自転車活用推進功績者が参加した「これからの自転車活用座談会」

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5月31日(月)に行われた令和3年度自転車活用功績者表彰・「自転車通勤推進企業」宣言プロジェクト「優良企業」認定合同表彰式のあと、“これから期待される自転車活用推進に向けた取り組み”をテーマに、受賞者たちの座談会が開かれた。受賞者たちが自転車をどう活用しているのか、座談会の模様を紹介しよう。

これからの自転車活用座談会

自転車通勤と身近な発見

まずは「自転車通勤推進企業」宣言プロジェクトの優良企業に認定された日本電子の和田幸一総務部長が、自転車通勤をしている社員の人数などについて話した。日本電子は、東京都昭島市に本社と工場を置き、電子顕微鏡をはじめとした理科学・計測機器、半導体機器、医療機器などを製造、販売、サービスしている会社だ。

和田:我が社には約2000人の従業員が勤務していまして、自転車通勤者の登録は約800人弱です。常態的な自転車通勤者は550人います。ただ、いまコロナ禍のため在宅勤務をしている社員もおり自転車通勤者は減っている状態です。この状況下、自転車通勤は感染防止対策として一役を担っています。

日本電子の和田幸一総務部長

日本電子の和田幸一総務部長。自身もスポーツバイクを2台持つ

和田:ヘルメット着用はスポーツバイクに限っては必須にしています。ただ、今回の課題としては、俗にいうママチャリや本格的とまではいかないスポーツ系の自転車ではなかなかヘルメット着用の導入が進んでいないのが正直なところです。

福岡県で自転車店も営む自転車活用推進功績者の岩崎正史さんは、自転車通勤についての注意点や楽しみ方について次のように話す。

岩崎:1週間に1回ぐらいは点検をしていただきたいなと思います。毎日同じところを通っても面白くないので、今週は全部違う道走るぞぐらいの感じで地域の新しい道というか発見をしながら、遊び心をこめて通勤と絡めると面白いんじゃないかなと思います。

岩崎正史さん

九州全体で多岐にわたる活動を数十年にわたり行ってきた自転車活用推進功績者の岩崎正史さん

事故などによってけがをしてしまった場合などに、ルートを変えていると通勤災害として認められない可能性があるが、地域での新しい発見という点について、座談会のファシリテーター(進行役)を務めた八重洲出版サイクルスポーツ編集部の迫田賢一部長はこう付け加えた。

迫田:いま“ディスカバー近所”っていう言葉が一部で はやってまして、クルマではなくて自転車に乗ると知らなかった路地とかを発見して、自分の街をまた新しく知ることができるというのが自転車のメリットの1つかなと思います。

迫田賢一部長

八重洲出版サイクルスポーツ編集部の迫田賢一部長。四半世紀以上自転車に関わるなか、入社当時とは異なり通勤や健康、サイクルツーリズムといった自転車の多様化が進み、その可能性を感じている

表彰式では司会を務めた、2018年から自転車アンバサダーに就任しているタレントの稲村亜美さんも次のように応じた。

稲村:確かに意外と知らないことって多いですよね。私も自転車を活用するようになって知ったお店とかも増えたのですごく充実した日々になりました。

迫田:ロケ先からロケ先へも自転車でぜひ行っちゃってください。

稲村:近場だったら考えたいと思います。

迫田:頑張らないことがキーワードです。

稲村:はい。無理せずですね。

稲村亜美さん

自転車アンバサダーの稲村亜美さん。先日、友人と大好きなプリンを探しにいく近所へのサイクリングの旅をした。自転車はクルマとは違った融通の利く交通手段で、乗ってより健康になったと感じている

住民も走るしまなみ海道へ

アメリカのテレビ局CNNが選んだ世界7大サイクルルートの1つでもあるナショナルサイクルルートのしまなみ海道サイクリングロード。その発展の陰には、シクロツーリズムしまなみの山本優子代表理事による、愛媛県の島民に対する草の根運動があった。

山本:本当に受賞のことを地域に伝えたい人が山ほどいて、私もすごく地域の皆さんにいっぱい可愛がってもらったので、その方たちがこの草の根活動で肥料をいっぱいやってきたから大きな花が咲いているんだなというふうに思っています。その大きな花を咲かせてくれたところに、愛媛県今治市、上島町といった、官民一体の体制が整っていたのがしまなみの強さかな。

シクロツーリズムしまなみの山本優子代表理事

シクロツーリズムしまなみの山本優子代表理事

しまなみ海道はツーリズムにおいては聖地になったが、その先も見据えている。

山本:通勤にもいい、健康にもいいって自転車を活用したまちづくりが、今からは本腰かなと思っているところです。(「自転車通勤推進企業」宣言プロジェクト)優良企業もおられるところなので話を聞きたいのですが、しまなみ海道もこれからは住民の方がどうこのまちで乗っていくのかということを支援していくのかがすごく大事だなというふうに思っています。自転車ですごくかっこいいたくさんの人達がこの地域に来てくれていて、スポーティーにヘルメットを被って走ってくれているという環境のなかで、住民の方たちが乗りたくてうずうずしてるんですよ。乗りたくてうずうずしてるところを、どうやってサポートしていったらいいのか地域で考え、地元企業さんにも動いてほしいなって強く思っています。

日本電子の和田総務部長は次のように自転車通勤の課題を口にする。

和田:1つは、スポーツサイクルを楽しんでいる社員の駐輪場の確保ができていないのが現状です。当社の自転車通勤においては、自転車の車体にスタンドありが前提での許可としています。本格的なスポーツサイクルを楽しんでいる人はほとんどスタンドがない自転車ですよね。より軽量化を進めていますので。そういった面で、昭島本社の構内に、そういった社員の自転車の駐輪確保が課題となります。それともう1つ、企業としての心配事は、スピードが出る自転車がゆえの通勤災害です。実態として、社員の自転車通勤災害で多いのがスポーツサイクルで、我が社の傾向かもしれませんが、スポーツサイクル系の自転車通勤者の通勤災害は、大きな怪我や事故になっています。そういった通勤災害をどう防止するのかというところが今の課題です。

前述のヘルメットの装着や通勤災害に関しては、企業の努力だけではなく、クルマと自転車の通行帯を物理的に分離するといった安全なインフラの整備も必要だろう。

山本さんは愛媛県での自転車通勤推進の取り組みについてこう話す。

山本:今回(優良企業として)表彰された企業の取り組みをモデルにしたいと思います。ここ数年、愛媛でも自転車通勤を推進する企業を応援していく制度ができていて、すごく充実してきているなというところがあります。愛媛県は地方都市の1つなので、企業の敷地内に駐輪スペースは確保しやすいなどのメリットは感じているし、公共交通との連動などももしかしたら都会よりも進みやすい部分もあるんじゃないかなと思うので、全国一斉に活用の裾野を整えていくに当たっても、地方からできること、大都市からできることを分担しながら、これから課題整理をしていって、推進につなげてほしいと思います。私達も旅行者を受け入れるツーリズムの活動をしているんですけれども、地元企業の方から、社員向けに自転車の乗り方を教えてくださいとか、スポーツバイクの最初のいろはを教えてくださいって問い合わせが増えてきてるんですよ。そのあたりに自転車活用の可能性を感じています。

地域の魅力を生かすりんりんスクエア土浦

JR土浦駅ビルのプレイアトレ土浦「りんりんスクエア土浦」は、茨城県、土浦市、JR東日本、株式会社アトレが連携して整備したサイクリングの拠点となる施設だ。

迫田:アトレの一ノ瀬さんにお聞きしたいんですけど、昨年(2020年)茨城県が「都道府県の魅力度ランキング」(民間調査会社のブランド総合研究所による)最下位を脱出されたと。りんりんスクエアがそこへの手助けになったという自負はありますか?

一ノ瀬:そこは大井川知事にはぜひ我々の力ですって言いたいところなんですが、残念ながらそれは全く要因としては違うんだろうなというふうに思ってます。ただ、先ほど通勤という話がありました。JRの子会社でもありますし、鉄道と自転車、その接点としての駐輪場だとかさまざまなトランジットのところですね。いろいろ考えていかなければいけないと思いますけれども、やっぱり地域の魅力を生かしていくということだけにはこだわっていきたいと思ってますし、昨年オープンしましたけどもまだまだ動けていませんので、これからしまなみ海道などをベンチマークに頑張っていきたいなと思っています。

アトレの一ノ瀬俊郎社長

アトレの一ノ瀬俊郎社長

迫田:ちなみに稲村さんはりんりんスクエアはご存知でしょうか?

稲村:初めて聞きました。どういったものなんでしょうか?

一ノ瀬:土浦駅自体をサイクルスポットに、サイクルステーションという名前で作り上げたわけです。もちろん優れたサイクルショップもありますし、地下の駐輪場、現在は星野リゾートがサイクリングホテルを作って、サイクルというキーワードでりんりんロードの魅力を全国に発信するためにどこまでやれるかというチャレンジをしています。ぜひ一度おいでください。

稲村:はい。ぜひ行きたいと思います。自転車をそのままる持ち込めるホテルの客室はとても便利だなと思いました。

迫田:駅から自転車をそのまま押して入っていけて、カフェにもそのまま自転車を押していける。ピチピチの格好をした人とかも平気でコーヒーをすすっているような不思議な空間ですけどすごくおしゃれ。

稲村:それが色んな駅で当たり前になるのが一番いいですよね。より広まることを願います。

プロ選手と密着する栃木県

那須高原オールスポーツアソシエーションは、“観光×スポーツ×道=観光資源”という考え方のもと、那須高原ロングライドなどのサイクルスポーツイベントを主催している。

高根沢:以前は観光は観光、スポーツはスポーツ、歴史文化は歴史文化というふうにがそれぞれ分かれていた思うんですよね。それがお互いにコラボして街全体を作っていくというのが今の主流かなというふうに思うし、お互いにばらばらだったものがひとつになるということで、それぞれに掛け算をして増やしていくということで、地域の理解も必要ですし、もちろん自転車乗りとそれを観光で迎え入れる側のおもてなしといったことも大事になってきます。日本一のおもてなしと日本一のライドマナーということをテーマに、那須高原ロングライドという取り組みが10年前(2011年)にスタートしました。現在では、約3300人が来て、一番人気の100kmコースは24分でいっぱいになります。それぐらい大規模なイベントになりました。

那須高原オールスポーツアソシエーションの高根沢武一会長

那須高原オールスポーツアソシエーションの高根沢武一会長

栃木県は、日本で自転車ロードレース選手と地域とが最も密着したエリアだろう。この点について高根沢会長はこう話す。

高根沢:那須ブラーゼンが昨日ツアー・オブ・ジャパンでチーム総合4位で、(宇都宮ブリッツェンの)増田選手は個人総合優勝ということでオリンピック選手でもあって、そういったなかでロングライドに参加すると宇都宮ブリッツェン、那須ブラーゼンの選手と一緒に走れるんですね。走るっていっても競争じゃないですけどね。地域の人たちと楽しみながら参加者がプロの選手とやっていくということだと思うので、そのあたりは本当に密着しています。あと例えば選手が街で練習する際には、右折の場合はきちっと二段階右折をするとか、そういうルールの順守を選手にもお願いしてますね。見本となれるようなことをやっていると思いますので、ある意味かっこよさとマナーの良さっていうのがひとつのベースになるかなというふうに思います。

ナショナルサイクルルートと地方の道

自転車活用推進功績者の高橋幸博さんは、ナショナルサイクルルートの選考委員も務める。表彰式の同日、ナショナルサイクルルートとして新たに3つが指定された。

高橋:僕はサイクルガイドなんですが、そういった立場でナショナルサイクルルートの選考委員をしております。今日3つのサイクルルートが発表された、追加されたわけですけれども、まず1つが太平洋岸自転車道、もう1つが富山湾岸サイクリングコース、あと北海道十勝のトカプチ400。今ナショナルサイクルルートを目指そうという県が増えてます。サイクルルート推進協議会が立ち上がったのが福井県と鳥取県。これが6月の補正予算で大きく動き出す。しまなみ、ビワイチ、霞ヶ浦りんりんロードを目指せ追い越せっていうような形の。もともと、ナショナルサイクルルートは世界に対しての日本のサイクリングのブランド化というのと、受け入れサービス、例えば道の駅とかサイクリングルート整備とかサイクリングガイド、レンタル自転車、そういったところを広く整備する活動です。今まで観光だけではできなかったところ、街づくりだけではできなかったところを、道路ですとか教育、警察といったところを包括的に協議会がやっていると。そこをまた連携してブランドにしていこうというのは47都道府県全てです。

高橋幸博さん

高橋幸博さん

もともとスキーガイドである高橋さんは、スキーと自転車とを次のように比べる。

高橋:今スキーはコロナで大打撃を受けてるところなんですね。地域経済がほんとに逼迫するぐらい観光だけの影響だけじゃなくて生活の全てが打撃を受けていると。これは世界のみなさん一緒です。例えば日本に来たい、オリンピックにも来たいような方々が世界中にいても色んな障害があって、そこに国を挙げ地域を挙げ皆さん全てが関わってくる。そういったなかでやっぱり僕たちが自転車というツールで道を大事にすることが非常に大きな価値を生むと考えております。スキーも、スキー場を大事にする、スポーツを大事にする、健康やもちろん生涯スポーツというようなことは、地域のインフラを大事にすることだと思います。ナショナルサイクルルートだけではなくて、自転車の利用推進ということはやはり今一度自転車を通じて全てのことを見直そうということだと思います。

迫田:自転車のインバウンド、しまなみは大成功してると思うんです。それ以外のエリアでもインバウンドの可能性は秘めていると思いますか?

高橋:昨日ジロ・デ・イタリア、イタリアでレースがありました。ツール・ド・フランスとかスペイン(ブエルタ・ア・エスパーニャ)もあります。ああいったレースも、スポーツのイベントを含めて、地方の道、地方のブランディングということだと思います。どうやってそれを受け入れてとか、全ての産業が自転車を通じてスポーツを応援しようとか、自転車の走行環境整備がすごい大事だなと思います。

迫田:稲村さんも一昨日レースを見に行かれたんですよね?

稲村ツアー・オブ・ジャパンの相模原ステージにお邪魔してきました。相模原ステージも新しく東京オリンピックのロード(レース)の道にも採用されているということで、すごくすばらしい場所でしたし、緑もきれいで、そして湖も近くにあって、アップダウンも非常にあったりと見どころ満載だったので、そういった走りやすい環境づくりというか、一体となって市長とともに住民も協力しあっている街だなと私は感じました。

迫田:岩崎さん、九州の方もすごい良いエリアがたくさんあるんですよね?

岩崎:九州は阿蘇、熊本、大分、本当にきれいなところが多いので、私達も見せたい景色がたくさんあるので、自転車を通じて世界に発信していきたいなと考えています。

迫田:外国人だけではなく日本人も日本のここが知りたいというようなルートの紹介、情報発信をみなさんでやっていきましょう。稲村さん何か面白いお話はありました?

稲村:みなさん地域密着で住民の方と作りたいという気持ちの方同士の絆を通じてすばらしい自転車の走れる道を作ってくださっているのだなと感じましたし、おいしい名産を食べに行きたいプラス自転車も乗りたいとかそういう見どころが満載の観光になれば全国にもっともっと楽しめる場所があるのかなと感じました。

迫田:僕が非常にささったのが、高橋さんがご提案された、道を大事にする、道の価値をブランド化する、それをさらにネットワーク化することで日本中どこでも自転車で遊びにいけるような話です。今日はみなさんお忙しいところ本当にありがとうございました。

これからの自転車活用座談会

進行役を務めた迫田氏は座談会全体をこう振り返った。

「面識のない方が多い中でのオンライン開催だったのですが、こちらの不安が杞憂に終わるほど、皆さんが自転車に対する熱い想いを語っていただいたので、大変助かりました。むしろもう少し時間があれば、もっと面白いお話が聞けたのかなと思います。国土交通省が掲げる道路ビジョン『2040年、道路の景色が変わる〜人々の幸せにつながる道路〜』に一歩踏み出せるような内容だったと思います」。