旧街道じてんしゃ旅 鎌倉街道編一日目 高崎(群馬県)〜武蔵嵐山(埼玉県)

目次

サイクルショップ(ストラーダバイシクルズ)とツアーイベント会社(ライダス)の経営者(井上 寿。通称“テンチョー”)と自転車メディア・サイクルスポーツの責任者(八重洲出版・迫田賢一。通称“シシャチョー”)の男2人、“令和のやじきた”が旧街道を自転車で巡る旅企画。五街道を走破したが、二人の旅は終わらない。次の旅は「鎌倉街道編」。一日目は、高崎から武蔵嵐山へ。

鎌倉街道

鎌倉街道は今も歴史の薫りが漂う味わい深い道だった

 

満たされたくて延長した旧街道じてんしゃ旅

2019年の8月に始めた旧街道じてんしゃ旅。日本に点在する旧街道をサイクリングで踏破するという試みは、ひとまず五街道の達成を果たしたことで終了した。しかし旧奥州道中の白河宿でペダルを止めた瞬間から、我々二人はすでに次なる旧街道の旅に思いをはせていた。現代はインターネットやスマートフォン、SNSなどを通じて、簡単に目的地の情報が手に入る時代。サイクリングもいろいろなアプリを活用することで、自転車にまたがる前に結果が想像しやすい。ただそれらはあくまで点での情報ばかり。誰もが手に入る点の情報をつないでいるに過ぎない。

ところが旧街道じてんしゃ旅では、それらに載っていない路傍にひっそりと転がっているものや景色を目の当たりにすることができる。さして有名でないものも自分の足で訪れて目の当たりにすることで、意図せず感動したり写真に残そうとしたりする。つまり点の連続ではなくその道すがらをも味わうことができる線の旅なのだ。

五街道を踏破し、その魅力を体の芯まで味わった我々は、もはや普通のサイクリングに戻れないような気がしていた。さらには、日本に点在するそうした魅力を埋もれたままにしておくのはもったいない。メジャーでキラーコンテンツ的なものではなく、地方に点在する「名前のない風景」を読者に知っていただきたい。そんな使命感をも感じ始めていた。

そして実のところ旧日光道中旧奥州道中が、予想通りというかやっぱりというか魅力に乏しかったので、旅の終わりに満足したいという気持ちにもなっていたのは正直なところ。だからJR白河駅で帰路に着くために輪行をしているときに、シシャチョーから「もうひと旅しよう!」と言われた時は、何のためらいもなく「行きましょう!」と言った。幸い翌日以降にも予定は入っていなかった。

 

事前調査なしの出発

そうと決まると二人とも目的地の決定は早い。次の旅に選んだのは「鎌倉街道」の上道(かみつみち)。シシャチョーの知り合いがことあるごとにお勧めしていたというのが理由だ。スマートフォンで調べてみると、出発点となる旧中山道との追分(分岐点)は群馬県高崎市にある。JR白河から向かっても何とかたどり着ける。よし! 決まり。そそくさと自転車を輪行袋に入れて新幹線の車上の人となった。

だが鎌倉街道と言っても事前の調査をまったくしていない。道も分からないし、見どころなども知らない。まったく行き当たりばったりの街道旅になる。いつもなら本を読んだり文献を調べたりして情報を得てから出発するのだが……。

インターネットで調べても結局あまり濃い情報は得られなかった。まあいいか……これも「令和のやじきた輪道中だ!」と思い、そのまま出発することにした。とりあえずシシャチョーの話を信じて鎌倉街道上道を進むことにした。高崎から埼玉を通り、笛吹峠を通って東村山、府中、多摩を通り、鶴岡八幡宮へ至る道。距離にして170kmあまり。都市部も通るので1日50kmほどが限度だろう。3日間ほどの旅だ。

さて鎌倉街道は江戸時代に整備された全国の街道網とは違い、鎌倉時代に開かれた道である。源頼朝が鎌倉幕府を開き、関東八州を手中に収めるために整備されたのが始まりだ。有事に素早く鎌倉まで進むための軍事用道路である。「いざ鎌倉」で有名なアレである。実際には上ノ道、中ノ道、下ノ道があり、さらには奥州への脇の道があった。それらを総じて鎌倉街道と呼ぶ。他にも各地につながる道を鎌倉街道と呼ぶこともあった。

 

道標を頼りに進む未知の旧街道じてんしゃ旅

翌日早朝、出発地点の高崎公園に行ってみる。果たしてここが出発地点であっているのだろうか……。一抹の不安を抱えつつ出発。いきなりミスコースの連続で住宅街の中を右往左往してしまった。リード役なので申し訳ないと思いシシャチョーを見てみる。「今回は行き当たりばったりなんで、道を間違っても許してくださいよ〜!」「いやいや、こうしてみると古い街並みですなあ。面白いですやん!」存外ミスコースを楽しんでいるようだ。

高崎市の公園

高崎市の公園。ここが正しい出発点なのか分からない……

程なくして川にでた。小さな橋の袂に「鎌倉街道」の文字が……。よかった! 合っていたんだ! ホッとしたのも束の間、やっぱりミスコースをしまくってしまった。それでも旧街道じてんしゃ旅を続けてきた二人。私が安全確認をしてシシャチョーが動物的な勘で道を見つけるという役割分担を果たし、次第に順当に道を進んでいくことができた。

鎌倉街道の碑

細い路地を抜けると橋の袂に出た。鎌倉街道の碑を発見! 正しい道のようだ

細い踏切

細い踏切を越えていく。ちょっぴり不安なのが楽しい要素なのかもしれない

果たして鎌倉街道の高崎から埼玉までの区間は想像以上に古いものが残されていた。折しも夏の盛りだ。青々とした田園風景が広がり、その中に地形に合わせて曲がった道が続いている。辻には道祖神や石仏、そして日本建築の古い家、昭和の香りのする商店街など旧街道じてんしゃ旅のエッセンスが詰まった魅力的な区間だったのだ。

鎌倉街道の道標

鎌倉時代のメイン道路だっただけあって、誇らしげな道標があちこちにある

川の渡し場跡

川の渡し場跡。コンクリートの堤防になっていて歩いて渡ることができた

埼玉県の標識

埼玉県に入る。あまりに楽しい道なので笑顔満開のシシャチョー

鎌倉街道

道のうねりや石碑道標など、想像以上の旧街道の雰囲気を残していた

旧日光道中と旧甲州道中の消化不良な感覚が一気に吹き飛んでしまった。
気分は最高だ! また新たな旧街道じてんしゃ旅の始まりに相応しい道だった。

 

今回の距離:
高崎〜武蔵嵐山まで・約62.4km

参考文献:
「地名用語語源辞典」東京堂出版
「現代訳 旅行用心集」八隅盧菴著 桜井正信訳 八坂書房
「宿場と飯盛女」宇佐美ミサ子著 岡成社
「道路の日本史」武部健一著 中公新書
「地名は警告する」谷川健一著 冨山房
「図解気象入門」古川武彦・大木勇人著 講談社

次回へ続く

 

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