Jプロツアー南魚沼クリテリウム 愛三の岡本が初勝利
目次
三連休の中日である9月19日(日)、新潟県南魚沼市六日町の坂戸特設コースにて第1回JBCF南魚沼クリテリウムが行われた。
翌日の20日に行われる南魚沼市の三国川ダム周回コースでのロードレースは以前までも行われていたが、南魚沼市内でのクリテリウムは今回が初めての開催となった。
初代チャンピオンとなったのは、Jプロツアーでも初勝利となる岡本隼(愛三工業レーシングチーム)だった。
「やっと」の勝利
「やっとですね。やっと勝ちました」
第1回南魚沼クリテリウムの勝者となった愛三工業レーシングチームの岡本隼は、喜びとともに安堵の表情を見せた。
岡本のスプリントでの勝利は、チームとしてあらゆる形で何度も目指してきたところだった。しかしこの2年、一度も頂点まで届くことがなかった。
愛三工業レーシングチームは、本来であればアジアツアーを主戦場としていたが、コロナの影響により、アジアでのレースが開催されず、昨年から主戦場を日本とすることを余儀なくされていた。
だが、アジアでのレースとはまた違う独特の雰囲気を持つ日本のレースで苦戦を強いられ、どこか噛み合わない展開が続き、表彰台には何度も登ったが優勝までが遠かった。
「そろそろ一勝」
チームメンバーのそんな言葉が昨年後半あたりから多く聞かれた。
今回のレースでは、最後のスプリント勝負を任された岡本はしっかりと脚を温存し、「もがいただけでいけるという状態」まで持ち込むことができた。
チームメイトの渡邉歩もレース後、「やっとチームが噛み合った」と、胸をなでおろした。今回のレースは、チーム全員がやるべきことを、役割を明確にできたと話す。
「目指すところが一カ所だったので、みんなで当てはめていって、ピースがちゃんと揃った」
UCIアジアツアーなどで勝利を挙げたことがある岡本だが、Jプロツアーでの勝利はこれが初めて。
レース経験も多いメンバーはそれぞれ強さを持っていながらも、なかなか勝利に結びつかない時期が続いたが、歯車が噛み合い始めたのかもしれない。
逃げグループ形成
JR上越線の六日町駅から徒歩10分程度の場所に設定された南魚沼クリテリウムの特設コースは、1周が1.24km。Jプロツアーは、40周の49.06kmで争われた。前日の雨模様から一転、日差しが照りつける快晴の午後1時半、パレードスタートから始まった。
リアルスタートが切られると早速逃げを打とうと動き出す。
魚野川を渡る坂戸橋へと向かう若干の坂で入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)、佐藤遼(群馬グリフィンレーシングチーム)が飛び出すと、その後ろから橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)がつき、早速3人の逃げができあがった。
その後ろでは、マトリックスパワータグがメンバー全員で集団先頭を固める。
7周回目を過ぎたところで、佐藤が逃げグループから脱落し、入部と橋本の2人となった。
橋本は、オリンピック出場後、一気に体調を崩したが休養後、トレーニングに戻ると調子の良さを取り戻した。今回のレースも楽に感じたと話していた。
集団スプリントに向けた攻防
16周目に入ると、集団から小山貴大(群馬グリフィンレーシングチーム)がジャンプし、逃げグループにジョイン。さらに集団から冨尾大地(シエルブルー鹿屋)も飛び出した。すると、最初に逃げていた入部と橋本が集団へと戻り、メンバーが入れ替わった逃げグループにさらに小村悠樹(チームユーラシア-IRCタイヤ)が合流し、3人の新たな逃げグループが形成される。
その間も常にマトリックスパワータグが集団先頭に全員が位置し、タイム差10秒ほどの見える位置に常に逃げグループを置くような形で集団牽引を行う。
マトリックスパワータグは、石川でのクリテリウムで勝利を挙げているスプリンター吉田隼人をエースとして、スプリント勝負に持ち込む意思を明確に示した。
その後ろには、こちらも岡本隼でスプリントに持ち込みたい愛三工業レーシングチームがまとまって位置を確保。さらに後ろにはチームブリヂストンサイクリングが位置取る。チームブリヂストンサイクリングは、レース期間が空いた今村駿介や橋本ではなく、先日インカレを走ったばかりの大学生3人の中から河野翔輝がエースを任されていた。
最終スプリントに向けて、残り7周のところで集団が3人の逃げを吸収すると、先頭に立ったマトリックスパワータグがそのままペースを上げ始める。それに愛三工業レーシングチームやチームブリヂストンサイクリングのメンバーが食らいつく。
ラスト3周でブリヂストンの今村が集団を引き始めると、人数を減らしていく。
そして、そこまでで盤石の態勢を作っていたマトリックスだったが、エースの吉田が接触によるアクシデントでバイクトラブルが発生。残り2周という時点でニュートラルはもう使えず。強いチームメイトたちの完璧なお膳立てを受け、吉田は自身の感触も良く、「前に勝った時よりも余裕があった」と話したが、勝負どころを手放してしまった。
マトリックスで集団に残ったメンバーは、安原大貴とリーダージャージを着るホセ・ビセンテのみとなった。
先頭を引く今村、その後ろに橋本が続くチームブリヂストンサイクリングは、エースとしていた河野がはぐれてしまう。一度離れた山本哲夫が集団へ戻り、橋本とともにスプリントをすることを目論んだ。
終盤にどんどんと人数を減らしていった集団の中で、草場啓吾、大前翔、岡本、中川拳と最も枚数を残したのは、愛三工業レーシングチームだった。有利な位置につけた岡本は、最終スプリントに向けて焦ることなくイメージ通りに進めることができた。
「どうしてもイメージしていても、そこの場にいたら前に行かないといけないというのが先行してしまって、結局いつも肝心なところで脚がないとか、前にいられないところがあったんですけど、そこをすごく冷静に判断できた」と、岡本は話す。
ラスト1周を今村が先頭のまま入ったが、戻ってきた最終コーナーでは、大前、岡本、山本、橋本の順でクリア。フィニッシュラインが見える最後の直線で岡本が発射された。
まるでイメージ通りだった。前日に相部屋だった岡本と大前は、就寝前にまさにその展開を共有していたという。
そのまま先頭を譲ることなく片手を挙げた岡本。その後ろでは大前と草場が大きく手を挙げ、チームの勝利を確信していた。
後方では山本、橋本の順でフィニッシュラインを切った。
勝利を掴んだ岡本は、翌日に向けてこう話した。
「明日はまた長いので、それに適応した形で違う選手で勝負したりとかになると思うんですけど、チームで今いい流れが来てるんで、その流れを崩さないように自分も仕事をしっかりして、明日も優勝できるように頑張ります」
経済産業大臣旗である明日の南魚沼ロードレースは、1周12kmのコースを13周する総距離156kmで争われる。
Jプロツアー南魚沼クリテリウム リザルト
1位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム)1時間6分42秒
2位 山本哲夫(チームブリヂストンサイクリング)+0秒
3位 橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)+0秒
4位 中川 拳(愛三工業レーシングチーム)+0秒
5位 中村龍吉(群馬グリフィンレーシングチーム)+0秒