます」
 
単純にマトリックスパワータグの勝利という結果だけ見れば、昨年までの光景と同じかもしれない。だが、一つ違いがあるように思う。
昨年までであればマンセボを中心にチームで集団をコントロールし切って、後半にチームメンバーやマンセボ自身が仕掛けるといったような、基本的にはマンセボがチームの司令塔の役割を担っていたように思う。
他方、今回のレースでは、マンセボ抜きで前の3人がそれぞれの強みを生かした走りをしていた。小林はこう語る。
 
「マンセボが自分でいろいろ動いちゃうよりは、僕らが先に動いた方がいいと思いますし、しかもマンセボ1人だと、結局他のチームからしてもマークしやすくなります。去年の後半、ブリヂストンが対策してきたようになってしまうので、やっぱりマンセボに頼るより、僕らだって他のチームだったらエース(格)ですし、精神的にマンセボに頼っちゃうのはチームとしてあると思うんですけど、そうじゃなく1人1人が動いていくこと。レオだってリーダージャージ取ってるじゃないですか。僕だって強いし、大貴さんだって強いし、1人1人が勝てるように動いていけば、他のチームの対策が難しくなってくると思うんで。この間の西チャレ(西日本チャレンジロードの時)もそうでしたけど、案外、マンセボを後ろ(集団)に置いちゃったら結構僕らは展開がいろいろできるんで」
 
マンセボだけをピンポイントでマークすればいい訳ではなくなった。他チームからすれば、マークすべき人数が増えるばかりで厄介なことこの上ないはずだ。マトリックスパワータグのメンバーは、もともと個々の強さを持っている。ここ数年の経験によって、おそらく戦術の幅も広がってきている。
 
とはいえ、マンセボは一人で集団から抜け出し、先頭とのタイム差を縮めた上での3位。横山が「やっぱり、本当に圧倒的な力の差があるなとは感じますね」と言うようにマンセボ個人の力もどう見ても抜きん出ている。
 
「強い選手に対して、力が劣っていても数で勝たなきゃいけないという想定ができなかったのがまず反省点だったので、その辺を、もう一度ミーティングだったりとかで詰めていきます。まだシーズン始まったばっかりなので、今後のレースに繋げていきたいと思います」と、横山は話した。
 
脚の揃ったメンバーが固まるマトリックスがチームプレーを見せてくる中で、他チームはどう対抗していくだろうか。2022年シーズン、さらに成熟度が上がったレースを見られることを期待していきたい。
 
 
 
JBCF播磨中央公園ロードレース2022
 
第2回 JBCF播磨中央公園ロードレース Jプロツアー初戦リザルト
1位 小林 海(マトリックスパワータグ) 3時間41分21秒
2位 レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ) +0秒
3位 フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ) +37秒
 
 
 
 
JBCF播磨中央公園ロードレース2022

初戦を終えてリーダージャージを着用したのは小林。U23トップは今回8位の山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)

 
 
 
全日本実業団自転車競技連盟
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