ダウンヒルシリーズ2025 第8戦 安曇野市マウンテンバイクコースで土屋聖眞が今季7勝目
2025年11月8日(土)〜9日(日)に開催されたDOWNHILL SERIES 2025 #8 安曇野市マウンテンバイクコース(長野県)。安曇野市マウンテンバイクコースでのシリーズ開催は今回が初めて。同コースは、1996年アトランタ五輪 MTB・XCO 代表の小林可奈子さんが代表を務める一般社団法人 MSJ が管理している。
長野県には富士見パノラマリゾート、白馬岩岳MTB PARKという国内有数のMTBフィールドが2つもあるが、安曇野市マウンテンバイクコースも決して引けを取らない。積極的に動くディガーが常駐し、他では味わえないテクニカルなセクションも備える。長野県在住のDHSスタッフであり、DHSのコースセッターでもある新沢タケオ氏が「もっと多くのライダーにここを知って欲しい!」という強い思いを持っていたことから、今回の開催へとつながった。

メイン会場も秋の景色包まれた。手前左に見えるのが新設のビックジャンプ © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES

スタート地点からは常念岳が綺麗に見えた © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES
コースは全長2km、標高差920m。常設コース「フリーライドトラック」を使用。常設とはいえ、ダウンヒルW杯出場経験者も造成に加わったというという本格派で、DHSとしても初めて「DOWNHILL SERIES -HARD LINE-」と海外のRED BULL主催大会を連想させるサブタイトルを付けた。さらに、「非常に高難易度のため、技量と準備が整った者のみ参加を望む」という、これまでで最大級の注意書きを添えてエントリーを募った。
コース上部はスティープかつタイト。危険箇所にはディガーがマットやネットを配置したが、レーススピードになると難易度は一段と増すため、直線的になりやすいラインは左右に振り、安全に配慮。まるでトレイルのような上部区間は、ライダーの得意・不得意が明確に出やすい。スピード域は低いが、テクニカルセクションを乗り越えたときの達成感は大きい。後半は新設のロックセクション、大きなオフキャンバー斜面からのドロップオフ、ゴール前キャニオンなど、変化が途切れない“総合力”が試されるロングコースとなった。
新たなタフコースに惹き寄せられるように、全国各地から集まったライダーは100人。通常営業時は自走または各自の車での搬送が基本だが、今回は安曇野マウンテンバイククラブの協力により、オフィシャル搬送が行われた。

スタート地点までの搬送は車で10分ほど ©Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES

搬送車はすべてスタッフの皆さんの自家用車だという。頭があがらない・・・ © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES

究極の天候の中でコースマーシャルを担ってくれたのは松本情報工科専門学校スポーツバイシクル学科のみなさん。今シーズンもありがとうございました! © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES
土曜日は抜けるような秋晴れ。息を呑むように美しい秋景色の中、子供から大人までが繰り返し試走を行った。
シーディングランでは、今季6戦全勝の土屋聖眞(カトーサイクル)がなかなかフィニッシュに現れないという波乱。やっと姿を見せたと思った瞬間、フィニッシュ前のキャンバーでトップライダー3名が絡まり合うアクシデントが発生し、会場は大きな声援に包まれた。トップタイムは幾田悠雅の 2分59.496秒。
日曜日は朝から雨が降り、決勝を迎える時間に合わせるようにして本降りになった。木々の生い茂る山中の黒土は、晴天時でさえ滑りやすかったのだが、一気に”極限”のコンディションへ変わった。「まともに走れない・・・」と涙ぐむキッズたち。「酷いコンディションだよ!」と声を上げながらも笑顔の大人たち。顔も体もバイクも靴も、全身なにもかも、これでもか!というくらい全員泥んこ。
そんな状況で始まった決勝。キッズ、ファーストタイマー、オープン(JCF未登録者)クラスは、前日より+30秒〜+5分ほどの近いタイムで次々とフィニッシュしていく。もはやサバイバル。

日曜日。ツルッツルドロッドロ極限のマッドコンディション © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES

大会開催日までに何度も何度も練習に通ったというキッズたち17人が参加 © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES

ゼッケンがバキバキに割れながらも大人顔負けのタイムで降りてくるキッズライダーたち © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES
いよいよ最後はエリートクラス。前日にクラッシュした土屋は決勝2番スタート。泥をまといながらも冷静に降りてきて出たタイムは驚異の3分18.490秒。晴れていた前日のリザルトと比べても、総合9位相当という驚くべき結果で、コース脇からはどよめきが起こった。最終走者の幾田はクラッシュし、逆転ならず。結果、土屋は今シーズン出場した7戦すべてで優勝という圧倒的な成績を納めた。
「前走者に追いついてしまいましたが、キレイに抜かせてもらいました。前半は完全にクリアなランでしたが、後半、コーナーに入る時に膨らみすぎて曲がりきれず突っ込んでワンストップしてしまいました。雨は全然気になりません。楽しかったし、うまくいったし、コースは急で楽しかったです。・・・でも、もっと急でもいいかな(笑)」と話す土屋。
速さについて問うと照れくさそうに笑う。バイクを降りれば、普通の高校3年生の表情に戻る。そんな土屋のタイムを見ながら、「ワンストップであのタイム、意味が分からない・・・」と話すトップライダーたちの声が印象的だった。

今季7戦7勝のエリート男子クラス土屋聖眞 © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES
エリート女子クラスは1人の出走となったが、藤森美空が優勝。昨年から出場したレース全てて優勝しており、今回も連勝を伸ばした。
そんななか、エキスパートクラスでは、安曇野市出身でMTBクラブ安曇野所属の16才、小出颯太選手が勝利。「僕が自転車を始めた頃から毎週通っているコースで勝ててよかったです。MTBクラブ安曇野のみなさん、愛してます!」という熱い叫びが会場に響いた。

エリート女子クラス優勝の藤森美空選手。秋晴れの美しい景色の中を走る © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES

根っこセクションを超えていくエキスパートクラスの小出颯太。ホームコースで、しっかりと勝ってみせた © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES
会場を管理している小林可奈子さんはこう語る。「ここは元々、自分が現役時代に練習をしたり、冬にスノーシューで遊んだりしていたただの山でした。今みたいなMTBコースは全くなくて、令和5年から指定管理者となり、クラブの仲間がボランティアで鍬を持って整備を始め、今では重機を扱うメンバーも増え、コースがどんどん広がっています。DHコースは夫(92年世界選手権DHI代表)の存在もあり、絶対につくりたかった。塚本岳選手や小山航選手にアドバイスをもらいながら造成しました。」
フィニッシュ前のジャンプは今回のレースのために新設してくださったもの。当初は小さめだったというが、小林さんの娘で3競技(MTB XCO、シクロクロス、ロードレース)の全日本チャンピオンでもある、あかりさんが「これじゃ選手に失礼!」と助言し、現在のビッグジャンプ(通称:あかりジャンプ)が完成したという。来年のXCO全日本選手権の会場にも選ばれている、多くの人の愛と情熱が詰まった会場でシリーズを開催できたことが、何より嬉しい。

「あかりジャンプ」を超えてフィニッシュ © Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES

© Noriyasu KATO /DOWNHILL SERIES
ここ数年のDOWNHILL SERIESは、10代〜20代前半の若い世代が互いに刺激し合い、レベルを上げ続けている。そのなかで、出場した7戦すべてを勝ち切った土屋聖眞。今季の主役と言っても過言ではない彼は、大学受験準備のため、これが今季最終レースとなる。
残る一戦、今年最後の勝者は誰か。最終戦は11月29日(土)〜30日(日) 佐賀県のトレイルアドベンチャー・吉野ヶ里で行われる。
2025 #8 安曇野市マウンテンバイクコース エリート男子リザルト
1位 土屋聖眞(カトーサイクル)3:18.490
2位 田中航太(myX/trailadventure)+14.073
3位 佐藤 龍之介(TEAM A&F)+20.973
2025 #8 安曇野市マウンテンバイクコース エリート女子リザルト
1位 藤森美空(カミハギサイクル/Muc-off)5:30.414











