ジャイアント・TCRアドバンスドプロ1ディスク【俺の愛車の本気(マジ)レビュー】

目次

バイクの試乗記事というと、新製品のメーカー試乗車で行うのが常だ。毎月毎月バイクをとっかえひっかえ試乗しているその裏で、本誌の執筆陣は自分の愛車を見定めて購入している。その愛車に、原稿料をつぎ込んではカスタムにいそしんでいるのである。誌面で、さんざんバイクやパーツについて論評を展開している面々。当の本人たちは一体どんなバイクに乗り、どんなパーツを選んでいるのか。一人一人が自分の乗り方に合わせた一台は、その訳を読めば、読者諸兄のバイク選びパーツ選びのヒントになると思う。そんな執筆陣の純粋な自転車人としての面をご覧あれ。

今回は、中島丈博編集長のジャイアント・TCRアドバンスドプロ1ディスクだ。

TCRアドバンスドプロ1ディスク

これぞ“完成車”というパッケージ GIANT TCR ADVANCED PRO 1 DISC

シマノ・アルテグラ完成車価格/61万6000円
サイズ/445
完成車重量/7.4kg(445サイズ)

Parts Assembly

コンポ/シマノ・デュラエースR9250
ホイール/ジャイアント・SLR1 42ディスクフックレス
タイヤ/ジャイアント・ガビアレース0 700×25C
ハンドルバー/ジャイアント・コンタクトSL
ステム/ジャイアント・コンタクトSL
サドル/ジャイアント・フリートSL
ボトルケージ/プロ(前)、ボントレガー(後)

カスタム履歴

フロントディスクローターを160mmから140mmに変更。ヘッドベアリング調整(納車後しばらくしてからガタつきを取った)。リヤディレーラーハンガーをダイレクトマウントタイプに変更し、R9200デュラエースに換装。

Rider 中島丈博(なかじま たけひろ)

中島編集長

身長:170cm
体重:62kg
ハンドル幅:400mm
ステム長:90mm
サドル高:700mm
クランク長:170mm
ギヤ比:52×36T、11-34T

サイクルスポーツ統括編集長。R9200デュラエースに載せ替えたばかりのTCRで佐渡ロングライドのSコースに意気揚々と繰り出した。山越えルートを走りながら、心底ロー34Tをセレクトして良かったと思ったアラフォー。

 

TCRアドバンスドプロ1ディスクはどんなバイク?

ロードバイク市場における、ジャイアントの地位の礎を築いたのがTCR。ホリゾンタルフレームが当然だった1998年にスローピングフレームを投入。「MTB?」と保守的なロードバイク界にやゆされたが、その有効性はご存じのとおり。その第9世代。この完成車はフックレスリムを採用したホイール、極太フォークコラム、パワーメーターを搭載した、パーツ交換がいらない正に“完成車”だった。

 

私の見どころポイント!

Point_01

TCRアドバンスドプロ1ディスクのクランク

リヤ12速の恩恵は、カンパニョーロで十分実感していたので、シマノも12速にするのは必然。R9200もホイールの資産を生かして12速化できるので、発表と同時に注文して乗せ換えた。

Point_02

シゲイーのディレーラーハンガー

シンプルなバイクをよりシンプルにしたかったのでディレーラーハンガーをシゲイー製に交換。変速性能の向上は……感じられない。ホイール着脱はややスムーズになったかな。

Point_03

TCRアドバンスドプロ1ディスクのボトルケージ

空力を意識して、シートチューブ側のボトルケージの取り付け位置を、ボトルケージの取り付け穴を加工してダウンチューブに当たるギリギリまで下げた。長いボトルも入れやすい。

Point_04

TCRアドバンスドプロ1ディスクのフロントローター

ディスクロードを軽量化するのに気軽にできるポイント。160mmから140mmに交換すると20g軽くなる。それでも制動力は十分。リムから乗り換えるなら利き過ぎなくていいくらい。

 

Impression「完璧なパッケージを崩す楽しみ」

2022年7月号の特集「ネオクラシックロードに浸る」を読んでくれた読者ならご存じと思うが、私はどこか個性が尖ったバイクを買う傾向にある。

TCRとの出合いは初代に遡る。オンセチームに所属していた大柄なスペイン人アブラアム・オラーノが、TCRのコンパクトなフレームを踏み倒している一枚の写真だ。コンパクトなスローピングフレームがより小さく見えたのを覚えている。オラーノのその鬼気迫る表情と共に、自分の記憶の中にTCRは刻み込まれたのだ。しかし、ジャイアントというスポーツバイクメーカー最大手が作っているということで、自分で購入するには至っていなかった。ではなぜ今、購入するに至ったのか。それにはいくつかの理由がある。

まずは※DBL組みのホイール。スポークの素材をエアロにしたり、カーボンにしたりというのは各社がトライしているけれど、スポークテンションに改めて着目してそれに手を加えるという点が良い。実際に乗っても、その走りは気に入っている。一発の踏み込みに対しての反応を求めると、何だかもっさりした印象のホイール。剛性感といわれるものとは真逆の走りで、しかしそれは非常に具合のいいタメをもってバイクを前へと進めてくれるのだ。ラフに踏んでも何だか進む懐の広さがある。

次はフォークコラムの規格、オーバードライブ2。ロードバイクのヘッドベアリング径はどんどん大径化が進み、上1-1/8インチ、下1-1/2インチがスタンダードになった。そこを上1-1/4インチとさらに大径化したのがこの規格。ジャイアントに対してスタンダードなモノづくりをするブランドというイメージを持つ人もいるかもしれないが、こだわるところには独自規格を使ってくるのだ。当然、専用規格のステムが必要になるが、それを考えてもロードバイクの走行性能を追い求めるうえで、自分には十分納得できる規格だった。

そしてフレーム。一見すると振動吸収機構や、いかにもエアロな造型は見られないものの、それらの性能に不満がない出来上がりだ。不満がないというか、意識させない。フレーム自体が気配を消しているかのようで、リヤホイールからフォーク、フロントホイールまでの間にあることを感じさせないと言ったら良いだろうか。ただそれは真っすぐ走っている時の話。バイクを曲がらせようと重心を移動すると、たちまちクイックな挙動を見せる。レーシングマシン然としたその動きはうっかりすると曲がり過ぎてしまうかと思うほど。タイトコーナーへの切り込みの潔さは気持ちがいいけれど、緩やかな高速コーナーや微妙なラインチェンジをしたい時にはナーバスな印象へと変わる。この解決策として、チューブレスレディタイヤの空気圧セッティングによって、ナーバスでも滑る感じのないバイクにできている。

サイズ選びについて自分の例を書いておく。XS、S、M、MLとサイズがあって、中島はSサイズでもMサイズでも適応範囲内だ。この2サイズ、アッセンブルされるパーツのサイズが異なる。Sサイズはハンドル幅400mm、ステム90mm、クランク長170mmなのに対して、Mサイズはハンドル幅420mm、ステム100mm、クランク長172.5mm。ハンドル幅以外の寸法はどちらも自分の体格が許容するので、Mサイズのバイクを買ってハンドルを後から交換するプランもあったが、結局2サイズ両方試乗した結果、フィーリングが良かったSサイズを選んだ。特に加速する時のペダリングのリズムが合わせやすかったし、脚の間でバイクを遊ばせられる感覚が良かった。

※ダイナミックバランスドレーシングの略。駆動状態でスポークテンションが整うように、静止状態のスポークテンションをあえて崩した設計のこと

TCRアドバンスドプロ1ディスク