Jプロツアー南魚沼ロードレース 2連勝の愛三、勝負に出た草場が勝利

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Jプロツアー 南魚沼ロード

9月19日、前日のクリテリウムに引き続き新潟県南魚沼市にて、第55回経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップも兼ねて第6回JBCF南魚沼ロードレースが行われた。

前日の岡本隼の勝利で流れをつかんだ愛三工業レーシングチームから草場啓吾が1周目にできた逃げグループに入り、絞られた少人数でのスプリント勝負を制した。

 

原動力となった宣言

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昨年の経済産業大臣旗で勝利したマトリックスパワータグのマンセボから輪翔旗が返還される

 

新潟県南魚沼市にある三国川ダム周回コースを使って行われた南魚沼ロードレース。2020年にも大会は予定されていたがキャンセルとなり、2019年以来の開催となった。
2019年は同コースでフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)が勝利を収めている。

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気温が30℃ほどまで上がる中スタートしたJプロツアー

スタート前、前日の勝利の勢いを持った愛三工業レーシングチームの草場啓吾は、「今日は僕がやりますよ。”ノーリスク ノーヴィクトリー”ですから」と、ブエルタ・ア・エスパーニャでプリモシュ・ログリッチが言った言葉を残していった。

1周12kmのコースを13周する総距離156kmのレースは、残暑厳しい快晴の中、12時40分にスタートを切った。
ダムの周りを走るコースとあって、細かいアップダウンが続くものの、上り部分は2018年の時に設定された逆回りのコースよりも勾配は緩く、おおむね平坦基調が続く。スタート/フィニッシュラインより少し前から始まる2kmほどの上りがコース中最も長い上りとなる。

 

”いつもの”逃げ切りの予感

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序盤にできた8人の逃げグループ

ローリングスタートからリアルスタートを切った集団から、半周ほどで8人の逃げができあがった。
メンバーは、橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)、沢田時(同チーム)、小林弘幸(リオモベルマーレレーシングチーム)、冨尾大地(シエルブルー鹿屋)、中村龍吉(群馬グリフィンレーシングチーム)、草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)、小森亮平(マトリックスパワータグ)、香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム)。
前日のクリテリウムでも逃げに出た橋本と、これまでのレースで勝負どころへの嗅覚を見せている沢田のチームブリヂストンサイクリングのみが複数名逃げに送る形となった。

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チームブリヂストンサイクリングからは沢田と橋本の2人が逃げに入った

コース前半の道幅は広いが、後半の道幅が少し狭くなる。序盤から集団前方に位置した沢田はそれを見越していた。
「このコースだと、上りで踏める人しか残らないのが分かっていました。結構コース幅も狭いので、後ろに行くと駄目だと思って、ずっと前にいて反応していれば(逃げが)決まるだろうと思っていたら決まりました。後ろ(とのタイム差が)すぐ開いてくれたんで、これはいけるなと思って、みんなで回して。英也さんもいて2人だったので、かなり心強かったですね」

一方、前日もチーム力を見せながら不発に終わってしまったマトリックスパワータグからは小森が逃げに入ったが、元々は小森自身が逃げるつもりはなかったそうだ。「一昨年走ったときもマンセボが最初から行ったりとか、力のある選手がガンガン前で行くレースになるかなと思っていたので、僕は周りの流れに合わせてぐらいの感じで考えていて」

このコースに対して得意な認識すら全く持っていなかった小森だったが、1周目の平坦基調の箇所、逃げができそうなタイミングで、チームの中で反応できたのは小森だけだった。
「(できた逃げの)メンバーも全チームいい感じで。もしかして逃げきっちゃったらまずいなと思ったんですよね。勝負はやっぱりホセ(・ビセンテ)とかマンセボとか、強い選手に託したかったんで、これはどうしたものかなと思っていて」
小森はこう振り返る。

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追走するイナーメの2人は追い付かず

さらに、集団からイナーメ信濃山形の比護任と佐野千尋が飛び出し、逃げグループから2分ほど後方でブリッジをかけようとするがなかなか追いつかない。
集団は、これまでのレースで表彰台に絡んできた有力チームが全て逃げにメンバーを送り込んだため、一気にペースダウン。先頭がラップタイム19分〜20分前後で周回をこなしていく中、2周目完了時には逃げと集団とのタイム差は既に6分以上へと広がった。

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強力なメンバーの追走

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追走を捕まえにかかる集団

4周目には、緩んだ集団から数人が抜け出し、次の周にはマンセボらを含む強力なメンバーの追走グループが形成されたが、危険視した集団によりすぐに吸収された。これによってスピードが上がった5周完了時には、逃げとのタイム差は3分台まで縮まったが、集団内での攻防を終えると、再びタイム差が開き始める。その後、7周目に入る頃には5分に広がった。

このタイム差の開きは、逃げグループのメンバーに逃げ切りを予感させた。チームの戦略として、8人のローテーションに加わらない選手も出てきた。

 

こなすだけで終わらない中盤以降の勝負

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9周目に入るところで仕掛けた草場

レースも中盤となった8周目終了時に与えられる中間スプリントポイントで草場が逃げグループから抜け出した。草場はスプリントポイントを取りに行くフリをして、逃げグループのメンバーの不意をついたのだった。

「もう勝負に出ると心の中で覚悟を決めて、攻めて行った」
レース前に口に出した宣言を自身の中で反芻し、ここで行かないと、と考えた。

「残り70kmくらいで、距離的にはまだあったし、他の人から見たら、どうせ捕まって終わるだろうって見解だったと思うんです。でもそういうとこで行かなかったら、やっぱり残り2〜3周でみんな警戒するし、それじゃ面白くないなっていうのが僕の中であったんで、あのタイミングでした」

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橋本の後ろを走る沢田

この動きにより、逃げグループも絞り込みがかかった。
焦った沢田が、草場を追いかけるべく逃げグループを引こうとすると、チームメイトの橋本が「大丈夫だ」とストップをかけた。全員でローテーションをして草場を追う形となり、結果、沢田は無駄な力を使わずに済んだ。これまでのレースを見ても勝負勘に優れているように思えるが、熱くなると脚を使ってしまうと沢田は自己分析していた。

「1人だったらやっぱり焦っちゃったので、チームメイトに助けられましたね。英也さんがかなり長く引いてくれたので、やっぱりオリンピアンの大きい背中の後ろだとすごい休めます」と笑う。

その後、中村と仕事を終えた橋本の2人が落ち、5人が草場を追う。5人のうちに残った冨尾も厳しい状態が続いていた。
「3回目のスプリントポイントのところあたりで脚にきていて、ちょっとやばいなみたいな感じだったんですけど。でも、メイン集団とのタイム差もどんどん開いていく一方だったので、そのまま逃げ切るなっていうので、うちは(逃げに)1人しか乗せていなかったですし、(自分が)千切れるわけにはいかなかったので、何とか頑張って残ることができていました」

単独逃げに出ていた草場はその周回中に吸収されたが、追いつかれても集団に残って勝負できるだけの脚は残しており、捕まったら最後のスプリント勝負、と頭を切り替えていた。

ラスト3周、今度は沢田がアタック。その前に脚を攣り、片足ペダリングなどをして誤魔化しながら走っていた沢田だったが、「何だか逆に踏めたんで、まだ動けると思って」と話した。
「周りも結構余裕なさそうだったので。上りきってからかなり平坦が長いので、ちょっと逃げ切るのはきついコースではあったんですけど、最後にスプリントかけるよりは、上りでは突き放して後ろが諦めてくれれば、力差の勝負でいけるかなと思ったんですけど」

しかし、沢田の飛び出しも吸収され、先頭は6人でラスト2周に入った。

 

絞り込まれた諦め知らずの攻防

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集団もかなりの人数が絞られた

集団はマンセボを中心にマトリックスパワータグが集団を牽引したが、9分という大きな差にもう逃げ切りはほぼ確定したようなものだった。追いたがるチームも他にいなかった。
もう逃げグループに追いつかないと確信した残り3周あたりから、集団では各チーム上位3位の累積順位が最も少ないチームに与えられる経済産業大臣賞を狙うアタックがかかる。

伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)は、チームとしてコンディションのいい草場が逃げ切るのは、望んだ展開であり、「草場に追いつかないように」と、全日本選手権に向けた予行演習として自身のためにアタックをかけ、一度は入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)や白川幸希(シエルブルー鹿屋)らと抜け出したが、今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)や小林海(マトリックスパワータグ)が追う集団に吸収される。集団も人数が絞られていった。

一方、先頭逃げグループでは、ラスト2周目入ったところの上りで香山が苦しそうにグループから遅れかけるシーンが見られた。ここでまたしても沢田が仕掛け、それに草場がついた。それにより香山と小林が先頭から完全にドロップ。冨尾、小森もなんとか先行した2人に追いつき、勝負は4人に絞られた。

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ラスト1周に入る4人

残り1周に入った上り、先頭4人は横並びで一触即発の雰囲気。全員が最後の勝負の瞬間へとそなえていた。
「沢田選手がやっぱり行きたそうな雰囲気があったので、残り1周も警戒してたんですけど」
草場は冷静に周りを見ていた。

そして口火を切ったのは、やはり沢田だった。上りの途中、トンネルに入ったタイミングでアタックを仕掛ける。
「あの上りで一番踏めるのは僕だったので、かなり警戒されてるってのは分かっていました。後ろに下がろうとしてもみんな牽制して、僕を後ろに行かせない感じだったので。どうしようかなと思って、ギリギリまで待って、トンネルに入った瞬間ぐらいで踏みました。みんなもう上りで(アタックに)行かないだろうと思わせたタイミングで行くしかないと思ってたので、そこで行きました」

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最後の上りを牽制しながらこなす

切れ味鋭いアタックに他3人はすぐ対応することができなかった。しかし、誰も諦めはしなかった。
「彼が山頂でアタックしたときは、もちろん危ないのは分かってたんですけど反応できなくて、結果的に彼を先行させる形になりました」

そう話した小森だったが、これまでの12周回を終えた感覚として、このコースでの下りの速さには圧倒的な自信を持っていた。
「下りは明らかに僕が一番早かったんですよ。なので、下り切りで彼(沢田)を捕まえられる距離で、僕ら後ろの3人で追いかけて、僕だけ追いつければいいかなと思っていて。ある程度の距離を離したまま下りに入って、予定通り僕だけ彼に先に追いついたんですけど、思ったより草場が離れなくて……」

この攻防により冨尾は沈んでしまったが、草場は下り切りのところでギリギリ追いついた。
スプリント勝負に向けて切り替えた草場は、最終コーナーを抜けてからフィニッシュに飛び込むまで、どのラインを走ればいいか、それまでの周回やポイント賞の周回時に当たりを付けていた。
「周回重ねるごとに、どのラインから行けばいいのかはずっと意識してました。右(コーナーのイン)側から行くと、手前がちょっとコーナーがきつくて、勾配もきつい。僕の中ではイン側からかけるよりアウト側からかけた方が伸びた感じがあった」

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横並びのスプリント

最初にスプリントを開始したのは、最もイン側を走った小森だった。「スプリントになったらいける」と考え、先行した小森に対して、大外から草場、その中央から沢田がもがく。

ダンシングをした瞬間脚を攣り、もがいているのかも分からないくらいの感覚だったと話した草場が想定していた通りの伸びを見せ、フィニッシュライン直前に両手を広げ、雄叫びをあげた。

沢田が2位でハンドルを叩き、3位でフィニッシュした小森もレースが終わるとその場に倒れ込んだ。

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雄叫びを挙げた草場

2位に沢田、後方の集団スプリントを制した今村が7位、その後ろで山本哲夫が8位につけ、経済産業大臣賞はチームブリヂストンサイクリングが獲得した。

 

見る者を魅了する積極性

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フィニッシュ後倒れ込んだ草場を祝福する沢田

草場はJプロツアー初優勝。自身の勝利は2017年の愛媛国体ぶり。
今回のレース前、「ノーリスク ノーヴィクトリー」と、ログリッチの言葉を残したのは、彼の積極的な走りに感化された部分があったからだった。
「やっぱりログリッチ、かっこいいなと思って。完全に影響されました。あれだけ強いし、アシストに守られながら発射したら勝てるのに、自分から行くじゃないすか。やっぱああいう姿勢が大事だなと。余裕持って行けばいいのに、勝負に出る。そういうのがファンを魅了するというか。そういうのを僕も少しだけやりたいなと」

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勝利した草場が笑顔を見せる

チームとしても前日に続き2連勝という結果。Jプロツアーに参戦し始めて2年目ながら勝利がなかった愛三工業レーシングチームだったが、今シーズンも終盤に差し掛かり、1勝へのプレッシャーをそれぞれが抱えていた。

「(前日のクリテリウムからチーム)みんなのオーラが違いました。今日は絶対勝つぞっていう雰囲気を僕も走りながら感じました。選手1人ひとりがやっぱり、何としてでも一勝っていうところに懸けていたというか。
去年1年は1勝もできず、今シーズンも終わりに向けて周りからのいい意味でのプレッシャーもあり、みんなが一勝を待ち望んでました」
草場はこう話す。前日の岡本の勝利がプレッシャーから解放させたことにより、このレースもそれぞれが余裕を持てていたようだ。

「やっぱり僕が逃げることによって、後ろに構えてる先輩たちの強力な布陣が揃ってるので、全然僕も心配することなく。追いついてきても、優位な展開でいけるだろうっていう安心感もありました。集団も僕で行ってくれれば、全然いいよっていう雰囲気で集団で構えてくれたと思うので。チームの歯車が昨日に引き続いてようやく噛み合ったという感じで」

目的と手段が明確だった愛三工業レーシングチームが、このレースが続くシーズン終盤でしっかりと噛み合った形となった。

 

チームで戦うということ

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マンセボが引く集団

今回のレースでは草場や沢田など、先頭でも積極的な動きが見られた分、レースに展開の波が作られたが、最初に有力チームがそれぞれ逃げにメンバーを出して集団とタイム差を一気に開き、逃げ切るという”いつもの”パターンはやはり顕在だ。

全てをヨーロッパと比較するのは違うと思うが、ヨーロッパのレースにおいて、チームで逃げとの差をコントロールしてタイム差を詰めるというのはおそらくロードレースの基本となる部分だろう。

昨年に比べて、それぞれのチームの目的が透けるような走りを見ることは多くなってきたように思う。だが、”いつもの”逃げ切りパターンとなると、まだまだ個人戦の趣が強い。
今回の南魚沼でのレースでは、マンセボが懸命に前を引き、チームとして戦おうとする姿があった。それぞれの目的はあれど、チームで戦うということを他チームも多くできるようになっていけば、さらに一つレベルが上がったレースが見られるのではないかと思う。

圧倒的な能力を持つ個人を前にしたとき、立ち向かえるのはチームがあってこそのロードレース。
このコロナ禍の間、国内レースだけでどれだけ実力を上げていけるかが今後のチームの、そして選手個人の活動を左右するように思える。コロナ禍が終わって、アジアツアーなどにそれぞれのチームが参戦できるようになったとき、その成果が明らかになるはずだ。

 

 

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第55回経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ兼第6回JBCF南魚沼ロードレース リザルト
1位 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)4時間13分23秒
2位 沢田 時(チームブリヂストンサイクリング)+0秒
3位 小森亮平(マトリックスパワータグ)+2秒
4位 冨尾大地(シエルブルー鹿屋)+30秒
5位 小林弘幸(リオモベルマーレレーシングチーム)+4分11秒

 

 

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経済産業大臣賞(団体賞)
1位 チームブリヂストンサイクリング
2位 マトリックスパワータグ
3位 シエルブルー鹿屋

 

 

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リーダージャージはホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)、
U23ジャージは山本哲夫(チームブリヂストンサイクリング)がキープ

 

全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)