「日本人選手を再びツール・ド・フランスへ」浅田顕主宰のRTA活動報告と方針転換

目次

2025年11月25日、東京都品川区の自転車総合ビルにて、浅田顕が主催する「ロード・トゥ・ラブニール」の3年間の活動、そして新たな活動計画についての報告会が行われた。

浅田顕主宰のRTA活動報告

 

3年間の活動報告

浅田顕主宰のRTA活動報告

浅田顕より活動報告が行われた

 

次世代のプロロードレーサー輩出を目的に立ち上がったプロジェクト「ロード・トゥ・ラヴニール(RTA)」が、今季で3シーズン目を終えた。その報告会が11月25日、品川区の自転車総合ビルにて行われた。RTAは、成長したメンバーでのプロチーム結成というところをゴールに7段階の活動を設定しており、今回は主宰する浅田顕がそれぞれの活動について振り返った。

浅田顕主宰のRTA活動報告

ゴールとそれぞれのパスウェイなどについて振り返った

 

1段階目の「RTAパスウェイの普及」というところでは、ツアー・オブ・ジャパン(TOJ)全ステージに帯同してブースを出展し、レース開催地に集まった人たちとの交流をすることで普及を図った。また、日本の選手たちがどのような道筋を辿ればプロチームに入れるのかということを現実的に教える機会を設けた。

実際に声を聞いて、浅田が分かったのは、プロジェクト名にも入っており、U23のプロへの登竜門と呼ばれるレースであるツール・ド・ラヴニール自体の知名度が国内では低いこと。さらにはこのプロジェクトの分かりにくさを指摘されることもあったそうだ。

 

2段階目の「タレント発掘」では、現在、日本全国でスポーツタレント発掘事業がなされており、選手育成を実施している全国の地域クラブチームと提携してアドバイスなどを行った。

拠点のある埼玉県では、埼玉ユース自転車競技部を運営し、埼玉県や周辺地域在住選手の育成を行っている。地域活動で、自転車を始めたいと思っても受け皿がないという問題を解消していくべく、活動を広げていきたいと浅田は話す。

浅田顕主宰のRTA活動報告

様々な地域でユースキャンプが行われた

 

3段階目は「ユースキャンプ」。

地域活動で頭角を現した選手を招集して、実際にプロに入るための基礎技術やトレーニング方法、栄養学など初歩的な部分を教えるためのキャンプを実施した。なるべく多くの選手が参加できるよう地域ブロック別で開催しており、小さなものを合わせてこれまでで8回実施をした。さらに、ユースキャンプ経験者から世代別の日本代表選手に選抜されたことも実績の一つだ。

 

4段階目は「タイムトライアル(TT)&ヒルクライムテスト」を行っていくこと。

ユースキャンプを通して力があると認められた選手や力をつけたい選手に対して、TTテストを実施した。ヒルクライムテストに関しては未実施となった。選手育成を目的としたAACAカップというレースで、午前中の時間だけ使ってTTをやったり、広島県のトレーニングレースでも午前中にTTを開催してもらった。

若い選手たちの多くはTTをあまり好まないそうだ。しかし、ロードレースは本場ヨーロッパのレースを走らないと分からないが、TTの能力は日本で走っても比較ができる。TT能力が低い状態で格上のチームに行くことは難しく、日本人選手のTT能力の向上は絶対的に必要である。また、現状ジュニアの全日本選手権ではTT種目の設定がない。これに関しても、世界標準に照らし合わせるためにもTT種目の新設をしていくべきであると浅田は話した。

浅田顕主宰のRTA活動報告

ヨーロッパのレースへ参戦

 

5段階目は「欧州レース参加」。

国内で実力が評価できる選手を対象に欧州レースへの参戦機会を設け、春休みなどの期間を使って、遠征を行った。もともとは夏だけの遠征だったが、ヨーロッパは契約などにも紐づくため春のレースの方が厳しく、そちらに日本人選手たちを参加させたいと浅田は考えた。

2025年は春と夏でヨーロッパ遠征に行き、年間約100日、30レースに参戦してきた。現在は、ワールドチームが育成チームを持っており、U23の1年目から各チームが血眼になって獲得をしている状態。それゆえにヨーロッパのレースで勢いの良さが見られるのはジュニア世代だという。ジュニア1年目にレースに慣れ、2年目には成績を出して、ワールドチームの育成チームに入るというのがプロへの道筋となってきているようだ。

浅田顕主宰のRTA活動報告

2023年、女子のラヴニールにも選手団を派遣

 

6段階目は「代表チームサポート」。

RTA初年度の2023年には、ツール・ド・ラヴニールに参戦した代表チームのサポートを行った。この年は女子のラヴニール開催初年度であり、男女足並みを揃えていくというところで、日本自転車競技連盟の受託で男女共にチームの派遣を行った。

浅田顕主宰のRTA活動報告

留目はラヴニールにて高いTT能力なども見せた

 

男子の方は、留目夕陽が落車などトラブルがあったなかで、個人TTで13位、個人総合で24位という結果を残し、第1回の派遣は成功という感触を得たと浅田は話す。

女子に関しては、第1回というところで難航した部分もあった。浅田自身、女子の監督の経験もなかったが、石田選手が総合23位で終え、良いスタートが切れた感覚があったそうだ。

2025年にはラヴニール参加を切望していた橋川丈や鎌田晃輝がおり、日本勢として総合最上位は橋川の60位。成績に対しての評価は高くないというところはどうしてもあったが、今後にどうつなげていくかを着目したいと浅田は話した。

7段階目は「プロ契約サポート」だが、該当者なしのために活動はなし。

 

課題はまだまだ

全ての活動において、課題となるのは常に資金不足の面。円が安くなり物価が高くなってきたことも、遠征をするにあたってかなりの打撃となっている。

浅田顕主宰のRTA活動報告

浅田らが管理しているフランスの拠点

 

また、ヨーロッパで評価を得ようとするならヨーロッパ拠点は必須であると浅田は熱弁する。例として挙げたのは、現在UAEチーム・エミレーツで活躍を見せている21歳のイサーク・デルトロを輩出したメキシコのクラブチームの話だ。

メキシコのA.R. Monex Pro Cycling Teamというチームは2021年に設立し、イタリアに拠点を置いて、ジュニア、U23のメキシコ人選手たちを中心に育成を行ってきた。デルトロはそこでレース数をこなし、U23の1年目の2022年には日本人選手たちと抜きつ抜かれつをするくらいだったそうだが、翌年の2023年にはラヴニールで総合優勝。UAE入りを決めた。メキシコから第2のデルトロが出てくるのも近いはずだと浅田は語る。

RTAの活動を3年間やってきた中で、ヨーロッパでレースに出場してそこで認められない限りプロにはなれないということを改めて確認したそうだ。ヨーロッパのレースを走らなければ評価に結び付かないというのもあるが、ヨーロッパのレースの経験がないと、勝負に絡むどころかそもそもレースの完走すら難しい。

コロナ以降、世界と日本のレベルの差がぐんと広がった感触があり、そこを埋めるためにRTAの7つの段階を徐々に登っていくことで世界レベルへとアプローチしていきたいと浅田は話す。

 

ゴール地点の修正

浅田顕主宰のRTA活動報告

浅田はこれまでの活動から2026年からの新たな計画として、まずはプロジェクトのゴールの変更を掲げる。

日本人が再びツール・ド・フランスに出場すること」これが結果的に一般の人や選手たちへの分かりやすさにもつながると浅田は語った。

これまでは日本人”チーム”という枠で考えてきたが、ワールドチームではトップのUAEチーム・エミレーツの予算は100億円といわれており、他のワールドチームでも40億円が最低規模とされる現在、”チーム”を語るには根拠が示すことが難しい状況だ。

「今まで、日本から別府史之、新城幸也という優秀な選手が2人出ています。ツールで敢闘賞も取りました。彼らの次にどう選手を輩出するかを誰よりも真剣に考えてきた自負があります。今の状況を見て、再チャレンジしていきたいと思っています。チームは”夢”にして、ツール・ド・フランスを走る日本人選手を育成・輩出することをRTAのゴールとしたいと思います」と浅田は話した。

2017年に新城幸也が7回目のツール・ド・フランスを完走したのを最後に、8年の間、日本人選手はツールには参戦できていない。裾野を広げるためにも、ツールに憧れ、ツールを目指す選手を増やしていきたいところだが、若い選手たちにとっても現実的な方法を知る見本がいない状態で、夢を見ることすら難しい時代が来てしまうかもしれない。

ヨーロッパでプロのロード選手になりたいのならば、本当にヨーロッパに行くしかない。しかも高校生、大学生のうちにだ。それでプロになれるのならいい。しかし当たって砕けてしまったとき、帰ってきた際に国内では選択肢がかなり絞られてしまうように思う。それでも飛び込む勇気や思いがあるか、ひいてはそのためのサポートや資金があるか。どうしてもハードルは高い。

 

会場では質疑応答の時間にノルウェーのトライアスロンの選手に関する話が上がった。現在トライアスロンでは、ノルウェー一強の状態なのだそうだが、それは とあるスポーツサイエンティストがノルウェーチームに入ったことをきっかけに起きていることらしい。

日本のトラック競技でも外国人コーチが入って、世界王者を出すまでに至っている現状がある。ロードでも優れた指導者を招き入れることで、もしかすると爆発的に伸びることもあるかもしれない。しかし、指導者を呼ぶのもヨーロッパに拠点を置くのも、普及も育成も強化も、何をするのにもお金が掛かる。その原資がない状況だ。

ワールドチームでは国家レベルでのスポンサーが付き、莫大な予算が付いているが、その状態だっていつまで続くか保証はない。スポンサー頼りのこの競技の未来をどう変えていけるかを考えていかなければならない。様々なプロジェクトを運営するにも、競技に関することばかりもしていられない状況だ。マネタイズができなければ、いつまで経っても夢は夢のままになってしまう。

 

<参考サイト>ロード・トゥ・ラブニール(RTA)
https://www.rta-cycling.jp