Jプロツアー初戦ついに開幕! 山本元喜がスプリント勝負を制す

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7月23日に群馬サイクルスポーツセンターにて行われたJプロツアー初戦、東日本ロードクラシック群馬大会。異例のエース級ばかりが揃った逃げグループが逃げ切り、そこからさらに絞られた3人でのスプリント勝負に。キナンサイクリングチームの山本元喜が初戦優勝を飾った。

Jプロツアー群馬初日

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今シーズンに向けて、これまでにないほどトレーニングを積んできたと話す山本元喜(キナンサイクリングチーム・写真前)

 

コロナ渦、希望の初戦

4月開幕予定だった2020年のJプロツアーは、新型コロナウイルス拡大の影響により相次いで中止が発表された。選手たちは走る場所を、目標とするものを失い続け、まずはモチベーションを保つことが喫緊の課題となった。

そんな中、群馬サイクルスポーツセンターでの7月23日(木・祝)~25日(土)の無観客3連戦開催が発表された。

新型コロナウイルスの感染拡大は今もなお広がり続けているため、来場者には大会2週間前からの検温報告義務や、現地での検温システム導入、また表彰台でのソーシャルディスタンスやレース時以外マスク着用など感染予防対策が取られた上で開催された。

シマノレーシングチーム、チームブリヂストンサイクリングは欠場となったが、国内プロチームが今シーズン初めて、梅雨空続く群馬の地に顔を揃えることとなった。

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昨年の総合優勝チーム、マトリックスパワータグのメンバーが先頭でスタート

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ローリングスタートから開始したJプロツアーレース

 

”久しぶり”がもたらす特異な展開

久しぶりのレースは、まさに”久しぶり”に起因するようなレース展開となった。レース後には選手、監督の多くが「当初のプランとは違う予定だった」と口にした。

ローリングスタートから始まったレースはアタック合戦でゴングが鳴る。逃げたい選手が次々に飛び出したが、それも数周をこなす頃には一区切りがついた。

群馬サイクルスポーツセンターの名物である心臓破りの坂の手前で選手が数名飛び出す。それをマトリックスパワータグの新メンバーであるレオネル・キンテロが追った。昨年のJプロツアーの覇者オールイス・アウラールと同じベネズエラ出身の選手ともあり、彼のチェックを目的に逃げに入ったチームもあった。

しかし、逃げが決まるタイミングで早速、逃げグループに入ったレース巧者のベテラン選手、トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)がペースをコントロール。気付けば中間スプリントポイントでもがいたばかりのキンテロをふるい落としていた。

そうして出来上がった13人の逃げグループには、宇都宮ブリッツェンから増田成幸、小野寺玲の二人、キナンサイクリングチームからはトマ・ルバ、山本元喜、新城雄大、そしてオフロードレースでも活躍する弱虫ペダルサイクリングチームからは織田聖、前田公平、新設のレバンテ富士静岡からは佐野淳哉らというチームのエース級と呼べる選手たちが入った。

マトリックスは小森亮平一人を送り込んだが、この展開には安原昌弘監督も「計算外」とぼやく。
「ここのコースは5~6人で逃げ切る時もあれば20人くらいで行く時もあるから、その1位を狙える圏内にうちのエースを入れるっていう(プランだった)。前半、逃げが行った時、決まるのは早かったけど、メンバーが良くてそれを見られていなかった。(今回初戦で)初めてだから、レース勘が狂ってるっていうのもあるけど、計算外はレオ(キンテロ)が前に入ったから安心していた。あんなあっさり下がるとは。逃げのメンバーがいいかどうかはまだあいつには分からないから。他のチームもそうだと思う。あんないいメンバーをパッと行かせてしまうっていうのは、普通レース慣れしてたら絶対ないことだから」

逃げができた序盤にメイン集団を積極的にコントロールするチームは現れず。逃げとのタイム差は徐々に広がり、半分の距離をこなした時には3分半ほどまで広がった。

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急勾配が選手たちを苦しめる

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イン側ほど勾配は上がる

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最初に飛び出したのは十数名。エース級の選手たちが乗り込む

 

エース級ばかりの逃げ集団

元々逃げに入ることを予定していた愛三工業レーシングチームの草場啓吾は、チームが後手に回る展開を嫌った。チームのスプリンター以外が誰でも逃げに乗れる展開を想定し、思惑通りに逃げに入ったものの、やはり「みんなメンバーが良かった」と話す。コース特性の理解による脚の使い所を熟知したベテラン選手たちの走りに対し、群馬サイクルスポーツセンターを初めて走ったという草場は、終盤の勝負へ向けた脚を残すことはできなかった。

一方で、逃げ集団で最多人数を乗せたキナンサイクリングチームは盤石だった。石田哲也監督によると、チームでも最も調子の良いリザルトを残せるこの3人は後半に残す予定だった。しかし、想定外の逃げのメンバーの良さに反応を示したのもその3人だった。それでも逃げにいようと、集団にいようとも対応できる余裕を残した。

3人の中で、ルバと新城は積極的にローテーションに加わり、タイム差を広げることに貢献する傍ら、山本元喜は完全に温存することができた。万が一メイン集団に追いつかれたとしてもアタックできるような脚はしっかりと残していた。

メイン集団はチーム右京やマトリックスが終盤に向けてペースを上げたが、1周30秒ほどのペースでタイムを詰めるのがやっと。山本はラスト7周の時点で逃げ切りの可能性を予感していた。
逃げ切りも濃厚になってきた頃、弱虫ペダルサイクリングチームの織田もさらに前に行こうと動きを見せる。

「僕が動きまくって、(前田)公平さんが後ろの方に位置取りもできていたので、最後スプリントになったら公平さんに行ってもらおうと思っていました。なので、自分は後手に回らないように積極的に前に行って、レースは前でやっているから、とにかく前々で走ることを意識していました」

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3名を逃げに乗せたキナンが積極的にタイム差を開く

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中盤からメイン集団をコントロールし始めるチーム右京

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主力チームは各々、複数名を逃げに入れてローテーションしていく

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終盤にかけてメイン集団をマトリックスが牽引し始めるがタイム差は大きく縮まらない

 

”先”を見越したスプリント勝負

最終的に勝負の分かれ目となったのは、現全日本TTチャンピオン増田による抜け出しだった。

当初の計画としては、このレースでエースの役割は担っておらず、逃げにも乗る予定もなく、宇都宮ブリッツェンの勝機を託された増田は、残り2周の上り区間で勝負に出た。それに反応できたのは、山本と織田だけ。二人が増田に追いつくと、山本はカウンターで「本能的に」前に出る。増田がさらにそれを追い、その時「すでに脚がなかった」と言う織田は増田の後ろについた。

最終周の心臓破りの坂で追いつき、3人でローテーションを1周回したところで織田は先頭に出されたままゴールライン直前の最終コーナーを通過した。ラスト100m、先頭でもがくしか方法のなかった織田がスプリントを開始すると、二番手に位置した山本がしっかりと合わせにかかった。

今までであれば、ゴールより前でアタックをかけ、独走での勝利を狙うスタイルが多い山本だが、今回はスプリントでの勝負を選んだ。それは、今後に向けた一種の”トライアル”だった。

「今回はスプリントで勝負しないと、ここから先レースしていく中で成長がないと思ったので。スプリントの練習は、今シーズンレースがない期間中ずっとやっていました。スプリントがないとやっぱりこれから勝負できないなと思ったので。もしかしたら3着になる可能性もあったんですけど、やってみないとというところで、落ち着いて。ラスト1kmはローテせずに2番手にずっといてちょっと申し訳なかったんですけど、スプリントの戦略として。最後車間切って一気にかけて、うまく行ったので、貴重な経験ができましたね」

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ラスト2周の上りで増田が単独で抜け出す

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増田を追う山本と織田

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逃げグループの残されたメンバーも後を追う

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織田に合わせて飛び出して捲り切った山本

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今レースは、メイン集団でゴールしたキンテロの実力やいかに

 

熱いレースは続く

今回のレースでは、選手のほとんどが積極的に脚を使うことを厭わなかった、いやむしろ”使いたがっている”ように見えた。

どのチームが、どの選手がどれだけ仕上げてきているか分からない中で、「やっとレースができる」という思いで積極的な走りを見せる選手たちはまるで水を得た魚のようだった。一人一人が持つこの熱こそが現地に来ることが叶わないファンにレースの面白さを伝える唯一の方法なのだ。残る2日間のレースでも思う存分かき回してもらいたい。

今回は久しぶりのレースで、あまり例を見ない展開となったが、レース勘を徐々に取り戻しつつある選手たちの戦い方がこの連戦でどう変わっていくだろうか。明日は、同コースで行われる60kmのショートステージ。スピードレースになることが予想される。

今回は後手に回ってしまったマトリックスの安原監督も「(3日分の勝利)3つとも持って帰るって言ったけど、軌道修正せなあかんな。でも(勝利)一つは持って帰るようにする。できる、うちは。絶対行ける」と自信をのぞかせる。

各チームの歯車が噛み合う瞬間はどのタイミングか。明日もYouTubeでの中継が予定されている。

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表彰前はマスクをしてソーシャルディスタンスを保つ

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表彰台でのプレゼンターからの授与もなく、写真撮影だけが行われた

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リーダージャージは優勝した山本元喜が、U23のリーダージャージは織田が着用

 

第54回 JBCF 東日本ロードクラシック 群馬大会
Jプロツアー第1戦

開催日:2020年7月23日(木・祝)
開催地:群馬サイクルスポーツセンター

1位 山本元喜(キナンサイクリングチーム) 2:59;91
2位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +0秒
3位 織田 聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) +1秒